教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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後日談ーもう一度あの時をー 双子の義弟16

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「あなたね……」

 背の高い金髪の初老の女型ーメアリーが腕組みをしてため息を吐いた。
 長い長い初恋話が終わる前に、郁の母親の家に到着してしまった。一時話を中断してもらい、郁の母親カナ、それから彼女のパートナーのメアリーに室見が挨拶をした。しかし、リビングのソファに着席してお茶を飲み始めると「あともう少しだから」とノアの初恋話の続きが始まり、二十分後にようやく終わった。そしてため息と共に第一声を出したのがメアリーだった。

「ノアは、愛する人のため、なんて言って会社を興すのを物凄く頑張っていたのよ。まさか郁のことだったなんて……」

 眉間を指でおさえるメアリーの横で、カナが微笑んだ。

「私、ノアの相手は、てっきりハイスクールから仲の良かったクロエかと思っていたわ。二人は付き合っているのかと思ってた。最近全然デートしてないと思ったけど、忙しいからかと……」

 カナは内巻きにカールした肩までの黒髪を揺らして小首を傾げた。大ぶりのパールのネックレスに紺のシンプルなワンピースを着た細身のカナは、静かで少し天然そうな雰囲気がどことなく郁に似ていた。

「カナ、クロエはノアの親友だけど、恋愛の対象じゃないんだよ。ノアはいつも、郁のことをクロエに自慢してたんだよ」

 家族の中で唯一、ノアの恋情を知っていたウィリーが苦笑する。

「そうだったのね……。私、クロエがノアと結婚するんじゃないかとワクワクしてたのよ……」

 残念そうに肩を落とすカナの肩をメアリーはぽん、と叩く。

「カナは、クロエのこと気に入ってたものね」

 メアリー、カナ、ウィリーが横並びに、向かい合って室見、郁が座って歓談する部屋の端で、ノアは大きな体を丸めて体育座りをしていた。

「十年以上拗らせてた初恋だから、悪いけど、大目に見てやって。今日はノアには俺が付き合ってやるから、皆は休んでよ。郁と一花も長旅で疲れただろ。明日は朝ゆっくりしてもらって、午後からにでも観光案内するから」

 ウィリーはウインクすると、黒い霧を被ったように暗い顔のノアを引きずって帰っていった。
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