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第2章
マレーシュ
しおりを挟む「マレーシュって町は何処にあるんだ?」
揺れる馬車の中でアンジは尋ねた。ケイムは地図を広げると指を刺す。
「マレーシュはここだよ。キャスタルから北へ半日ほどの場所だ」
「半日! 結構遠いな」
「湿地帯に囲まれた町で、主に農業が盛んな所だ」
「それならホーストンに似た街並みなんかね?」
「そうだな。人口こそ違いはあるが、町の雰囲気などは似ているんじゃないかね」
二人の会話を聞きながらアレンは気持ちを落ち着かせるのに四苦八苦していた。
今までホーストンを出たことが無かったが故に、見たこと無い風景に心が踊る。しかし、これから向かう先ではもしかすると悪魔の門が現れ、過酷な任務になるかも知れない。 その相反する二つの思いが頭の中を巡る。先日、ホーストンから出て来る時に兵士としての覚悟を改めた以上、この見たことのない風景に対する気持ちを抑えなくてはならない。
アレンは瞑想をしたまま馬車に揺られ続けた。
何時間経った頃だろう。ケイムが外を確認すると不安げな顔を受けべた。
「もうすぐ着くはずだが、雲行きが怪しいな」
「天気が悪いとなんか良くねぇのか?」
「馬鹿かお前は」
ケイムの一言にアンジは怒り出す。
「湿地帯に囲まれてるってのが関係しているんじゃないのかい?」
「ダートンの言う通りなのだよ。雨が降れば足場が悪くなる」
「湿地帯なら尚更の事なのだよ」
なるほど、確かに良くない事態だな。
「戦闘が起 こるなら、かなり悪い条件になるな」
アレンのその言葉で、やっとアンジも理解した。
馬車は半日を掛けマレーシュへと到着した。そこは周りを湿地帯に囲まれた、小高い丘の上に作られた町だった
「ホーストンより広い町なのに、砦は無いのね」
マナがそう言った事で初めて気づいた、町を見渡しても確かに砦が無い。
「おいおい、これじゃもしもの時に町の人は何処に逃がせばいいんだよ?」
「慌てるな。ここは目に見える場所に砦は無いのだよ」
「ん? どう言う事だ?」
「お前は少しは黙っておれんのか。これからその場所へ向かう」
ケイムは町の兵士に挨拶を交わすと、町の中心へと向かって行く。
町は広いが、確かにホーストンに似た田舎の様な 雰囲気が漂っている。町と言うよりは広い村、と言った方がしっくりと来るかも知れない。
駐屯地が見えてきた。しかし周りは木製の塀で覆われているくらいの小規模なものだ。
「ホグナー大尉! どうしましたこんな田舎までお越しになられて?」
この駐屯地の責任者だろうか、ケイムに挨拶をしに駐屯地の中から出て来た。ケイムは悪魔の門の事を説明し始めるが、「冗談は止して下さいよ」と「本当の事なのだ」と言うやり取りが続く。
それも仕方がない。いきなりやって来て神話で出て来る悪魔の門が、ここに現れる可能性があると言われても信じられないだろう。
「……まぁ、ホグナー殿がそこまで言うのでしたら」
男は半信半疑ながらケイムの言う事を受け入れ た様だ。
「では、ここの地下施設を見せて貰えるかな?」
「はっ、こちらでございます」
男の案内に着いて行くと、駐屯地の中に巨大な穴が空いていた。後から設置されたものだろうと思われる階段を下りて行くと、巨大な地下空間が現れた。
「……これは」
マナはこの空間を見て言葉を失う。それもそうだろう。手前はロウソクで明かりがあるが、明かりの無い奥の方は何処まであるのか分らない。こんな巨大な空間は人が作れるとは思えない大きさだった。
中には軍の施設がちらほらと建てられている。
「驚かれたでしょう」
男がこちらの考えを察した様に話しかけて来た。
「ここはもちろん我々が掘った空間ではありません。いつからあるのか誰がこの空間を作り 出したのか未だに分かってはいないのです」
「しかしこれだけの広さがあれば、またとない軍事施設として利用出来ると考えこの基地が作られました」
「自然に出来た穴って事は無いのですか?」
ダートンの質問に、この空間を指さしながら男は答える。
「この空間は縦横1.5㎞、高さは18m。ほぼ正方形で均等に出来ております」
「地下水等で出来た穴では、この様な空間にはならないでしょう」
言われると確かにそうだ、ならばここは人為的に作られた空間なのだろう。
「この広さがありますので、何かが有事が起こりましても町の住人全員ここに避難出来ます」
「避難先は大丈夫そうだな。予想していたよりはあまりにも巨大だったが」
「よし、では調査機器の設 置に掛かるぞ」
ケイムが指示を出し、地上へと戻ろうとした時。
地上で大きな爆発が起こった。
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