好きな人が媚薬を飲んで帰ってきた

ちづる

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ふたりのハッピーエンド(※)

#2

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「飲み物来たよ、ほら乾杯!」
 本日何度目かの賑やかなグラスを合わせる音がして、明るい照明に照らされる浮かれた面々を明人は見渡した。都内の居酒屋にて“合コン”が開始して暫く。慣れない場所での苦痛な時間が続くと想像していた明人であったが、思いの外和やかな会の流れに身を任せていた。
「自転車に写真……。素敵なご趣味ですね。私も写真を撮りながら歩くのが好きで……」
 明人の隣に座る、人数合わせで来たというおっとりした雰囲気の女性。話してみると明人と同じく賑やかな場所は苦手だと言い、趣味も合う。先輩のヨイショなど忘れて明人は隣の彼女としっぽり話し込んでいた。
「おいおい、ここはもうデキちゃったのか?」
「おわっ!」
 後ろから割って入る先輩が明人の背中を叩きながら二人の顔を交互に見合わせる。
「お前は、女なんて興味ねえみたいな顔してこれだからなあ」
「ちょ、先輩……! 零れてる零れてる!」
 いつも疲れた顔をした先輩が、仕事から解放されてとても楽しそうだ。しかし羽目を外しすぎたのか、指先に引っ掛けるようにして持たれたジョッキから、中身がドバドバと明人の頭上に降り注いでいる事に気付いていない。
「大丈夫ですか?」
 悲惨な光景を前に、隣の彼女はドン引きするでもなく大笑いするでもなく、すかさず自分のハンカチを取り出して明人の額を拭った。
「じじ、自分でやります!」
 酔った先輩はこの状況を気にも留めず、乱気流のように二人の元を去っていった。へらへらと別の女性に愛嬌を振りまく姿を見て、明人は怒る気力も失せていく。明人は心配そうにこちらを見つめる彼女からハンカチを借り、一心不乱に掛かったビールを拭った。

 洗面台で薄桃色のハンカチを手洗いしながら、明人はその日の彼女の事を思い出していた。
「へえ。じゃあ、来週末は彼女と二人で会うんだ」
「ハンカチ返さなきゃならねえだろ……」
 その現場を、凪が物珍しそうに後ろから覗く。
「凪。お前随分と暇なようだな」
「明人の合コン結果が気になって何も手につかないよ……」
 特に何をするでもなく、ただただ明人の洗濯現場を見つめるだけの凪に嫌味を言うと、凪は舞台演出のような大袈裟な素振りで胸元を手で握るようにしながら返事をした。
「どんな女性か聞いていいのかな?」
「……話しやすくて気が合いそうだよ」
「そう……」
 役者のような振る舞いから一転して、今度は無表情に素っ気無く答える。とにかく、近くにいられると大変に気が散るのである。
「何だよ凪、寂しいのか? 週末は俺と遊びたかったんだろう」
 本心をひた隠しにした冗談交じりの明人の質問に、凪は可笑しそうに笑った。
「寂しい……。はは。そうかもしれない。だってずっと傍に居てくれた人が……」
 その言葉に明人は顔を上げると、鏡越しに凪と目が合った。凪ははっと口を噤むと、すぐに言葉を付け足した。
「従兄のお兄さんが結婚した時も寂しかったな。そんな感じ」
 ヤキモチを焼いてほしい、などと願いながら、いざそれが叶えば途端に胸が苦しくなった。明人は鏡越しに困ったように笑う凪をちらりと見てからハンカチに視線を落とす。
「……あれから、何も無いか? 危なそうなやつに付けられたりとか……」
「うん……。心配ないよ」
 この間の不審な男を思い出す。急に真剣な顔つきになった明人に凪が不意を突かれたような顔をする。考えなしに不審者を追った明人と、それを強く咎めてしまった凪。何となくぎこちない空気で終わっていた話題だった。互いが互いの為を思った行動だったが、本心は隠したままである。
「もう、あんな危険な真似はよくないよ……」
「分かってる……」
 両親を亡くしたばかりの凪が幼馴染を心配する理由は理解しているつもりだ。それでも明人は自分の身よりも凪の安全を優先するだろう。それくらい凪の事を大切に想っているからである。
「あ、女性と歩く時は歩幅を合わせてね」
「はいはい。アドバイスどうも」
 少ししんみりしてしまった空気を凪が戻す。今ここで、自分の本当の気持ちを伝えられればどれだけ楽だろう。週末だって、こんな予定でもなければ、凪と行きたい店が明人にはまだまだ沢山あった。
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