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第4章 それぞれの結末
(3)表向きの事実と真実
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ジャービスの密輸密売摘発の騒動が、予想外に勃発してから三日後。ランディスは特に約束を取り付けないまま、財務大臣執務室に出向いた。
「失礼する」
一応断りを入れて入室した彼を見て、その部屋の主であるニルグァは、僅かに驚いた顔になりながら出迎えた。
「これはランディス殿下。どうかされましたか?」
「執務中に、約束もなく押しかけてすまないが、少し時間を取って貰えないだろうか? 無理なら可能な日時に再訪するので、教えて欲しい」
その真摯な顔での申し出を聞いたニルグァは、その場で即決した。
「いえ、ちょうど今、休憩を取ろうかと思っておりました。ジーク、殿下の椅子をお持ちしてくれ。その後は暫く休憩に入って貰って構わない」
「はい、分かりました。……殿下、どうぞこちらに」
「ありがとう」
素早く立ち上がった補佐官が、壁際から椅子をニルグァの机の正面に運んで、ランディスに勧める。それを済ませると彼は心得たように、ニルグァに向かって一礼した。
「それでは、少々席を外します」
良くできた部下は余計な事は言わずに部屋から出て行き、ランディスはひたすら恐縮した。
「人払いまでさせてしまって、申し訳ない」
「こちらに顔を出される回数が滅多に無い筈の殿下が、いきなり押しかけてくるとなったら火急、かつ個人的なお話でしょうからお気になさらず。それで? 今日はどのようなご用件でしょうか」
鷹揚に頷いたニルグァが促し、ランディスが慎重に話を切り出す。
「その……、マークス・ダリッシュの事だが……。話は聞いているか?」
それを聞いた途端、彼は不快そうに答えた。
「ああ……、彼の事ですか。勿論、表向きの話も、そうでない話も耳にしております。誠に、嘆かわしい事ですな」
「そうですね。それでは彼の絵を」
「誠に、気狂いのペーリエ侯爵に手の腱を切られて、絵筆が満足に持てなくなったとは悲劇ですな。今後は描けなくなったとあれば、彼の絵の価値は更に上がるでしょう。手放すつもりはございません。事が明らかになってから、彼の絵を保持している何人かと顔を合わせる機会がありましたが、彼らも同様の事を申しておりました」
「そうでしたか」
さり気なくマークスの作品の買い取りを申し出ようとしたランディスだったが、老獪な相手にあっさりと機先を制されて口を噤んだ。するとここでニルグァが、探るような目つきで問いを発してくる。
「実は私も前々から殿下に、個人的にお伺いしたい事があったのです」
「何でしょう? お答えできる事なら、この場でお答えしますが」
「例のダリッシュの個展の時、一緒に鑑賞していた女騎士がおりましたが、彼女は何者ですか?」
しかしその問いかけに、ランディスは困惑しながら答えた。
「何者と言われても……、近衛騎士団勤務の者だが。どうしてそのような事を? 質問の意図が分かりかねます」
不思議そうに問い返した彼に、ニルグァは淡々と続けた。
「あの後、参加した面々とあの時の話をする度に、必ずと言って良いほど『あのお嬢さんは一体何者だろう』と言う話になるもので。平民とお伺いしましたが、展示されていた絵の構成や用いた技法に詳しいと言うか、まるで描いた本人か、描いているところを直に見ていたような感想を口にしていましたから」
そう告げて自分の反応を待っているニルグァに、(やはり観察眼が鋭いな)と感心しつつも、ダリッシュの盗作の事実を今更明らかにして、騒動を蒸し返したり拡大させたくは無かったランディスは、しらを切ろうとした。
「単に彼女は絵が好きで、他人よりは些か造詣が深いだけ」
「殿下?」
「…………」
しかし弁解の台詞の途中で鋭く睨み付けられ、ランディスは口を噤んだ。そのまま少し沈黙が流れてから、ニルグァが独り言のように言い出す。
「前々から美術愛好家達の間で、疑問に思われていた事があるのです。『マークス・ダリッシュの絵は、初期の三年間の作品と、その後の作品が違いすぎる。作風然り、感じ取れる力量然り。まるで別人の作品のようだ』とね」
「…………」
しかし相変わらず口を閉ざしたままのランディスに、ニルグァは溜め息を吐いてから告げた。
「それでは、この質問にだけはお答えください。彼女は絵を描きますか?」
「いいや、彼女は絵を描かない」
「左様でございますか」
そこで話は終わりかと思いきや、ランディスが淡々とした口調で続けた。
「因みに、十何年か前に病で亡くなった彼女の義父は、大層腕の良い額装師だったそうだ」
「額装師……、ですか?」
「ああ」
「…………」
普通に考えれば、何の脈絡もない話をランディスが出したとしか思えなかったが、それを聞いて一瞬戸惑ったニルヴァは彼の真剣な表情を見て、おおよその真実を悟った。そして、先程のマークスの話の時とは比べ物にならない位の、沈痛な面持ちで感想を述べる。
「彼女の父親であれば、年の頃は私とそう違わない筈。まだまだこれからと言う時に亡くなるとは、誠に惜しい事でしたな」
「同感です」
その場に重苦しい空気が少しだけ流れてから、ニルグァが顔付きを改めて申し出た。
「殿下。ダリッシュの絵に関しては、心配要らないでしょう。初期の絵を購入した面々は、純粋にその絵の魅力に惹かれて購入を決めた筈。良からぬ噂が耳に入っても、それを所有する事を恥だと思う人間は一人もおりますまい」
「そう言って貰えると安心だが……」
「念の為、私が内々に皆の意向を確認しておきます。殿下自らが動くと、事が大きくなりますので。手放す意思がある者に関しては、私が責任を持って買い取っておきますので、ご心配無く」
「申し訳ない。宜しく頼む」
そこで深々と頭を下げた彼を見て、ニルグァは微笑みながら軽口を叩いた。
「殿下におかれましては、随分と例の女騎士に肩入れされておられる様子。気に入っているのはあの絵ですか? それとも彼女自身でしょうか?」
「両方です」
「これはまた……。そこまではっきりと仰られるとは」
思わず苦笑したニルグァだったが、次のランディスの台詞で忽ち困惑した表情になった。
「厚かましく、重ねて頼みがあるのだが。リディア、彼女の事をどう思う?」
「どうとは……。絵画に興味を持ち、それなりに造詣がある、なかなか好ましい人格の持ち主であるかと思いますが……。それがどうかしましたか?」
「彼女を、あなたの養女にして貰えないだろうか?」
いきなりのそんな申し出に、さすがのニルグァも驚きで目を見開く。
「はぁ? 今、何と仰いましたか?」
「彼女を、貴公の養女にして貰えないかと言った」
真顔でランディスが繰り返し、これが真面目な話だと瞬時に悟ったニルグァは、素早くその理由と必要性を推察した。
「確かに……、爵位が高過ぎず低過ぎず、余計な閨閥も無く、私は大臣などをやっていますから社交界に顔は利きますが、現当主は兄で私自身は分家を立てているので爵位の継承問題も発生しませんし、条件的にはうってつけですね。良いでしょう。本人が良ければ、養子縁組しましょう。妻子には、私から説明します」
予想外に簡単に了承して貰えた為、ニルグァよりランディスの方が目に見えて狼狽した。
「あ、いや……、そこまで即決していただかなくとも……。一応、ご家族に説明してからの方が良くはないか?」
「ご心配無く。私の家族は、理解ある者達ばかりでしてな。それよりも殿下の方が、大変なのではありませんか? これ以上私に関わっている時間があったら、あちこちを調整する事に時間を割いた方が宜しいかと。そろそろ補佐官も、休憩から戻って来る頃ですし」
ニルグァがそう言うやいなや、ドアが叩かれて神妙な声でお伺いを立てられた。
「ジークです、戻りました。入室しても宜しいでしょうか?」
それにニルグァが、機嫌良く応じる。
「ああ、話は済んだから入って来い。それでは殿下」
「あ、ああ。今日は急な事にも関わらず、時間を取って貰ってありがとう」
「いえ、お構いなく」
そしてあっさりランディスを追い出した上司に、補佐官は怪訝な目を向けた。
「大臣、殿下は何のご用でこちらにいらしたのですか?」
「うん? ああ、まあ、ちょっとな。私に娘ができて、その直後に嫁に出す事になりそうだ」
「はい?」
怪訝な顔になった補佐官だったが、彼の上司は楽しげにそう口にした後は黙して語らず、彼はすぐにその事を記憶の隅に追いやって、再び仕事に没頭した。
「失礼する」
一応断りを入れて入室した彼を見て、その部屋の主であるニルグァは、僅かに驚いた顔になりながら出迎えた。
「これはランディス殿下。どうかされましたか?」
「執務中に、約束もなく押しかけてすまないが、少し時間を取って貰えないだろうか? 無理なら可能な日時に再訪するので、教えて欲しい」
その真摯な顔での申し出を聞いたニルグァは、その場で即決した。
「いえ、ちょうど今、休憩を取ろうかと思っておりました。ジーク、殿下の椅子をお持ちしてくれ。その後は暫く休憩に入って貰って構わない」
「はい、分かりました。……殿下、どうぞこちらに」
「ありがとう」
素早く立ち上がった補佐官が、壁際から椅子をニルグァの机の正面に運んで、ランディスに勧める。それを済ませると彼は心得たように、ニルグァに向かって一礼した。
「それでは、少々席を外します」
良くできた部下は余計な事は言わずに部屋から出て行き、ランディスはひたすら恐縮した。
「人払いまでさせてしまって、申し訳ない」
「こちらに顔を出される回数が滅多に無い筈の殿下が、いきなり押しかけてくるとなったら火急、かつ個人的なお話でしょうからお気になさらず。それで? 今日はどのようなご用件でしょうか」
鷹揚に頷いたニルグァが促し、ランディスが慎重に話を切り出す。
「その……、マークス・ダリッシュの事だが……。話は聞いているか?」
それを聞いた途端、彼は不快そうに答えた。
「ああ……、彼の事ですか。勿論、表向きの話も、そうでない話も耳にしております。誠に、嘆かわしい事ですな」
「そうですね。それでは彼の絵を」
「誠に、気狂いのペーリエ侯爵に手の腱を切られて、絵筆が満足に持てなくなったとは悲劇ですな。今後は描けなくなったとあれば、彼の絵の価値は更に上がるでしょう。手放すつもりはございません。事が明らかになってから、彼の絵を保持している何人かと顔を合わせる機会がありましたが、彼らも同様の事を申しておりました」
「そうでしたか」
さり気なくマークスの作品の買い取りを申し出ようとしたランディスだったが、老獪な相手にあっさりと機先を制されて口を噤んだ。するとここでニルグァが、探るような目つきで問いを発してくる。
「実は私も前々から殿下に、個人的にお伺いしたい事があったのです」
「何でしょう? お答えできる事なら、この場でお答えしますが」
「例のダリッシュの個展の時、一緒に鑑賞していた女騎士がおりましたが、彼女は何者ですか?」
しかしその問いかけに、ランディスは困惑しながら答えた。
「何者と言われても……、近衛騎士団勤務の者だが。どうしてそのような事を? 質問の意図が分かりかねます」
不思議そうに問い返した彼に、ニルグァは淡々と続けた。
「あの後、参加した面々とあの時の話をする度に、必ずと言って良いほど『あのお嬢さんは一体何者だろう』と言う話になるもので。平民とお伺いしましたが、展示されていた絵の構成や用いた技法に詳しいと言うか、まるで描いた本人か、描いているところを直に見ていたような感想を口にしていましたから」
そう告げて自分の反応を待っているニルグァに、(やはり観察眼が鋭いな)と感心しつつも、ダリッシュの盗作の事実を今更明らかにして、騒動を蒸し返したり拡大させたくは無かったランディスは、しらを切ろうとした。
「単に彼女は絵が好きで、他人よりは些か造詣が深いだけ」
「殿下?」
「…………」
しかし弁解の台詞の途中で鋭く睨み付けられ、ランディスは口を噤んだ。そのまま少し沈黙が流れてから、ニルグァが独り言のように言い出す。
「前々から美術愛好家達の間で、疑問に思われていた事があるのです。『マークス・ダリッシュの絵は、初期の三年間の作品と、その後の作品が違いすぎる。作風然り、感じ取れる力量然り。まるで別人の作品のようだ』とね」
「…………」
しかし相変わらず口を閉ざしたままのランディスに、ニルグァは溜め息を吐いてから告げた。
「それでは、この質問にだけはお答えください。彼女は絵を描きますか?」
「いいや、彼女は絵を描かない」
「左様でございますか」
そこで話は終わりかと思いきや、ランディスが淡々とした口調で続けた。
「因みに、十何年か前に病で亡くなった彼女の義父は、大層腕の良い額装師だったそうだ」
「額装師……、ですか?」
「ああ」
「…………」
普通に考えれば、何の脈絡もない話をランディスが出したとしか思えなかったが、それを聞いて一瞬戸惑ったニルヴァは彼の真剣な表情を見て、おおよその真実を悟った。そして、先程のマークスの話の時とは比べ物にならない位の、沈痛な面持ちで感想を述べる。
「彼女の父親であれば、年の頃は私とそう違わない筈。まだまだこれからと言う時に亡くなるとは、誠に惜しい事でしたな」
「同感です」
その場に重苦しい空気が少しだけ流れてから、ニルグァが顔付きを改めて申し出た。
「殿下。ダリッシュの絵に関しては、心配要らないでしょう。初期の絵を購入した面々は、純粋にその絵の魅力に惹かれて購入を決めた筈。良からぬ噂が耳に入っても、それを所有する事を恥だと思う人間は一人もおりますまい」
「そう言って貰えると安心だが……」
「念の為、私が内々に皆の意向を確認しておきます。殿下自らが動くと、事が大きくなりますので。手放す意思がある者に関しては、私が責任を持って買い取っておきますので、ご心配無く」
「申し訳ない。宜しく頼む」
そこで深々と頭を下げた彼を見て、ニルグァは微笑みながら軽口を叩いた。
「殿下におかれましては、随分と例の女騎士に肩入れされておられる様子。気に入っているのはあの絵ですか? それとも彼女自身でしょうか?」
「両方です」
「これはまた……。そこまではっきりと仰られるとは」
思わず苦笑したニルグァだったが、次のランディスの台詞で忽ち困惑した表情になった。
「厚かましく、重ねて頼みがあるのだが。リディア、彼女の事をどう思う?」
「どうとは……。絵画に興味を持ち、それなりに造詣がある、なかなか好ましい人格の持ち主であるかと思いますが……。それがどうかしましたか?」
「彼女を、あなたの養女にして貰えないだろうか?」
いきなりのそんな申し出に、さすがのニルグァも驚きで目を見開く。
「はぁ? 今、何と仰いましたか?」
「彼女を、貴公の養女にして貰えないかと言った」
真顔でランディスが繰り返し、これが真面目な話だと瞬時に悟ったニルグァは、素早くその理由と必要性を推察した。
「確かに……、爵位が高過ぎず低過ぎず、余計な閨閥も無く、私は大臣などをやっていますから社交界に顔は利きますが、現当主は兄で私自身は分家を立てているので爵位の継承問題も発生しませんし、条件的にはうってつけですね。良いでしょう。本人が良ければ、養子縁組しましょう。妻子には、私から説明します」
予想外に簡単に了承して貰えた為、ニルグァよりランディスの方が目に見えて狼狽した。
「あ、いや……、そこまで即決していただかなくとも……。一応、ご家族に説明してからの方が良くはないか?」
「ご心配無く。私の家族は、理解ある者達ばかりでしてな。それよりも殿下の方が、大変なのではありませんか? これ以上私に関わっている時間があったら、あちこちを調整する事に時間を割いた方が宜しいかと。そろそろ補佐官も、休憩から戻って来る頃ですし」
ニルグァがそう言うやいなや、ドアが叩かれて神妙な声でお伺いを立てられた。
「ジークです、戻りました。入室しても宜しいでしょうか?」
それにニルグァが、機嫌良く応じる。
「ああ、話は済んだから入って来い。それでは殿下」
「あ、ああ。今日は急な事にも関わらず、時間を取って貰ってありがとう」
「いえ、お構いなく」
そしてあっさりランディスを追い出した上司に、補佐官は怪訝な目を向けた。
「大臣、殿下は何のご用でこちらにいらしたのですか?」
「うん? ああ、まあ、ちょっとな。私に娘ができて、その直後に嫁に出す事になりそうだ」
「はい?」
怪訝な顔になった補佐官だったが、彼の上司は楽しげにそう口にした後は黙して語らず、彼はすぐにその事を記憶の隅に追いやって、再び仕事に没頭した。
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