藤宮美樹最凶伝説

篠原皐月

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美樹二十歳、公社のトラウマ製造機&猛獣調教師

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「陸斗君、おうちでペットを飼いたいけど、お母さんがアレルギーで駄目って言ってたでしょう?」
 そう尋ねられた陸斗は、素直に頷きながらも不思議そうな顔になった。

「うん、どうして知ってるの?」
「茂野主任から聞いたのよ。美那に紹介して貰って、最近お友達になったんですって?」
「うん! すごく話がもりあがったの! しげのさんとはマブダチなんだ!」
「おい、陸斗! あの性格破綻者と『マブダチ』って、どういう事だ!?」
 社内でも変人扱いされている人物の名前が息子の口から出てきた為、寺島は激しく狼狽したが、美樹は彼を無視して話を続けた。

「実は私、少し前に、茂野主任から相談を受けていたの。『陸斗君がペットを欲しがっているから、公社の社員を何人かペットとして社畜化しては駄目ですか?』って」
「え?」
 それを聞いた陸斗はキョトンとした顔になっただけだったが、暴漢達を警戒してその周りを囲んでいた社員達は、揃って顔を引き攣らせた。

「『社畜化』って……」
「意味、違うよな?」
「止めろ! 何も聞くな! 考えるな!」
 そんな社員達の動揺も完全に無視しながら、美樹が困り顔で話を続ける。

「だけどねぇ……。社員は全員、私の大切な手下だし。それは断固として却下させて貰ったのよ」
「そうか……。でもしげのさん、やさしいね。僕にペットをくれる気だったんだ。こんどお礼をいうね?」
「そうね」
 ニコニコしながら話している陸斗を見て、社員の一人が思わず呟く。

「……優しい?」
「だから何も聞くな! 平常心で聞き流せ!」
 彼が周囲から小声で叱責される中、美樹は良い笑顔になりながら陸斗に説明した。

「だけどね? こいつらは社員じゃないから、当然私の手下じゃないし。陸斗君のペットにして貰っても、一向に構わないのよ? どう? こんな可愛げの無いおじさん達だけど、陸斗君、欲しい?」
 暴漢達を指差しながら美樹が告げた途端、陸斗は目を輝かせて食い付いてきた。

「ほんとうに、ペットにしていいの!?」
「勿論よ。女に二言は無いわ。どうでも好きにして構わないわよ?」
「やったー! しげりんにでんわする!」
 大喜びで子供用携帯をポケットから取り出した陸斗は、早速どこかに電話をかけ始めた。それを見た公社の社員達が、再び囁き合う。

「え? しげりんって……」
「話の流れだと、茂野主任の事だよな」
「本当に友達なんだ……」
 そして周囲から微妙に引かれながら、陸斗はスピーカー機能での会話を始めた。

「もしもし? しげりん、ビックニュースだよ?」
「おう、りっくん、どうした?」
「あのね? よしきお姉ちゃんから、ペットにする七人をもらっちゃった! すきにしていいって!」
「本当かい? そりゃあ凄い! それならカスタマイズ費用も、会社から出して貰えるのかな?」
「きいてみる」
 嬉々として応じる茂野の声がその場に響き渡る中、陸斗は顔を上げて美樹に尋ねた。

「よしきお姉ちゃん、ペットのちょうきょうひようとえさ代をくれる?」
 しかし和真と寺島から無言で睨まれていた美樹は、彼らから視線を逸らしながら、妹に向かって呼びかけた。

「う~ん、それはちょっと……。通常予算では通らないかな?」
「そうなの?」
「美那! ちょっと裏金を、陸斗君に融通して貰えない?」
 するといつの間にか近くに来ていた美那が、周りを囲んでいる社員達の間からひょっこり現れつつ、事も無げに応じた。

「うん、良いよ? 金利は年50%で貸してあげる」
「きんり? どういう事?」
「つまり、百万円を借りたら、一年後には私に百五十万円返さなくちゃいけないの」
 不思議そうに尋ねた陸斗に、美那が大真面目に説明すると、周囲の大人達は揃って戦慄した。

「なんつう暴利だよ」
「ぼったくりにも程があるだろ」
「近来、稀に見る守銭奴が居る」
「よしなちゃん……。僕、おかね返せない……」
 さすがに返済が無理だと判断したらしい陸斗が、涙目になって項垂れたが、そんな懸念を美那が笑い飛ばした。

「大丈夫大丈夫! だってこのペット達の調教費用と、餌代に使うために借りるんだから、この七匹を働かせて、ちゃんと返して貰うから。その分、しっかりカスタマイズしてね? 陸斗君の腕の見せ所だよ?」
 それを聞いた陸斗は、瞬時に笑顔になって頷いた。

「うん! がんばる! しげりん、きいた? お金、使いほうだいだよ!」
「ひゃっほい! この機会に設備や備品や薬品その他諸々、しこたま買い込むぜ! こうしちゃいられない。今から出社するから、りっくん、また後でな!」
「うん、またでんわするね!」
 嬉々として会話を終わらせた陸斗と茂野だったが、周りは早くも疲労感を漂わせ始めた。

「七匹って……」
「既に、人として数えて無いぞ」
「あいつら……、完全に終わったな……」
 そこで携帯を元通りしまった陸斗が、真顔で美樹にお伺いを立ててくる。

「よしきお姉ちゃん。ペットには色々なタイプがあるんだけど、どういうのがいい? イヌとかネコとか、ヘビとかコウモリとかサメとか」
 その問いかけに、美樹は改めて男達を見下ろしながら、冷静に応じる。

「そうね……、こいつらの個性もあるし、タイプは陸斗君達に任せるわ。とにかくご主人様の言う事をきく、従順なペットにしてくれれば良いから」
「分かった。しゃちょーへいかのよしきお姉ちゃんがご主人さまで、僕がかい主だね!」
 笑顔で力強く頷いた陸斗に、大半の者は(『ご主人様』と『飼い主』ってどう違うんだ?)と突っ込みを入れそうになったが、美樹がそれより早く、他の事に関して突っ込みを入れた。

「陸斗君、『社長陛下』って、何?」
「あれ? いちばんえらい人のよび方って、『へいか』じゃないの?」
 大真面目に問い返されて、美樹は咄嗟に口ごもった。

「ええと……、それは確かに、国王とかの敬称は陛下だけど……」
「『けいしょう』って何?」
「それは……」
 そこで分かり易く説明をするのが面倒になった美樹は、すぐ側にいた寺島にそれを丸投げした。

「ちょっと寺島! 自分の息子なんだからボケッとしてないで、あんたが陸斗君に分かり易く説明してあげなさいよ!」
「話を必要以上にデカくした上に、最後に面倒な事を押し付けないでください!」
 そんな怒鳴り合いを目の当たりにした社員は勿論、寺島を和真の懐刀として認識している社外の者達も、驚愕しながら囁き合った。

「え? それって」
「あのガキ、寺島の息子なのか?」
「ただ者では無いと思ったが……」
 そんな驚愕する空気が漂う中、和真が笑いを堪えながら会話に混ざった。

「まあ、呼び方が社長陛下でも良いんじゃないか? 実際、お前は絶対君主の、女王みたいなものだしな」
「和真! あんた何を言ってるのよ!」
 すっかり腹を立てた美樹が声を荒げたが、和真はそれを無視して周囲に指示を出した。

「お前達、こいつら全員を公社に連れて行って、茂野に引き渡せ。それから奴が要求する機材その他も、取り敢えずあるだけ渡しておけ」
「了解しました」
「直ちに手配します」
 それを受けて、社員達は即座に護送する者と引き続き会場警備に残る者に別れ、護送に使う車両の手配などを始めたが、ここに至って漸く色々な意味での危機を感じたらしい暴漢達が、縛り上げられたまま必死の抵抗を始めた。

「ふぐうっ!」
「むぅがぁっ!」
「ふんむんっ!」
 その頃には橘と由井も男達が集まっている場所にやってきており、背後を振り返った美樹が、二人に向かって笑顔を振り撒いた。

「そういう訳ですから、橘さん、由井さん。こいつらの身柄は私に任せて貰って構いませんよね? 安心してください。一応お二方の身内や元部下ですから、間違っても殺したりしませんし、“特別研修”後は五体満足のまま、公社で働いて貰いますから」
 その申し出に二人が抗う筈もなく、神妙に頷いて応じる。

「宜しく頼む。根性を入れ直してやってくれ」
「美樹さんのお役に立てるように、精々頑張るんだな。役立たずの烙印を押されたら、確実に命は無いと思え」
「ふがーっ!」
「うぉおぅ!」
 二人から容赦の無い声をかけられた男達が、何やら喚きながら会場から引きずり出されて行くのを見送ってから、寺島は何事も無かったかのような顔で、パーティーの続行を宣言した。

「皆様、先程はこちらの不手際で、大変お騒がせいたしました。引き続き、ご歓談ください」
 そしてざわめきを取り戻した会場の隅で、再び陸斗が嬉々として電話をかける。

「しげりん、七ひき、こうしゃにつれて行かれたよ? …………うん。僕、ふつうの日はようちえんがあるし。色々しげりんにおねがいするね? 土日にはいくから」
 そんな事を話している陸斗を横目で見ながら、和真は溜め息を吐いた。

「ガキな分、善悪の判別が付かずに、見境も容赦もなくなりそうだよな……。あの茂野とマブダチだなんて、平然と公言する位だし」
「素直な良い子だとは思うけど、笑顔の下にこんな一面があったとはね。調教なんて言葉、どこから覚えたのかしら。さすが寺島さんの子供だわ」
 そこで美樹がしみじみと口にした内容を聞いて、和真は驚きながら問い返した。

「え? お前、陸斗の事を分かっていて、話を振ったわけじゃないのか?」
「公社の事を知っているなら、社内で《トラウマ製造機》の異名を持つ茂野さんの事も耳にした事があるだろうから、お仕置きの一環としてちょっと連中をビビらせる為に、名前を出しただけなんだけど」
 それを聞いた和真は、心底うんざりした表情になった。

「……どうなっても俺は知らんぞ? 陸斗を巻き込んだ上にやる気満々にさせてしまったせいで、さっきから寺島が、こっちを睨んでいるし」
「それはそっちが宥めておいて」
「だから面倒事ばかり俺に押し付けるなと、言っているだろうが!」
 本気で腹を立てた和真だったが、美樹は小さく笑っただけで再び靴を履き、悠然と会場内を歩き始めた。
 そんなちょっとしたアクシデントはあったものの、出席者達に確固たる公社の危機管理能力と、美樹の容赦の無さと、美那の守銭奴ぶりと、陸斗の底知れなさをアピールし、美久は政財界の要人達に顔を売って将来の人脈作りに勤しんで、無事にパーティーは終了した。
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