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那須隼人6
シェアハウス
隼人がラジの暮らすシェアハウスを訪れたのは、師走に入り寒さが本格的になってきた日曜日の夕方だった。
コンビニの夜勤明けで、昼のうちに仮眠を取りはしたが、まだ眠気は完全に去っていなかった。
それでもラジの「前から約束していたネパールの料理つくるので、そろそろ来てください」という誘いを断る気にはなれなかった。
シェアハウスは、大通りから三本奥に入った細い路地に建つ、年季の入った二階建ての建物だった。
外壁の白はところどころ薄くくすみ、玄関のドア枠や二階の窓に設置された欄干などには少し錆びも浮いている。
「シェアハウス」という響きに、隼人は少し身構えていた。知らない人間同士が暮らす場所特有の、過剰なテンションや、あけすけな人間関係が、今の疲弊した自分には重荷になりそうな気がしたからだ。
けれど、建物の前には小さなマリーゴールドの鉢植えがいくつも並べられており、その丁寧な生活感を目にして少しだけ肩の力が抜けた。
「ハヤトさん、どうぞ」
ドアを開けて迎えてくれたラジは、いつもの人懐っこい笑顔だった。
裸足にスウェット姿で、エプロンだけが妙によく似合っている。
「おじゃまします」
玄関で靴を脱ぐ。下駄箱がいっぱいなので、靴は向きを変えてそのまま玄関に置いておいた。
パーテーションで区切られているが、玄関からはすぐに小さなリビングとキッチンが続いていた。
ラジからは、ここに八人が暮らしていると聞いていた。それにしては、リビングもキッチンもかなり小さい。しかし、雑然とはしているものの、掃除は行き届いている。
流しとコンロだけが並ぶ細長いキッチンに立ち、ラジは鍋とフライパンを行ったり来たりしている。
「わ、もう作ってるんだ」
「はい。今日はダルと、タルカリと、チャウミンと、ちょっとアチャール。ネパールの、いつものごはんみたいにします。ハヤトさん、辛いの大丈夫ですか」
「ぜんぜん平気」
「よかった」
名前を聞いてもそれがどんな料理なのかは全く分からない。それでも漂ってくるスパイスの香りが隼人の食欲を刺激した。
リビングのテーブルには、すでに二人のハウスメイトが席についてテレビを見ていた。
どちらも二十代半ばから後半ぐらいに見える、男性と女性だ。
「ハヤト、コンビニの人だろ?」
片手を上げて笑ったのは、彫りの深い顔立ちをした大柄な男性だ。濃い眉と整えられたあご髭が精悍だが、笑うと目尻に深い皺ができて愛嬌がある。
「ボク、ソヒル。パキスタン。よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
その向かいには、黒髪を長く伸ばした女性が座っていた。インド綿のゆったりとしたチュニックを身にまとい、大きな瞳には知的な光が宿っている。
「私はミーナ。ラジくんのごはん、すごくおいしいですよ」
「楽しみです」
隼人は軽く会釈をして、ラジが出してくれたパイプ椅子に腰を下ろした。
コンビニの夜勤明けで、昼のうちに仮眠を取りはしたが、まだ眠気は完全に去っていなかった。
それでもラジの「前から約束していたネパールの料理つくるので、そろそろ来てください」という誘いを断る気にはなれなかった。
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