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しおりを挟む「利害以外で人付き合いしない奴だと思ってたからさ」
「そう思ってて、よく俺に連絡してくるな」
「俺は柊木のことが好きだから、利用されてでも会いたいんだよ」
「気色の悪い言い方をするな」
風見は乾いた笑い声を上げた。
「柊木はほとんどの他人に興味無いだろうけど、他人は柊木に興味を持つ。うんざりしてるだろうけど、その容姿がまず反則レベルだし」
風見の言葉に、ユタは短いため息を吐いた。
幼い頃から、見た目で勝手な印象を持たれて近づかれ、期待外れだと勝手に離れて行かれることには慣れている。
君は天使ね、と言った口で、でもあの子は素行が悪いと陰口を叩く。完璧な王子様、と騒ぎ立てて、誰とも付き合わないから偏愛者などと噂を流す。見た目だけを見て、好き放題言うだけのくだらない他人に興味は持てなかった。
「他人の容姿なんかどうでもいいだろ。容姿が気に入って俺に寄ってくるのは、お前みたいな暇で変なやつだけだ」
「その暇で変なやつの誘いにたまに答えてくれるってことは、まだ俺に利用価値があるってことか、俺に友情を感じてくれてるってことだよね?」
細長くくびれたグラスに入っていた常温のビールを半分飲んでから、風見は笑顔でユタに聞いた。
風見は変わった男だ。
初めのうちこそ、思ったことをそのまま口にする奴かと呆れたが、長く付き合ううちにそうではなく、相手をよく観察した上で話していることが解ってきた。しかも、興味の対象が多彩で、常人には理解し難いところに目を付ける。今も、ユタの見た目に興味があるのだと口では言うが、風見の目はそう言っていない。確かに見た目にも興味があるのだろうが、それだけではない、変質的な、ある意味執着のような視線を風見からは感じる。
『この、常軌を逸しているにも関わらず、見た目と演技で世間を欺きながら生きている男の化けの皮を剥がして本質を見抜きたい。あるいは、本性を現す様を見届けたい』
風見の目はそう語っているように見えた。一見、思慮がないような発言でこちらを動揺させ、出方を伺っているのだ。
悪い人間ではないのだろうが、タチは悪い。
「俺のこと、ようやく親友って認めてくれた?」
嬉々とした顔の風見に、ユタは再びため息を吐いた。
しかも、風見の欲求は純粋な興味からのみ由来している。知るためなら、手間も惜しまない。
風見のその性質のおかげで、様々な情報を得られることは収穫だが、相手をするのは大分消耗してしまう。
「どちらかと言えば友情というより、利用価値の方だ」
「えーそうなんだ。じゃ、何を喋ればいい?」
「あからさま過ぎる」
「だって親友の頼みなら何でも聞きたいしさ」
嬉々として利用されようとする風見に、ユタは苦笑する。
「最近の仕事の内容を適当に話してくれ」
風見は頷き、自分の担当している設計の話を愚痴を交えてユタに説明した。仕様が決まらず、期限が迫られていることや、細かな仕事の流れなどを風見が話し、ユタはそれを無表情でメモを取りながら聞いた。
「同じ業界でもないし、つまんないでしょ? 何のために俺と会ってるの?」
顔色一つ変えずに聴取した内容を手帳にメモしていくユタに、風見は首を傾げた。
「愛」
ユタがそう言ってやると、風見は、わー、と頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
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