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料理教室
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「──なんてことをモリの野郎がいいやがるんだよ」
オレの言葉が終わっても誰も反応しない。トヨケにカノミ、それからハンガクにツル、みんな食べることに夢中だからだ。
トメリア食糧品店の奥の部屋。トヨケとハンガクとツルが依頼を請け負っていない日にお茶会が開かれるその部屋。そこのテーブルに行儀よく着席した皆が脇目も振らず食べているのは、ギョウザだ。
木の板に山のように盛られたギョウザが見る見る消えていく。
カノミは水で、それ以外の三人は木のジョッキに入ったエールで口の中を冷ましつつ、手を伸ばし、つまみ、小皿に入れた酢を少し付けて口に放り込むというサイクルを繰り返している。
オレは小さく溜め息を吐いてから、焼き上がったばかりのギョウザをそこに追加した。
考えた末、オレは前から約束をしていた料理教室の料理をギョウザに決めた。
教室といってもレクリエーションのようなものだろうから、餡を皮で包む作業を皆で一緒にやれば喜ばれるだろうと思ったのだ。
その読みは大当たりだった。
水で練った小麦粉で小さな球を作り、それを木の棒で押し広げて餃子の皮を作ってみせると、四人は目を輝かせて食いついてきた。
まるで粘土遊びをするかのようにきゃっきゃっ言いながら作られた皮の数は千枚を超えていた。
餡もそれに見合う量が必要なのだが、残念ながらこの世界での豚肉は高価なうえ、生のものは決まった時期にしか出回らない。
そこでトメリア食料品店で保管をしていたコカトリスの肉を使うことにした。
トヨケたちの取り分だったが気前良く提供してくれた。というか今でもまだトヨケたちは、コカトリスの肉を受け取る事を承諾していない。曰く、シェルクラーケンの肉だけでも貰い過ぎなんだそうだ。商売人のくせに欲がないのはよろしくないんじゃないだろうか。まあ受け取らないなら食べてもらうまでだ。
鶏肉の餃子というのはあんまり聞いたことがないが、香辛料を効かせたつくねを想像すれば、餃子の中身にしても悪くなさそうに思えた。そして実際にかなりよい餡となった。
ジビエだから当然といえば当然だが、コカトリスの肉は地鶏よりもさらに肉質は硬い。だけどその分旨味も濃い。
なのでミンチにすれば美味しくて食べやすいパーフェクトな食肉になる。
オレよりも力も体力も段違いであるであろうハンガクに包丁二刀流でひたすらコカトリス肉の塊を叩いてもらった。
剣の扱いは得意じゃないんだとか文句をいいながらも、大きな塊肉はあっという間にミンチになった。ミンサーいらずだ。
切れずに残った筋を丁寧に取り除いてから、塩を振りかけ捏ねていく。
挽き肉を使った料理は何でもそうなのだが、この作業をきちんとやるのとやらないのとでは仕上がりの食感と旨味が段違いに変わってくる。
肉に粘り気が出てきたところで、刻んだニンニクと生姜、挽いた黒コショウをこれでもかと入れてさらに混ぜる。
それからキャベツをみじん切りにして塩を振って少しおき、手で握って出てきた水をよく絞り出し、粗みじんにしたニラと一緒に餡に混ぜ込む。
キャベツもニラも全く同じかどうかは分からないがほぼ似たような物がこの世界にもあったのがありがたい。
「肉をグチャグチャに潰すなんて、面倒くさい事をするんだな」
ハンガクが言った。
その頬には肉を包丁で叩いた時に飛んだらしい小さな肉片が付いていた。
スプラッタホラーというよりも、精悍な美貌と相まってアマゾネスみたいだ。
大きな目を、長く濃い睫毛とくっきりとした眉が彩っているハンガクの顔立ちは、鼻筋も高いため肌色が暗いわけではないがどこかオリエンタルな印象がある。
黙っていれば彫像のような美しさがあるのだけど、そうもいかないのが世の常だ。軽口が多く、話し言葉も粗雑なため、冒険者ギルドの中ではガサツでちょっと面倒くさい姐御という扱いを受けていた。
「付いてるぞ」オレは自分の頬を指差して見せた。だがハンガクはきょとんとした顔で首を傾げるばかりだ。
仕方がないので手を伸ばしてそれを取ってやる。これがごはん粒でオレが口に入れでもしたら恋も芽生えるのかもしれないが、あいにく生肉を食べて腹を壊すような真似はしたくない。
まな板の上のミンチの方へ指先でぴんと弾いて飛ばした。
「あ、ああ、あたしの顔に付いてたのか。カズの顔に何か付いてるから取ってくれって言ってんのかと思ったぜ。でも見た感じじゃ何も付いてないから鼻でももいで欲しいのかと考えちまったよ」
ハンガクは少し照れたように早口でそんな事を言う。
「恐いこというな」
勘違いを照れる前にそういう発想になったことを反省してほしい。
「これって、前に食べたハンバーガーみたいになるの?」
トヨケが訊く。
そういえばダンジョンからトヨケたちを助け出した時にハンバーガーを振る舞ったんだった。
「ああ、そうだ。味付けは違うけど、似たような物といえなくもないかも。ハンガクとツルも覚えてるだろ?」
「ああ、あれは美味かったよな。じゃあこれもパンに挟むのか?」
「いや、これは皮に包むんだよ」
「さっき作った丸いやつね」
と、ツルが肯いた。
千枚を超える様々な形の皮で餡を包む作業も、四人は子供のように楽しんだ(カノミは実際に子供だけど)。
そうして形もサイズもバリエーションに飛んだギョウザが千個以上作られたのだった。
しかしその数をフライパンひとつで焼くためには、何度も何度もひたすら焼き続ける必要がある。
なんだか分からないうちに、オレ一人が焼き係になってひたすらギョウザを焼き、他の四人が食べ係となって木の板に盛られるギョウザをひたすら胃袋へと片付けていたのだった。
オレの言葉が終わっても誰も反応しない。トヨケにカノミ、それからハンガクにツル、みんな食べることに夢中だからだ。
トメリア食糧品店の奥の部屋。トヨケとハンガクとツルが依頼を請け負っていない日にお茶会が開かれるその部屋。そこのテーブルに行儀よく着席した皆が脇目も振らず食べているのは、ギョウザだ。
木の板に山のように盛られたギョウザが見る見る消えていく。
カノミは水で、それ以外の三人は木のジョッキに入ったエールで口の中を冷ましつつ、手を伸ばし、つまみ、小皿に入れた酢を少し付けて口に放り込むというサイクルを繰り返している。
オレは小さく溜め息を吐いてから、焼き上がったばかりのギョウザをそこに追加した。
考えた末、オレは前から約束をしていた料理教室の料理をギョウザに決めた。
教室といってもレクリエーションのようなものだろうから、餡を皮で包む作業を皆で一緒にやれば喜ばれるだろうと思ったのだ。
その読みは大当たりだった。
水で練った小麦粉で小さな球を作り、それを木の棒で押し広げて餃子の皮を作ってみせると、四人は目を輝かせて食いついてきた。
まるで粘土遊びをするかのようにきゃっきゃっ言いながら作られた皮の数は千枚を超えていた。
餡もそれに見合う量が必要なのだが、残念ながらこの世界での豚肉は高価なうえ、生のものは決まった時期にしか出回らない。
そこでトメリア食料品店で保管をしていたコカトリスの肉を使うことにした。
トヨケたちの取り分だったが気前良く提供してくれた。というか今でもまだトヨケたちは、コカトリスの肉を受け取る事を承諾していない。曰く、シェルクラーケンの肉だけでも貰い過ぎなんだそうだ。商売人のくせに欲がないのはよろしくないんじゃないだろうか。まあ受け取らないなら食べてもらうまでだ。
鶏肉の餃子というのはあんまり聞いたことがないが、香辛料を効かせたつくねを想像すれば、餃子の中身にしても悪くなさそうに思えた。そして実際にかなりよい餡となった。
ジビエだから当然といえば当然だが、コカトリスの肉は地鶏よりもさらに肉質は硬い。だけどその分旨味も濃い。
なのでミンチにすれば美味しくて食べやすいパーフェクトな食肉になる。
オレよりも力も体力も段違いであるであろうハンガクに包丁二刀流でひたすらコカトリス肉の塊を叩いてもらった。
剣の扱いは得意じゃないんだとか文句をいいながらも、大きな塊肉はあっという間にミンチになった。ミンサーいらずだ。
切れずに残った筋を丁寧に取り除いてから、塩を振りかけ捏ねていく。
挽き肉を使った料理は何でもそうなのだが、この作業をきちんとやるのとやらないのとでは仕上がりの食感と旨味が段違いに変わってくる。
肉に粘り気が出てきたところで、刻んだニンニクと生姜、挽いた黒コショウをこれでもかと入れてさらに混ぜる。
それからキャベツをみじん切りにして塩を振って少しおき、手で握って出てきた水をよく絞り出し、粗みじんにしたニラと一緒に餡に混ぜ込む。
キャベツもニラも全く同じかどうかは分からないがほぼ似たような物がこの世界にもあったのがありがたい。
「肉をグチャグチャに潰すなんて、面倒くさい事をするんだな」
ハンガクが言った。
その頬には肉を包丁で叩いた時に飛んだらしい小さな肉片が付いていた。
スプラッタホラーというよりも、精悍な美貌と相まってアマゾネスみたいだ。
大きな目を、長く濃い睫毛とくっきりとした眉が彩っているハンガクの顔立ちは、鼻筋も高いため肌色が暗いわけではないがどこかオリエンタルな印象がある。
黙っていれば彫像のような美しさがあるのだけど、そうもいかないのが世の常だ。軽口が多く、話し言葉も粗雑なため、冒険者ギルドの中ではガサツでちょっと面倒くさい姐御という扱いを受けていた。
「付いてるぞ」オレは自分の頬を指差して見せた。だがハンガクはきょとんとした顔で首を傾げるばかりだ。
仕方がないので手を伸ばしてそれを取ってやる。これがごはん粒でオレが口に入れでもしたら恋も芽生えるのかもしれないが、あいにく生肉を食べて腹を壊すような真似はしたくない。
まな板の上のミンチの方へ指先でぴんと弾いて飛ばした。
「あ、ああ、あたしの顔に付いてたのか。カズの顔に何か付いてるから取ってくれって言ってんのかと思ったぜ。でも見た感じじゃ何も付いてないから鼻でももいで欲しいのかと考えちまったよ」
ハンガクは少し照れたように早口でそんな事を言う。
「恐いこというな」
勘違いを照れる前にそういう発想になったことを反省してほしい。
「これって、前に食べたハンバーガーみたいになるの?」
トヨケが訊く。
そういえばダンジョンからトヨケたちを助け出した時にハンバーガーを振る舞ったんだった。
「ああ、そうだ。味付けは違うけど、似たような物といえなくもないかも。ハンガクとツルも覚えてるだろ?」
「ああ、あれは美味かったよな。じゃあこれもパンに挟むのか?」
「いや、これは皮に包むんだよ」
「さっき作った丸いやつね」
と、ツルが肯いた。
千枚を超える様々な形の皮で餡を包む作業も、四人は子供のように楽しんだ(カノミは実際に子供だけど)。
そうして形もサイズもバリエーションに飛んだギョウザが千個以上作られたのだった。
しかしその数をフライパンひとつで焼くためには、何度も何度もひたすら焼き続ける必要がある。
なんだか分からないうちに、オレ一人が焼き係になってひたすらギョウザを焼き、他の四人が食べ係となって木の板に盛られるギョウザをひたすら胃袋へと片付けていたのだった。
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