79 / 85
番外編 結婚披露宴迷走曲~浩一の意趣返し
しおりを挟む
「それでは新郎新婦が退場いたします。皆様拍手でお見送り下さい」
それを合図に、清人は真澄に声をかけつつ、屈みながら彼女の背中に腕を回す。
「じゃあ真澄、首に腕を回してしっかり掴まっていろよ?」
「え? きゃあっ!! ちょっと! 離して、降ろしてよ!」
素直に自分の首に腕を回した真澄を、清人は軽々と横抱きにした。そして狼狽する真澄に苦笑いする。
「無理。大人しくしてろ」
「それこそ無理だから!!」
ジタバタと清人の腕の中で真澄が無駄な抵抗をしているうちに、ホテルのスタッフがライスシャワー用の米が入ったカゴを幾つも参列者に配り始めたが、何故か段ボール箱を抱えたスタッフがまっすぐ浩一の元に歩み寄り、苦笑いしながら足元に置いた。屈んでその中身を確認した浩一が物騒に両眼を光らせ、蓋を開け放ちながら楽しげに弟と従弟達に号令をかける。
「よし、予想通り清人が姉さんを抱え上げたから皆やるぞ! 好きなだけ持って行け!」
「それ! このチャンスを逃すか!」
「清人さんを狙い撃ちだぜ!」
口々にそんな事を言い合いながら、箱の中身を鷲掴みして片腕に抱えていく面々に、浩一は一応釘を刺した。
「皆、間違っても姉さんに当てるなよ!?」
「分かってますって! それ、背中と後頭部狙え!」
「任せろ、球技は得意だったんだ! 脚の方がダメージ大きいぜ!」
他の参加者から米粒が降り注がれる中、明らかに質量を伴った痛みを複数背中や脚に感じた清人は、振り返ってそんな悪ふざけをしそうな面々を怒鳴りつけた。
「って! こら! お前ら何しやがる!! それは米じゃ無いだろう!?」
その手にピンポン玉位の大きさの、細いリボンで括られた布の包みを見ながら清人が素の口調で叱責したが、友之達はどこ吹く風で言い返した。
「中身は、れっきとした米ですよ?」
「ライスシャワーならぬ、ライスボムですけどね~」
「俺達の祝福、全身で受けて下さい、清人さん!」
「ほら、両手が塞がってる今がチャンスだ! 目一杯普段の鬱憤晴らしといくぞ! なぁ清人? まさかお前、今更姉さんを下ろして一緒に走らせて逃げたり、姉さんを置き去りにして一人で遁走なんて、甲斐性無しと思われる事はしないよなぁ?」
右手で小さな包みをわざとらしく弄びつつ、にこやかに、しかし嫌味たっぷりに尋ねてきた浩一に、清人は歯軋りせんばかりの表情で怒鳴った。
「お前ら~! 首謀者は浩一、お前か!?」
しかしそんな恫喝にも怯む事無く、浩一が言い返す。
「はっ! 人を嵌めてくれた報復措置にしては、可愛いもんだろうが!! ほら行くぞ! 気合い入れて背中向けて逃げやがれ! ぐずぐずしてると姉さんに当たるぞ?」
「っのやろう!」
盛大に舌打ちして清人が真澄を抱えたまま庭を突っ切って本館内に逃げ込もうとしたが、友之や玲二が進行方向を塞いだ。それを避けて右往左往している清人を見ながら、柏木会の面々や清人の大学時代からの悪友達が浩一に向かって吠える。
「俺達も混ぜろ!」
「浩一課長! こんな楽しそうな事、身内だけで独り占めにするな!」
「そこら辺に置いてある段ボールの中身は全部これです! 好きなだけ使って下さい!」
包みを抱えて清人を追い掛けて駆けずり回っている浩一から叫び返された男達が周囲を見回すと、中庭内にいつの間にか同じ段ボール箱がバラバラに四つ置かれているのを認め、目を輝かせた。
「グッジョブ、浩一課長!」
「抜け駆けするな! 俺もやるぞ!」
「じゃあこれもだな。よっしゃ、任せろ!」
「浩一! お前どれだけ準備したんだ!? 俺は節分の時の鬼じゃないぞ!」
「五月蝿い! 黙って的になりやがれ!」
途端に追っ手が増えた為、憤慨した口調で叫び声を上げ、それでも真澄を抱えたまま清人は中庭を逃げ回っていたが、それを呆然と眺めながら、聡が隣に居る清香に素朴な疑問を呈した。
「……普段温厚な浩一さんがあれだけ怒るなんて、兄さん一体何をしたんだろうね?」
「さぁ……」
そうこうしているうちに、埒が明かないと判断した清人は、片腕で真澄をしっかりと抱え直した。
「真澄、しっかり掴まっていろよ!?」
「ちょっと何する気……、きゃあぁぁっ!」
いきなり清人が太腿辺りまでの高さの生け垣に突進し、空いている手で腰位の高さの常夜灯に勢い良く手を付きながら体を跳ね上げて生け垣を飛び越える。そしてその離れ業に皆が呆気に取られているうちに、清人は相変わらず真澄を抱えたまま猛然と走り去り、瞬く間に庭に出入りするためのガラス張りの扉の向こうに入り込み、本館内へと姿を消した。そして中庭に一瞬奇妙な静寂が満ちてから、爆笑と歓喜の声が湧き上がる。
その「思い知ったか、清人!」「正義は勝つ!」などの、微かに伝わってくる笑いや叫びを耳にしながら、清人は慎重に廊下に設置してあるソファーに真澄を座らせてから、床に座り込んで粗い息を整えた。
「くそっ、油断、したっ……。無礼講って、言っても、限度ってものが……。浩一の、奴……、こっそり、あんなのを、仕込みやがっ、て……」
汗ばんだ額を拳で拭いながらの悪態に、真澄は思わず溜め息を吐いて応じる。
「浩一を怒らせた例の《あれ》は、私にも連帯責任があるけどね……。披露宴は無理でも、せめて式位は穏便に済んで欲しいと思ってたのに……」
「今更だな。潔く披露宴も諦めろ……、真澄」
悟りきった清人の口調に真澄は何も言えずに項垂れ、遅れて泡を食ってやってきた自分達の担当スタッフに促されて、二人はそれぞれの控え室へと向かった。
それを合図に、清人は真澄に声をかけつつ、屈みながら彼女の背中に腕を回す。
「じゃあ真澄、首に腕を回してしっかり掴まっていろよ?」
「え? きゃあっ!! ちょっと! 離して、降ろしてよ!」
素直に自分の首に腕を回した真澄を、清人は軽々と横抱きにした。そして狼狽する真澄に苦笑いする。
「無理。大人しくしてろ」
「それこそ無理だから!!」
ジタバタと清人の腕の中で真澄が無駄な抵抗をしているうちに、ホテルのスタッフがライスシャワー用の米が入ったカゴを幾つも参列者に配り始めたが、何故か段ボール箱を抱えたスタッフがまっすぐ浩一の元に歩み寄り、苦笑いしながら足元に置いた。屈んでその中身を確認した浩一が物騒に両眼を光らせ、蓋を開け放ちながら楽しげに弟と従弟達に号令をかける。
「よし、予想通り清人が姉さんを抱え上げたから皆やるぞ! 好きなだけ持って行け!」
「それ! このチャンスを逃すか!」
「清人さんを狙い撃ちだぜ!」
口々にそんな事を言い合いながら、箱の中身を鷲掴みして片腕に抱えていく面々に、浩一は一応釘を刺した。
「皆、間違っても姉さんに当てるなよ!?」
「分かってますって! それ、背中と後頭部狙え!」
「任せろ、球技は得意だったんだ! 脚の方がダメージ大きいぜ!」
他の参加者から米粒が降り注がれる中、明らかに質量を伴った痛みを複数背中や脚に感じた清人は、振り返ってそんな悪ふざけをしそうな面々を怒鳴りつけた。
「って! こら! お前ら何しやがる!! それは米じゃ無いだろう!?」
その手にピンポン玉位の大きさの、細いリボンで括られた布の包みを見ながら清人が素の口調で叱責したが、友之達はどこ吹く風で言い返した。
「中身は、れっきとした米ですよ?」
「ライスシャワーならぬ、ライスボムですけどね~」
「俺達の祝福、全身で受けて下さい、清人さん!」
「ほら、両手が塞がってる今がチャンスだ! 目一杯普段の鬱憤晴らしといくぞ! なぁ清人? まさかお前、今更姉さんを下ろして一緒に走らせて逃げたり、姉さんを置き去りにして一人で遁走なんて、甲斐性無しと思われる事はしないよなぁ?」
右手で小さな包みをわざとらしく弄びつつ、にこやかに、しかし嫌味たっぷりに尋ねてきた浩一に、清人は歯軋りせんばかりの表情で怒鳴った。
「お前ら~! 首謀者は浩一、お前か!?」
しかしそんな恫喝にも怯む事無く、浩一が言い返す。
「はっ! 人を嵌めてくれた報復措置にしては、可愛いもんだろうが!! ほら行くぞ! 気合い入れて背中向けて逃げやがれ! ぐずぐずしてると姉さんに当たるぞ?」
「っのやろう!」
盛大に舌打ちして清人が真澄を抱えたまま庭を突っ切って本館内に逃げ込もうとしたが、友之や玲二が進行方向を塞いだ。それを避けて右往左往している清人を見ながら、柏木会の面々や清人の大学時代からの悪友達が浩一に向かって吠える。
「俺達も混ぜろ!」
「浩一課長! こんな楽しそうな事、身内だけで独り占めにするな!」
「そこら辺に置いてある段ボールの中身は全部これです! 好きなだけ使って下さい!」
包みを抱えて清人を追い掛けて駆けずり回っている浩一から叫び返された男達が周囲を見回すと、中庭内にいつの間にか同じ段ボール箱がバラバラに四つ置かれているのを認め、目を輝かせた。
「グッジョブ、浩一課長!」
「抜け駆けするな! 俺もやるぞ!」
「じゃあこれもだな。よっしゃ、任せろ!」
「浩一! お前どれだけ準備したんだ!? 俺は節分の時の鬼じゃないぞ!」
「五月蝿い! 黙って的になりやがれ!」
途端に追っ手が増えた為、憤慨した口調で叫び声を上げ、それでも真澄を抱えたまま清人は中庭を逃げ回っていたが、それを呆然と眺めながら、聡が隣に居る清香に素朴な疑問を呈した。
「……普段温厚な浩一さんがあれだけ怒るなんて、兄さん一体何をしたんだろうね?」
「さぁ……」
そうこうしているうちに、埒が明かないと判断した清人は、片腕で真澄をしっかりと抱え直した。
「真澄、しっかり掴まっていろよ!?」
「ちょっと何する気……、きゃあぁぁっ!」
いきなり清人が太腿辺りまでの高さの生け垣に突進し、空いている手で腰位の高さの常夜灯に勢い良く手を付きながら体を跳ね上げて生け垣を飛び越える。そしてその離れ業に皆が呆気に取られているうちに、清人は相変わらず真澄を抱えたまま猛然と走り去り、瞬く間に庭に出入りするためのガラス張りの扉の向こうに入り込み、本館内へと姿を消した。そして中庭に一瞬奇妙な静寂が満ちてから、爆笑と歓喜の声が湧き上がる。
その「思い知ったか、清人!」「正義は勝つ!」などの、微かに伝わってくる笑いや叫びを耳にしながら、清人は慎重に廊下に設置してあるソファーに真澄を座らせてから、床に座り込んで粗い息を整えた。
「くそっ、油断、したっ……。無礼講って、言っても、限度ってものが……。浩一の、奴……、こっそり、あんなのを、仕込みやがっ、て……」
汗ばんだ額を拳で拭いながらの悪態に、真澄は思わず溜め息を吐いて応じる。
「浩一を怒らせた例の《あれ》は、私にも連帯責任があるけどね……。披露宴は無理でも、せめて式位は穏便に済んで欲しいと思ってたのに……」
「今更だな。潔く披露宴も諦めろ……、真澄」
悟りきった清人の口調に真澄は何も言えずに項垂れ、遅れて泡を食ってやってきた自分達の担当スタッフに促されて、二人はそれぞれの控え室へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる