デモンズ・ゲート

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第2章

調査部隊

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 マレーシュに現れた悪魔の門の事件から、一月半ほど経った頃。

 俺はマナと共に、故郷であるホーストンに戻って来ていた。
この日の空は薄い雲が太陽を隠し、辺りは涼しい風が流れている。その風は墓に掛けられた花の輪を優しく揺らしていた。

 住人みんなが一つになり町の復興を目指していたホーストンは、謎の病が急速に広がり僅か数日の間に人々は次々と倒れ……死んでいった。事態のあまりの早さに医者も回復魔道士も為す術が無く、亡くなった者を見送る事しか出来なかったらしい。

 この病はすでに沈静化している。だから俺達も此処に居れるのだが、病は自然に治った訳でも、魔法で治したわけでもない。ほんの一部の人を除いて、みんな死 んでしまったのだ。
 マナの母親もその病に命を奪われた1人だった。


 「この町は、もう……死んだのかな?」
 母親の墓に向かって手を合わせていたマナが言った。
 もうこの町には住人は居ない、それはもう町とは呼べないだろう。このまま廃墟と化し自然へと還っていくだけだ。
 「……そうかも知れないな」

 その言葉を聞くと、マナはうつむき体を小さく震わせながら泣いた。
 家族も、故郷も、全部無くなってしまった。心の依代を突然失い、今はただただ泣くことしか出来ない。

 ホーストンは変わり果ててしまった。死んだのは人だけの話では無い。猫や犬といった動物も居なくなり、植物も枯れ始め緑豊かだった景色は、今は薄い茶色に染まっている。
 キャスタルの研究室のメンバーが原因を調べているが、未だになにも分かっていない様だ。

 マナの母親の墓に手を合わせ、「おばさん、あの約束これからも守るよ」と念じるとマナを連れ死んだ故郷を後にした。


 王国の首都、キャスタルでも異変が起こっていた。
 人の海と言われるほどの活気を誇っていた街の商店通りは、今では人が減り以前の様な活気はなりを潜めている。
 きっかけは小さなデマだったが、次第にその話題からこの国が戦争状態になっている事、悪魔の門の事などが一般の人に知れ渡ってしまい、最初は富裕層が、そしてそれに続いて商人達がここに居ては身に危険が及ぶと考え、キャスタルから別の国へと去って行った。
 そのため人口は減り、 物の流通が滞り、国力が衰退し始めていた。
 国王は周辺諸国に援軍と支援の協力を願ったが、各国はキャスタルに協力をすれば、その敵国バルバロの怒りを買い自国もキャスタルと同じ目に合う事を恐れ協力には首を横に振っていた。
 キャスタル内部でもこの戦争について、降伏派と徹底抗戦派に考えの違う者が二つに別れ、内戦の起こりえないと否定が出来ない情勢になりつつある。
 
 軍はこれ以上、国力が削られる前に攻めに打って出ることを決定した。それに先行して潜入部隊がバルバロへ動員され、攻め手を探っている。


 「これは負け戦ではないかね?」
 研究室の椅子に座り、茶をすすりながらケイムが言った。
 「なんでだよ! 正面から戦ってみなきゃ分かんねぇ だろ」
 「キャスタルの全軍を守りを捨て攻めに使っても、勝つ見込みは半分もないだろう。それにデマの情報を流し、国力を削いだのも恐らくバルバロの工作員だ。既に静かに制圧されつつあるんだよこの国は」
 アンジは強く机を叩いた。
 「お前は頭良いかも知れねぇけど、どうしてそんなに冷静でいられるんだよ! この国が無くなっちまうかも知れねぇんだぞ!」
 「だからこそでは無いかね? 抗い続ければこの国は破壊され尽されるだろう。しかし降伏すれば、国は変われど町や人は残る。君はこの国が焼け野原になるのを望んでいるのかね?」
 「そんな事望んでるわけねぇだろ! でも悪魔の門で今までに殺された人、町、残された人の想いはどうするんだよ。抑えられない憎しみ を持ったまま降伏なんて出来わけねぇだろ!」
 「その感情に任せた上、結果的にすべてを失ってもいいのかね! もう少し冷静に考えろ馬鹿が!」
 「何だとてめぇ!」
 拳を握りしめケイムに向き合いうアンジ。

 「ちょ、ちょっとやめてよ二人とも! ここで喧嘩しても意味ないでしょ」
 
 その時、扉を叩く音がした。
 ケイムが「どうぞ」と言うと、部屋に入って来たのはキャスタル軍の司令官であった。意外な人物の来訪に、研究室の人間全てに緊張が走る。

 「張り詰めた空気だな。揉め事か?」
 「……いえ、その様な事は」
 「まぁいい」
 「司令官殿はどのようなご用件でここへ?」
 「知っているとは思うが、我が国はバルバロへ攻め入る事を決 めた。だが、兵の数が少ない。そこで君たち研究室の人員もすべて戦闘に加わってもらう」
 「それは……これから悪魔の門に襲われる町や村は見捨てると言う事でしょうか?」

 「そうだ、すべてを攻めに回さねば勝ちは無い。調査部隊は本日をもって解体。明日からは一兵として活躍してもらう」
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