しずめ

山程ある

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那須隼人6

気に入ったら連れていく

 隼人は見学の言葉をそのまま繰り返した。

「悪霊……」

「まあ、村の人が信じてきたもんを、そんな言い方で片づけるんは雑やけどな。それに、学者の端くれとしては、あんまりオカルト方向に寄ったらあかんのやけど……そこはまあ、内緒にしといて」

 見学は苦笑しながら、肩をわずかにすくめた。軽く場をほぐすような仕草に見えたが、続く声はさっきより低い調子だった。

「でも、真面目な話な」

 見学はテーブルに身を寄せ、指を組んだ手に顎を預ける。
 冗談の空気を終わらせ、核心となる言葉を告げる態度だ。

「呼び方は何でもええねん。神でも悪霊でも。けどな、ああいうもんは深入りしたらあかん。こっちが向こう側のことを考えれば考えるほど、向こうもこっちに興味を持つ。そういうもんやねん」

 隼人はわずかに顎を引いた。肯定というより、聞いているという姿勢を示すための動きだった。
 見学は隼人の視線を受け止めてから、ゆっくり言葉を重ねた。

「ハヤトくん、今回は命を落としかけたんやろ? 鼻と口まで泥に沈んで、呼吸できへんようになって。それ、火事のあった家での体験とはもう別モンになってるで。すでに向こうが隼人くんにかなり興味を持ってもうてるんや」

「……そうみたいですね」

「六守谷のフィールドワークで、”モリサマに呼ばれる”とか、“気に入ったら連れていく”とかゆう話をようけ聞いたわ。
 モリサマにお供えもんしたり祈ったりするんも、表向きは豊作祈願や厄払いやけど、裏を返せば『あんまりこっち見んといてください』って意味でもあるんや」

 見学は軽く息を吐いてから続ける。

「だからな、ハヤトくん。もう向こう側のことはきっぱりすっぱり忘れることや。この六守谷にもしばらく近付かへん方がいい」

 見学はそこで言葉を止め、隼人の反応を確かめるように目を向けた。
 隼人はしっかりと頷いてみせた。

「……はい。そうします。どのみち、この町でオレにできることはもうありませんし」

 見学の表情がわずかに緩んだ。
 少し言葉を探すような間を置いた後、再び口を開く。

「それに、探してる女性のこともやで。言い方きついけど、どっかで区切りつけへんと、君がもたへん」

 隼人の胸には、重油が沁み込むような感覚が広がっていった。
 反発すべき言葉なのに、否定する言葉が喉の奥に見つからなかった。
 そればかりか、その重さの中に、救いのようなものも感じられた。

 見学はカップを持ち上げる。だが中身が空なのに気づき、そのまま静かに戻した。

「ハヤトくんは、生きてる人間の世界におらなあかんで」

 隼人は短く答えた。

「……そうします」

 見学は安心した様子で、満足げに頷いた。

「ちょっと、コーヒーのお代わり淹れてくるわ」
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