教科書通りの恋を教えて

14.強制発情 4

　室見が欲しい。
　自分を愛してほしい。心も身体も自分に向いてほしい。
　けれど、奪いたいのではない。
　そして、奪ってほしくなかった。
　認めあいたかった。許容しあいたかった。お互いを大切にしあいたかった。そうできると、なれると思っていた。きっとそれは、室見を欲していた……愛していたからだ。何度も愛していると告げられて、嬉しかった。それは、番だから、身体が反応してしまうだけなのだとずっと思っていた。
　生徒である室見に対して自分が好意を寄せるのは禁忌だと長く封じ込めていた心があって、再会してその禁忌が解けたと知って戸惑った。室見を愛しても良いのかと半信半疑のまま生活を続けた。けれどすぐに室見に惹かれていった。はじめは贖罪のつもりだった。室見を愛すれば傷ついた彼の心を救えると思った。卑怯にも、過去の罪……生徒である室見を誘惑したという事実も、流せるのかもしれないと思った。それは都合が良すぎるのではないかという葛藤もあった。タブーさえなければ室見に惹かれてもいい。自分をこんなにも愛してくれる存在を受け入れて、愛し返しても許される。そう思って、八年間の苦しみから心が溶けていくようだった。
　ところがすべて、嘘だった。室見は被害者ではなかった。自分から望んで仕組んだことだった。郁を蹂躙して貞操も矜持も奪った。なにも知らせずに八年間も罪を負わせた。そしていま再び奪うつもりで了解を得ずに薬を使った。
　自分と同じ大きさのベクトルで、お互いを慈しみあいたいと、願っていた。しかし、室見は……。