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第2章
急襲
しおりを挟む司令官が部屋を去った後、初めに口を開いたのはダートンだった。
「見捨てるのか、国が、魔物に殺されていく自国の人を」
「そこまでせんと勝てんと言う事だ。それで戦争にも負けてみろ、この国には何も残らん。だから私は降伏する方が良いと言っているのだよ」
「で、でも、国を守る為の事なのよね?」
「そうだよ。今はもう守りに割く戦力さえ惜しい状況だ。ならば全戦力で敵を打ち国を危険から救う。と言う事だ。国が捨て身で敵国を打つと決めたのだから、我々下っ端にどうのこうの意見を言う権利はない。言われるがまま、ただただ目の前の敵を倒すだけなのだよ」
意見する権利はない。と言いながらも、ケイムは国の決断に 不満げな表情を見せていた。
「明日からはここに集合する必要は無くなった。君たちは演習場で他の部隊と合流し、指示を仰ぎたまえ」
ケイムの言葉を聞き、研究室から出て行く。借りている自室に戻る道中に誰一人言葉を発しなかった。
国が無くなると言う事が現実味を帯びてきている。その不安に押し殺されていた。
あまり眠れぬまま、翌日の朝を迎えた。
今の暗い気分と同じ様な空模様。すっきりしない一日の始まりだった。
城の演習場には入りきらないほどの人が集まっていた。キャスタル中の兵、戦争への参加を希望する者がここに集められて来たのだ。
国中をかき集められて来たこの軍勢を前にしても、相手国を打ち取ると言うにはやはり少なく 感じる数だ。
攻めても守っても負ける。しかしただ殺されるのでは無く、誇りを持って国のために戦い散っていけ。と言う事なのだろうか。
それならケイムの言う様に、降伏の道を選んだ方がマシな気がしてくる。
そう思っていた時、演習場の一部でざわめきが起こる。
「おい、どうしたのだ!」
部隊長の一人が騒ぎに駆けつける。
「急に何十人も倒れてしまいまして、なにが起こったのか……」
「なんだと? 早急に医者を呼べ。僅かであってもいま戦力を失ってはならん」
「アレン、何か起きたの?」
振り返るとマナが立っていた。
「いや、急に何人か倒れたみたいなんだ」
「倒れた奴、マレーシュの連中ばかりじゃないか ?」
「本当だな。こちらに来た時になんか悪いもんでも食ったんじゃねぇか」
「ははっ、ちげぇねぇ。田舎もんの胃袋が都会の料理にビックリしたんだろ」
その場に居る者が、口々に勝手な予測を立てて笑っている。
やっとやって来た医者は、倒れた者を診察すると青ざめた顔で「ホーストンの……」とつぶやいた。
それを聞き、一部の者が演習場を後にする。ホーストンで起こった謎の病を知っているものは少ないが、話を知っているものならばその恐ろしさに逃げたくなるだろう。
ざわつき始め、混乱が起こるかと思った時、頭の中で嫌な音が聞こえた。
古びた木の扉を開けるような音。
悪魔の門が開く時の音だ。
「マナ聞こえたか!」
「うん、あれ は……悪魔の門の」
「ケイム達に知らせに行くぞ」
混乱が広がる演習場を後にし、研究室へ向かう。
地下の廊下へ下りた時に、鼻につく悪臭が漂って来た。
「なんなのこの臭い。なんかの実験してるのかしら?」
手で鼻を塞ぎ研究室の扉を開けると、そこは血の海だった。机や椅子は壊れ明らかに争った跡が見て取れる。しかしスノウやケイム、研究者たちの姿がない。
「どうしたのこれは! ケイムやスノウは?」
「……分からない。でもスノウが居れば、何かが襲ってきたとしても大丈夫なはずだ」
研究室以外を探そうと思った時、背後に気配を感じた。
「誰だ!」
返答は無い。
ゆっくりと扉の先から姿を見せたのは、錆色の剣を持った骸骨だった。< /div>
「これはホーストンの時の!」
驚くマナの手を引き、位置を入れ替え骸骨の前に立つ。
双剣を抜き、骸骨の剣撃を左の剣で防ぐと右の剣が骸骨を横に両断した。
地上へと戻ろうとすると、更に何体かの骸骨が廊下に侵入して来ていた。それらを次々に破壊し突破する。
「まさかキャスタルにまで悪魔の門が現れるなんて……」
そのまさかだが、現れる前にスノウやケイムなら感知出来たはずだ。
……だから、先に研究室が襲われたのか? しかしスノウが倒されたとすると相当な強さの奴になる。
地上へと出ると外は雨が降り始めており、そこには骸骨、鎧だけで動くもの、双頭を持つ化け物、あらゆる異形の魔物が兵たちに襲い掛かっていた。
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