それは現か幻か

篠原皐月

文字の大きさ
1 / 1

もっと身体を労ろう

しおりを挟む
「カップ麺、出来ましたよ」
「…………」
「起きてください! カップ麺、できたんですから!」
「…………」
「カップ麺、伸びちゃいますよ!?」
「…………」

 あぁぁぁ、どうしよう! 麺が伸びちゃうと思って、思い切って声をかけたのに熟睡してる! どうして三分も経たないうちに、熟睡しちゃうのよ!

 勇気を振り絞って声をかけたのにもかかわらず、目の前で机に突っ伏したまま爆睡している男を見て、彼女は地団駄を踏んだ。

 こうしているうちにも、美味しくなくなっちゃう! 食べ物を粗末にしたらいけないんだから! よし、こうなったら実力行使!

 躊躇ったのはほんの僅かな間だけで、蓋を閉じたままのカップ麺の容器を横目で見ながら、彼女は行動に出た。


 ※※※


「こぉらぁあぁぁ――っ! さっさと起きろ――っ!!」
「……んぁ?」

 何だ? 今、変な叫び声と、頭に変な感覚がしたような……。

「あ、やっと起きた。さっき作ったカップ麺が、もう出来ているわよ」
「え? あ、どうも……、いや、すっかり寝ちまったなぁ……、って、へ?」

 半ば寝ぼけながら上半身を起こし、自分がいつの間にか寝ていたのと、少し離れた所に置いてあったカップ麺の容器を認めた彼は、小さくあくびをした。次いで反射的に、声のした方に目を向ける。

「ほら、いつまでも寝ぼけてないで、さっさと食べなさい」
「……はい? バッ、バケモノ――ッ!!」
「何ですって!? 失礼極まりないわね!!」

 目の前の信じられない光景に、彼は思わず座ったまま驚愕の叫びを上げた。その瞬間、顔面に新たな衝撃を受けた彼は、再び意識を失ったのだった。


※※※
 

「うっ、うわぁあぁぁぁ――っ!」

 自分の絶叫で覚醒した彼は、勢いよく上半身を起こして周囲を見回した。深夜に近い時間帯に残業しているのは自分だけであり、特に異常は見当たらずに安堵の溜め息を漏らす。時刻を確認すると、先程カップ麺の容器に熱湯を注いでから三分強が経過しており、彼はそれでいくらか平静を取り戻した。

「いつの間にか寝ちまったのか……、ちょうど良い頃合いで目が覚めて良かったな。カップ麺を一つ、無駄にしなくて済んだのは良かっ……」

 早速食べようとカップ麺の容器に手を伸ばした彼の視線の先に、先程自分に説教を垂れた挙げ句、顔面に激突してきた手乗りサイズのぬいぐるみがあった。
 同僚が出張先で複数貰って来たと言って数日前に押しつけられたそれは、ご当地ゆるキャラの桜の妖精をイメージしたぬいぐるみだった。迂闊に捨てたらなんとなく呪われそうで机の上になんとなくそのままにしていたそれを、彼は顔を強張らせて凝視する。

「いや、うん……、夢だよな。夢で偶然だ。これはただの、ゆるキャラぬいぐるみ……」

 自分自身に言い聞かせるようにブツブツと呟きながら、彼は慎重に両手でそのぬいぐるみを抱え持ち、それを自分に押しつけた同僚の机に運んだ。それから彼は未だ手つかずのカップ麺を放置し、急いで家路についたのだった。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

処理中です...