召喚体質、返上希望

篠原 皐月

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(48)予想外の流れ

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「しんやぁあぁぁぁぁっ!! あんた何やってんのよ!?」
 その剣幕に、天輝達は勿論、伸也も唖然としながら問い返した。

「え? レイナ、どうした?」
「どうもこうも! どうして身内が無理矢理召喚されてるって、私や他の人間に言わなかったのよっ!!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってないわよっ!! 代々異能がでる家系で、たまたま自分は異世界転移の能力が出たみたいだって言ってただけで!!」
「そうだったっけ? でもそれが何か問題あるのか?」
 まだ事情が分かっていない伸也は、小首を傾げながら問いを重ねた。天輝達が残念なものを見る視線を伸也に向ける中、レイナの怒りに震えた叱責が続く。

「あのね!? 私は今の今までこちらの三人が偶々異世界に出向いた時に、魔王の本拠地と噂されているここが気になって、異能持ちを見込まれて地元の人に懇願されて様子を見に来たと思っていたのよ! それなのに、あなたを退治する為に来たんじゃない!!」
「ちょっと待てよ! 俺、魔王なんかじゃないぜ!?」
「そんなのは分かってるわよ!! 言葉の綾に決まっているでしょう!? あんたが二、三十年前から発電機と蓄電器とカラオケセット持参で、向こうの世界での歌手希望の子たちにボイスレッスンを始めてから、ひょっとしたら外で異常を感じるかもと思ってはいたけど。でもここに送り込まれる人数が大して変わらないし、問題ないかと思っていたのに!!」
 叫ぶようにそこまで言ってから、レイナは三人の方に向き直り、深々と頭を下げた。

「天輝さん、海晴さん、悠真さん、本当に申し訳ありませんでした。私はこの辺境出身なもので、各国の中心部で魔王を倒すための巫女の召喚とかがされているなんて知らなくて。もし知っていたら、魔王がいるかもしれないと外部から疑われるような行為は、徹底して避けましたのに。きっとここでの異常が各国に伝わって、召喚が行われるようになったのですよね?」
 心底申し訳なさそうに、下手をすると泣き出してしまいそうな雰囲気のレイナの謝罪に、三人は何とも言えない表情になりながら応じる。

「それは……、不可抗力だと思いますよ?」
「そうですよ。そもそもその召喚の儀式って、こちらの世界で二、三百年おきくらいに、魔王の復活に合わせて可能になっているみたいですし」
「一般の人がお城や神殿の中での事を知らなくても、仕方ありませんよね。この場合落ち度を責められるべき人間は、明らかに他にいますから」
「ああ、ありえないから。なんなんだ、この状況」
「私と海晴は最近知ったのに、伸也は前々から事情を知ってたんだよね?」
 兄妹達から呆れと非難が入り混じった視線を向けられ、伸也はまだ理解しきれていない様子で問い返してきた。

「……え? 俺、責められてる? だって魔王は復活してないだろ? だから魔王云々は、こっちの為政者たちの作り話だろ?」
 それを聞いた兄妹達の、怒るのを通り越して脱力した脱力した台詞が続く。
 
「馬鹿だとは思っていたが、ここまでとはな……。お前、自分が魔王と思われているなんて、全く考えていなかったな?」
「こちらの世界で七十年くらい前から行き来しているし、自分が魔王じゃないのは分かっているから、そこら辺の意識は欠落していたのかもしれないけど……」
「あんたの行為で魔王の存在が疑われたから、各国の首脳陣に天輝が召喚されてたんだけど?」
「…………そうなるのか?」
「それ以外のなんだって言うのよ、このおバカ!!」
「ゲフっ!」
 疑わしげに伸也が首を傾げた途端、その頬にレイナの絶叫付きの平手打ちがヒットした。それに続いて、彼女の罵声が響く。

「本当に、人物鑑定眼といざという時の判断力は抜群だけど、金勘定はからきしだし、時々常識がすっぽ抜けるポンコツなんだから!! これから私が責任を持って、きっちり再教育してあげるわよっ!!」
「あ、あははっ、お、お手柔らかに」
 何やら二人の力関係を認識させられた上、引っかかりを覚える台詞を耳にした悠真は、思わずレイナに確認を入れた。

「あの……、レイナさん? 今の再教育云々の発言は、事務所のスタッフという立場での意味ですか?」
「実は私達、婚約していまして。近々伸也の実家に、ご挨拶に伺う予定でした。諸々が片付いたら、改めて出向くことにします」
 まだ幾分強張った表情で、レイナが説明を加えた。それを聞いた悠真は真顔になり、深く頭を下げる。

「そうでしたか……。これからあなたに色々とご苦労をおかけすると思いますが、愚弟をよろしくお願いします」
「こちらこそ、異世界出身で氏素性の知れない女ですが、よろしくお願いします」
「いえ、既に伸也の手綱をしっかり握っておられるようで、こちらとしても心強い限りです。両親にもこの状況を伝えたら、きっと喜びます」
「そう言っていただけると嬉しいです」
 頭を下げ合う悠真とレイナを眺めながら、天輝達は遠慮の無い感想を述べ合った。

「うん、レイナさんだったら、色々な意味で大丈夫だと思う」
「伸也の引き取り手ができて、凄く安心できたわね」
「当事者抜きで、勝手に話を進めるなよ……」
 殴られた頬をさすりながらの伸也の愚痴に、耳を傾ける者はこの場に一人も存在しなかった。




 予めこの岩窟宮殿からの撤収の心積もりと準備が進められていたことで、その後の展開は早かった。ここの住人達にレイナが矢継ぎ早に指示を出し、ものの30分で搬出する荷物をまとめ全員が一番広い部屋に集合する。

「突然の事で、なんと言ってよいやら……」
「安心してください。私達は強く生きていきます」
「伸也様ぁぁぁっ! お世話になりましたぁぁぁっ!!」
「神の国にお戻りになっても、私達の事は忘れないでくださいねぇぇぇっ!!」
「ああ、急にここを閉じることになって悪いな。皆、元気で過ごしてくれ」
 様々な事情を抱えたここの住人達が、涙ぐんで伸也との別れを惜しむ。そんな彼らを伸也は宥め、激励していた。そんなやり取りを少し離れた場所から聞いていた天輝は、隣に立っているレイナに尋ねる。

「レイナさん。『神の国』ってなんの事ですか?」
「向こうの世界の事です。色々難しいので、それでざっくり説明していました」
「そうですか……」
 確かにそれで片付けば面倒ではないかもと天輝は思ったが、海晴と悠真は不満そうに呟く。

「え? じゃあ伸也って、神様扱いなの?」
「もう一発殴っても良いよな?」
「もういいじゃない、これくらい」
 不穏すぎる台詞を口にする兄と妹を、天輝は半ばうんざりしながら宥めた。

「それでは三人は打ち合わせ通りに、崖の方に戻ってください。さすがにまだ、あなた達を送り届けた者達が、あなた達が乗り込んだ後の経過を見守っている筈ですので」
 レイナに促され、住人達が出立の準備をしている間に、これからの筋書きについて打ち合わせを済ませていた三人は、余裕の笑みで頷く。

「ああ、観客は十分だな。盛大に驚いて貰って、各国に吹聴して貰うさ」
「じゃあ行きましょうか」
「そうね。レイナさん、全員退避した後、ちゃんと伸也に合図させてね」
「お任せください」
 それから三人はレイナの先導で廊下を進み、先程外から入り込んだ部屋に到達した。そして外に向かって進み、切り取られたように空いている壁の穴からバルコニーに出る。

「お兄ちゃん、天輝、もう一度掴まって。行くわよ」
「ああ」
「うぅ~、やっぱり慣れない」
 意気揚々と海晴が両手を伸ばし、その手を悠真と天輝が握る。そして三人揃ってバルコニーの手すりに足をかけ、空中に向かって足を進めた。

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