しずめ

山程ある

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那須隼人5

偶然

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──そもそも、オレにできることはあるのか?

 森や「しずめ」といった霊的存在とどう向き合えばいいのか。
 隼人には、その知識も、頼れる人脈もない。

──霊能者やお祓いを頼るべきか……?

 煮詰まりかけた思考を中断させたのは、カウンター内の人影の動きだった。
 料理が出てくるのかと思い、顔を上げると、葵は新たな客に向かって声をかけていた。

「いらっしゃいませ」

 ふと、テーブル席が埋まっていることを思い出す。
 カウンター席を詰めるべきかと隼人が振り返る――そこで、思わず声が漏れた。

「あ……」

 扉のところに立っていたのは、高梨だった。

 スーツ姿だが、ノーネクタイで少しラフな印象。昼休憩にしては遅い時間帯だ。移動の途中だろうか。

「お、なんだ隼人か」

 高梨は驚いたように眉を上げ、そのままカウンター席の隣に腰を下ろした。

「まさか、こんなとこで会うとはな」

「昼飯か? それとも……葵さん目当てか?」

 高梨のからかうような調子に、隼人は苦笑する。

「メシに決まってるだろ」

「そうよ、バカなこと言わないでよ、高梨くん」

 葵も笑いながら、メニューを手渡した。

「隼人は何にしたんだ?」

「KUUKIランチ、ご飯で」

「じゃあオレも同じやつでお願い」

 そう言ってメニューを返しながら、高梨はちらりと隼人に視線を向けた。

「撮影は終わったんじゃなかったか? こないだファイルは送ってくれてたよな。まだ確認できてないんだけど」

 高梨の問いに、隼人は少しだけ言葉を選びながら答えた。

「いや、資料館でちょっと調べ物をしてたんだ」

「……あの資料館か? あそこ、面白いもんなんてないだろ」

 高梨は肩を竦めた。

 どう説明しようかと、隼人は少しの間逡巡した。
 その沈黙に真剣なものを感じたのか、高梨は真っすぐ隼人の目を見て言葉を待っていた。

「……実は、お前と飲んだ次の日、廃墟に行ったんだ」

「廃墟? あの火の玉の廃墟か?」

 高梨の表情が、一瞬固まる。

「そうだ。そしたら見たんだよ、オレも」

「火の玉か?」

 高梨の声がわずかに低くなる。
 それと同時に、その目がごく僅かに輝きを強めたように隼人には見えた。

「火の玉だけじゃない。頭を燃やす男、その後ろで列を作る人々、あるはずのない森──それから、白い服の女がいた。何が何だかわからなかった。でもあれらは確かにあそこにいた」

 言葉にして口に出すたびに、あの夜の記憶が蘇る。
 だが、人に話したことで、わずかに胸のつかえが下りた気もした。

 高梨はしばらく無言で聞き入っていたが、やがて肩を落として息を吐いた。

「……マジか」

 意外なほど動揺した様子だった。
 だがその表情は、恐怖というよりも、困惑しているように隼人には見えた。

「それで、白い服の女ってのは……その」

 言い淀んだ高梨の言葉を汲み取って、隼人は続ける。

「ああ、正直なところは分からない。オレはどうしても美月の影を、あの女に重ねてしまうんだけど、それが正しいのかどうかは自分では分からないんだ」

 その時、カウンター越しに料理が出された。

「お待たせいたしました。KUUKIランチ、ご飯で。高梨くんのはもうちょっと待ってね」
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