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2.教師と生徒 7
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「は? なんで西条先生にそんなこと……」
室見の、郁に対する態度とのギャップに失笑しつつ、西条は真面目な顔になって続ける。
「条例で決まってるからな。青少年保護育成条例ってやつで、大人は、青少年とは同意があっても付き合っちゃいけないことになってるんだよ。だから、十四歳のお前と明科先生は付き合えないんだ。付き合ったら明科先生が、最悪逮捕される」
「なにそれ……」
西条の説明を受けて、室見の顔色は目に見えて白くなった。
「そういうわけだから、大人になるまで明科先生のことは諦めとけよ。番になって結婚でもしない限り、どうにもならないんだから」
「そんなの……でも……」
恨めしげに西条を見る室見の顔には、納得いかないと書いてある。それを見た西条は、突然郁の肩に腕を回して引き寄せた。
「明科先生は、それまで俺が守っといてやる」
「さ、西条先生……?」
にかっと歯を出して笑う西条に、郁は驚いて身を引いた。オメガという体質なこともあり、他人とのスキンシップを極力避けてきた郁にとっては充分濃厚な接触の部類で冷や汗が出てしまう。
「じ、自分の身は自分で守るから、大丈夫だよ……」
郁は混乱しつつも西条の腕から逃れて向かいに立った。西条は室見をちらりと見て、でもなー、と呟く。
「こんなにかわいいから、心配だよなあ。室見」
西条は室見に、郁を好きな仲間同士といった感じで、フレンドリーに接する。しかし室見は、頭を軽くぽんぽんと撫でた西条の手を強く叩きのけると、無言でどこかへ行ってしまったのだった。
西条は室見からの相談を受けて、翌日には藤原と話をしたとのことだった。藤原は告白の返事を貰えないことに焦れて、室見への行動をエスカレートさせてしまったのだと泣きながら話したという。
「すごいな、西条先生」
今後はそういうことはしないと藤原と約束までしたと聞いて、西条の手際の良さに郁は心底感心した。
「いや、案外難しい話でもなさそうだったよ。藤原はストーカーしてる認識はなくて、言われて気づいてショックを受けてたなあ」
「そうか。それにしても、信頼されてる先生じゃないと、そういうことは話してくれないだろ。すごいよ」
西条は室見の名前を出さずに、何か悩んでいることはないか、と藤原に切り出したという。まだ一学期の終わりだというのに、生徒が悩みをあっさりと打ち明けるほどに信頼を得ているのは、さすがと思う。誰にでも真似できることではない。
「それより、室見には気をつけろよ。郁」
西条は郁の頭をぽんと撫でて笑った。室見の名前が出て少し身構える。
「あいつ、ちょっと本気だろ。あんまり刺激しない方がいいと思ってたんだけど、思い詰めすぎてもまずいと思って牽制しといたんだが……」
「あ、ああ……牽制……。そういうものなのか……。ごめん、こういうときどうすればいいのか、さっぱりわからなくて……」
なんだか、西条との教師としての対処能力の差を感じて落ち込んでしまう。西条は苦笑した。
「俺だって何が正解かわからないから、手探りで動いてるよ。自分の行動が吉とでるか凶と出るか、恐々してる。室見については、今後も注意した方がいいとは思うな」
西条の忠告に、郁は素直に頷いた。
室見の、郁に対する態度とのギャップに失笑しつつ、西条は真面目な顔になって続ける。
「条例で決まってるからな。青少年保護育成条例ってやつで、大人は、青少年とは同意があっても付き合っちゃいけないことになってるんだよ。だから、十四歳のお前と明科先生は付き合えないんだ。付き合ったら明科先生が、最悪逮捕される」
「なにそれ……」
西条の説明を受けて、室見の顔色は目に見えて白くなった。
「そういうわけだから、大人になるまで明科先生のことは諦めとけよ。番になって結婚でもしない限り、どうにもならないんだから」
「そんなの……でも……」
恨めしげに西条を見る室見の顔には、納得いかないと書いてある。それを見た西条は、突然郁の肩に腕を回して引き寄せた。
「明科先生は、それまで俺が守っといてやる」
「さ、西条先生……?」
にかっと歯を出して笑う西条に、郁は驚いて身を引いた。オメガという体質なこともあり、他人とのスキンシップを極力避けてきた郁にとっては充分濃厚な接触の部類で冷や汗が出てしまう。
「じ、自分の身は自分で守るから、大丈夫だよ……」
郁は混乱しつつも西条の腕から逃れて向かいに立った。西条は室見をちらりと見て、でもなー、と呟く。
「こんなにかわいいから、心配だよなあ。室見」
西条は室見に、郁を好きな仲間同士といった感じで、フレンドリーに接する。しかし室見は、頭を軽くぽんぽんと撫でた西条の手を強く叩きのけると、無言でどこかへ行ってしまったのだった。
西条は室見からの相談を受けて、翌日には藤原と話をしたとのことだった。藤原は告白の返事を貰えないことに焦れて、室見への行動をエスカレートさせてしまったのだと泣きながら話したという。
「すごいな、西条先生」
今後はそういうことはしないと藤原と約束までしたと聞いて、西条の手際の良さに郁は心底感心した。
「いや、案外難しい話でもなさそうだったよ。藤原はストーカーしてる認識はなくて、言われて気づいてショックを受けてたなあ」
「そうか。それにしても、信頼されてる先生じゃないと、そういうことは話してくれないだろ。すごいよ」
西条は室見の名前を出さずに、何か悩んでいることはないか、と藤原に切り出したという。まだ一学期の終わりだというのに、生徒が悩みをあっさりと打ち明けるほどに信頼を得ているのは、さすがと思う。誰にでも真似できることではない。
「それより、室見には気をつけろよ。郁」
西条は郁の頭をぽんと撫でて笑った。室見の名前が出て少し身構える。
「あいつ、ちょっと本気だろ。あんまり刺激しない方がいいと思ってたんだけど、思い詰めすぎてもまずいと思って牽制しといたんだが……」
「あ、ああ……牽制……。そういうものなのか……。ごめん、こういうときどうすればいいのか、さっぱりわからなくて……」
なんだか、西条との教師としての対処能力の差を感じて落ち込んでしまう。西条は苦笑した。
「俺だって何が正解かわからないから、手探りで動いてるよ。自分の行動が吉とでるか凶と出るか、恐々してる。室見については、今後も注意した方がいいとは思うな」
西条の忠告に、郁は素直に頷いた。
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