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那須隼人5
森の神への嫁入りとシズメメ
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『六守谷の信仰』(六守谷町民俗会 編)
より抜粋
第四章:森と儀礼
2.森の神への嫁入りとシズメメ
過去、本町の南西部には、矢隈山の麓から連なる森がありました。
現在の住所で、二二三番地四の松永氏宅の北側にある坂道を西に進むと石段があります。この石段を登り切った先はまた平らな土地になっているのですが、ここから西側の矢隈山麓までの土地が昔はすべて森だったということです。
その森の中の、矢隈山の麓にほど近い場所に、鏡池と呼ばれる池があります。現在、池の周りは整備されて鏡池公園という公園になっています。その鏡池公園を含む周囲の一帯が、その昔シズメの森と呼ばれていました。
シズメの森は、六守谷にあった六つの森の中では一番大きく、古来より年に一度、森の神に輿入れする行事が行われてきました。神の嫁となる女性はシズメメと呼ばれ、漢字で筆記すると「鎮め女」となります。
旧暦六月、田植えの始まりを告げる神田での「大田植え」に合わせ、シズメメとなる女性は婚礼の衣装をまとい、町内を簡素な行列で巡った後、シズメの森に入りました。
花嫁行列は森の入り口で待機し、森の中に入るのはシズメメ一人です。
森に入ったシズメメは嫁入り道具として準備した鏡(銅や錫で作られ、吉祥の図案が刻まれた和鏡だったそうです)を鏡池に沈めて、婚礼の儀としました。
この時、先の節で紹介したマルツカの森では、赤飯・アブラゲ飯・山菜料理を盛った木の葉を巨石に供える「野施行(のせぎょう)」が併せて行われていたともいいます。
シズメメの役割は毎年、大田植えに合わせて村内から一名が選ばれていました。
選定に際しては、いくつかの口伝的な基準が存在したそうです。
第一に、「齢十五より十八までの娘」であること。これは、婚姻が可能な年齢であり、かつ穢れを知らぬ純潔の身であることが求められたためと考えられます。
第二に、その年に災厄や失火の無かった家の者であること。
これも穢れを嫌っての条件であると思われます。
第三には、「声が澄んでいること」、あるいは「夢に白いものを見る者」という曖昧な条件も伝えられています。
これは霊的な感受性の有無や、神の目に留まりやすい性質を意味するものではないかと考えられます。
第四に、「森の守りを担う家筋からは選ばない」というルールもあったそうです。シズメの森の守りばかりでなく、他の五つの森の守りの家も除外されます。
この理由についてはっきりとしたことは分かりませんが、守りと鎮めでは、その役割が違うため、どちらも存続させる必要があったためではないかと推察できます。また、同じ家が供える役と捧げる役を兼ねることは神への「過ぎた関与」として忌避されたのかもしれません。
選定の形式としては、これらの条件に見合う者が、ムラの住民たちの口々によって暗黙のうちに決まっていき、庄屋がその意見を取りまとめることで決定していました。
ただし表向きは共同体の合意による選出であっても、事実上の決定は村内に強い影響力をもつ家の判断に委ねられており、特に、鎮め女の行列を出す際に物資や衣装の準備を担うことができる庄屋や草分けの家が強い発言権を持っていた、と語る古老もいました。
しかし、こうした風習は明治期を境に急速に廃れていき、しずめの制度も昭和四十年代以降は行われていません。
最後のシズメメ役を務めたとされる人物については書物による記録がなく、聞き取り調査でも、その実態は明らかにはなっていません。
なお、シズメの森の嫁入りに伴うマルツカの森の野施行は、シズメメの風習がなくなるとともに行われなくなりましたが、町内で狐憑きや心因性の発作が発生した場合に、マルツカの森の石前に供物を捧げて行う祈祷については、平成の初頭まで続いていたといいます。
より抜粋
第四章:森と儀礼
2.森の神への嫁入りとシズメメ
過去、本町の南西部には、矢隈山の麓から連なる森がありました。
現在の住所で、二二三番地四の松永氏宅の北側にある坂道を西に進むと石段があります。この石段を登り切った先はまた平らな土地になっているのですが、ここから西側の矢隈山麓までの土地が昔はすべて森だったということです。
その森の中の、矢隈山の麓にほど近い場所に、鏡池と呼ばれる池があります。現在、池の周りは整備されて鏡池公園という公園になっています。その鏡池公園を含む周囲の一帯が、その昔シズメの森と呼ばれていました。
シズメの森は、六守谷にあった六つの森の中では一番大きく、古来より年に一度、森の神に輿入れする行事が行われてきました。神の嫁となる女性はシズメメと呼ばれ、漢字で筆記すると「鎮め女」となります。
旧暦六月、田植えの始まりを告げる神田での「大田植え」に合わせ、シズメメとなる女性は婚礼の衣装をまとい、町内を簡素な行列で巡った後、シズメの森に入りました。
花嫁行列は森の入り口で待機し、森の中に入るのはシズメメ一人です。
森に入ったシズメメは嫁入り道具として準備した鏡(銅や錫で作られ、吉祥の図案が刻まれた和鏡だったそうです)を鏡池に沈めて、婚礼の儀としました。
この時、先の節で紹介したマルツカの森では、赤飯・アブラゲ飯・山菜料理を盛った木の葉を巨石に供える「野施行(のせぎょう)」が併せて行われていたともいいます。
シズメメの役割は毎年、大田植えに合わせて村内から一名が選ばれていました。
選定に際しては、いくつかの口伝的な基準が存在したそうです。
第一に、「齢十五より十八までの娘」であること。これは、婚姻が可能な年齢であり、かつ穢れを知らぬ純潔の身であることが求められたためと考えられます。
第二に、その年に災厄や失火の無かった家の者であること。
これも穢れを嫌っての条件であると思われます。
第三には、「声が澄んでいること」、あるいは「夢に白いものを見る者」という曖昧な条件も伝えられています。
これは霊的な感受性の有無や、神の目に留まりやすい性質を意味するものではないかと考えられます。
第四に、「森の守りを担う家筋からは選ばない」というルールもあったそうです。シズメの森の守りばかりでなく、他の五つの森の守りの家も除外されます。
この理由についてはっきりとしたことは分かりませんが、守りと鎮めでは、その役割が違うため、どちらも存続させる必要があったためではないかと推察できます。また、同じ家が供える役と捧げる役を兼ねることは神への「過ぎた関与」として忌避されたのかもしれません。
選定の形式としては、これらの条件に見合う者が、ムラの住民たちの口々によって暗黙のうちに決まっていき、庄屋がその意見を取りまとめることで決定していました。
ただし表向きは共同体の合意による選出であっても、事実上の決定は村内に強い影響力をもつ家の判断に委ねられており、特に、鎮め女の行列を出す際に物資や衣装の準備を担うことができる庄屋や草分けの家が強い発言権を持っていた、と語る古老もいました。
しかし、こうした風習は明治期を境に急速に廃れていき、しずめの制度も昭和四十年代以降は行われていません。
最後のシズメメ役を務めたとされる人物については書物による記録がなく、聞き取り調査でも、その実態は明らかにはなっていません。
なお、シズメの森の嫁入りに伴うマルツカの森の野施行は、シズメメの風習がなくなるとともに行われなくなりましたが、町内で狐憑きや心因性の発作が発生した場合に、マルツカの森の石前に供物を捧げて行う祈祷については、平成の初頭まで続いていたといいます。
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