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(49)魔王消滅
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そのままゆっくりと元来た経路を戻って行くと、出発地の崖の先端で群がっている者達が、戻ってくる天輝達の姿を認めて騒然としている様子が見て取れた。
「ああ、やっぱりさっきの崖の所で、連中が鈴なりになっているわねぇ」
「これは盛大に、聖女と神の使途の活躍を見せてやらないといけないな」
「できれば穏便に済ませたかったな……」
思わず愚痴を零した天輝だったが、海晴と悠真が平然と言葉を返す。
「何を言ってるのよ、天輝。誰一人、死人が出ないのよ? これ以上はないくらい穏便な終わり方じゃない」
「そうだな。後で伸也の顔が、少々歪むくらいだ」
「ボコボコにする気満々なのね……」
もう何も言うまいと天輝が決意しているうちに、三人は崖の先端に到達した。すると彼女達を多くの者達が取り囲み、口々に問いを発する。
「巫女様、使徒様!!」
「ご無事ですか!?」
「魔王はどうなりました!?」
「静かに!!」
興奮状態の群衆を、悠真は意識下に直接語りかけてその場を治めた。そして神妙に口を閉ざした者達に、もったいぶった口調で宣言する。
「安心しろ。取り敢えずの状況確認のつもりだったが、魔王が油断していたのでな。不意を衝いて襲撃してきた。あやつに聖なる力を注ぎこんできたので、もうすぐ跡形もなく消滅するだろう」
「本当でございますか!?」
「ああ。それで、あの岩窟宮殿自体がが魔王の力を帯びているので、再び魔王降臨の場にならないように、全面的に破壊しておこうと思う。その場合、こちら側に突風が吹いたり、瓦礫が飛来する可能性があるので、お前達に警告するために一度戻って来たのだ」
それを聞いた周囲は安堵と喜びの表情になり、口々に悠真に尋ねてくる。
「そうでございましたか」
「それではすぐに破壊を?」
「それほど危険なのですか?」
「私達で衝撃は打ち消すつもりだが、念のためだ。全員、崖から少し離れておくように」
「分かりました!」
「おい、全員退避!」
「順番に後退しろ!」
悠真の指示で人々が後方に指示を伝え、崖の上で密集していた者達が押し合いへし合いしながらもその場から徐々に離れ始めたタイミングで、恐ろしげな声が響き渡った。
「ぐわぁぁぁっ!! こしゃくなぁぁぁっ、小生意気な聖女と使徒がぁぁぁっ!!」
「ひっ、ひいぃぃっ!!」
「恐ろしい声が!」
「魔王だ!! まだ生きているぞ!!」
「助けてくれぇぇっ!!」
岩窟宮殿から全員が退去を済ませてから、伸也は宮殿から繋がる通路を移動し、崖の至近距離にある出入り口までやって来た。そこは大きく回り込んでいる為、崖側からは死角になっているのだが、そこから伸也は持参した拡声器最大の音量で、憤怒の叫びを放ったのだった。
そんな事とは知る由もない現地の者達は、突然響き渡った大声に度肝を抜かれ、慌てふためき腰を抜かす。そんな者達を、悠真が一蹴した。
「狼狽えるな!! 所詮、断末魔の叫びにすぎん!!」
「我は死なん!! 我は滅びんぞぉぉぉっ!!」
姿を隠したままの、芝居っ気たっぷりの恨みがましい伸也の声に、天輝は(やっぱり芸能事務所を立ち上げるだけあって、ノリが良いよね)と半ば呆れていた。しかし取り敢えず打ち合わせ通りに進めようと、悠真と海晴と一直線に並び、誰もいない空中に向かって偉そうに言い放つ。
「魔王だけあって、さすがにしぶといな。だが魔王にしては、陳腐すぎる台詞だぞ!!」
「何度この世に復活しようとも、私達がいる限り、悪しき存在は滅せられるのみ!!」
「存在を認められない悪しきものは、この私が浄化します! 滅せよ魔王、覚悟!!」
二人に続いて天輝が大声で宣言しつつ、まっすぐ上に伸ばした右手を正面に向かって勢いよく振り下ろす。それと同時に、伸也の声で凄まじい悲鳴が上がった。
「ぎゃあぁぁぁぁ――――っ!!」
(本当に、何よこの三文芝居! 恥ずかしすぎるんだけど!? どうして皆平気で、ノリノリできるのよ!?)
天輝の動作に合わせて悠真が居並ぶ人々全員に、自分達が神々しく輝くイメージを見せる手筈になっていた。それは打ち合わせ通り行われたらしく、背後の群衆が口々に歓喜の叫びを上げる。
「うわぁあぁぁあっ、聖女様が浄化の光を放たれたぞ!!」
「なんて神々しい光だ!」
「見ろ! 魔王の城が!」
「聖女様達のお力で跡形もなく!」
「魔王の声も消えた! 今度こそ、魔王が消滅したぞ!!」
「やった! これで平和な世の中になる!」
「聖女様、使徒様、万歳!!」
悠真が自分達を光り輝かせる幻影を見せると同時に、海晴が岩窟宮殿を上部から徹底的に破壊し、徐々に下部まで破壊していく。完全に崩しきるまで少々時間を要したものの、大量の砂埃を発生させながら、元宮殿の瓦礫は峡谷の底をかなりの割合で埋め尽くした。
漸く静けさを取り戻した崖の上で、悠真が厳かに魔王の脅威の収束を宣言する。
「お前達、今の魔王消滅の一部始終を目撃したな。それではそれぞれの国に戻って、魔王の消滅と平和の到来を声高に唱えるがよい」
「畏まりました!」
「聖女様と使徒様の神々しさと勇猛果敢ぶりを、必ずや民に伝えます!」
満面の笑みで頷く群衆に機嫌よく笑いかけてから、悠真は唐突に告げた。
「それでは、我々の役目は終わった。本来在るべき場所へ戻らせて貰う。さらばだ!」
「二人とも、向こうに戻るよ」
慌てた周囲が引き留める間もなく、海晴が二人に小声で囁いて手を握る。そして瞬時に転移し、三人揃って自宅リビングのレジャーシートの上に戻った。
その直後、至近距離から、いかにも安堵したような声がかけられる。
「三人とも、無事だったか」
「お帰りなさい。思ったより早かったわね。三十分も経っていないけど、どうだった?」
三人が出発してから、賢人と和枝はそのままリビングで待機していた。一見無事に帰還した子供達に安心した二人だったが、天輝達は微妙な笑みで応じる。
「それが……。一応、きっちり片はつけてきた」
「そうね。魔王は消滅させられた事になったし、当面召喚されることは無いと思う」
「予想外の、怒涛の展開だったけどね」
「一体、向こうで何があった?」
微妙な空気を醸し出している三人を見て、賢人が訝しげな顔になりながら詳細を尋ねた。すると唐突にリビングのドアが開き、伸也が姿を現す。
「ええと……父さん、母さん。ただいま」
「伸也? 急にどうかしたのか?」
「今日帰って来ると、言っていなかったわよね?」
家の鍵を持っている次男が、インターフォンを鳴らさずに入って来れるのは分かっていたが、予定にない帰宅に賢人と和枝が怪訝な顔で尋ねた。それに伸也が、うんざりしたような表情で応じる。
「兄さんから呼び出しを喰らった。事が片付いたら、すぐに顔を出せって」
「悠真、一体何の事?」
「とにかく、座れ。父さん、母さん。今から家族会議だ。向こうで起こった事と判明した事を、洗いざらい報告する」
「…………」
有無を言わさない悠真の気迫に押され、伸也は勿論、他の四人も無言でソファーに座り、緊急家族会が開催される運びとなった。
「ああ、やっぱりさっきの崖の所で、連中が鈴なりになっているわねぇ」
「これは盛大に、聖女と神の使途の活躍を見せてやらないといけないな」
「できれば穏便に済ませたかったな……」
思わず愚痴を零した天輝だったが、海晴と悠真が平然と言葉を返す。
「何を言ってるのよ、天輝。誰一人、死人が出ないのよ? これ以上はないくらい穏便な終わり方じゃない」
「そうだな。後で伸也の顔が、少々歪むくらいだ」
「ボコボコにする気満々なのね……」
もう何も言うまいと天輝が決意しているうちに、三人は崖の先端に到達した。すると彼女達を多くの者達が取り囲み、口々に問いを発する。
「巫女様、使徒様!!」
「ご無事ですか!?」
「魔王はどうなりました!?」
「静かに!!」
興奮状態の群衆を、悠真は意識下に直接語りかけてその場を治めた。そして神妙に口を閉ざした者達に、もったいぶった口調で宣言する。
「安心しろ。取り敢えずの状況確認のつもりだったが、魔王が油断していたのでな。不意を衝いて襲撃してきた。あやつに聖なる力を注ぎこんできたので、もうすぐ跡形もなく消滅するだろう」
「本当でございますか!?」
「ああ。それで、あの岩窟宮殿自体がが魔王の力を帯びているので、再び魔王降臨の場にならないように、全面的に破壊しておこうと思う。その場合、こちら側に突風が吹いたり、瓦礫が飛来する可能性があるので、お前達に警告するために一度戻って来たのだ」
それを聞いた周囲は安堵と喜びの表情になり、口々に悠真に尋ねてくる。
「そうでございましたか」
「それではすぐに破壊を?」
「それほど危険なのですか?」
「私達で衝撃は打ち消すつもりだが、念のためだ。全員、崖から少し離れておくように」
「分かりました!」
「おい、全員退避!」
「順番に後退しろ!」
悠真の指示で人々が後方に指示を伝え、崖の上で密集していた者達が押し合いへし合いしながらもその場から徐々に離れ始めたタイミングで、恐ろしげな声が響き渡った。
「ぐわぁぁぁっ!! こしゃくなぁぁぁっ、小生意気な聖女と使徒がぁぁぁっ!!」
「ひっ、ひいぃぃっ!!」
「恐ろしい声が!」
「魔王だ!! まだ生きているぞ!!」
「助けてくれぇぇっ!!」
岩窟宮殿から全員が退去を済ませてから、伸也は宮殿から繋がる通路を移動し、崖の至近距離にある出入り口までやって来た。そこは大きく回り込んでいる為、崖側からは死角になっているのだが、そこから伸也は持参した拡声器最大の音量で、憤怒の叫びを放ったのだった。
そんな事とは知る由もない現地の者達は、突然響き渡った大声に度肝を抜かれ、慌てふためき腰を抜かす。そんな者達を、悠真が一蹴した。
「狼狽えるな!! 所詮、断末魔の叫びにすぎん!!」
「我は死なん!! 我は滅びんぞぉぉぉっ!!」
姿を隠したままの、芝居っ気たっぷりの恨みがましい伸也の声に、天輝は(やっぱり芸能事務所を立ち上げるだけあって、ノリが良いよね)と半ば呆れていた。しかし取り敢えず打ち合わせ通りに進めようと、悠真と海晴と一直線に並び、誰もいない空中に向かって偉そうに言い放つ。
「魔王だけあって、さすがにしぶといな。だが魔王にしては、陳腐すぎる台詞だぞ!!」
「何度この世に復活しようとも、私達がいる限り、悪しき存在は滅せられるのみ!!」
「存在を認められない悪しきものは、この私が浄化します! 滅せよ魔王、覚悟!!」
二人に続いて天輝が大声で宣言しつつ、まっすぐ上に伸ばした右手を正面に向かって勢いよく振り下ろす。それと同時に、伸也の声で凄まじい悲鳴が上がった。
「ぎゃあぁぁぁぁ――――っ!!」
(本当に、何よこの三文芝居! 恥ずかしすぎるんだけど!? どうして皆平気で、ノリノリできるのよ!?)
天輝の動作に合わせて悠真が居並ぶ人々全員に、自分達が神々しく輝くイメージを見せる手筈になっていた。それは打ち合わせ通り行われたらしく、背後の群衆が口々に歓喜の叫びを上げる。
「うわぁあぁぁあっ、聖女様が浄化の光を放たれたぞ!!」
「なんて神々しい光だ!」
「見ろ! 魔王の城が!」
「聖女様達のお力で跡形もなく!」
「魔王の声も消えた! 今度こそ、魔王が消滅したぞ!!」
「やった! これで平和な世の中になる!」
「聖女様、使徒様、万歳!!」
悠真が自分達を光り輝かせる幻影を見せると同時に、海晴が岩窟宮殿を上部から徹底的に破壊し、徐々に下部まで破壊していく。完全に崩しきるまで少々時間を要したものの、大量の砂埃を発生させながら、元宮殿の瓦礫は峡谷の底をかなりの割合で埋め尽くした。
漸く静けさを取り戻した崖の上で、悠真が厳かに魔王の脅威の収束を宣言する。
「お前達、今の魔王消滅の一部始終を目撃したな。それではそれぞれの国に戻って、魔王の消滅と平和の到来を声高に唱えるがよい」
「畏まりました!」
「聖女様と使徒様の神々しさと勇猛果敢ぶりを、必ずや民に伝えます!」
満面の笑みで頷く群衆に機嫌よく笑いかけてから、悠真は唐突に告げた。
「それでは、我々の役目は終わった。本来在るべき場所へ戻らせて貰う。さらばだ!」
「二人とも、向こうに戻るよ」
慌てた周囲が引き留める間もなく、海晴が二人に小声で囁いて手を握る。そして瞬時に転移し、三人揃って自宅リビングのレジャーシートの上に戻った。
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