4 / 85
第3話 降って湧いた推論
しおりを挟む
清香と別れた聡は、重い足取りで一階へと降りた。そしてマンションの出入り口に横付けされていた、小笠原家が専属契約しているハイヤーの窓を小さく叩く。それに応じて開けられたドアから助手席に乗り込み、後部座席の両親に声をかけた。
「お待たせ」
「じゃあ帰るか。出して下さい」
落ち着き払った声音で勝が促すと、車は静かに走り出したが、帰宅するまで待てないといった素振りで、由紀子が息子に声をかけた。
「それで? 清人と色々話はできた?」
その問いかけに、体を捻って後部座席に顔を向けた聡だったが、期待に目を輝かせる由紀子から、微妙に視線を逸らした。
「うん……、まあ、色々と突っ込んだ話もできたとは思うけど……」
「そうなの? 良かった。じゃあどんな女性なら、清人が気に入りそうかしら? 早速心当たりに、声をかけてみないと」
うきうきと、どこまでも先走りそうな母親の気配に、聡は胃痛を覚えた。
「それは、結構微妙な話になるから、家に帰ってからじっくりと。それにまず色々、父さんの意見を聞きたい所があって……」
それを聞いた二人は、思わず怪訝な顔になった。
「勝さんに?」
「俺にか?」
「はい」
真顔で頷く息子に、勝と由紀子は黙って顔を見合わせる。しかし少しして勝が重々しく一つ頷いてみせて、夫婦間での話はついた。
「分かったわ。じゃあ後から、私が聞いても良い範囲で教えてね?」
「ああ、ちゃんと説明するから」
「じゃあ着いたら早速、今回のお前の首尾を聞かせて貰おうか」
「……はい」
両親にそう宣言した手前、中途半端な事は言えないと腹を括った聡は、自宅に到着するまで清人との話を、どう伝えるかに頭を悩ませた。
そして帰宅後、大人しく由紀子が出て行った応接間で、父と息子は向かい合って座った。
「それで? 改まって何だ。由紀子には、聞かせられん話なのか?」
「俺はつくづくあの人と、本当に血が繋がっているのかどうか、疑いたくなってきました」
問いかけた父に、聡が項垂れながら訴える。それを見た勝は眉を顰めながらも、幾分強い口調で息子を促した。
「穏やかではないな。とにかく洗いざらい吐いてみろ、話が始まらん」
そうして聡が、清人との話の一部始終を父に語ったが、話の途中で勝は微妙に顔を顰め、話が終わる頃にはソファーの肘置きに肘を付いて、頭を抱えていた。
「間違っても、そんな物を由紀子に見せたり、内容を教える訳にはいかんな。『こんな風に育ったのは、私が小さい清人を捨てた事で性格が歪んだせいだ』と自分を責めかねん」
「清香さんにもですよ。一番の兄さん信奉者ですからね。兄さんの真実の姿を知ったら、ショックで倒れかねません」
呻き声を上げる勝に、聡が溜息混じりに応じる。しかしそう嘆いてばかりもいられないと、男二人は早々と意識を切り替えた。
「とにかく、その特別だと断言した三人以外は、内面外面共にどうでも良い訳だから、その三人に感じが似ている女性から当たってみるのが妥当だと思うが」
「俺も同感です。しっかり顔が分かっている清香さんの感じか、お母さんの香澄さんの写真を今度見せて貰って、似たタイプの女性を探そうかと。だけど清香さんに似たタイプって、俺は会った記憶が無いな」
ブツブツと呟きながら自分の考えに嵌り込んだ聡だったが、同じ様に顎に手をやって考え込んでいた勝が、ふと息子に声をかけた。
「……ちょっと待て、聡」
「どうかしたんですか?」
「二人目の話だが、それ以降は会っていないと言うのは、本当か?」
真顔でそんな事を尋ねられた聡は、(父さんは何を言っているんだ?)と、思わず首を傾げた。
「それは確認しようもないけど、兄さんがそう言うんだから、そうなんじゃないかな?」
しかし勝は、その答えに満足しなかったらしく、重ねて問いかけた。
「何か引っかからないか?」
「何かって、何が?」
「二人目の女性との出会いに関して、清人君は喧嘩に巻き込まれた所を助けて貰った、と言ったんだろう?」
「そう言ってましたね。あの腕の立ちそうな兄さんが怪我をさせられるなんて、意外だと思いながら聞きましたが。相手が複数だったそうなので」
慎重に清人との会話を思い返しながら伝えた聡だったが、勝は如何にも疑わし気に指摘してくる。
「普通、大の男が乱闘している所に、女性が一人で割り込んで止めに入るか?」
その言葉に聡は思わず軽く目を見開き、他の可能性に言及した。
「普通はしないか……。じゃあ、子供の頃の話かな? 同級生に庇って貰ったとか」
「それならわざわざ“女性”と言わずに、“女の子”と言わないか?」
「え? ああ……、まあそうですね。それなら子供の喧嘩を、見ず知らずの女性が、止めたって話になるのかな?」
清人の話の矛盾点に微妙に混乱しながらも、聡は有り得そうな可能性を口にしたが、勝は真面目くさって話を続けた。
「それも可能性としては有るとは思うが……、俺は話の順番が気になるんだ」
「順番?」
父親が何を言いたいのか、まだ良く掴めないまま聡が応じると、勝は順序立てて話し始めた。
「一人目は、義理の母親である香澄さんとの出会いに纏わる話で、三人目は言わずと知れた、清香さんの事だろう? つまり話の流れ的に考えると、二人目の女性との出会いは、香澄さんと出会って、清香さんが産まれるまでの間の出来事と言えないか?」
「ああ、なるほど。そうなると、兄さんが十歳から十一歳にかけての、二年弱の間の事か」
そこで目から鱗が落ちた様な表情で頷いた息子に、勝が注意深く問いかける。
「その間に、清人君が怪我をさせられた話を、お前は聞いているだろう? お前の口から、私達も聞いたからな」
その台詞に、聡は当惑した顔になった。
「は? ……えっと、佐竹さんが兄さんを同伴して、柏木家に挨拶に出向いて、袋叩きにされたって言う、あの話ですか?」
「ああ」
「それがどうかしたんですか?」
きょとんとして問い返す息子に、勝が更に突っ込んだ疑問を投げかける。
「だから、その時に、二人目の女性に助けて貰ったんじゃないのか?」
「その時って……、じゃあ柏木家のお手伝いさんとかですか?」
未だ怪訝な顔で、見当違いな疑問を呈してくる息子に、流石に勝はその顔に苛立たしげな表情を浮かべた。
「お前……、本当に分からんのか? それとも現実を直視したくなくて、無意識に考えない様にしてるのか?」
父親から呻くように念を押された聡は、流石にこれ以上怒らせたらまずいと焦って色々な可能性を考え始めたが、とある考えが頭の中に浮かんだ所で、ビシッッと全身を固まらせた。
そして黙り込む事数秒。恐る恐る声を絞り出し、父親に(お願いだから否定してくれ!)と言外に訴える。
「あの……、え? まさか……、いや、そんな筈は……。だって確か兄さんは、助けてくれた“女性”って……。それに真澄さんだって、当時は子供でしょう? それにそれ以後、会っていないとも……」
それに対する勝の反応は、容赦無かった。
「正直に“柏木家の女の子”と口にしたら、該当するのが彼女だけであっさりばれるから、わざと虚実織り交ぜて、お前に話したとは考えられんか?」
「そう言えば……、確かにその話をした時、兄さんが微妙に口ごもっていた様な気もしてきましたが……」
話した時の清人の素振りを思い返し、その可能性を段々否定できなくなったきた聡が本気で項垂れたが、ここで勝が心底不思議そうに言葉を漏らした。
「まあ、その彼女に対して、この間全然アプローチしている形跡が見えないのは、彼らしくはないが……」
「そうですよ! 真澄さんが気になってる相手なら、どうしてあの即断即決の兄さんが、出会ってから二十年以上経過した今の今まで手をこまねいているんですか? やっぱり、違う女性の事なんじゃないですか!?」
そこに一縷の望みを見出した聡は勢い良く顔を上げ、喜色を露わに父親に同意を求めたが、勝は息子から微妙に視線を逸らしながら、思慮深そうに呟いた。
「理由か? 理由は……、うん、何となく分かる気がするな……」
「一体何ですか?」
「お前には全く分からんか?」
興味深げに問いかけた聡を、勝は真顔で真正面から見据えた。そして互いに視線を逸らさないまま一・二分経過してから、聡が視線を床に落として重い溜息を吐き出す。
「何となく、分かった様な気がしますが、これはあまり兄さんの責任では無いですよね?」
「俺もそう思う。だが本人が割り切れていないんだから、他人がどうこう言っても仕方がないだろう」
「……そうですね」
素直に事の複雑さを認めた息子に、勝は重々しく言葉を継いだ。
「これは精神的な問題だろうから、かなり根深いぞ? 女性をとっかえひっかえしている理由も、突き詰めれば最終的にそこに行き着くと思うしな」
「どうしたら良いと思いますか?」
本気で解決策の糸口を求める口調の聡に、勝が慎重に提案してみる。
「本人に直接当たっても、一笑に付されるだけだろうから、取り敢えず二人を良く知る人物に、これまでそれらしい事実があったかどうか、確認してみたらどうだ? それで恋愛感情が存在しているのが確認できたら、改めて周囲に協力要請するとか」
「……そんな所ですね。分かりました、やってみます」
そんな決意も新たに言い切った息子に、勝は微笑みながらエールを送った。
「頑張れよ? お前の兄さんの為だからな」
「随分兄さんに肩入れするんですね。父さんは兄さんを苦手にしていると思っていましたが」
意外そうに言われた言葉に、勝が苦笑いで返す。
「苦手だぞ? 正直面と向かって、どんな話をしたら良いか分からんし。顔を合わせたのも二回だけ、しかもろくな出会い方をしていないからな」
「確かにそうですね」
「だが……、今の話を聞いて、ちょっと親近感が湧いたかな?」
「はあ、そんなものですか」
分かる様な分からない様な父親の心理は置いておく事にして、聡はソファーから立ち上がりつつ勝に頼み込んだ。
「取り敢えず、清香さんにはあのファイルの存在は伏せて、兄さんとの話の内容を、簡潔に説明する事にします。母さんには父さんから、適当に説明して貰って良いですか?」
「ああ、適当に誤魔化しておこう。……しかし、もし清人君が真澄さんと結婚したら、真澄さんがお前の義理の姉になるわけだな?」
どこか楽しそうな口調で、余計な事を付け加えて来た父親に、聡は思わずその場に蹲りたくなってしまった。
「父さん、勘弁して下さい……。これまで頭の中で必死に、その現実を考えない様にしていたのに……」
「いや、あの二人が無事結婚した暁には、夫婦揃ってお前をいびり倒しそうだと思ってな?」
座ったままニヤリと見上げて来た父親に、聡はがくりと肩を落とす。
「……俺を苛めて楽しいんですか?」
あまりにも情けなさ過ぎるその息子の表情と声音に、とうとう勝は腹を抱えて爆笑してしまった。
「お待たせ」
「じゃあ帰るか。出して下さい」
落ち着き払った声音で勝が促すと、車は静かに走り出したが、帰宅するまで待てないといった素振りで、由紀子が息子に声をかけた。
「それで? 清人と色々話はできた?」
その問いかけに、体を捻って後部座席に顔を向けた聡だったが、期待に目を輝かせる由紀子から、微妙に視線を逸らした。
「うん……、まあ、色々と突っ込んだ話もできたとは思うけど……」
「そうなの? 良かった。じゃあどんな女性なら、清人が気に入りそうかしら? 早速心当たりに、声をかけてみないと」
うきうきと、どこまでも先走りそうな母親の気配に、聡は胃痛を覚えた。
「それは、結構微妙な話になるから、家に帰ってからじっくりと。それにまず色々、父さんの意見を聞きたい所があって……」
それを聞いた二人は、思わず怪訝な顔になった。
「勝さんに?」
「俺にか?」
「はい」
真顔で頷く息子に、勝と由紀子は黙って顔を見合わせる。しかし少しして勝が重々しく一つ頷いてみせて、夫婦間での話はついた。
「分かったわ。じゃあ後から、私が聞いても良い範囲で教えてね?」
「ああ、ちゃんと説明するから」
「じゃあ着いたら早速、今回のお前の首尾を聞かせて貰おうか」
「……はい」
両親にそう宣言した手前、中途半端な事は言えないと腹を括った聡は、自宅に到着するまで清人との話を、どう伝えるかに頭を悩ませた。
そして帰宅後、大人しく由紀子が出て行った応接間で、父と息子は向かい合って座った。
「それで? 改まって何だ。由紀子には、聞かせられん話なのか?」
「俺はつくづくあの人と、本当に血が繋がっているのかどうか、疑いたくなってきました」
問いかけた父に、聡が項垂れながら訴える。それを見た勝は眉を顰めながらも、幾分強い口調で息子を促した。
「穏やかではないな。とにかく洗いざらい吐いてみろ、話が始まらん」
そうして聡が、清人との話の一部始終を父に語ったが、話の途中で勝は微妙に顔を顰め、話が終わる頃にはソファーの肘置きに肘を付いて、頭を抱えていた。
「間違っても、そんな物を由紀子に見せたり、内容を教える訳にはいかんな。『こんな風に育ったのは、私が小さい清人を捨てた事で性格が歪んだせいだ』と自分を責めかねん」
「清香さんにもですよ。一番の兄さん信奉者ですからね。兄さんの真実の姿を知ったら、ショックで倒れかねません」
呻き声を上げる勝に、聡が溜息混じりに応じる。しかしそう嘆いてばかりもいられないと、男二人は早々と意識を切り替えた。
「とにかく、その特別だと断言した三人以外は、内面外面共にどうでも良い訳だから、その三人に感じが似ている女性から当たってみるのが妥当だと思うが」
「俺も同感です。しっかり顔が分かっている清香さんの感じか、お母さんの香澄さんの写真を今度見せて貰って、似たタイプの女性を探そうかと。だけど清香さんに似たタイプって、俺は会った記憶が無いな」
ブツブツと呟きながら自分の考えに嵌り込んだ聡だったが、同じ様に顎に手をやって考え込んでいた勝が、ふと息子に声をかけた。
「……ちょっと待て、聡」
「どうかしたんですか?」
「二人目の話だが、それ以降は会っていないと言うのは、本当か?」
真顔でそんな事を尋ねられた聡は、(父さんは何を言っているんだ?)と、思わず首を傾げた。
「それは確認しようもないけど、兄さんがそう言うんだから、そうなんじゃないかな?」
しかし勝は、その答えに満足しなかったらしく、重ねて問いかけた。
「何か引っかからないか?」
「何かって、何が?」
「二人目の女性との出会いに関して、清人君は喧嘩に巻き込まれた所を助けて貰った、と言ったんだろう?」
「そう言ってましたね。あの腕の立ちそうな兄さんが怪我をさせられるなんて、意外だと思いながら聞きましたが。相手が複数だったそうなので」
慎重に清人との会話を思い返しながら伝えた聡だったが、勝は如何にも疑わし気に指摘してくる。
「普通、大の男が乱闘している所に、女性が一人で割り込んで止めに入るか?」
その言葉に聡は思わず軽く目を見開き、他の可能性に言及した。
「普通はしないか……。じゃあ、子供の頃の話かな? 同級生に庇って貰ったとか」
「それならわざわざ“女性”と言わずに、“女の子”と言わないか?」
「え? ああ……、まあそうですね。それなら子供の喧嘩を、見ず知らずの女性が、止めたって話になるのかな?」
清人の話の矛盾点に微妙に混乱しながらも、聡は有り得そうな可能性を口にしたが、勝は真面目くさって話を続けた。
「それも可能性としては有るとは思うが……、俺は話の順番が気になるんだ」
「順番?」
父親が何を言いたいのか、まだ良く掴めないまま聡が応じると、勝は順序立てて話し始めた。
「一人目は、義理の母親である香澄さんとの出会いに纏わる話で、三人目は言わずと知れた、清香さんの事だろう? つまり話の流れ的に考えると、二人目の女性との出会いは、香澄さんと出会って、清香さんが産まれるまでの間の出来事と言えないか?」
「ああ、なるほど。そうなると、兄さんが十歳から十一歳にかけての、二年弱の間の事か」
そこで目から鱗が落ちた様な表情で頷いた息子に、勝が注意深く問いかける。
「その間に、清人君が怪我をさせられた話を、お前は聞いているだろう? お前の口から、私達も聞いたからな」
その台詞に、聡は当惑した顔になった。
「は? ……えっと、佐竹さんが兄さんを同伴して、柏木家に挨拶に出向いて、袋叩きにされたって言う、あの話ですか?」
「ああ」
「それがどうかしたんですか?」
きょとんとして問い返す息子に、勝が更に突っ込んだ疑問を投げかける。
「だから、その時に、二人目の女性に助けて貰ったんじゃないのか?」
「その時って……、じゃあ柏木家のお手伝いさんとかですか?」
未だ怪訝な顔で、見当違いな疑問を呈してくる息子に、流石に勝はその顔に苛立たしげな表情を浮かべた。
「お前……、本当に分からんのか? それとも現実を直視したくなくて、無意識に考えない様にしてるのか?」
父親から呻くように念を押された聡は、流石にこれ以上怒らせたらまずいと焦って色々な可能性を考え始めたが、とある考えが頭の中に浮かんだ所で、ビシッッと全身を固まらせた。
そして黙り込む事数秒。恐る恐る声を絞り出し、父親に(お願いだから否定してくれ!)と言外に訴える。
「あの……、え? まさか……、いや、そんな筈は……。だって確か兄さんは、助けてくれた“女性”って……。それに真澄さんだって、当時は子供でしょう? それにそれ以後、会っていないとも……」
それに対する勝の反応は、容赦無かった。
「正直に“柏木家の女の子”と口にしたら、該当するのが彼女だけであっさりばれるから、わざと虚実織り交ぜて、お前に話したとは考えられんか?」
「そう言えば……、確かにその話をした時、兄さんが微妙に口ごもっていた様な気もしてきましたが……」
話した時の清人の素振りを思い返し、その可能性を段々否定できなくなったきた聡が本気で項垂れたが、ここで勝が心底不思議そうに言葉を漏らした。
「まあ、その彼女に対して、この間全然アプローチしている形跡が見えないのは、彼らしくはないが……」
「そうですよ! 真澄さんが気になってる相手なら、どうしてあの即断即決の兄さんが、出会ってから二十年以上経過した今の今まで手をこまねいているんですか? やっぱり、違う女性の事なんじゃないですか!?」
そこに一縷の望みを見出した聡は勢い良く顔を上げ、喜色を露わに父親に同意を求めたが、勝は息子から微妙に視線を逸らしながら、思慮深そうに呟いた。
「理由か? 理由は……、うん、何となく分かる気がするな……」
「一体何ですか?」
「お前には全く分からんか?」
興味深げに問いかけた聡を、勝は真顔で真正面から見据えた。そして互いに視線を逸らさないまま一・二分経過してから、聡が視線を床に落として重い溜息を吐き出す。
「何となく、分かった様な気がしますが、これはあまり兄さんの責任では無いですよね?」
「俺もそう思う。だが本人が割り切れていないんだから、他人がどうこう言っても仕方がないだろう」
「……そうですね」
素直に事の複雑さを認めた息子に、勝は重々しく言葉を継いだ。
「これは精神的な問題だろうから、かなり根深いぞ? 女性をとっかえひっかえしている理由も、突き詰めれば最終的にそこに行き着くと思うしな」
「どうしたら良いと思いますか?」
本気で解決策の糸口を求める口調の聡に、勝が慎重に提案してみる。
「本人に直接当たっても、一笑に付されるだけだろうから、取り敢えず二人を良く知る人物に、これまでそれらしい事実があったかどうか、確認してみたらどうだ? それで恋愛感情が存在しているのが確認できたら、改めて周囲に協力要請するとか」
「……そんな所ですね。分かりました、やってみます」
そんな決意も新たに言い切った息子に、勝は微笑みながらエールを送った。
「頑張れよ? お前の兄さんの為だからな」
「随分兄さんに肩入れするんですね。父さんは兄さんを苦手にしていると思っていましたが」
意外そうに言われた言葉に、勝が苦笑いで返す。
「苦手だぞ? 正直面と向かって、どんな話をしたら良いか分からんし。顔を合わせたのも二回だけ、しかもろくな出会い方をしていないからな」
「確かにそうですね」
「だが……、今の話を聞いて、ちょっと親近感が湧いたかな?」
「はあ、そんなものですか」
分かる様な分からない様な父親の心理は置いておく事にして、聡はソファーから立ち上がりつつ勝に頼み込んだ。
「取り敢えず、清香さんにはあのファイルの存在は伏せて、兄さんとの話の内容を、簡潔に説明する事にします。母さんには父さんから、適当に説明して貰って良いですか?」
「ああ、適当に誤魔化しておこう。……しかし、もし清人君が真澄さんと結婚したら、真澄さんがお前の義理の姉になるわけだな?」
どこか楽しそうな口調で、余計な事を付け加えて来た父親に、聡は思わずその場に蹲りたくなってしまった。
「父さん、勘弁して下さい……。これまで頭の中で必死に、その現実を考えない様にしていたのに……」
「いや、あの二人が無事結婚した暁には、夫婦揃ってお前をいびり倒しそうだと思ってな?」
座ったままニヤリと見上げて来た父親に、聡はがくりと肩を落とす。
「……俺を苛めて楽しいんですか?」
あまりにも情けなさ過ぎるその息子の表情と声音に、とうとう勝は腹を抱えて爆笑してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる