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第10話 環境の違い
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「……おはようございます」
幾分、戸惑った感じのその声に、キッチンで朝食の支度をしていた恭子は、振り返って挨拶を返した。
「おはようございます。もう顔も洗ってるんですね。そろそろ出来上がりますので、食事にしませんか?」
「ありがとうございます」
フランネルのシャツにデニムのパンツ姿という見慣れないラフな姿の浩一は、何故か若干不自然に視線を逸らしながら応じ、おとなしくテーブルに着いた。その動作に、茶碗にご飯を、汁椀に味噌汁をよそいながら恭子が首を捻る。
(休日の朝から、しっかり身支度をしているのは浩一さんらしいけど、寝起きが悪いタイプ? でも、機嫌が悪いという感じとも、ちょっと違う感じがするんだけど……)
どことなく落ち着かなさげな浩一の様子を横目で見ながら、恭子は二人分の茶碗をテーブルに置き、エプロンを外して横の椅子に掛けて自分も椅子に座った。そして二人で「いただきます」と挨拶をして食べ始めたところで、何となくその理由に思い至る。
(もしかしたら……、私がパジャマ姿だから、だらしないと思っているとか?)
平日なら着替えてからエプロンをして朝食の支度をしている恭子だったが、休日の朝は出かける直前までパジャマのまま過ごしていた為、ついその感覚のまま今朝も朝食を作っていたのだった。しかし食べ始めてしまってから、わざわざ席を立って着替えに行くのも失礼かと思った恭子は、困惑しながら食べ続ける。
(う~ん、早速失敗したかも。どう考えても浩一さんはきちんとした家庭で育った筈だし、お屋敷に居る時には奥様にビシバシ指導を受けてたのに……。一人暮らしが続いてて油断したわ)
そんな事を考えて、無意識に溜め息を吐いた恭子だったが、それを見た浩一が、何を思ったか申し訳なさそうに言い出した。
「すみません。休日は俺が朝食を作るとか言っておきながら、俺の方が遅く起きるなんて」
幾分悔しさを含ませたその口調に、恭子は慌てて手を振った。
「まだ八時ですよ? 昨日荷物を入れて、夜も細々とした物を片付けていたんですから、 今日はゆっくりして下さい。それに今日は最初から私が準備するつもりでいましたから、気にしなくて良いですよ。もう少し寝ていても、良い位です」
元から作って貰う気などなかった恭子が、そう言って宥めると、浩一はそれに苦笑で返した。
「そうしたかったのは山々なんですが、残念な事に、休日でもあまり遅くまで寝ていられない質なんです」
「健康的じゃないですか。そう言えばバカンス会で一緒に泊まった時、真澄さんもそうでしたね」
そこでお互いに笑い合って、その件については終わりになった。そこで恭子が、先程気になった事を尋ねてみる。
「その……、起床時間もそうですが、やっぱり浩一さんは良いお家の育ちですから、色々きちんとしてるんですよね? 私は結構ガサツな育ちですから、気に障る事があったらはっきり仰って頂いて構いませんよ?」
それを耳にした浩一は、ピクッと片眉を上げて恭子を見返した。
「別に川島さんのする事で、気に障る様な事とかはありませんが、俺の態度で何かそう感じる事があったでしょうか?」
「朝、パジャマ姿で室内をうろうろされるのは、だらしなくて嫌なんじゃありません?」
真顔でそんな事を言われた浩一は僅かに狼狽し、箸から胡瓜の浅漬けを落として固まった。それを見て納得した様に恭子が頷く。
「そうですよね。真澄さんも、家では寝室以外でパジャマになったり、スリッパを履いたりしたことが無いって言ってましたし」
うんうんと一人で納得している恭子に、我に返った浩一は慌てて否定した。
「いえ、別に不快とか、だらしがないと思っているわけではなくてですね!」
「無理しなくても良いですけど」
「無理なんかしてません! ちょっと慣れていなくて、少し驚いただけです。もう分かりましたから、幾らでもパジャマでいて下さって構いませんから!」
かなり切羽詰ったその訴えに、恭子は若干不思議に思いつつ再度頷いた。
「そうですか? それなら良いんですけど。一応平日は忙しいですからすぐ着替えてますので、お見苦しい所はお見せしませんので安心して下さい」
「別に見苦しくは無いですが……」
「え? 今、何て仰いました?」
「いえ、独り言ですから気にしないで下さい」
「そうですか」
浩一が何やらボソッと呟いた台詞を聞きのがした恭子が尋ねたが、浩一が若干疲れた様な笑みで誤魔化す。その為恭子は無理に追及する真似はせず、再び朝食を食べ始めた。
(これまで真澄さんの突拍子もない行動や発想に驚かされた事はあったけど、やっぱり姉弟よね。他の単なるお金持ちやいいとこの坊ちゃんと違って、ちょっと思考パターンが読めないわ)
(単純に、予想外で目のやり場に困ったなんて言えるか! しかし一瞬、本気で清人の罠かと思って余計に動揺したぞ。全くあいつが姉さんまで丸め込んで、俺を引っかけたりするから)
少しだけそんな事を考えてから、恭子は同様に何やら考え込んでいた浩一に声をかけた。
「ところで、浩一さんの今日のご予定は?」
「少しだけ片付けをして、あとは川島さんの買い出しにでもお付き合いしようかと思っていました」
「私の買い出し、ですか?」
当然の如く言われた予想外の内容に、恭子は少し戸惑った。しかし浩一が逆に問いかけてくる。
「ええ。今は商社勤めをしてそうですし、休日にまとめ買いに出かけたりしませんか?」
「行きますけど……。一人で大丈夫ですよ?」
「二人分になると食材も消耗品も、結構かさばるかと思いまして。ひょっとしたら宅配とかも頼んでいるかもしれませんが、近辺のお店を一通り教えて貰えませんか? ここには何度も訪ねて来た事はあっても、買い物をした事は無かったものですから」
自然に話す浩一を見て(浩一さんも咄嗟に買いに行ける店を覚えておいた方が良いわよね)と納得した恭子は、笑顔で頷いた。
「それなら荷物持ちをお願いしても良いですか?」
「ええ、構いません」
「宜しくお願いします」
そんな風に、それ以降も和やかに会話が進み、数分程してから浩一が思い切って話を切り出した。
「あの……、川島さんは俺の事を、大抵名前で呼びますよね?」
「そうですね。初めて会った時から真澄さんの事は名前で呼んでますので、なんとなくその流れで。対外的に問題がありそうな時には『柏木さん』と呼んでいましたが。やはり名前呼びだと気になりますか?」
先程のパジャマの事といい、放置しておくととんだ斜め上の発想をされかねないと学習した浩一は、声に若干力を込めて提案した。
「いや、そうじゃなくて、俺を名前で呼ぶのは一向に構いませんから、俺も川島さんの事を名前で呼んでも良いですか?」
「名前で、ですか?」
「はい、駄目ですか? 名字で呼んでいるとどうしてもやり取りが敬語になりやすいですし、一緒に暮らしてるのに堅苦しい感じがするかと思いまして……」
(別にそんな事を気にしなくても良いと思うけど、真面目な人には却って気になるのかしら?)
(幾ら何でも唐突過ぎたか? だがこの機会に色々改めたいところが……)
そんな事を思いつつ、真顔で見つめ合って数秒。恭子はあっさりと笑顔で応じた。
「私は良いですよ? そうですよね、これまで外で会う時は敬語を使ってましたけど、一緒に暮らすならもう少し砕けたやり取りの方が疲れないでしょうし。清香ちゃんとはそうでしたから」
「じゃあ恭子さん、そういう事で良いかな」
「はい、そうしましょう」
そこでだし巻き卵を箸で摘まみ上げた恭子は、急に何かを思い出した様に不機嫌になる。
「だけど……、よくよく考えてみたら、先生は私の事、『おい』とか『お前』の他は『川島さん』呼ばわりよね。他の時はぞんざいな口調なのに、『川島さん』の時だけ丁寧な口調で命令してくるのがどうしてなのか、未だに意味が分からないわ……」
(それは十中八九……、いや、確実に俺のせいだな。俺が清人を含む人前で、馴れ馴れしく名前を呼んだりしなくてずっと『川島さん』と呼んでいたから……)
ブツブツと何やら悪態を吐いている恭子から僅かに視線を逸らし、浩一が多少後ろめたく思っていると、恭子が唐突に話を振ってきた。
「先生と言えば……、浩一さん?」
「何かな?」
「やっぱり柏木の家を出たのは、真澄さんと先生が結婚して、寂しくなったからですか?」
「は?」
(何で家を出る理由が『寂しい』なんだ?)
本気で困惑し、手の動きを止めた浩一に、恭子が不思議そうに再度声をかける。
「浩一さん?」
「いや、確かにウザいとは思ったが、寂しく思ったりはしていないな。どうしてそんな風に思うのかな?」
逆に不思議そうに問い返した浩一に、恭子はさもありなんと言った感じで頷いてから、思うところを語って聞かせた。
「確かに先生の過保護っぷりは、ウザそうですよね。ただ、浩一さんは女性の中では真澄さんが一番好きで男性の中では先生が一番好きですから、二人が結婚しちゃって一気にどちらも取られた、みたいな感傷に浸ってしまって、それが過ぎての家出なのかなと思っただけですが」
(家出……。そういう解釈もあるのか。男性の中で一番好きって言うのは何か微妙過ぎる認識の上、女性の中では姉さんは二番目だが……)
本気で項垂れたくなった浩一だったが、それを正直に告げる事もできず、曖昧に笑って返した。
「小さい子供じゃあるまいし、姉と友人を取られたって、いじける様な真似はしないけどね?」
そう言って余裕を見せて笑ったつもりだったが、続けて味噌汁を飲んだ時に、とんでもない内容の話が耳に飛び込んできた。
幾分、戸惑った感じのその声に、キッチンで朝食の支度をしていた恭子は、振り返って挨拶を返した。
「おはようございます。もう顔も洗ってるんですね。そろそろ出来上がりますので、食事にしませんか?」
「ありがとうございます」
フランネルのシャツにデニムのパンツ姿という見慣れないラフな姿の浩一は、何故か若干不自然に視線を逸らしながら応じ、おとなしくテーブルに着いた。その動作に、茶碗にご飯を、汁椀に味噌汁をよそいながら恭子が首を捻る。
(休日の朝から、しっかり身支度をしているのは浩一さんらしいけど、寝起きが悪いタイプ? でも、機嫌が悪いという感じとも、ちょっと違う感じがするんだけど……)
どことなく落ち着かなさげな浩一の様子を横目で見ながら、恭子は二人分の茶碗をテーブルに置き、エプロンを外して横の椅子に掛けて自分も椅子に座った。そして二人で「いただきます」と挨拶をして食べ始めたところで、何となくその理由に思い至る。
(もしかしたら……、私がパジャマ姿だから、だらしないと思っているとか?)
平日なら着替えてからエプロンをして朝食の支度をしている恭子だったが、休日の朝は出かける直前までパジャマのまま過ごしていた為、ついその感覚のまま今朝も朝食を作っていたのだった。しかし食べ始めてしまってから、わざわざ席を立って着替えに行くのも失礼かと思った恭子は、困惑しながら食べ続ける。
(う~ん、早速失敗したかも。どう考えても浩一さんはきちんとした家庭で育った筈だし、お屋敷に居る時には奥様にビシバシ指導を受けてたのに……。一人暮らしが続いてて油断したわ)
そんな事を考えて、無意識に溜め息を吐いた恭子だったが、それを見た浩一が、何を思ったか申し訳なさそうに言い出した。
「すみません。休日は俺が朝食を作るとか言っておきながら、俺の方が遅く起きるなんて」
幾分悔しさを含ませたその口調に、恭子は慌てて手を振った。
「まだ八時ですよ? 昨日荷物を入れて、夜も細々とした物を片付けていたんですから、 今日はゆっくりして下さい。それに今日は最初から私が準備するつもりでいましたから、気にしなくて良いですよ。もう少し寝ていても、良い位です」
元から作って貰う気などなかった恭子が、そう言って宥めると、浩一はそれに苦笑で返した。
「そうしたかったのは山々なんですが、残念な事に、休日でもあまり遅くまで寝ていられない質なんです」
「健康的じゃないですか。そう言えばバカンス会で一緒に泊まった時、真澄さんもそうでしたね」
そこでお互いに笑い合って、その件については終わりになった。そこで恭子が、先程気になった事を尋ねてみる。
「その……、起床時間もそうですが、やっぱり浩一さんは良いお家の育ちですから、色々きちんとしてるんですよね? 私は結構ガサツな育ちですから、気に障る事があったらはっきり仰って頂いて構いませんよ?」
それを耳にした浩一は、ピクッと片眉を上げて恭子を見返した。
「別に川島さんのする事で、気に障る様な事とかはありませんが、俺の態度で何かそう感じる事があったでしょうか?」
「朝、パジャマ姿で室内をうろうろされるのは、だらしなくて嫌なんじゃありません?」
真顔でそんな事を言われた浩一は僅かに狼狽し、箸から胡瓜の浅漬けを落として固まった。それを見て納得した様に恭子が頷く。
「そうですよね。真澄さんも、家では寝室以外でパジャマになったり、スリッパを履いたりしたことが無いって言ってましたし」
うんうんと一人で納得している恭子に、我に返った浩一は慌てて否定した。
「いえ、別に不快とか、だらしがないと思っているわけではなくてですね!」
「無理しなくても良いですけど」
「無理なんかしてません! ちょっと慣れていなくて、少し驚いただけです。もう分かりましたから、幾らでもパジャマでいて下さって構いませんから!」
かなり切羽詰ったその訴えに、恭子は若干不思議に思いつつ再度頷いた。
「そうですか? それなら良いんですけど。一応平日は忙しいですからすぐ着替えてますので、お見苦しい所はお見せしませんので安心して下さい」
「別に見苦しくは無いですが……」
「え? 今、何て仰いました?」
「いえ、独り言ですから気にしないで下さい」
「そうですか」
浩一が何やらボソッと呟いた台詞を聞きのがした恭子が尋ねたが、浩一が若干疲れた様な笑みで誤魔化す。その為恭子は無理に追及する真似はせず、再び朝食を食べ始めた。
(これまで真澄さんの突拍子もない行動や発想に驚かされた事はあったけど、やっぱり姉弟よね。他の単なるお金持ちやいいとこの坊ちゃんと違って、ちょっと思考パターンが読めないわ)
(単純に、予想外で目のやり場に困ったなんて言えるか! しかし一瞬、本気で清人の罠かと思って余計に動揺したぞ。全くあいつが姉さんまで丸め込んで、俺を引っかけたりするから)
少しだけそんな事を考えてから、恭子は同様に何やら考え込んでいた浩一に声をかけた。
「ところで、浩一さんの今日のご予定は?」
「少しだけ片付けをして、あとは川島さんの買い出しにでもお付き合いしようかと思っていました」
「私の買い出し、ですか?」
当然の如く言われた予想外の内容に、恭子は少し戸惑った。しかし浩一が逆に問いかけてくる。
「ええ。今は商社勤めをしてそうですし、休日にまとめ買いに出かけたりしませんか?」
「行きますけど……。一人で大丈夫ですよ?」
「二人分になると食材も消耗品も、結構かさばるかと思いまして。ひょっとしたら宅配とかも頼んでいるかもしれませんが、近辺のお店を一通り教えて貰えませんか? ここには何度も訪ねて来た事はあっても、買い物をした事は無かったものですから」
自然に話す浩一を見て(浩一さんも咄嗟に買いに行ける店を覚えておいた方が良いわよね)と納得した恭子は、笑顔で頷いた。
「それなら荷物持ちをお願いしても良いですか?」
「ええ、構いません」
「宜しくお願いします」
そんな風に、それ以降も和やかに会話が進み、数分程してから浩一が思い切って話を切り出した。
「あの……、川島さんは俺の事を、大抵名前で呼びますよね?」
「そうですね。初めて会った時から真澄さんの事は名前で呼んでますので、なんとなくその流れで。対外的に問題がありそうな時には『柏木さん』と呼んでいましたが。やはり名前呼びだと気になりますか?」
先程のパジャマの事といい、放置しておくととんだ斜め上の発想をされかねないと学習した浩一は、声に若干力を込めて提案した。
「いや、そうじゃなくて、俺を名前で呼ぶのは一向に構いませんから、俺も川島さんの事を名前で呼んでも良いですか?」
「名前で、ですか?」
「はい、駄目ですか? 名字で呼んでいるとどうしてもやり取りが敬語になりやすいですし、一緒に暮らしてるのに堅苦しい感じがするかと思いまして……」
(別にそんな事を気にしなくても良いと思うけど、真面目な人には却って気になるのかしら?)
(幾ら何でも唐突過ぎたか? だがこの機会に色々改めたいところが……)
そんな事を思いつつ、真顔で見つめ合って数秒。恭子はあっさりと笑顔で応じた。
「私は良いですよ? そうですよね、これまで外で会う時は敬語を使ってましたけど、一緒に暮らすならもう少し砕けたやり取りの方が疲れないでしょうし。清香ちゃんとはそうでしたから」
「じゃあ恭子さん、そういう事で良いかな」
「はい、そうしましょう」
そこでだし巻き卵を箸で摘まみ上げた恭子は、急に何かを思い出した様に不機嫌になる。
「だけど……、よくよく考えてみたら、先生は私の事、『おい』とか『お前』の他は『川島さん』呼ばわりよね。他の時はぞんざいな口調なのに、『川島さん』の時だけ丁寧な口調で命令してくるのがどうしてなのか、未だに意味が分からないわ……」
(それは十中八九……、いや、確実に俺のせいだな。俺が清人を含む人前で、馴れ馴れしく名前を呼んだりしなくてずっと『川島さん』と呼んでいたから……)
ブツブツと何やら悪態を吐いている恭子から僅かに視線を逸らし、浩一が多少後ろめたく思っていると、恭子が唐突に話を振ってきた。
「先生と言えば……、浩一さん?」
「何かな?」
「やっぱり柏木の家を出たのは、真澄さんと先生が結婚して、寂しくなったからですか?」
「は?」
(何で家を出る理由が『寂しい』なんだ?)
本気で困惑し、手の動きを止めた浩一に、恭子が不思議そうに再度声をかける。
「浩一さん?」
「いや、確かにウザいとは思ったが、寂しく思ったりはしていないな。どうしてそんな風に思うのかな?」
逆に不思議そうに問い返した浩一に、恭子はさもありなんと言った感じで頷いてから、思うところを語って聞かせた。
「確かに先生の過保護っぷりは、ウザそうですよね。ただ、浩一さんは女性の中では真澄さんが一番好きで男性の中では先生が一番好きですから、二人が結婚しちゃって一気にどちらも取られた、みたいな感傷に浸ってしまって、それが過ぎての家出なのかなと思っただけですが」
(家出……。そういう解釈もあるのか。男性の中で一番好きって言うのは何か微妙過ぎる認識の上、女性の中では姉さんは二番目だが……)
本気で項垂れたくなった浩一だったが、それを正直に告げる事もできず、曖昧に笑って返した。
「小さい子供じゃあるまいし、姉と友人を取られたって、いじける様な真似はしないけどね?」
そう言って余裕を見せて笑ったつもりだったが、続けて味噌汁を飲んだ時に、とんでもない内容の話が耳に飛び込んできた。
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