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第2章
風の脅威
しおりを挟む高速で向かって来たナオの爪を双剣で受け止める。ぶつかった武器の間には美しい金属音が奏でられる。
ふわりと宙に舞ったかと思えば、急降下し爪で斬りつけて来る。返す刀で斬り返すが、そよ風に吹かれた風船の様にゆらりとナオが距離を離し回避する。
荒々しい性格とは裏腹に、なんて美しい戦い方なのだろうかと、アレンは素直にそう思った。
「その場に留まると、ナオの良い様にやられるぞ!」
上官の男が声を上げる。
確かにその通りだな。
上官の助言を聞いて、電撃を体の周りに拡散させる。それを見てナオは一旦距離を取った。
良く見れば、ナオは魔装を展開した上にあの魔装具も発動せている。攻撃も防御も両方担えるま さに攻防一体だが、先日ナオ自身が言っていた様にあれでは魔力の消費が激しい。ならば勝つためには長期戦を仕掛け魔力を削り、あの魔装具を維持できない様にすれば勝機が見えるだろう。
双剣の一本を鞘に納め、剣での攻撃も魔法も円滑に行える様に構えなおす。
「てめぇ、一刀で俺の攻撃が防げるとでも思ってんのか?」
ナオを中心として周囲に砂埃が舞う。
それを見てアレンは敏捷性を向上させる魔法「S・エンハンス」を使用した。
「その程度の小細工で!」
風を伴いながらこちらに向かって来る。こちらの剣が届く間合いに入ったかと思えば、横へ急旋回し視界から消える。
後ろを振り返るが、そこにはもう居ない。ふわりと柔らかく上に舞い上がっているのを、 視界に捉えたと思えば高速で斬りかかって来る。俊敏にバックステップで回避する。
時間差を付けるこの独特な緩急こそがナオの強みなのだろうと思う。
左手に溜めて置いた魔力を、目の前に降下してきたナオに向け放つ。
「フラッシュ!」
閃光が放たれ、視界を奪われたナオは再び空中へと逃れる。
「ちぃっ! 雑魚らしい戦い方しやがって!」
悪態を言いながら目を擦るナオに向けて、更に魔法を放つ。
「カーレント!」
太い電撃に打たれたナオは、銃で撃たれた鳥の様に力無く落下した。
剣を首に向ければ、上官から「待て」がかかるだろう。
ナオの首元に向けて剣を振った。
しかし振った剣が離れて行く。いや、体ごと離れているのだ 。
ナオから放たれた突風により、アレンは吹き飛ばされる。
「勝った、とでも思ったかてめぇ!」
怒気を強めながらナオは立ち上がった。
魔装具を出していても、カーレントを食らって麻痺を起こさないほどの魔装を維持しているのか。
「直に叩き込むしか無いな」
左手に魔力を溜めながら、アレンはナオの間合いへと突っ込む。
S・エンハンスにより強化された敏捷性を生かし、変則的なステップを見せる。
ナオの繰り出す突風を回避し、斬りかかる。
それを爪で止めたナオは、もう片方の爪で襲い掛かる。
アレンは爪を避け腕を掴むと、腕を引っ張りナオの逃げ手を封じると剣で突きを繰り出す。
体を捻じらせそれを回避するが、またもや腕を引っ張ら れバランスを崩した。
それを見て腕を更に引っ張りつつ手を離し、電撃をゼロ距離で打ち込んだ。
「そんな初級魔法で、俺の魔装を貫けるとでも思ってんのか!」
馬鹿な! いくら威力が低いとは言えゼロ距離で食らっても麻痺を起こさないとは! アレンは自分の予測が甘かったと認識し、距離を取り策を練り直そうとするが突如地面に抑え込まれる。
これは、風魔法か!
上から下へと吹き付ける風の風圧で地面に押し付けられていた。
風に気を取られていたが、ふと視界の下に何かが目に入った。
……爪だ。
アレンの喉元に突き付けられた爪は、負けを意味していた。
「雑魚にしては、頑張った方じゃねぇか」
勝ち誇ったナオの表情を見せ付けられた まま、上官から「そこまで」と声が聞こえた。
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