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第2章
森の王
しおりを挟む手付かずの森には大木が多く、空は葉によって塞がれ光が僅かにしか届かない。この森の暗さと姿の見えぬモンスターが、薄気味悪さを助長させる。
背後の木に何か当たった音がした。
振り返るアレン。何も居ないが、石か木の実の様な物が転がっているのが見える。
しまった! と後ろを振り返るが、気付くのが遅かった。
アレンの顔を左から何者かが、殴り付ける。
今までに経験した事の無い衝撃を感じながら、後方へと転がされる。
少し離れた木にぶつかり止まった。すぐさま立ち上がろうと足に力を入れるが、足が言う事を聞かない。
全身が茶色の毛で覆われ、人間よりは1回り大きな体で四足歩行。大きな猿みたいな姿をしているが、手は体格に見合わず異様に大きい。握り拳は人間の頭ほどはあるだろうか。
この付近の住人には、森の王と呼ばれ恐れられている、エンティと言うモンスターだ。もし学校で習った通りだとすると、二人では敵わないだろう。
「アレン! 早く立て! 狙われるぞ」
アンジが怒鳴っているのが聞こえるが、そんな事は分かっている。しかし、足に全く力が入らないのだ。
アレンの状態を見たアンジは、強化魔法「A・エンハンス」を自身に使用し、攻撃の構えを取る。
エンティはアンジの方に向き直すと、凄い速さで襲いかかって来た。
「動きは早いが、この程度なら」
アンジが体を斜に構え、回避する準備を整えると、エンティが目の前から消える。
音のする方向を見ると、尻尾を木に巻き付け木から木へと移動している。大きな体とは不釣り合いな、変則的な動きに目が付いていかない。
アンジは死角からエンティの大きな手に掴まれ、軽々と持ち上げられるとそのまま地面に叩きつけられた。
頭から血しぶきが飛ぶ。
地面に横たわった体には力が入らず、強い眠気が襲って来る。
火魔法「炎舞」を発動しようとした所でアンジは気を失った。
マナとダートンは、川を伝って上流へと移動しスノウを探していたが、大きな崖に阻まれていた。
「これは流石に登れないね」
ほぼ垂直に数十mはあろうかと言う岩肌を見て、ダートンは引き返す事を決めた。
「それにしても、スノウって野性ってイメージとは真逆の人間よね? 本当にこんな森の中にいるのかしら」
それはダートンも思っていた事だった。どちらかと言うと、教室で魔法学の本を読んでいた印象の方が記憶に残っている。
「一旦、アレン達と別れた所まで戻ろうか」
来た道を引き返し始めようとした時、恐らく崖の上の方角だろうか。甲高い声で叫ぶ、獣の声がした。
崖の上を目で確認すると、猿の様なモンスターがこちらを見ていた。
ダートンが身構えるのを見た猿は、手に持っていた何かをこちらに投げつけて来る。
落ちくる物を見たマナが、悲鳴を上げる。
ダートンは直ぐさま防御魔法「ディンゲ」を発動させる。
遅れてマナはディンゲの前に、水の塊を作りあげた。
落ちてきた物は、水とディンゲが緩衝材として働きゆっくりと地に降りた。
それを見て、またマナが悲鳴を上げる。
落ちて来たのは血まみれで意識の無い、アレンとアンジであった。
衝撃音と共に地面が少し揺れた。
ダートン達の前に、返り血を浴びた大きな猿が威嚇の様な唸り声を上げた。
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