19 / 106
儀式の間
しおりを挟む
「行くよ」
気絶した二人には目もくれず、シルバーは扉へと進み始めた。
「ちょっと待て、ドアが閉まってる」
扉の前で止まる様子もなくさらに加速することに不安を覚えてオレは言う。
「どうせ鍵かかってるよ」
突撃。扉は木っ端みじん。そりやゴーレム吹き飛ばしてんだから、木の扉なんて余裕だよな。
扉の奥にあったのは大広間だった。
地下一階ほどの広さではないが、天井が高い。ゲームだったらラスボスが待ち受けている部屋という感じだ。
でもそこで待ち受けていたのはラスボスではなく、地面に描かれた複雑な文字列と図形、それから何かの呪文を一心に詠唱している四人の識人だった。
識人たちは複雑な魔法図形の刺繍が施された長い黒ローブを着ている。確か高位魔術士だけが身にまとう事を許される図形だったはずだ。
「なんだコレ、黒ミサか……?」
思わず呟いた。
地面の魔法陣の所々に蠟燭が立っており、この部屋の光源はそれだけ。
香が焚かれているらしく、薄闇の空間を動物の体臭のような香草のような一種独特な匂いが満たしている。
「カズ、囚われのお姫様だよ」
シルバーのライトが照らした地面に女が転がっていた。まるで魔法陣の一部であるかのように寝かされいる。
意識は失っていないようだが拘束されており、身じろぎひとつせず声も上げない。
最初に目に入ったのはトヨケではなかった。
だがライトの光の中、トヨケもすぐに見つかった。やはり同じように拘束され図形の一部にされている。
「トヨケ無事か!?」
呼び掛けるも、やはり返事はできないようだ。
トヨケたちの手首に、禍々しい装飾の金属製の腕輪が見えた。
トヨケの趣味ではなさそうだし、三人ともが全く同じ物を着けていることからして、貴人たちに着けさせられた物だろう。
腕輪の装飾の突起のひとつから赤い糸が垂れ、地面へと続いている。
「あれ血を抜いてるんだ、悪趣味だなあ」
シルバーの言葉に、オレは目を凝らした。
おそらく腕輪の内側に針が仕込まれていて、それが手首に刺さり血を出させているのだろう。
量はごくごくわずかだが、止まらず流れ続けていることを考えるとすでに危険な状態かもしれない。
トヨケの顔が蒼白であるのもそれを表している。
「魔法陣に血を与えてるのか」
てっきり、アブノーマル趣味の貴人が、ダンジョンを狩場にして平民が獲物の狩猟でもしているのだろうと考えていたのだが、どうやらそういう路線ではなさそうだ。
「生贄的なやつだね」
「早く助けないと」
オレがそう言っても、なぜかシルバーは動き出さない。
「……しまった」
「なんだ、どうした?」
シルバーの声の真剣な響きに、不安が煽られる。だがシルバーは黙り込んだまま動かない。
それまで続けていた詠唱を止めて少しの間オレたちの様子を覗っていた四人の識人たちが皆、一斉にワンドを掲げた。
そして先ほどとは違う呪文を唱え始める。雰囲気からしておそらく強力な攻撃魔法だ。
「おい、敵の攻撃も来るぞ」
「スライドブレーキはここでやるべきだった……」
「は?」
「だって、ここで突撃してきて、あの娘たちを背に庇うようにスライドブレーキするのが正しいヒーローのあり方だよ。
さっきのスライドブレーキなんて見てたの貴人のおっさん二人だけじゃないか。ブレーキ損だよ。
まあヒーローには程遠いカズには分からないのかもしれないけど」
「いや、今そんな事言ってる場合じゃないよな。
識人たちは攻撃魔法の呪文唱えてるし、トヨケたちの命は風前の灯だし。識人って学者だけあって古代魔法とか禁呪とか使えるって噂なんだぞ」
「ふーん。なんて言うかカズってフツーだよね」
「いや、普通でいいよこの場合は。普通に敵をやっつけて普通に女の子を助ける、そんな普通の展開でいいんだって」
シルバーの態度から、スライドブレーキをやり直すとか言い出しそうな予感がしてオレはそうまくし立てた。
「まーいいけどさ。じゃ、とりあえず癒しの息吹」
シルバーが魔法陣の方に向けて息を吐きかけた。
距離がある上に対象の三人はひと所にいるわけではない。
だけど、キラキラと暖かな輝きをみせる息吹が一帯を覆ったかと思えば、次の瞬間には三人の血は止まり、顔にも生気の色が戻った。
「あと、なんだっけ。識人の人たちだよね。
あの娘たち巻き込んでしまうから広範囲攻撃はダメだし、めんどくさいなあ」
言った次の瞬間に、シルバーはハンドルをぐるんぐるんと振ってグリップ……じゃなかった爪を飛ばした。
その攻撃で識人四人が倒れていた。
皆が胸の真ん中を撃ち抜かれている。
二つしかないはずのグリップだが、飛ばしたのは四つ。下の層の爪も一瞬で硬化させて連射したらしい。
「こんな普通の展開でいいの?」
シルバーがため息混じりに言った。
「いやいやいや。貴人識人相手にして、こんな一瞬で勝ってしまうのって絶対に普通じゃないだろ」
気絶した二人には目もくれず、シルバーは扉へと進み始めた。
「ちょっと待て、ドアが閉まってる」
扉の前で止まる様子もなくさらに加速することに不安を覚えてオレは言う。
「どうせ鍵かかってるよ」
突撃。扉は木っ端みじん。そりやゴーレム吹き飛ばしてんだから、木の扉なんて余裕だよな。
扉の奥にあったのは大広間だった。
地下一階ほどの広さではないが、天井が高い。ゲームだったらラスボスが待ち受けている部屋という感じだ。
でもそこで待ち受けていたのはラスボスではなく、地面に描かれた複雑な文字列と図形、それから何かの呪文を一心に詠唱している四人の識人だった。
識人たちは複雑な魔法図形の刺繍が施された長い黒ローブを着ている。確か高位魔術士だけが身にまとう事を許される図形だったはずだ。
「なんだコレ、黒ミサか……?」
思わず呟いた。
地面の魔法陣の所々に蠟燭が立っており、この部屋の光源はそれだけ。
香が焚かれているらしく、薄闇の空間を動物の体臭のような香草のような一種独特な匂いが満たしている。
「カズ、囚われのお姫様だよ」
シルバーのライトが照らした地面に女が転がっていた。まるで魔法陣の一部であるかのように寝かされいる。
意識は失っていないようだが拘束されており、身じろぎひとつせず声も上げない。
最初に目に入ったのはトヨケではなかった。
だがライトの光の中、トヨケもすぐに見つかった。やはり同じように拘束され図形の一部にされている。
「トヨケ無事か!?」
呼び掛けるも、やはり返事はできないようだ。
トヨケたちの手首に、禍々しい装飾の金属製の腕輪が見えた。
トヨケの趣味ではなさそうだし、三人ともが全く同じ物を着けていることからして、貴人たちに着けさせられた物だろう。
腕輪の装飾の突起のひとつから赤い糸が垂れ、地面へと続いている。
「あれ血を抜いてるんだ、悪趣味だなあ」
シルバーの言葉に、オレは目を凝らした。
おそらく腕輪の内側に針が仕込まれていて、それが手首に刺さり血を出させているのだろう。
量はごくごくわずかだが、止まらず流れ続けていることを考えるとすでに危険な状態かもしれない。
トヨケの顔が蒼白であるのもそれを表している。
「魔法陣に血を与えてるのか」
てっきり、アブノーマル趣味の貴人が、ダンジョンを狩場にして平民が獲物の狩猟でもしているのだろうと考えていたのだが、どうやらそういう路線ではなさそうだ。
「生贄的なやつだね」
「早く助けないと」
オレがそう言っても、なぜかシルバーは動き出さない。
「……しまった」
「なんだ、どうした?」
シルバーの声の真剣な響きに、不安が煽られる。だがシルバーは黙り込んだまま動かない。
それまで続けていた詠唱を止めて少しの間オレたちの様子を覗っていた四人の識人たちが皆、一斉にワンドを掲げた。
そして先ほどとは違う呪文を唱え始める。雰囲気からしておそらく強力な攻撃魔法だ。
「おい、敵の攻撃も来るぞ」
「スライドブレーキはここでやるべきだった……」
「は?」
「だって、ここで突撃してきて、あの娘たちを背に庇うようにスライドブレーキするのが正しいヒーローのあり方だよ。
さっきのスライドブレーキなんて見てたの貴人のおっさん二人だけじゃないか。ブレーキ損だよ。
まあヒーローには程遠いカズには分からないのかもしれないけど」
「いや、今そんな事言ってる場合じゃないよな。
識人たちは攻撃魔法の呪文唱えてるし、トヨケたちの命は風前の灯だし。識人って学者だけあって古代魔法とか禁呪とか使えるって噂なんだぞ」
「ふーん。なんて言うかカズってフツーだよね」
「いや、普通でいいよこの場合は。普通に敵をやっつけて普通に女の子を助ける、そんな普通の展開でいいんだって」
シルバーの態度から、スライドブレーキをやり直すとか言い出しそうな予感がしてオレはそうまくし立てた。
「まーいいけどさ。じゃ、とりあえず癒しの息吹」
シルバーが魔法陣の方に向けて息を吐きかけた。
距離がある上に対象の三人はひと所にいるわけではない。
だけど、キラキラと暖かな輝きをみせる息吹が一帯を覆ったかと思えば、次の瞬間には三人の血は止まり、顔にも生気の色が戻った。
「あと、なんだっけ。識人の人たちだよね。
あの娘たち巻き込んでしまうから広範囲攻撃はダメだし、めんどくさいなあ」
言った次の瞬間に、シルバーはハンドルをぐるんぐるんと振ってグリップ……じゃなかった爪を飛ばした。
その攻撃で識人四人が倒れていた。
皆が胸の真ん中を撃ち抜かれている。
二つしかないはずのグリップだが、飛ばしたのは四つ。下の層の爪も一瞬で硬化させて連射したらしい。
「こんな普通の展開でいいの?」
シルバーがため息混じりに言った。
「いやいやいや。貴人識人相手にして、こんな一瞬で勝ってしまうのって絶対に普通じゃないだろ」
0
あなたにおすすめの小説
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる