25年の時を超えた異世界帰りの勇者、奇跡の【具現化】で夢現の境界で再び立ち上がる ⛔帰還勇者の夢現境界侵食戦線⛔

阿澄飛鳥

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第12話 常識の範囲外

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『アリエスリーダー。こちらCPコマンドポスト。【パッケージ】は確保しましたか? どうぞ』
「CP! アタシのカメラが見えてないのか!? 【パッケージ】が小型境獣に突っ込んでいった! 発砲許可を求む! 長渕、武田! 見えているなら援護しろ!」
 
 槇原はバイクのサイドバックから折りたたみ式の小銃を取り出しながら、インカムに叫ぶ。
 
 ここに来たのは松里アキパッケージを連れ戻すという目的のためだ。当然、境獣との戦闘など想定していない。
 
 アキは施設内でも数秒のカメラの異常や、警備員のシフト交代の隙をついて、高さ4メートルの壁を乗り越えて脱走した。
 そして、あの少年はスマフォも小銭も持たず、なぜか電車に乗って、しかも買い物までしてここまで来た。
 
 全て予想の……いや、常識の範囲外だ。
 
 それが余計に槇原を苛立たせる。
 慣れない装備に手間取りつつ、なんとか射撃体勢に入ると、アイアンサイト越しに白刃の駆け巡る様が見えた。
 
「何なのよあの子……!」
 
 それは筆で達筆な文字を描くようになめらかで、そして恐ろしいほどに速い。
 
 アキは白い剣1本を片手に、化け物の間を縫うように走り、すれ違いざまに切り刻んでいく。
 相手はミノタウロスやゴブリンといった小型境獣といえど、生身の人間など紙切れのように引き千切ることができる相手だ。
 
 だというのに、アキはその場に押し寄せる敵を次々と骸に変えていった。
 
『こちらCP。射撃許可が出ました。ですが120秒後にハンマー、セイバーが到着、攻撃を開始します。至急、撤退してください』
「CP、了解! アキくん! 逃げるわよ! アキくん!」

 槇原は叫ぶ。だが、アキにはその声が聞こえていないかのように、その動きは止まらない。
 ならば先に小型境獣の殲滅を、と発砲しようとしたが、人間とは思えない速度で動くアキが射線に入ってしまい、狙いが定まらないでいる。
 
「くっ……!」
 
 槇原は歯噛みして道路の反対側へ移動した。
 この位置ならば向かってくる敵の後方集団を狙うことができるだろう。
 
 うつぶせの射撃体勢を取った槇原は引き金を引くと、5.56ミリの小銃弾が立て続けにミノタウロスの胸に吸い込まれる。
 
 しかし、敵は倒れない。
 
 対人用のこの銃では威力が不足している。
 あの子は本当に何者なのだろう。なぜ自分は子供の援護をしているんだろう。この状況はなんなのだろう。

 そう自分の状況を俯瞰しながら、槇原は射撃を続けるのだった。

 
 ◇   ◇   ◇
 
 
「やっべぇーですよ。あれ」
「本当に人間か? ゴブリンの頭蓋骨をハムみたいにスライスしてるぞ」
 
 観測手の長渕が漏らした言葉に、狙撃手の武田は同調する。
 
 武田の構えている25式狙撃銃のスコープの先では、剣1本で次々と小型境獣を斬り伏せていく少年の姿があった。
 上官の槇原からは「援護しろ」との命令を頂戴したが、肝心の少年があれでは命令の意味が変わってくる。
 
 その証拠に、槇原がバイクから離れた場所で射撃を開始した。
 武田たちは槇原の撤退の援護をするつもりだったが、ここで小型境獣の一団を殲滅するしかない。
 でなければあの少年は止まらないだろう。
 
「ミノ、最前列、ゴブリンのせいで足止め食らってるやつ。距離およそ150メートル」
「確認した」
「エイム――いえ、待って二尉!」
 
 そのとき、射線上に少年の背中が映る。
 いったん引き金から指を離した武田だが、少年は何かを察したようにこちらを見ながら横にステップした。
 
 それを見て、武田は目標のミノタウロスの眼球を狙って引き金を引く。
 強い衝撃。スコープを覗く視界が大きく揺れるが、武田は感触から狙い通りに直撃したことを確信した。
 
「……ひ、ヒット。ヘッドショット。武田さん、パッケージに当たりますよ!」
「いや、あの子供、俺が狙ったことに気づいていた。だから撃った」
 
 次弾を装填しながら武田が言うと、長渕は顔を引きつらせる。
 
「本気で言ってます?」
「ああ、今の1発は譲って頂いた、というやつだ。邪魔にならんよう最後列からやっていこう」
 
 再びスコープを覗く武田の横で、長渕は「ありえねぇ……」とぶつぶつ言い始めた。
 彼のいつもの癖だ。状況が急変すると長渕は独り言が止まらない。だから無線のマイクもオフにしている。
 
 それでもしっかりと観測手を務めるのなら構わない。
 
 武田は338ラプア・マグナム弾をゴブリンの喉に直撃させながら、そんな今の状況をふっと鼻で笑い飛ばした。
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