デモンズ・ゲート

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第2章

光る人間の正体

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 「こいつは一体何者なのか? その調査が行われていたが、このほど判明した。意識はあるが喋らず、動かず、まるで全身が麻痺を起こしている様な姿」
 「古い文献にこれらの症状と一致する物があった」
 「こいつの正体は雷鳴の刻印者だ」
 そう言われても、知らない事ばかりで何一つピンと来ない。
 「刻印って言うのは何なんだ? こいつが未来の俺ってどういう事なんだよ?」
 こちらの言葉を抑える様に、こちらに手を向けた。

 「慌てるな。順を追って話そう」
 「まず刻印と言うのは、簡単に例えるなら私が渡した魔法石の様な物だ。その力は比べられないほど強力だがね」
 「刻印を所持した者は刻印者と呼ばれ、人外な力が得られると 言われている。刻印については未だ謎が多いのだが、こいつが所持していたと思われるのが雷鳴の刻印と呼ばれる物だ」
 「ホーストンの報告書にあった様に、大量の魔物を一瞬で消し去ったのも、この刻印の力だろう」
 
 「ここまでを聞けば、何て素晴らしい力だろう! と思うかも知れないが刻印にはもう一つ恐ろしい力がある。……それは呪いだ」
 「呪い?」
 「刻印は所持者に呪いを掛ける。それは刻印によって違うのだが、雷鳴の刻印の場合は力を使えば使うほど、所持者の体に麻痺が起こり始める」
 「そして最後は心の臓が麻痺し、死に至ると言われている」
 「こいつはその雷鳴の刻印者の末路なのだよ」

 「それが俺とこいつと、どう関係があるんだ?」
 「こ いつには今、刻印者と思えるほどの魔力を感じない。つまり刻印がこいつから離れたと思われる」
 「そして今、雷鳴の刻印を所持しているのは、お前だ……アレン!」
 「ど、どう言う事だよ? 俺はそんな大きな力を感じた事なんてないぞ!」
 ケイムが首を傾げる。
 「単眼の巨人を倒した時の事を覚えていないのか?」
 単眼の巨人? 覚えているのは蹴り飛ばされ、激痛に悶えている光景しか記憶にない。
 「いや……ケイムやアンジが巨人を倒したのかと思っていたんだけど」
 ケイムが息を吐く。
 「あの時、重症を負っていたお前が立ち上がった。立ち上がっただけでも驚く事であるのに、その手には刻印が輝きを放っていた」
 「そしてお前があの巨人を倒したのだよ」< br> 「お前がこれから先、刻印の力を使う度に呪いが増す。最終的にはこのベッドで身動き一つも取れない、こいつと同じ末路を迎えるんだ!」
 
 なんだろう? とても現実離れしていて受け入れがたい話だが、自分の死に様の見本が目の前にいる以上、事実を受け入れよと脅迫してきている様な感覚を受ける。

 「力を使わなきゃいいのよね?」
 「そうか! マナの言うとおりだ! 使わなければ良いんだろ? それに刻印の発動の仕方も俺には分からないし」
 「そうだよ、使わなければアレンはそんな死に方しなくて済むんだよね?」
 ケイムは少し間を置いてから、首を振った。
 「人と言うのは巨大な力を持つと、使わずにはいられない。それにアレンが危機的な状況に陥っ た時に、本人の意思とは関係無く発動する可能性もある」
 「それと力を使わなかったとしても、普通の人の様に死ねない。理由は分からんが、刻印者は普通の者からすれば不老とも思えるほど長寿となる」
 「周りの者が年老い、そして死んでいく中でも、刻印者は若々しい姿のままだと言われている」

 
 俺は刻印を使えば、こいつの様に生きる屍になり、刻印を使わずとも知っている人は先に居なくなり、ただ一人この世界で生き続けなければならないと言うのか? 俺は弱い人間だが、そんな特別な力はいらない……普通でありたい。普通に死にたい。どうしてこうなった? 原因はそこで横たわって居る奴だ。
 こいつのせいで俺は普通で居られなくなったのか! こんな力を俺に押し 付けたこいつが憎い! ……殺してしまいたいほどに!

 無意識のうちに双剣を抜き、斬りかかっていた。
 だが、一本の刀がそれを阻止する。

 「なんで邪魔をするんだアンジ!」
 「そんな顔で、そんな感情のままにこいつを殺しちまったら、お前は悪い方に堕ちて行ってしまう。……そんな気がした」
 「それでも! こいつは殺してやらないと気が済まない! 俺は普通で居たい! みんなと一緒に年を取って、静かに最後を迎えたい!」
 「こいつのせいで、俺の一生が地獄の世界に変わったんだ!」

 この場に居る者すべてが長い付き合いだが、これほどの激情を見せるアレンを見たのは初めての事だった。
 また、普通でありたいと言うアレンに、「普通」であ る自分たちが掛ける言葉も出ては来なかった。
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