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本編
第21話 子兎とシープドッグ
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祐司が和臣に連絡を入れた翌日。
偶々時間が空いていたとの事で、会社帰りに指定された料亭で祐司が待ち構えていると、約束の時間から遅れる事十分程で綾乃の父、君島東志郎が姿を現した。一見、人の良さそうな笑みを浮かべている彼を見て、祐司は密かに気合を入れ直して姿勢を正した。
「やあ、高木さんでしたね。お待たせしたかな?」
「いえ、大した事はありません。先生のお忙しさは重々承知しておりますので、こちらの都合でここまで足を運んで頂いて、却って恐縮しております」
(細かい嫌がらせを部下に指示する暇は、有り余ってるみたいだがな!)
軽い謝罪の言葉に祐司は鷹揚に笑って頷いてみせたが、言外に含んだ内容は君島にはっきりと伝わったらしく、些か皮肉っぽい声音で言い返された。
「いやいや、場所を指定したのはこちらだからな。相手に合わせてもう少し若い人が出入りのし易い大衆的な店に出向いても良かったのだが、保安上の面から秘書に止められてしまってね。申し訳ない」
(貴様のような若造に合わせて、安い居酒屋に足を運んでも良かったんだがな。貴様がここの支払いをしたら、財布が空になるんじゃないのか?)
祐司の正面に座りつつ君島がそんな事を言い、最後にわざとらしく溜め息を吐かれた為、祐司は幾分引き攣った笑顔を見せながらも、穏やかに言い返した。
「ですが、確かに外聞が悪い話をする場合には庶民的な店は不向きでしょうから、秘書の方の判断は適切でしょう」
(痛い腹を探られたら拙いのは、あんたの方だろうが)
「ほう? 外聞が悪い、とはどういう事かな?」
(はっ、ケツの青いガキが、何を生意気言いやがる)
「単に物分かりが悪い因業親父は、困ったものだと言うお話です。清廉潔白な代議士先生には、無縁な話かと」
(あんたは腹の中まで真っ黒だがな)
「それは同感だな。それで、私にどういった用向きの話があるのか、そろそろ聞かせて貰いたいものだが」
(噛まない犬ほど良く吠えると言うな)
そんな色々含みまくりの会話を交わして二人は睨み合ったが、店にこっそり手を回し、襖を隔てた隣の部屋でそのやり取りに聞き耳を立てていた男達は、うんざりとした顔を見合わせた。
「……最初からやる気満々だな、祐司の奴」
「父さんも臨戦態勢だな。何も初対面の一般人に、あんなに殺気をぶつけなくても」
「しかし当人から連絡が入るとは、正直驚きました。なかなか骨のある御仁の様にお見受けします」
連絡を取り合って現場に待機する事を決めた弘樹と和臣は、早くも精神的な疲れを見せていたが、ただ一人君島の秘書の蓼原だけは、しみじみと祐司について感じ入ったように評した。それを聞いた他の二人が、疲労感を倍増させる。
「蓼原さん……、感心している場合じゃないから」
「そうそう。あの二人が暴れ始めたら力ずくで止めないといけないので、手を貸して下さい」
しかし真顔で要請した弘樹に、蓼原が真剣に言い返す。
「申し訳ありません。生憎と私は腕力には自信がありませんので、荒事は若い和臣様達にお任せします。店の方には私が話を付けますが、どうしようも無くなったら外に配置しているSPを呼びますので」
「……そうだね、そうしてくれ」
和臣が額を押さえながら呻いた所で、隣室で動きがあった。
「それでは今回、先生をお呼び立てした理由ですが…………。あんたの娘は父親に似ない、気立ての良い子で良かったなって話をしようと思ってな」
「……ほざいたな、若造」
慇懃無礼な口調とは一転、明らかに喧嘩腰になった祐司に対し、君島も怒気を露わにした。しかしそれに怯む事無く、祐司が話を続ける。
「言ったがどうした。それで奇跡的にあんたの娘として生まれた綾乃さんとこれから付き合う事になるから、今後はおとなしく指をくわえて、黙って見てて貰おうか」
あっさりと一番言いたかった事を祐司が宣言した途端、座卓を盛大に殴りつけながら君島が吠えた。
「あぁ!? ふざけるな! 誰が貴様みたいな馬の骨に、綾乃を渡すか!!」
しかし、祐司も負けじと怒鳴り返す。
「五月蠅いぞ! コソコソ裏工作なんぞしやがって。ちょっとやそっとの嫌がらせで俺が引っ込むと思ったのか? なめるなよ!? 大体、税金で食わせて貰ってる人間が、納税者に嫌がらせをするとはどういう了見だ?」
「貴様のような礼儀知らずに支持して貰ったつもりは無いし、して貰うつもりも無い! もう良い。やはり綾乃を東京になど置いておけん! 広島に連れて帰るぞ!」
「本人には、何と言うつもりなんだ? 散々嫌がらせしても引かない生意気な若造がいるから、地元に帰れとでも言うつもりか? 彼女、これまで父親が裏で手を回してきた事を全く知らない感じだから、本当の事を知ったらショックを受けそうだな?」
些か皮肉混じりに祐司がそんな事を口にすると、君島は瞬時に怒りを抑え込み、祐司を睨み付けた。
「…………貴様、俺を脅す気か?」
「脅すも何も、事実だろう? 就職が親のコネかもしれないってかなり悩んでいた位だから、俺が受けた仕打ちも正直に告げたら自分のせいでって落ち込みそうだから、今の所は言って無いがな。自分で言いたかったら、止めないから言えば良いさ」
そんな突き放した言い方に、君島は小さく歯軋りをして呻き声を上げる。
「……俺は認めん」
「成人して自活している娘を、もう少し信用したらどうだ?」
呆れ気味に肩を竦めた祐司だったが、ここで君島が反撃に出た。
「綾乃は信用しているが、貴様が信用できんと言ってるんだ! 調べたら色々女の話が出てきたぞ。しかも去年、幸恵さんを振ってるだろうが!」
「……否定はしませんが」
隠し立てする気は無かった為、気圧されながら祐司が静かに肯定すると、君島が怒りで顔を赤くしながら怒鳴りつける。
「幸恵さんを袖にしただけでも許し難いのに、綾乃にまで手を出すなど許せるか!」
「…………」
憮然とした表情の祐司と怒りが治まりきらない君島が睨み合い、室内が不気味な静寂に包まれた所で、隣室の面々は揃って渋面になった。
「堂々巡りだな、これは」
「さて、今の所、乱闘騒ぎまで行ってないが、これはどう収拾をつけたものか」
「私達が下手に割り込んだら、益々態度を硬化させかねませんし」
そんな事を小声で言い合いながら顔を見合わせていると、何やら廊下の方から聞き覚えのある声が伝わってくる。
「……こっちみたいです!」
「ちょっと待って! 幾ら何でもいきなり入るのは」
「今の声」
「まさか」
弘樹達が引き留める隙もあらばこそ、その声の主達は勢い良く主戦場に乱入した。
「お父さん、ここに居るわよねっ!?」
「だから待ちなさいって!」
「綾乃!? お前どうしてこんな所に?」
「綾乃さん!? 幸恵までどうしてここに?」
どこから走ってきたのか、乱れた息もそのままに叫んだ綾乃と、狼狽しつつ後を追って来たらしい幸恵の姿を認めた男二人は、揃って驚いて問いかけた。すると綾乃が憤然としながら言い返す。
「幸恵さんから、洗いざらい全部聞いたわよ!? お父さん、高木さんに嫌がらせをしてたんですって?」
「それは……、その、お前が泣かされた報復をだな」
これまでには見られなかった娘の剣幕にたじろぎつつ、君島がボソボソと弁解がましく口にしたが、綾乃はそれを一刀両断した。
「それは私が勘違いしただけで、誤解だから! 第一、あれが国会議員のする事なの? 恥ずかしくないわけ? 情けないったらないわ!」
「しかし綾乃」
「それに高木さんも、どうして私にそれを言ってくれないんですか?」
「いや、最初は理由が全然分からなかったし……、一々言うほどの事でも無いと思って」
「何を考えているんですか!? 幸恵さんに教えて貰わなかったら、私、全く知らないままでしたよ?」
本気で叱り付けられて、祐司は恨みがましい視線を幸恵に向けた。
(余計な事を言うなよ……)
(ごめん。だって祐司が君島さん相手に、何やらかすか心配で。何かあったら抑えて貰おうかと思って)
幸恵が軽く拝む真似をしつつ祐司と目で会話していると、そこで幾分控え目に君島が彼女に声をかけた。
「……幸恵さん?」
「はい?」
思わず目を向けた幸恵だったが、ここで真正面から君島と相対する事になっている事に気付き、僅かに顔を強張らせた。
「お久しぶりです……」
「はい……。ご無沙汰しております」
泥水をぶちまけた上に蹴り倒して以来の再会に、今まですっかりその事を失念していて気まずさが最高潮の幸恵と、咄嗟にどう対応して良いか分からずに本気で困惑した君島の間で緊張が走る。それを襖の隙間から覗き見ていた弘樹と和臣が、今度こそ本気で頭を抱えた。
「うわ。何かさっきまでの荒れ模様は収まったけど、今度は空気が重い……」
「まさか幸恵さんまで乗り込んで来るとは、全く予想していなかったな。遠藤さん、今日の場所と日時を漏らしましたね?」
「すみません、つい……」
思わず恨みがましく呟いた和臣に、弘樹が面目無さ気に頭を下げる。しかし蓼原は、先程までとは打って変わって明るい表情で頷いた。
「しかし報告書に添えられたお写真以上に、奥様に良く似たお嬢様ですね。大丈夫です、先生はあの顔の前では、間違っても暴れたりはしませんから」
「蓼原さん……、父が母に頭が上がらない事を、さり気なく暴露しないで下さい」
「事実ですから。選挙区中の皆が承知している事ですし、これ位口にしても宜しいでしょう」
「……色々な意味で凄いですね」
「父の名誉の為に、できれば聞かなかった事にして下さい」
自信満々に保証してみせた蓼原に思わず和臣がげんなりし、弘樹が感心した呟きを漏らす。そして隣室では、綾乃による糾弾が続いた。
「それで……、もう一回確認するけど、お父さんは私が高木さんに泣かされたと勘違いして、高木さんに色々な嫌がらせをしていた訳よね?」
「……ああ」
幸恵の乱入によって気勢を削がれてしまった君島を、その前で仁王立ちになった綾乃が追及すると、君島は気まずそうに僅かに娘から視線を逸らした。そんな父親に、綾乃が険しい顔つきで要求を繰り出す。
「それは即刻止めて、高木さんに謝って。でないと親子の縁を切らせて貰うから」
「綾乃、お前そんな」
「言っておくけど、本気よ」
「……分かった」
冷たく言い切られた君島は、初めて娘から受けた非難がましい視線にショックを受けつつ、祐司に向き直って頭を下げた。
「その……、今回は色々」
「声が小さい!」
「…………」
静かに、しかし容赦無く駄目出しをされた君島はピクリと体を震わせ、他の者達はこぞって君島に憐みの視線を向けた。そして君島は一瞬何か言いかけたものの、辛うじて言葉を飲み込み、先程より声を大きくして謝罪の言葉を述べながら祐司に頭を下げる。
「この度は、ご迷惑をおかけして申し訳無かった。今後、同様の事はしないので、許して貰いたい」
「俺は……、あれらを止めて頂けるなら、これ以上文句を言うつもりはありませんから……」
思わずほんの少しだけ君島に同情した祐司が低い声で謝罪に応じると、襖の向こうでは蓼原が時折目にハンカチを当てつつ、感極まった様子で綾乃と夢乃を褒め称えた。
「お嬢さん……。以前は間違っても先生に口答えなどしない方だったのに、立派におなりになって……。やはり東京にお出でになったのは正解でした。それに流石は奥様、慧眼の持ち主でいらっしゃいます」
「えっと……」
そう言って声を抑えつつボロボロと泣き出した蓼原を見て、弘樹は反応に困った様に和臣を見やった。しかし和臣は、事も無げに答える。
「気にしないで下さい。蓼原さんを筆頭として、秘書の人達はどちらかと言うと、父より母を崇拝していますので」
「それで良いんですか?」
思わず突っ込んでしまった弘樹だったが、ここで綾乃が次の行動に出た。
「それから……、高木さん」
「あ、ああ、何かな?」
真顔で祐司を見下ろしたかと思ったら、綾乃は迷わず祐司の傍まで歩み寄り、畳に正座して口を開いた。
「今回の事は、直接的には父がご迷惑おかけしましたが、元はと言えば私が高木さんへのお返事を先延ばしして、グズグズしていた上に変な誤解をしてしまったせいです。深く反省しています。本当に、申し訳ありませんでした」
そう言って綾乃が深々と頭を下げた為、祐司は慌てて宥めた。
「いや、それはもう良いから。誤解だって分かったわけだし」
「それで、今回ちょうど良いのでお伝えしようと思いまして、幸恵さんにここまで案内して貰いました」
「伝えるって何を?」
相手の言わんとするところが咄嗟に理解できなかった祐司は怪訝な顔をしたが、綾乃はすこぶる真面目に答える。
「例のお付き合い云々の件です。高木さんさえ良ければ、私と付き合って頂けませんか?」
ここには君島へ文句を言うのに加えて、一矢報いるための意趣返しとして、交際宣言をして神経を逆撫でしてやろうと目論んでいただけの祐司は、予想外の展開に一瞬反応が遅れた。
「あ、ああ、その事か……。うん……、そう言って貰えると嬉しいよ」
(ちゃんと返事を貰えて嬉しいんだが、このシチュエーションだとちょっと素直に喜べない)
取り敢えず笑顔で言葉を返してから祐司が周りに目をやると、元カノである幸恵は、どういう反応をすれば良いのか困った顔で微妙に視線を外しており、君島に至っては目の前でのまさかの展開に、さすがに怒気を露わにした。
「おい、綾乃! こいつとの交際など俺は許さんぞ!」
「お父さんには関係無いから黙ってて。横でごちゃごちゃ言うつもりなら、高木さんにしていた嫌がらせの内容を、全部お母さんに教えて叱って貰うから。それでも良いの?」
「………………」
愛妻家の父親を容赦なく追い詰め、黙り込んだのを認めてから、綾乃は改めて祐司に向き直った。
「そういう事ですので、高木さん。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします」
「…………こちらこそ宜しく」
そのやり取りを耳にした面々は、(それはどちらかと言えば、交際云々の時より、嫁にいく時に口にする台詞じゃないのか?)と心の中で盛大に突っ込んだが、どこまでも真面目な表情を崩さない綾乃と、判断力はあったものの最後まで綾乃に合わせる事にした祐司、加えてやり場のない怒りで顔をどす黒くしている君島を見て、(下手に口を挟むのは止めておこう)と揃ってスルーしたのだった。
「なるほどね。後ろ暗い事をしていたおじさまは、それ以上綾乃ちゃんを怒らせたくなくて、その場で強い事を言えなくて、目の前の交際宣言を歯軋りして眺める羽目になったわけか。自業自得とはいえ、ちょっと気の毒ね。……それで? これまでの詳しい経過は分かったけど、それがどうしてこのWデートに繋がるわけ?」
喫茶店のテーブルに頬杖を付き、向かい側に座っている弘樹の話を一通り聞き終えた眞紀子は、面白くなさそうに問いを発した。それに弘樹が笑顔で答える。
「そりゃあ、今まで過保護な父親と兄貴に阻まれて男女交際経験皆無の綾乃ちゃんが、祐司と二人っきりで出掛けるのを、恥ずかしがってるからだろう?」
しれっとして言い返した弘樹だったが、眞紀子は眉間の皺を深くしながら怒鳴りつけた。
「私が言いたいのは、どうして私とあんたでペアなのかって言う、根本的な問題よ!」
「いやぁ、荒川と和臣さんに同行を頼んでも良かったんだけど、仕事上ならともかく、デートなんかで荒川と祐司が顔を合わせたら、色々気まずいし雰囲気ドツボだろ?」
そんな事を真顔で言われてしまった為、眞紀子は思わず納得して頷く。
「確かに元カレ元カノだし、洒落にならないわね。……あら? じゃあひょっとして和臣さんと幸恵さんって、今付き合ってるの?」
ふと眞紀子が感じた疑問を口にすると、それに弘樹が苦笑いで答えた。
「和臣さんが猛アプローチ中? この前は職場で、その事で荒川がキレそうになってた」
「気持ちは分かるわ……。あんたもいい加減諦めたら?」
心底共感する様に腕を組んで頷いてから、眞紀子はテーブルの向こうの弘樹を忌々しそうに睨み付けた。それにめげずに彼が笑って応じる。
「そんなつれないことを言わないで。今日は綾乃ちゃんの為に、我慢して一日付き合って欲しいんだけど」
そこで眞紀子は如何にも嫌そうに顔を顰めてから、不承不承頷いた。
「今日一日だけよ? それに示し合わせて、途中で別れるってのも無しですからね。高木さんは取り敢えず番犬としては認められているみたいだけど、君島のおじさまに、暫くの間はしっかり見張ってくれと頼まれているし」
「はいはい、承知しております」
眞紀子がしっかり釘を刺し、それに弘樹が苦笑した所で、近くの駅で待ち合わせをしたらしい綾乃と祐司が連れ立ってやって来たのが窓越しに見えた。それで弘樹は眞紀子を促して立ち上がり、会計を済ませて二人と合流した。
「眞紀子さん、お待たせしました」
「こんにちは、榊さん」
笑顔で挨拶してくる綾乃と祐司に、眞紀子は一人だけ仏頂面もできず笑顔で歩き出す。
「お久しぶり。じゃあ、行きましょうか。天気が良くて良かったわね」
「はい!」
そうして楽しげに眞紀子と並んで歩き出した綾乃の後ろ姿を見ながら、男二人は苦笑いの表情で囁き合った。
「あ~あ、『彼氏』ほっぽりだして、眞紀子さんと並んで歩いちゃ駄目だよなぁ」
「良いんじゃないか? 如何にも彼女らしくて」
「あれ? 随分余裕じゃないか」
「少なくても、毎回袖にされているお前よりはマシだろう」
「言ってろ」
そう言って苦笑した顔を見合わせた二人は、それぞれのパートナーを捕まえるべく、足を速めて彼女達に並んで声をかけたのだった。
偶々時間が空いていたとの事で、会社帰りに指定された料亭で祐司が待ち構えていると、約束の時間から遅れる事十分程で綾乃の父、君島東志郎が姿を現した。一見、人の良さそうな笑みを浮かべている彼を見て、祐司は密かに気合を入れ直して姿勢を正した。
「やあ、高木さんでしたね。お待たせしたかな?」
「いえ、大した事はありません。先生のお忙しさは重々承知しておりますので、こちらの都合でここまで足を運んで頂いて、却って恐縮しております」
(細かい嫌がらせを部下に指示する暇は、有り余ってるみたいだがな!)
軽い謝罪の言葉に祐司は鷹揚に笑って頷いてみせたが、言外に含んだ内容は君島にはっきりと伝わったらしく、些か皮肉っぽい声音で言い返された。
「いやいや、場所を指定したのはこちらだからな。相手に合わせてもう少し若い人が出入りのし易い大衆的な店に出向いても良かったのだが、保安上の面から秘書に止められてしまってね。申し訳ない」
(貴様のような若造に合わせて、安い居酒屋に足を運んでも良かったんだがな。貴様がここの支払いをしたら、財布が空になるんじゃないのか?)
祐司の正面に座りつつ君島がそんな事を言い、最後にわざとらしく溜め息を吐かれた為、祐司は幾分引き攣った笑顔を見せながらも、穏やかに言い返した。
「ですが、確かに外聞が悪い話をする場合には庶民的な店は不向きでしょうから、秘書の方の判断は適切でしょう」
(痛い腹を探られたら拙いのは、あんたの方だろうが)
「ほう? 外聞が悪い、とはどういう事かな?」
(はっ、ケツの青いガキが、何を生意気言いやがる)
「単に物分かりが悪い因業親父は、困ったものだと言うお話です。清廉潔白な代議士先生には、無縁な話かと」
(あんたは腹の中まで真っ黒だがな)
「それは同感だな。それで、私にどういった用向きの話があるのか、そろそろ聞かせて貰いたいものだが」
(噛まない犬ほど良く吠えると言うな)
そんな色々含みまくりの会話を交わして二人は睨み合ったが、店にこっそり手を回し、襖を隔てた隣の部屋でそのやり取りに聞き耳を立てていた男達は、うんざりとした顔を見合わせた。
「……最初からやる気満々だな、祐司の奴」
「父さんも臨戦態勢だな。何も初対面の一般人に、あんなに殺気をぶつけなくても」
「しかし当人から連絡が入るとは、正直驚きました。なかなか骨のある御仁の様にお見受けします」
連絡を取り合って現場に待機する事を決めた弘樹と和臣は、早くも精神的な疲れを見せていたが、ただ一人君島の秘書の蓼原だけは、しみじみと祐司について感じ入ったように評した。それを聞いた他の二人が、疲労感を倍増させる。
「蓼原さん……、感心している場合じゃないから」
「そうそう。あの二人が暴れ始めたら力ずくで止めないといけないので、手を貸して下さい」
しかし真顔で要請した弘樹に、蓼原が真剣に言い返す。
「申し訳ありません。生憎と私は腕力には自信がありませんので、荒事は若い和臣様達にお任せします。店の方には私が話を付けますが、どうしようも無くなったら外に配置しているSPを呼びますので」
「……そうだね、そうしてくれ」
和臣が額を押さえながら呻いた所で、隣室で動きがあった。
「それでは今回、先生をお呼び立てした理由ですが…………。あんたの娘は父親に似ない、気立ての良い子で良かったなって話をしようと思ってな」
「……ほざいたな、若造」
慇懃無礼な口調とは一転、明らかに喧嘩腰になった祐司に対し、君島も怒気を露わにした。しかしそれに怯む事無く、祐司が話を続ける。
「言ったがどうした。それで奇跡的にあんたの娘として生まれた綾乃さんとこれから付き合う事になるから、今後はおとなしく指をくわえて、黙って見てて貰おうか」
あっさりと一番言いたかった事を祐司が宣言した途端、座卓を盛大に殴りつけながら君島が吠えた。
「あぁ!? ふざけるな! 誰が貴様みたいな馬の骨に、綾乃を渡すか!!」
しかし、祐司も負けじと怒鳴り返す。
「五月蠅いぞ! コソコソ裏工作なんぞしやがって。ちょっとやそっとの嫌がらせで俺が引っ込むと思ったのか? なめるなよ!? 大体、税金で食わせて貰ってる人間が、納税者に嫌がらせをするとはどういう了見だ?」
「貴様のような礼儀知らずに支持して貰ったつもりは無いし、して貰うつもりも無い! もう良い。やはり綾乃を東京になど置いておけん! 広島に連れて帰るぞ!」
「本人には、何と言うつもりなんだ? 散々嫌がらせしても引かない生意気な若造がいるから、地元に帰れとでも言うつもりか? 彼女、これまで父親が裏で手を回してきた事を全く知らない感じだから、本当の事を知ったらショックを受けそうだな?」
些か皮肉混じりに祐司がそんな事を口にすると、君島は瞬時に怒りを抑え込み、祐司を睨み付けた。
「…………貴様、俺を脅す気か?」
「脅すも何も、事実だろう? 就職が親のコネかもしれないってかなり悩んでいた位だから、俺が受けた仕打ちも正直に告げたら自分のせいでって落ち込みそうだから、今の所は言って無いがな。自分で言いたかったら、止めないから言えば良いさ」
そんな突き放した言い方に、君島は小さく歯軋りをして呻き声を上げる。
「……俺は認めん」
「成人して自活している娘を、もう少し信用したらどうだ?」
呆れ気味に肩を竦めた祐司だったが、ここで君島が反撃に出た。
「綾乃は信用しているが、貴様が信用できんと言ってるんだ! 調べたら色々女の話が出てきたぞ。しかも去年、幸恵さんを振ってるだろうが!」
「……否定はしませんが」
隠し立てする気は無かった為、気圧されながら祐司が静かに肯定すると、君島が怒りで顔を赤くしながら怒鳴りつける。
「幸恵さんを袖にしただけでも許し難いのに、綾乃にまで手を出すなど許せるか!」
「…………」
憮然とした表情の祐司と怒りが治まりきらない君島が睨み合い、室内が不気味な静寂に包まれた所で、隣室の面々は揃って渋面になった。
「堂々巡りだな、これは」
「さて、今の所、乱闘騒ぎまで行ってないが、これはどう収拾をつけたものか」
「私達が下手に割り込んだら、益々態度を硬化させかねませんし」
そんな事を小声で言い合いながら顔を見合わせていると、何やら廊下の方から聞き覚えのある声が伝わってくる。
「……こっちみたいです!」
「ちょっと待って! 幾ら何でもいきなり入るのは」
「今の声」
「まさか」
弘樹達が引き留める隙もあらばこそ、その声の主達は勢い良く主戦場に乱入した。
「お父さん、ここに居るわよねっ!?」
「だから待ちなさいって!」
「綾乃!? お前どうしてこんな所に?」
「綾乃さん!? 幸恵までどうしてここに?」
どこから走ってきたのか、乱れた息もそのままに叫んだ綾乃と、狼狽しつつ後を追って来たらしい幸恵の姿を認めた男二人は、揃って驚いて問いかけた。すると綾乃が憤然としながら言い返す。
「幸恵さんから、洗いざらい全部聞いたわよ!? お父さん、高木さんに嫌がらせをしてたんですって?」
「それは……、その、お前が泣かされた報復をだな」
これまでには見られなかった娘の剣幕にたじろぎつつ、君島がボソボソと弁解がましく口にしたが、綾乃はそれを一刀両断した。
「それは私が勘違いしただけで、誤解だから! 第一、あれが国会議員のする事なの? 恥ずかしくないわけ? 情けないったらないわ!」
「しかし綾乃」
「それに高木さんも、どうして私にそれを言ってくれないんですか?」
「いや、最初は理由が全然分からなかったし……、一々言うほどの事でも無いと思って」
「何を考えているんですか!? 幸恵さんに教えて貰わなかったら、私、全く知らないままでしたよ?」
本気で叱り付けられて、祐司は恨みがましい視線を幸恵に向けた。
(余計な事を言うなよ……)
(ごめん。だって祐司が君島さん相手に、何やらかすか心配で。何かあったら抑えて貰おうかと思って)
幸恵が軽く拝む真似をしつつ祐司と目で会話していると、そこで幾分控え目に君島が彼女に声をかけた。
「……幸恵さん?」
「はい?」
思わず目を向けた幸恵だったが、ここで真正面から君島と相対する事になっている事に気付き、僅かに顔を強張らせた。
「お久しぶりです……」
「はい……。ご無沙汰しております」
泥水をぶちまけた上に蹴り倒して以来の再会に、今まですっかりその事を失念していて気まずさが最高潮の幸恵と、咄嗟にどう対応して良いか分からずに本気で困惑した君島の間で緊張が走る。それを襖の隙間から覗き見ていた弘樹と和臣が、今度こそ本気で頭を抱えた。
「うわ。何かさっきまでの荒れ模様は収まったけど、今度は空気が重い……」
「まさか幸恵さんまで乗り込んで来るとは、全く予想していなかったな。遠藤さん、今日の場所と日時を漏らしましたね?」
「すみません、つい……」
思わず恨みがましく呟いた和臣に、弘樹が面目無さ気に頭を下げる。しかし蓼原は、先程までとは打って変わって明るい表情で頷いた。
「しかし報告書に添えられたお写真以上に、奥様に良く似たお嬢様ですね。大丈夫です、先生はあの顔の前では、間違っても暴れたりはしませんから」
「蓼原さん……、父が母に頭が上がらない事を、さり気なく暴露しないで下さい」
「事実ですから。選挙区中の皆が承知している事ですし、これ位口にしても宜しいでしょう」
「……色々な意味で凄いですね」
「父の名誉の為に、できれば聞かなかった事にして下さい」
自信満々に保証してみせた蓼原に思わず和臣がげんなりし、弘樹が感心した呟きを漏らす。そして隣室では、綾乃による糾弾が続いた。
「それで……、もう一回確認するけど、お父さんは私が高木さんに泣かされたと勘違いして、高木さんに色々な嫌がらせをしていた訳よね?」
「……ああ」
幸恵の乱入によって気勢を削がれてしまった君島を、その前で仁王立ちになった綾乃が追及すると、君島は気まずそうに僅かに娘から視線を逸らした。そんな父親に、綾乃が険しい顔つきで要求を繰り出す。
「それは即刻止めて、高木さんに謝って。でないと親子の縁を切らせて貰うから」
「綾乃、お前そんな」
「言っておくけど、本気よ」
「……分かった」
冷たく言い切られた君島は、初めて娘から受けた非難がましい視線にショックを受けつつ、祐司に向き直って頭を下げた。
「その……、今回は色々」
「声が小さい!」
「…………」
静かに、しかし容赦無く駄目出しをされた君島はピクリと体を震わせ、他の者達はこぞって君島に憐みの視線を向けた。そして君島は一瞬何か言いかけたものの、辛うじて言葉を飲み込み、先程より声を大きくして謝罪の言葉を述べながら祐司に頭を下げる。
「この度は、ご迷惑をおかけして申し訳無かった。今後、同様の事はしないので、許して貰いたい」
「俺は……、あれらを止めて頂けるなら、これ以上文句を言うつもりはありませんから……」
思わずほんの少しだけ君島に同情した祐司が低い声で謝罪に応じると、襖の向こうでは蓼原が時折目にハンカチを当てつつ、感極まった様子で綾乃と夢乃を褒め称えた。
「お嬢さん……。以前は間違っても先生に口答えなどしない方だったのに、立派におなりになって……。やはり東京にお出でになったのは正解でした。それに流石は奥様、慧眼の持ち主でいらっしゃいます」
「えっと……」
そう言って声を抑えつつボロボロと泣き出した蓼原を見て、弘樹は反応に困った様に和臣を見やった。しかし和臣は、事も無げに答える。
「気にしないで下さい。蓼原さんを筆頭として、秘書の人達はどちらかと言うと、父より母を崇拝していますので」
「それで良いんですか?」
思わず突っ込んでしまった弘樹だったが、ここで綾乃が次の行動に出た。
「それから……、高木さん」
「あ、ああ、何かな?」
真顔で祐司を見下ろしたかと思ったら、綾乃は迷わず祐司の傍まで歩み寄り、畳に正座して口を開いた。
「今回の事は、直接的には父がご迷惑おかけしましたが、元はと言えば私が高木さんへのお返事を先延ばしして、グズグズしていた上に変な誤解をしてしまったせいです。深く反省しています。本当に、申し訳ありませんでした」
そう言って綾乃が深々と頭を下げた為、祐司は慌てて宥めた。
「いや、それはもう良いから。誤解だって分かったわけだし」
「それで、今回ちょうど良いのでお伝えしようと思いまして、幸恵さんにここまで案内して貰いました」
「伝えるって何を?」
相手の言わんとするところが咄嗟に理解できなかった祐司は怪訝な顔をしたが、綾乃はすこぶる真面目に答える。
「例のお付き合い云々の件です。高木さんさえ良ければ、私と付き合って頂けませんか?」
ここには君島へ文句を言うのに加えて、一矢報いるための意趣返しとして、交際宣言をして神経を逆撫でしてやろうと目論んでいただけの祐司は、予想外の展開に一瞬反応が遅れた。
「あ、ああ、その事か……。うん……、そう言って貰えると嬉しいよ」
(ちゃんと返事を貰えて嬉しいんだが、このシチュエーションだとちょっと素直に喜べない)
取り敢えず笑顔で言葉を返してから祐司が周りに目をやると、元カノである幸恵は、どういう反応をすれば良いのか困った顔で微妙に視線を外しており、君島に至っては目の前でのまさかの展開に、さすがに怒気を露わにした。
「おい、綾乃! こいつとの交際など俺は許さんぞ!」
「お父さんには関係無いから黙ってて。横でごちゃごちゃ言うつもりなら、高木さんにしていた嫌がらせの内容を、全部お母さんに教えて叱って貰うから。それでも良いの?」
「………………」
愛妻家の父親を容赦なく追い詰め、黙り込んだのを認めてから、綾乃は改めて祐司に向き直った。
「そういう事ですので、高木さん。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします」
「…………こちらこそ宜しく」
そのやり取りを耳にした面々は、(それはどちらかと言えば、交際云々の時より、嫁にいく時に口にする台詞じゃないのか?)と心の中で盛大に突っ込んだが、どこまでも真面目な表情を崩さない綾乃と、判断力はあったものの最後まで綾乃に合わせる事にした祐司、加えてやり場のない怒りで顔をどす黒くしている君島を見て、(下手に口を挟むのは止めておこう)と揃ってスルーしたのだった。
「なるほどね。後ろ暗い事をしていたおじさまは、それ以上綾乃ちゃんを怒らせたくなくて、その場で強い事を言えなくて、目の前の交際宣言を歯軋りして眺める羽目になったわけか。自業自得とはいえ、ちょっと気の毒ね。……それで? これまでの詳しい経過は分かったけど、それがどうしてこのWデートに繋がるわけ?」
喫茶店のテーブルに頬杖を付き、向かい側に座っている弘樹の話を一通り聞き終えた眞紀子は、面白くなさそうに問いを発した。それに弘樹が笑顔で答える。
「そりゃあ、今まで過保護な父親と兄貴に阻まれて男女交際経験皆無の綾乃ちゃんが、祐司と二人っきりで出掛けるのを、恥ずかしがってるからだろう?」
しれっとして言い返した弘樹だったが、眞紀子は眉間の皺を深くしながら怒鳴りつけた。
「私が言いたいのは、どうして私とあんたでペアなのかって言う、根本的な問題よ!」
「いやぁ、荒川と和臣さんに同行を頼んでも良かったんだけど、仕事上ならともかく、デートなんかで荒川と祐司が顔を合わせたら、色々気まずいし雰囲気ドツボだろ?」
そんな事を真顔で言われてしまった為、眞紀子は思わず納得して頷く。
「確かに元カレ元カノだし、洒落にならないわね。……あら? じゃあひょっとして和臣さんと幸恵さんって、今付き合ってるの?」
ふと眞紀子が感じた疑問を口にすると、それに弘樹が苦笑いで答えた。
「和臣さんが猛アプローチ中? この前は職場で、その事で荒川がキレそうになってた」
「気持ちは分かるわ……。あんたもいい加減諦めたら?」
心底共感する様に腕を組んで頷いてから、眞紀子はテーブルの向こうの弘樹を忌々しそうに睨み付けた。それにめげずに彼が笑って応じる。
「そんなつれないことを言わないで。今日は綾乃ちゃんの為に、我慢して一日付き合って欲しいんだけど」
そこで眞紀子は如何にも嫌そうに顔を顰めてから、不承不承頷いた。
「今日一日だけよ? それに示し合わせて、途中で別れるってのも無しですからね。高木さんは取り敢えず番犬としては認められているみたいだけど、君島のおじさまに、暫くの間はしっかり見張ってくれと頼まれているし」
「はいはい、承知しております」
眞紀子がしっかり釘を刺し、それに弘樹が苦笑した所で、近くの駅で待ち合わせをしたらしい綾乃と祐司が連れ立ってやって来たのが窓越しに見えた。それで弘樹は眞紀子を促して立ち上がり、会計を済ませて二人と合流した。
「眞紀子さん、お待たせしました」
「こんにちは、榊さん」
笑顔で挨拶してくる綾乃と祐司に、眞紀子は一人だけ仏頂面もできず笑顔で歩き出す。
「お久しぶり。じゃあ、行きましょうか。天気が良くて良かったわね」
「はい!」
そうして楽しげに眞紀子と並んで歩き出した綾乃の後ろ姿を見ながら、男二人は苦笑いの表情で囁き合った。
「あ~あ、『彼氏』ほっぽりだして、眞紀子さんと並んで歩いちゃ駄目だよなぁ」
「良いんじゃないか? 如何にも彼女らしくて」
「あれ? 随分余裕じゃないか」
「少なくても、毎回袖にされているお前よりはマシだろう」
「言ってろ」
そう言って苦笑した顔を見合わせた二人は、それぞれのパートナーを捕まえるべく、足を速めて彼女達に並んで声をかけたのだった。
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