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魔法人形
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洞窟の奥からはかすかな風が吹いていた。そしてそれに乗って一種独特な臭いが流れてきた。
奥に人間以外の生物がいることを知らせる臭いだ。獣臭いのとも少し違う。オレはこの臭いをどこかでかいだことがあったような気がした。
「野盗じゃないのか」
小さな声でそう言ってみたが、他の誰からも返事はない。
一歩進むごとに臭いが強くなってくる。悪臭というわけではないが強い臭いだ。臭いの元が巨大なのか多数なのか、はたまたその両方なのか。
少し先を飛ぶ鬼火は近くこそ明るく照らすが、先の方はかえって闇に沈む。
そして岩壁の凹凸によって影が生まれるので、奇襲の察知は必然的にヨールの魔法とヤムトの感覚頼みになる。
「野盗もいる」
不意にヨールが言葉を発した。その手は横に伸ばされてオレたちの前進を止めていた。
道のカーブが急になっている。壁の凹凸も深く、横道があるかもしれない。敵からすれば待ち伏せ場所には困らない地形だ。
灯りを飛ばしているため、オレたちの接近にはずっと前から気付いているだろう。
敵はこちらの動きを見張っているはずだ。いつクロスボウの矢が飛んできてもおかしくはない。
「どうする?」
「行くしかないでしょう」
オレの問いにレミックが答えた。
他の面々も同じ意見だろう。
「リッカ=リル=リル=ゾーマ」
不意にヨールが囁き声を発した。それと同時に手の平サイズほどの小さな人形を前方に放り投げている。
人形は地面に落ちるやいなやムクムクと大きくなりながら立ち上がる。
「すごい物持ってるんだな」
思わず言った。
ヨールが投げたのは魔法人形だ。
簡単な命令のみ実行できる魔法の込められた人形で、いわゆるゴーレムの一種だ。
携行性に優れているうえに、起動ワードと使い方さえ知っていれば誰にでも扱うことができるので、かなり有用な道具だ。だがいかんせん値段が高い、高すぎる。もちろん定価などがあるわけではないが、たぶん屋敷ひとつ建つほどの金で取り引きされていたはずだ。
使いきりの道具ではないが、それも壊れなければの話で、正直いって冒険者が実戦の場で使うような物ではない。金持ちがコレクション目的で買い求めるような魔道具なのだ。
「ゆっくりと前に進め」
オレのつぶやきには反応せず、ヨールは人形に命令を下した。
削り出した木のパーツを組み合わせてつくった人形は彩色などはされておらず、前の世界のデッサン人形を無骨にしたような感じだ。
人形はぎこちない足取りで歩き始める。
どうやってコントロールしているのかは分からないが、前を飛ぶ愚か者の火に近付きすぎることもなく一定の速度で足を前に出している。
突如、ダンっという音が響いた。
人形が仰向けに倒れた。その胸に一本の矢が刺さっている。
だがそれで動きを止めることなく、起き上がると再び前進を始めた。動ける限り命令は忠実に実行するようだ。
再び矢が飛んできた。人形の左腕に命中し、今度は肘から先が弾け飛んだ。
片腕を失ってなお人形は前に進む。
次に右肩のあたりに矢が突き立って、とうとう半回転するように地面に倒れ込んだ。
「ああ、くそっ」
ヨールが悲鳴を上げた。当人自身が攻撃されてもそんな声は出さないのではないだろうかと思えるほどに悲痛な声だ。
三本の矢はそれぞれ違う岩陰から発射されていた。
飛んできた位置の目星をつけたオレは、それを伝えようと呼びかける。
「ヤムト」
だがその時にはすでに、ヤムトとルシッドの姿はなかった。
少し先の暗闇で立て続けに敵の怒声と悲鳴が上がった。
二人はオレも気付かないうちに、愚か者の火が作り出す影に紛れて壁際を進んでいたのだ。
奥に人間以外の生物がいることを知らせる臭いだ。獣臭いのとも少し違う。オレはこの臭いをどこかでかいだことがあったような気がした。
「野盗じゃないのか」
小さな声でそう言ってみたが、他の誰からも返事はない。
一歩進むごとに臭いが強くなってくる。悪臭というわけではないが強い臭いだ。臭いの元が巨大なのか多数なのか、はたまたその両方なのか。
少し先を飛ぶ鬼火は近くこそ明るく照らすが、先の方はかえって闇に沈む。
そして岩壁の凹凸によって影が生まれるので、奇襲の察知は必然的にヨールの魔法とヤムトの感覚頼みになる。
「野盗もいる」
不意にヨールが言葉を発した。その手は横に伸ばされてオレたちの前進を止めていた。
道のカーブが急になっている。壁の凹凸も深く、横道があるかもしれない。敵からすれば待ち伏せ場所には困らない地形だ。
灯りを飛ばしているため、オレたちの接近にはずっと前から気付いているだろう。
敵はこちらの動きを見張っているはずだ。いつクロスボウの矢が飛んできてもおかしくはない。
「どうする?」
「行くしかないでしょう」
オレの問いにレミックが答えた。
他の面々も同じ意見だろう。
「リッカ=リル=リル=ゾーマ」
不意にヨールが囁き声を発した。それと同時に手の平サイズほどの小さな人形を前方に放り投げている。
人形は地面に落ちるやいなやムクムクと大きくなりながら立ち上がる。
「すごい物持ってるんだな」
思わず言った。
ヨールが投げたのは魔法人形だ。
簡単な命令のみ実行できる魔法の込められた人形で、いわゆるゴーレムの一種だ。
携行性に優れているうえに、起動ワードと使い方さえ知っていれば誰にでも扱うことができるので、かなり有用な道具だ。だがいかんせん値段が高い、高すぎる。もちろん定価などがあるわけではないが、たぶん屋敷ひとつ建つほどの金で取り引きされていたはずだ。
使いきりの道具ではないが、それも壊れなければの話で、正直いって冒険者が実戦の場で使うような物ではない。金持ちがコレクション目的で買い求めるような魔道具なのだ。
「ゆっくりと前に進め」
オレのつぶやきには反応せず、ヨールは人形に命令を下した。
削り出した木のパーツを組み合わせてつくった人形は彩色などはされておらず、前の世界のデッサン人形を無骨にしたような感じだ。
人形はぎこちない足取りで歩き始める。
どうやってコントロールしているのかは分からないが、前を飛ぶ愚か者の火に近付きすぎることもなく一定の速度で足を前に出している。
突如、ダンっという音が響いた。
人形が仰向けに倒れた。その胸に一本の矢が刺さっている。
だがそれで動きを止めることなく、起き上がると再び前進を始めた。動ける限り命令は忠実に実行するようだ。
再び矢が飛んできた。人形の左腕に命中し、今度は肘から先が弾け飛んだ。
片腕を失ってなお人形は前に進む。
次に右肩のあたりに矢が突き立って、とうとう半回転するように地面に倒れ込んだ。
「ああ、くそっ」
ヨールが悲鳴を上げた。当人自身が攻撃されてもそんな声は出さないのではないだろうかと思えるほどに悲痛な声だ。
三本の矢はそれぞれ違う岩陰から発射されていた。
飛んできた位置の目星をつけたオレは、それを伝えようと呼びかける。
「ヤムト」
だがその時にはすでに、ヤムトとルシッドの姿はなかった。
少し先の暗闇で立て続けに敵の怒声と悲鳴が上がった。
二人はオレも気付かないうちに、愚か者の火が作り出す影に紛れて壁際を進んでいたのだ。
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