好きな人が媚薬を飲んで帰ってきた

ちづる

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ふたりのハッピーエンド(※)

#3

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 明人が待ち合わせの場所に出向くと、彼女が既に到着して待っていた。膝丈のスカートをふわりと揺らしながら、明人と目が合うとにこやかに微笑み、品よくお辞儀をした。
 珈琲でもご馳走しようと近くのカフェまで並んで歩く。凪に言われた通りに彼女の足元を見ながら歩幅を合わせて歩いてみる。そんな明人の様子を見て、彼女は嬉しそうにお礼を言った。気持ちを隠さずに笑う彼女を見ながらふと、明人は自分達が誰にも注目されていない事に気が付いた。
 凪と連れ立って歩けば、人目を惹く彼はどんな服装でいようと大抵通行人から注目を浴びる。変な虫が寄らないようにと常に警戒していた明人が、人の目に過敏になってしまったのは凪の所為ではないかと今更気が付いた。
「あ、ここ、人気のカフェで来てみたかったんです」
 目的のカフェに着けば、またもや彼女は嬉しそうに目を細めた。彼女の言う通り、そのカフェは沢山の客で賑わいを見せている。その情景を見て凪とは来れそうにないな、とまず考えてしまう明人は、改めて凪の事で頭がいっぱいなのだと自分で呆れてしまう。顔を隠す必要もなく街を歩き、流行りのカフェに入店し、これがデートかと明人は一つ経験した。
 窓側の席に通されて、多くの通行人が行き交う大通りに視線を向ける。仕事帰りの会社員や学生がたむろして、その多くが地下鉄の駅へと吸い込まれて行った。凪がいるとすればきっと車道を走る車の中で、この喧騒などつゆ知らず、優雅に読みかけの本のページでも捲っているのだろう。

 立ち並ぶビル群が次々に過ぎていく。大通りの街路樹には煌びやかな装飾が灯り、駅前が賑わいを見せる。凪は車窓からぼうっと行き交う人々を眺めていた。
「凪。疲れてる? 仕事詰めすぎたかな」
「えっ、いえ。すみません。考え事してて……」
 事務所スタッフの運転する車の後部座席に座りながら、凪は慌てて作った笑顔で、鏡越しにスタッフと顔を合わせた。明人は無事に彼女と出会えただろうか。薄桃色のハンカチを持って出掛けた明人の事を思い出すと、何となく胸中がざわついて落ち着かない。
「悪質なファンでも出た?」
「本当に違うんです。個人的な事で」
 凪は気持ちが顔に出てしまっていた事を恥じるように両手で自分の頬を挟んだ。
「じゃあ何、幼馴染くんとケンカでもした?」
 スタッフの口から明人の話題が出て、凪は思わず目を泳がせた。感情を隠す事が得意な凪が珍しく慌てる様子を見て、長年凪を見てきた女性スタッフが可笑しそうに笑う。
「凪、彼と暮らし始めてから親しみやすくなったよね」
「そうでしょうか? 何か変わりました?」
 隙のない美しさと、感情の読めないミステリアスな表情が評価されている凪。話してみるとその実物腰の柔らかい控えめな青年で、あまり感情を表に出すタイプではない。そんな凪が呆けた顔をして、帰らぬ待ち人を待つ乙女のような愁いを帯びた視線を外に向ける。幼馴染の彼は可愛い凪に一体何をしてくれたのだと問い詰めたい気持ちを抑えながら、スタッフはそれ以上深入りしなかった。
 マンション地下の駐車場で停められた車から降り、凪はスタッフに別れを告げる。心配させるような顔をしていた事を反省しながら、どうしてこんなに心が曇るのかと自分に問い掛けた。エレベーターで上階に上がり、部屋の鍵を開ける。ぼうっと幼馴染の姿を思い浮かべていた凪が、背後に違和感を覚えた時にはすでに遅かった。
「え……」
 扉を開けた途端、背中から強い力で室内に押し込まれた。声を出す間もなく廊下に倒れ込む。鍵の閉まる音がする。腕を何者かに取られて後ろから覆い被さられる。
「うあっ……」
 冷たく鋭利なものが首筋に当てられて、凪の身体は委縮して強張った。バリバリとガムテープを剥がす音が聞こえて、あっと言う間に腕を後ろ手に拘束される。
「あ……」
 黒い服に身を包んだ、あの男だった。男は凪をうつ伏せに抱き伏せ、包丁の刃で白い首筋をなぞる。凪は呼吸すらままならなく、怯えながら口元だけで小刻みな呼吸を繰り返す。
 男は凪の髪に指を通し、耳までよく見えるように髪を掛けた。じっと凪の顔を確認し、満足そうに笑うと、顔を覆っていたマスクを外して凪の頬を舌で舐めた。凪はなす術なくじっとしている事しか出来ない。
「男の子……?」
 黒服の男は凪の何かを確かめるように身体に手を這わせて、耳元で呟いた。男が自分の事を知らず女性だと思い込み侵入してきたのか、凪には分からない。男だとしたら、自分は殺されてしまうのだろうか。しかし男は手を止めず、既に興奮した中心を服の上から凪の腰に擦り付けた。
 男は凪に立てと命じるように包丁の先端を上に向け、薄暗いリビングの方へ凪を引き摺った。身体が震えて手間取る凪を見て男は笑う。腕を強引に引かれてリビングに入り、男は床に凪を仰向けに押し倒した。微かに届く玄関の明かりに男の髭面が少しだけ照らされる。
 乱暴な手付きで男は凪の着ていたシャツを引き千切るように開き、弾け飛んだボタンが床を打つ硬い音が部屋に響いた。明るみになった白い肌にゴクリと浅黒い喉が動く。
「ん……!」
 男に上から唇を奪われ、舌を絡めるように要求される。腕の拘束は自力で解けそうにない。凪は仕方なく食いしばっていた歯を緩めると、そこへ男の舌が容赦なく侵入した。
「……ん、ん」
 続いて包丁で布が裂かれて凪の下半身が露わになる。男はガムテープで凪の片方の足首をフローリングに汚く固定すると、もう片方の脚を持ち上げて開脚させた。荒い息遣いのままいきり立つ中心を秘部へと突き当てる。
「っ……、ん……」
 呼吸する間もない程唇を求め、男の舌は凪の舌を捕えて離さない。首元に包丁を突き付けながら男は下半身の挿入を試みるが、固く閉ざされたそこに立ち入る事はままならない。苛立つような様子を見せながら男は凪の秘部に指を乱暴に挿入すると、そのまま奥を掻き回し始めた。
「う、く……!」
 苦痛に歪む凪の表情に構わず、男は急かすように中を探り続ける。臓器が押し上がるような受け付けない感覚に腰が跳ねそうになるが、鋭利な刃物がこちらを向いている事を思うと、凪は極力身体を動かさないように堪えた。しかしそれはそれで、男は気に入らないようだ。
「気持ちいいなら動いて、声も出して」
「……っ」
 汚らしく伸びた髭を凪の頬に擦り付けながら、男の口はにやにやと口角を上げた。
「……、あ……」
 腰のラインに沿って包丁の刃が身体を撫でる。侵入する二本の指が無理矢理奥をこじ開けようと捩じり動く。我慢できないと男が再び自分の性器を凪に突き立てると、凪は諦めたように目を閉じた。
 しかしその瞬間、覆い被さっていた男の身体が宙を舞った。
「てめぇ……」
 低い声が聞こえて、その声の主は男の脇腹を思い切り蹴り上げた。悶えながら床を這う男の頭上にいるのは、頼りにしている幼馴染の姿だ。すぐに凪の方に視線を移した明人であったが、拘束される凪の姿を見て表情を凍らせる。
 女性と食事に行っているはずの幼馴染が何故戻ってきたのか、その理由を問う時間はない。明人は倒れる凪に自分の着ていたジャケットを被せると、庇うように前へ出た。悶える男を拘束しようと床に転がったガムテープを視界に入れる。
「近付かないで! 包丁を持ってる……!」
 息を切らしながら立ち上がった男が包丁を構えて明人に向ける。男とじっと睨み合う明人を凪は抑止する。刃物を持った男を相手にするなんて危険すぎる。
 部屋の奥で包丁を構える男が玄関へ向かおうと、前に立ち塞がる明人の方へ突進する。しかし明人が道を譲る事はない。男は恐ろしい形相で自分を睨む明人を目の前に怖気づくと、その隙を狙われて明人から包丁を持つ腕を払われる。
「明人……!」
 明人は逃げる男の後ろ首を掴んで引き寄せたかと思えば、足を掛けて胸倉を掴んだ。気合の入った声と共に、そのまま男の身体は華麗な投げ技によって宙を一回転した。
「うわ……」
 地響きのような振動と音が、床に叩き付けられた男の身体から伝う。落下した包丁が床を滑る。ド迫力の投げ技に凪は思わず声を漏らした。明人は急いでガムテープを手に取ると、男自身を縛り上げて床に乱暴に転がした。
「……」
 明人は男を見下ろしながら息をつき、然るべき所に連絡を入れる。それから床に倒れる凪に近付いて拘束を解く。
「……怪我は? よく見せろ」
「明人……! 切り傷が……」
 凪の身体に傷がないかを確認する明人。しかしそんな明人の腕には包丁が掠ったであろう切り傷がある。凪は途端にボロボロと涙を零し始めた。
「ごめん……、俺の所為で……」
「……凪。俺は……」
 自分の為に涙を流す凪。そんな凪に明人は視線を合わせると、泣き顔に戸惑いながらその顔を覗いた。
「俺が……、凪の事を守るのは……」
 吸い込まれそうな大きな瞳から溢れ続ける涙は、まるでダイヤモンドの粒のように思えた。傷付いているであろう凪を怖がらせないよう、濡れる頬を優しく指で拭う。
「俺にとって凪が、い、命よりも大事だからだ……」
 少し言葉に詰まりながらもハッキリと伝える。もう言い淀む事はない。明人は震える凪の身体を抱き締めた。凪は自信なさげに明人のシャツの裾を握ると、そのまま明人の胸に身体を預けた。
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