ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

山程ある

文字の大きさ
87 / 106

倉庫整理の仕事

しおりを挟む
「シルバーはまだ戻ってこないのか?」

 禿げた頭を汗で光らせたモリが言った。
 窓がないせいで空気がむっと淀んでいる。動かなくても汗が滲む暑苦しさだったが、さらにオレとモリは肉体労働に勤しんでいる。完全に汗だくだ。

「ああ、連絡ひとつ寄こさないな」

 シルバーが竜の郷とやらに帰ってひと月ほどが経とうとしていた。
 竜の郷がどこにあるのかは分からないが、あいつの脚ならばこの大陸のどこであっても数日の距離だ。
 ということは故郷で長期滞在をしているということだ。これは出発前には否定をしていたが、実家の居心地が良くてここにはもう戻らないというパターンが濃厚だ。
 それならそれで連絡のひとつでも寄こせと思うのだが、こういうのがシルバーいうところのメンヘラ彼女的な思考だろうか。
 どのみち電話もメールもないこの世界じゃ連絡の手段など何もないのだが。

 オレはこめかみを伝う汗を手の甲で拭って、そのまま肩を回した。汗で濡れた手の甲が真っ黒になっている。たぶんオレの顔も黒いだろう。

 オレとモリがいそしんでいるのは、手広く交易を行っている商人の、倉庫整理の依頼だった。
 物を動かす度に埃が舞い上がり、布で鼻と口を覆っていてもくしゃみが止まらない。
 前の世界でも似たようなバイトをしてたことがあるなあとか考えながら、オレは無心で荷物を運んでいた。
 その時その時の流行りに合わせて取り扱う商品を変えるため、商品に関連する道具も含めて使うものと使わないものの置き換えをする必要が出てくるらしい。
 このぐらいの規模の商店だとそれはかなり大掛かりな作業になる。
 なんでも香辛料を商いの主力商品に据えることにしたらしく、遠くシージニアへ買い付けを派遣するのだそうだ。

 それにともない、旅程で必要になる物や向こうで売る商品を倉庫の奥から引っ張り出す仕事が生まれたわけだ。

「つかモリって、よくよく地味な仕事引き受けてるよな」

 冒険者ギルドでもトップクラスの戦闘力を持ちダンジョン探索の経験も多いモリだが、不思議と仕事を選り好みしないところがある。
 前回の城壁の修理なんかもそうだがこの倉庫整理も、実入りの良い悪いは別として、熟練冒険者の好む仕事ではない。

「カズにいわれたくはないな」

「オレは危ないのとか怖いのとか嫌だからな」

「そういうわりにはここ最近は大活躍だったじゃないか」

「巻き込まれてるんだよ。リッチの一件なんてオレは完全に被害者だ」

 普通ならばオレ程度の冒険者がリッチに遭遇することなどほとんどあり得ない。
 それが遭遇してしまったのはルシッドの強引な勧誘(と呼べるかさえ怪しいが)のせいだ。

「だけどお前のお陰でみんな命を拾ったんだろ」

「みんなじゃない」

 口角を吊り上げるようなハーフリングの皮肉気な笑顔が思い起こされる。胸の奥底から何かが突き上げてくるような気配を感じて、オレは両手のひらで顔を擦った。

「ヨールのことは残念だった。だけど冒険者がダンジョンに挑めば少なくない割合で死ぬやつは出てくる。それがリッチに遭遇してたった一人の犠牲でリッチを倒してしまうなんざ、奇跡とでもいうしかない僥倖だぞ」

「いや……」

 そんな事はない。もしあの場にシルバーがいれば……という言葉をオレは飲み込んだ。あのママチャリはタラレバに引っ張り出すにも規格外過ぎる。

 代わりの言葉をオレは口にする。

「一人と、腕一本だ」

 オレが言うと、モリは感慨深げに頷いた。

「片腕になっても冒険者続けるヤツなんてルシッドぐらいのもんだろうな」

 モリには依頼中に片足を失ったカルドという仲間がいる。パーティを抜けたわけではないが、ダンジョン探索などの依頼には参加していない。

 モリの言葉には返事をせず、オレは一度しゃがみこんでから大きな木箱を抱え上げる。
 かなり重い。中身は陶製の食器といっていただろうか。
 多少雑に扱った程度で割れるような梱包の仕方はしていないだろうけど、一応箱をヘソの上に乗せるように保持して、そおっと運ぶ。

 モリがさらに声をかけてくる。

「ルシッドのパーティには入らないのか?」

「入るわけないじゃないか」

「どうしてだ。その仮面の男がまだ残っているんだろ?」

 ショウエマ峡谷から戻ってからヤムトとルシッドが血眼になって探していたが、仮面の男はまだ見つけられずにいた。
 ヤムトは臭いを憶えたといっていたが、それだってそこそこの距離にまで接近しないと確認できないだろう。
 そもそもペンディエンテにいるとは限らない。いない可能性の方が高い。
 
 オレはモリに気付かれないように小さくため息を吐いた。
 さっきからモリが何か言いたげに見えたのは、オレにヨールの仇を取るつもりはないのかと、遠回しに訊いていたのだ。

「……誘われてないんだよ」

「あー、それは……なんか、すまん」

「むしろ謝んなし」

 オレだって自分が戦力外だってことは自覚している。

 リッチ戦で役に立つことができたのだってシルバーの剣を持っていたからだ。そもそもあの剣をルシッドやヤムトが装備していたならば、あれほどの苦戦はしなかったかもしれない。
 だからこそ、仮面の男探しに誘われなかった事は納得しているし、安堵しているのも事実だ。

 事実なのだが──

「オレがアテにされてないなんて当たり前の事だろ」

 こういう事を言う声に、なんともいえないジメジメ感が滲んでしまうのは抑えることもできない。

「まあ、その、なんだ、気にするな」

「お前……わざと傷口広げてるだろ」

「だけどな、あちらさんはそうは思わないかもしれないぜ」

 その声音に真剣な響きを感じ取って、オレはモリの方を振り返った。

「あちらさんって、ルシッドがか?」

 モリはその太い首を振った。

「いや、仮面の男のことだ。リッチを殺してしまうような戦士のことを警戒しないわけがない。しかもそいつはミスリルドラゴンを従魔にしているんだ」

「なるほど、いわれてみればそうか」

ヤムトが仮面の男の打倒を宣言していたから、ついついこちらは狙う側だとばかり思っていたが、向こうは向こうでオレたちを、というかオレを狙う理由があるのは確かだ。

「単独なのか組織なのかも分からんが、とりあえずそいつは貴人絡みで何か悪い事をするやつなんだろう。今後の仕事をやりやすくするためにも先にカズを始末しておこうと考える可能性は高いんじゃねえか?」
 
「なるほどなるほど。って、オレやばいのか!?」

「だからよ、ルシッドのパーティに入るべきだと思うんだ」

「ん?」

「ルシッドたちは仮面の男をターゲットにしてる。仮面の男はカズをターゲットにする可能性が高い。ってことはカズが疾風の剣ゲイルアームズに入るのが得策ってもんじゃないか?」

「なるほど、そういう意味だったか」

 ようするにモリは、オレにヨールの仇を取れといっているのではなく、ルシッドたちに守ってもらえといっていたのだ。
 そこでオレはあることに気付いて、モリの顔に目を戻す。

「もしかして、オレのボディガードのつもりだったのか?」

 倉庫整理なんていう人気のない仕事を、このトップクラスの冒険者が引き受けたのは、オレの身を案じて一人にさせないためだったのだろうか。そういえばこいつはとりあえず良いヤツなのだった。
 だが、モリは一瞬きょとんとした顔になりそれから豪快に笑いだした。

「そうだ、って答えれば恩も売れるんだろうが、この雑用はシージニアへ行く隊商護衛の依頼があって、そのオプションみたいなもんなんだ」

「なんだ、そういうことなのか」

「だからオレがいない間はルシッドに守ってもらってくれ」

「うるせ。別にそんなものいらねえよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...