22 / 99
苦労
しおりを挟む
「ごちそうさまでした!」
トヨケと二人の冒険者たちが異口同音に言った。
「あのね、パンに肉汁が染み込んでてとってもジューシーで柔らかくって、お肉の塊も口に入れたらほろほろと柔らかいのにお肉ーって感じもあって、それと溶けたチーズの濃紺な味とピクルスの酸っぱさが相まって、今まで食べた事がない美味しい食べ物だったよ」
トヨケがまくし立てた。ほのかに頬がピンクに染まっているのはワインも飲んでいるからだろう。
「あ、ああ、良かったな」
「それにね、まだ温かかったの」
そういえばシルバーの異次元収納は保温も効くって言っていたな。
オレが息も絶え絶えにダンジョンから出てきた時、シルバーに乗って先に上がっていた三人はすでにチーズバーガーを食べ終えていた。
三日間飲まず食わずのうえ、血も抜かれていたのだから、食べる物を届けられて本当に良かったと思う。思うのだけれど、少し寂しさを覚えるのはオレの心が狭いせいだろうか。
というかシルバーが往復すれば良かったんだ。
こちとらあの後も丸腰で何度か大コウモリに遭遇して必死こいて逃げてきたんだ。
「大変だったな」
門の衛兵が言った。
「いや、本当に」
大変だったのはむしろオレだけ取り残されて、一人っきりでここまで戻って来た事かもしれないが。
トヨケたちがいたのは石壁の門の脇にある小部屋だった。衛兵たちの休憩所だ。
ダンジョンの底で起こった一部始終を報告した後、そこで休憩と食事をさせてもらう事になったらしい。
「ほとんど危険もなくなったダンジョンを、わざわざ危険な代物にしてくれるんだから、貴人さんたちにも困ったもんさな」
衛兵は伸び放題のあごひげをしごきながら、渋い顔をした。
「危険つーか、超危険だ。専門装備してないヤツはどんなベテランでも行かせちゃダメだぜ」
「一体なんのために悪魔なんか召喚するんだろうな」
「貴人の考える事は良く分からんね。カルト趣味が高じたとかそんなじゃねーの?
冒険者ギルドにも報告するから、そこから何らかの調査はするだろうけど」
実際のところ、冒険者ギルドや貴人の捜査隊がまともに調査を行うとは思えなかった。貴人の不始末は無かった事にされるのが通例だからだ。だけどダンジョンが危険であることを周知してもらう必要はあるので、そのためにもギルドへ報告はしておかなければならない。
「だけどな、これはこれでまた命知らずのバカどもが挑戦しに来るんだぞ」
衛兵はため息混じりだ。
これまでにも似たような事が繰り返されてきたのだろう。
「そういうもんか」
「面白がった貴人なんかが高い報酬用意して討伐依頼でも出そうもんなら、わんさと冒険者が集まるんだ。
本当に強いヤツらが挑戦するのはいいが、自分の力量も分かっていない駆け出しが死にに行くのを説得して止める、こっちの身にもなって欲しいもんだ」
「あんたも苦労してるんだな」
これまではただ座っているだけと思っていた衛兵だが、オレが想像することも無かった苦労があるらしい。楽な仕事はないって事か。
「アンタみたいに竜殿が付いていれば話は別なんだが」
「その竜殿に置いていかれたからオレは苦労したんだがな」
■□
休憩を終えてギルドに向かった。
シルバーがまたオレ以外を乗せて先に行くと言い出すんじゃないかと心配だったが、帰りはぶらぶら行きたいらしく、ぞろぞろと歩いて行くことになった。
シルバーはトヨケに懐いたらしく、キャッキャ言いながら二人で先を行っていた。
「カズさんだっけ、話すの初めてだね。
パンすっげぇ美味かったよ、ありがとう。あたしはハンガク。こっちがツル」
背が高くよく日焼けした黒髪の女性冒険者が話し掛けてきた。
ツルと紹介された小柄な冒険者も「ありがとうございました」と頭を下げる。
二人ともトヨケのパーティメンバーだ。ギルドで何度か一緒にいるところを見掛けた事があった。
「ほぼ始めまして、だよな。オレはあんまりダンジョンとか討伐とかやってないから一緒になった事もないし」
冒険者ギルド内でも浮いた存在だという自覚はある。
「知ってる。有名人だよ、あんた」
トヨケと二人の冒険者たちが異口同音に言った。
「あのね、パンに肉汁が染み込んでてとってもジューシーで柔らかくって、お肉の塊も口に入れたらほろほろと柔らかいのにお肉ーって感じもあって、それと溶けたチーズの濃紺な味とピクルスの酸っぱさが相まって、今まで食べた事がない美味しい食べ物だったよ」
トヨケがまくし立てた。ほのかに頬がピンクに染まっているのはワインも飲んでいるからだろう。
「あ、ああ、良かったな」
「それにね、まだ温かかったの」
そういえばシルバーの異次元収納は保温も効くって言っていたな。
オレが息も絶え絶えにダンジョンから出てきた時、シルバーに乗って先に上がっていた三人はすでにチーズバーガーを食べ終えていた。
三日間飲まず食わずのうえ、血も抜かれていたのだから、食べる物を届けられて本当に良かったと思う。思うのだけれど、少し寂しさを覚えるのはオレの心が狭いせいだろうか。
というかシルバーが往復すれば良かったんだ。
こちとらあの後も丸腰で何度か大コウモリに遭遇して必死こいて逃げてきたんだ。
「大変だったな」
門の衛兵が言った。
「いや、本当に」
大変だったのはむしろオレだけ取り残されて、一人っきりでここまで戻って来た事かもしれないが。
トヨケたちがいたのは石壁の門の脇にある小部屋だった。衛兵たちの休憩所だ。
ダンジョンの底で起こった一部始終を報告した後、そこで休憩と食事をさせてもらう事になったらしい。
「ほとんど危険もなくなったダンジョンを、わざわざ危険な代物にしてくれるんだから、貴人さんたちにも困ったもんさな」
衛兵は伸び放題のあごひげをしごきながら、渋い顔をした。
「危険つーか、超危険だ。専門装備してないヤツはどんなベテランでも行かせちゃダメだぜ」
「一体なんのために悪魔なんか召喚するんだろうな」
「貴人の考える事は良く分からんね。カルト趣味が高じたとかそんなじゃねーの?
冒険者ギルドにも報告するから、そこから何らかの調査はするだろうけど」
実際のところ、冒険者ギルドや貴人の捜査隊がまともに調査を行うとは思えなかった。貴人の不始末は無かった事にされるのが通例だからだ。だけどダンジョンが危険であることを周知してもらう必要はあるので、そのためにもギルドへ報告はしておかなければならない。
「だけどな、これはこれでまた命知らずのバカどもが挑戦しに来るんだぞ」
衛兵はため息混じりだ。
これまでにも似たような事が繰り返されてきたのだろう。
「そういうもんか」
「面白がった貴人なんかが高い報酬用意して討伐依頼でも出そうもんなら、わんさと冒険者が集まるんだ。
本当に強いヤツらが挑戦するのはいいが、自分の力量も分かっていない駆け出しが死にに行くのを説得して止める、こっちの身にもなって欲しいもんだ」
「あんたも苦労してるんだな」
これまではただ座っているだけと思っていた衛兵だが、オレが想像することも無かった苦労があるらしい。楽な仕事はないって事か。
「アンタみたいに竜殿が付いていれば話は別なんだが」
「その竜殿に置いていかれたからオレは苦労したんだがな」
■□
休憩を終えてギルドに向かった。
シルバーがまたオレ以外を乗せて先に行くと言い出すんじゃないかと心配だったが、帰りはぶらぶら行きたいらしく、ぞろぞろと歩いて行くことになった。
シルバーはトヨケに懐いたらしく、キャッキャ言いながら二人で先を行っていた。
「カズさんだっけ、話すの初めてだね。
パンすっげぇ美味かったよ、ありがとう。あたしはハンガク。こっちがツル」
背が高くよく日焼けした黒髪の女性冒険者が話し掛けてきた。
ツルと紹介された小柄な冒険者も「ありがとうございました」と頭を下げる。
二人ともトヨケのパーティメンバーだ。ギルドで何度か一緒にいるところを見掛けた事があった。
「ほぼ始めまして、だよな。オレはあんまりダンジョンとか討伐とかやってないから一緒になった事もないし」
冒険者ギルド内でも浮いた存在だという自覚はある。
「知ってる。有名人だよ、あんた」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
56
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる