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第2章
優しさとナオ
しおりを挟むゆっくりとした足取りで、日陰になっている所に腰を下ろした。
また負けた。
別に学生の時から凄く強かったと言う訳でも無いが、負けが続いた事はあまり記憶にない。それにこれが実戦だったとすれば、俺は呆気なく死んでいるのだ。軍に入れば負ければ死ぬと言う世界だろう。そんな所に足を踏み入れているのに、あまりに力不足の自分に腹が立つ。
次はダートンとジャオシンジャが練習試合をする様だ。
自分自身を平均的な能力だとすると、他のみんなはどこか特化した所がある。強味がありそれを活かしたスタイルを持っている。いま試合をしているダートンなら硬い防御から、隙をみて長いリーチの槍で刺す。ジャオシンジャなら魔法は攻撃、防御、回復、全て使える上にあの三節棍。長いリーチと短いリーチどちらにも対応出来て隙が無い。
だが、俺には何も無い。
剣はイマイチ、得意だと思っていた魔法も勝負の決め手になるほどの威力は無い。
「なに恐い顔で見てんだ?」
ふと我に返ると、自分の前にナオが立っていた。
「そんな顔で応援したって、試合ならジャオシンジャが勝つけどな」
そう言ってる最中に、ダートンが三節棍で殴り飛ばされたのが視界の隅に入った。
「ナオは……強いな。俺じゃあどうやっても勝てそうにない」
「そらそうだろ! エリート中のエリートだぞ。負ける訳がねぇ」
「エリートか、やっぱり才能の差なのかな? ……急に自分に自信が無くなって来たよ」
ナオはしゃがみ込むと、意外な言葉を口にする。
「お節介かも知んねぇけどよぉ、お前魔法に頼り過ぎなんじゃねぇか?」
アドバイス? ナオが??
「珍しいな、そんな優しそうに見えるナオは」
「あぁ? 馬鹿にしてんのか?」
「いや! そう言う事じゃ無いんだけど」
「本当だろうな?」
「本当だよ。それより魔法に頼り過ぎってどう言う事だ?」
「そのまんまの意味! 魔法に頼り切ってるから、相手に魔法を警戒されやしーし。そうなると、魔法で仕留めるのは厳しいだろ?」
「まぁ、確かにそうだな」
「だったらもっと剣術磨いて、その輝きでお前の最大の武器を見えなくすりゃ良いんだよ」
「……短所を磨いて長所を隠せってか。剣術の訓練か」
「そもそもお前は、カッコイイって理由だけで双剣選んだろ? 今は双剣かっこよく思えねぇのか?」
ナオの言葉に昔を思い返してみる。
確かに入学して少しした頃に、これから使う武器を決めて下さいと先生に言われている場景が思い返される。
「良くそんな前の事覚えてるな。……双剣は今見てもカッコイイよ」
「なら大丈夫だろが。カッコイイとか凄いとか、その気持ちがあるならなんぼでも上手くなる。男って奴は単純だからな!」
確かにその通りかも知れない。魔法学校の上級生で双剣を操る人が居た。その剣さばきが余りにもカッコ良くて、俺も双剣を武器に選び練習したもんだ。
あの頃の気持ちを思い出して、これから剣術の鍛錬をするか。
「ありがとう、ナオ。悩みが少し解決したよ」
「お前には借りがあるからな、気にすんな」
「借り? そんなのあったか?」
「まぁ、気にすんな。じゃあな」
ナオはそのまま去って行った。
あいつが俺に借り? 少し思い返してみるが思い当たらない。代わりに記憶に蘇ってきたのは、今とは正反対の性格をしたナオだ。
「そう言えばあいつ、1年や2年生の時はもっと大人しい普通の性格だった様な」
更に記憶を思い返そうとすると、アンジが飛んできた。
「痛てぇし強ぇ……」
「顔がボコボコじゃないかアンジ」
対戦相手は……ユウ・フィッシャーか。
ユウ・フィッシャーは「気」や「無」と呼ばれる特殊な魔法を使える。ユウ固有の無属性魔法と言えば、自身の魔力と相手の魔力が触れれば吸収する性質がある。つまり魔装で覆った手で相手を殴れば、ダメージと共に魔力も奪うと言う変わった魔法だ。
「へーーいアンジ! そんなもんなのかな? 弱くない?」
因みに人を怒らせる才能も備えている。
「てめぇ調子に乗りやがって!」
口は元気だが足はフラフラとしている。殴られたのもそうだが大分魔力を奪われているのだろう。
「アンジ、もうやめとけ」
「でもよう、あいつかなりムカつくぜ」
「まぁ、今日はこっちの全敗だからそれは認めて、みんなで特訓でもしてやり返してやろう」
「それ良いな、やられたらやり返す!」
魔法学校を卒業してからの戦いだと、3戦0勝2敗1分けか。
強くならなければならない。
なんだろうワクワクする。鍛えればまだ強くなれるはずだ。
不思議な高揚感を覚え自然と笑っていた。
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