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ダンシングフラワー
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魔法陣の上を横切りシルバーは入ってきた戸口に突進した。オレも必死でその後を追いかける。
背後でごくり、ごくりと大きな音が響いた。嚥下完了か。クソッ早いな。
後を振り返る余裕もないままオレは戸口を駆け抜けた。
その直後に背後で壁が破壊される音が響いた。
心臓が跳ね上がり反射的に振り返る。追ってきた二本の腕が同時に突撃したらしく、周りの壁ごとドア枠を破壊していた。
「死ぬっ」
思わず叫んだ。
砕けた壁の破片があたりに飛び散り、壁近くに置かれていた貴人たちの宿営の道具も粉々だ。
二本の腕は刳るようにして壁にできた穴を広げる。
「ちょっと待てシルバー」
流石にシルバーは速い。すでに上階に上がる階段を駆け上がっている。三人乗せていても走りには何の影響もないらしい。階段もやはり当たり前のように上がっている。
てか、あのチャリ! オレをふつうに見捨てるつもりだ。
「うわ!」
「があああ」
どこからか悲鳴が響いた。
気絶から目覚めて、部屋の外から儀式の間の様子を覗っていた二人の貴人たちが部屋の外に出てきた腕に捕まったのだ。
咄嗟に何か殴りかかる道具はないかと辺りを見回す。少し先に貴人の持っていたサーベルが落ちているのが目に入り駆け寄って拾い上げる。
だがそこで二人の貴人は悲鳴を上げることもなく握り潰された。一度手の平が開いて、口が貴人を呑み込む。そして貴人たちの骨の砕ける音をバキバキと響かせながら咀嚼する。
「う」
直視してしまった。さすがにキツい。胃から込み上げてくるものがあるが吐いてる場合ではない。必死で飲み下して走り出す。
背後に追いすがる気配がする。
「く、食われる」
倒れ込むように階段に取りつき、そのまま這うような姿勢で駆け上がる。
どごん──
すぐ背後で大きな音がした。
階段脇の支柱に黒い手が突撃していた。ひと抱えほどの太さがある石柱が砕け散る。
悪寒。
胸の真ん中に何ともいえない焦燥感。
たぶん、次はここだ。
大体、3秒後。
3
2
1
どごん──
たぶんと大体を信じて横に飛び退いた。オレが寸前までいた場所をもう一本の黒い手が破壊した。
そのまま立ち上がる余裕もなく、オレは肘と膝をむちゃくちゃに掻いて、無様に階段を上がる。
次の攻撃が来たら階段自体がなくなりそうだ。
「カズー、もう少しだ。ガンバレー!」
シルバーが声をあげている。
何がもう少しなのか。
呑気に声援なんて送ってるヒマがあるんなら助けに来てくれ。
「カズさん!」
助けに来てくれたのはトヨケだった。
階段を降りてきたトヨケは、正面から抱きかかえるようにしてオレを立たせると、脇の下にするっと頭を滑り込ませ、そのままひょいと肩に担ぎ上げる。流れるような動きだ。
そのまま動きを止めずに反転すると再び階段を上がった。スムーズすぎて呆気に取られる暇もない。
「ここまで来たらもう大丈夫です」
階段を上り切ったところでトヨケはそう言った。
オレは「階段を上がっただけじゃないか」と言おうとして敵の追撃がない事に気づいた。
「なんで攻撃が止んだんだ?」
「シルバーさんが、あの悪魔の手はあれ以上は魔法陣から離れられないだろうって」
トヨケの言葉をシルバーが引き継ぐ。
「不完全なままに途中で止められた召喚だから、悪魔の本体は魔法陣の向こうに置いたままなんだよ。それで手だけを伸ばして獲物を捕えてたんだ」
「つまりここまで来ればヤツのリーチ外ってことか?」
「ご明察。珍しく冴えてるね。美人に担がれてると頭の回転も速くなるのかな」
シルバーに言われて、オレは自分がまだトヨケの肩の上にいることに気が付いた。
「トヨケありがとう。もういいから降ろしてくれ」
「あ、ごめんなさい」
小柄に見えてもさすがは冒険者だ。レンジャー技術の心得もあるからこそ、オレを軽々と担いでいるのだ。
とはいえ、やはりオレ的にはちょっとばかし恥ずかしい。
「それでシルバーはなんでそんな悪魔に詳しいんだ?」
「詳しいワケじゃないよ。ここから見てたらそうなのかなって思っただけ。
ほら見てみなよ、バナナを欲しがって檻から必死に手を伸ばしてるおサルさんみたいだよ」
言われて振り返る。儀式の間から伸びた二本の腕がバタンバタンと動いているものの、たしかにその指先は階段の上まで届いていない。
「あんな愉快なダンシングフラワーがあるんじゃ、この階はもう完全に立ち入り禁止フロアだな」
あえて軽口を叩いてみせたが、オレの膝は抑えようがなくガクガクと震えていた。
背後でごくり、ごくりと大きな音が響いた。嚥下完了か。クソッ早いな。
後を振り返る余裕もないままオレは戸口を駆け抜けた。
その直後に背後で壁が破壊される音が響いた。
心臓が跳ね上がり反射的に振り返る。追ってきた二本の腕が同時に突撃したらしく、周りの壁ごとドア枠を破壊していた。
「死ぬっ」
思わず叫んだ。
砕けた壁の破片があたりに飛び散り、壁近くに置かれていた貴人たちの宿営の道具も粉々だ。
二本の腕は刳るようにして壁にできた穴を広げる。
「ちょっと待てシルバー」
流石にシルバーは速い。すでに上階に上がる階段を駆け上がっている。三人乗せていても走りには何の影響もないらしい。階段もやはり当たり前のように上がっている。
てか、あのチャリ! オレをふつうに見捨てるつもりだ。
「うわ!」
「があああ」
どこからか悲鳴が響いた。
気絶から目覚めて、部屋の外から儀式の間の様子を覗っていた二人の貴人たちが部屋の外に出てきた腕に捕まったのだ。
咄嗟に何か殴りかかる道具はないかと辺りを見回す。少し先に貴人の持っていたサーベルが落ちているのが目に入り駆け寄って拾い上げる。
だがそこで二人の貴人は悲鳴を上げることもなく握り潰された。一度手の平が開いて、口が貴人を呑み込む。そして貴人たちの骨の砕ける音をバキバキと響かせながら咀嚼する。
「う」
直視してしまった。さすがにキツい。胃から込み上げてくるものがあるが吐いてる場合ではない。必死で飲み下して走り出す。
背後に追いすがる気配がする。
「く、食われる」
倒れ込むように階段に取りつき、そのまま這うような姿勢で駆け上がる。
どごん──
すぐ背後で大きな音がした。
階段脇の支柱に黒い手が突撃していた。ひと抱えほどの太さがある石柱が砕け散る。
悪寒。
胸の真ん中に何ともいえない焦燥感。
たぶん、次はここだ。
大体、3秒後。
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どごん──
たぶんと大体を信じて横に飛び退いた。オレが寸前までいた場所をもう一本の黒い手が破壊した。
そのまま立ち上がる余裕もなく、オレは肘と膝をむちゃくちゃに掻いて、無様に階段を上がる。
次の攻撃が来たら階段自体がなくなりそうだ。
「カズー、もう少しだ。ガンバレー!」
シルバーが声をあげている。
何がもう少しなのか。
呑気に声援なんて送ってるヒマがあるんなら助けに来てくれ。
「カズさん!」
助けに来てくれたのはトヨケだった。
階段を降りてきたトヨケは、正面から抱きかかえるようにしてオレを立たせると、脇の下にするっと頭を滑り込ませ、そのままひょいと肩に担ぎ上げる。流れるような動きだ。
そのまま動きを止めずに反転すると再び階段を上がった。スムーズすぎて呆気に取られる暇もない。
「ここまで来たらもう大丈夫です」
階段を上り切ったところでトヨケはそう言った。
オレは「階段を上がっただけじゃないか」と言おうとして敵の追撃がない事に気づいた。
「なんで攻撃が止んだんだ?」
「シルバーさんが、あの悪魔の手はあれ以上は魔法陣から離れられないだろうって」
トヨケの言葉をシルバーが引き継ぐ。
「不完全なままに途中で止められた召喚だから、悪魔の本体は魔法陣の向こうに置いたままなんだよ。それで手だけを伸ばして獲物を捕えてたんだ」
「つまりここまで来ればヤツのリーチ外ってことか?」
「ご明察。珍しく冴えてるね。美人に担がれてると頭の回転も速くなるのかな」
シルバーに言われて、オレは自分がまだトヨケの肩の上にいることに気が付いた。
「トヨケありがとう。もういいから降ろしてくれ」
「あ、ごめんなさい」
小柄に見えてもさすがは冒険者だ。レンジャー技術の心得もあるからこそ、オレを軽々と担いでいるのだ。
とはいえ、やはりオレ的にはちょっとばかし恥ずかしい。
「それでシルバーはなんでそんな悪魔に詳しいんだ?」
「詳しいワケじゃないよ。ここから見てたらそうなのかなって思っただけ。
ほら見てみなよ、バナナを欲しがって檻から必死に手を伸ばしてるおサルさんみたいだよ」
言われて振り返る。儀式の間から伸びた二本の腕がバタンバタンと動いているものの、たしかにその指先は階段の上まで届いていない。
「あんな愉快なダンシングフラワーがあるんじゃ、この階はもう完全に立ち入り禁止フロアだな」
あえて軽口を叩いてみせたが、オレの膝は抑えようがなくガクガクと震えていた。
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