天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

文字の大きさ
21 / 48

過去編 家庭教師ジスラン2

しおりを挟む
 正午から二時間ほど過ぎた頃、ノアがやってきてジスランの来訪を告げた。

 ノアを伴い応接室へ向かうルネは、いつもより心なしか急ぎ足だ。
 
 四階建ての城館のうち、二階には書庫や客室のほか、広さの異なる応接室がいくつかある。
 そのうち一番奥の一室がいつもルネが使用している部屋だ。

「失礼いたします。ルネ様をお連れしました」

 ノックをしてから一呼吸置いたのち、ノアが扉を開いた。
 二人掛けの大きなソファに座っていたジスランは、立ち上がってルネを出迎えた。

「こんにちは、ルネ様」 

 緑がかった長い黒髪をゆったりと束ねた髪型と丸い眼鏡は、ジスランの穏やかな人柄によく調和している。
 いつもと変わらぬジスランの姿に自然と安堵の息が漏れ、ルネは自分が自覚以上に緊張していることに気が付いた。

 あまり物怖じしない性格だと思っていたが、突然起きた身体の変化に不安が湧き上がるのは当然のことかもしれない。

「ジスラン先生、よろしくお願いいたします」

 挨拶を返すと、ジスランはこちらこそと笑みを浮かべた。
 
 ノアが退出してから、二人は書斎机の方へと移動した。

 応接室には低いテーブルを挟んで二対の豪奢なロングソファが設置されているほか、二人で使用しても十分な大きさの机と椅子も用意されている。

 講義の際に使用するのは専らこちらの机だ。

 ルネはいつも通りに椅子に腰かけると、ジスランはルネの横に立って脇に抱えていた書物を机の上に置いた。

「ルネ様、大人になられたそうですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます……なのかな。まだあまり実感はありません」
「初めはそんなものですよ」

 ジスランは笑みを浮かべたまま、ゆっくりと頷いた。

 ジスランとはかれこれ四年以上の付き合いになるが、真顔よりも笑顔でいる時間が多く感じるほど、彼はいつも温和な笑みでルネを見守ってくれている。

 また、年齢が十二歳も離れているにもかかわらず、ルネを子ども扱いすることなく、一人の人間として丁寧に接してくれる。

 ルネはそんなジスランを尊敬し、兄のように思い慕っていた。

「ルノー様からは、ルネ様は性教育に関して何も教わっていない状態と聞いておりますのが、実際どの程度ご存知でいらっしゃいますか」

 ジスランの問いかけに、ルネは小さく首を傾げた。
 性教育と聞いても、あまりピンと来ていないというのが実情だ。

 思い返してみると、十数年生きてきた中で、体つきや社会的役割が異なるという男女の区別以外に「性」というものを意識したことは一度もなかった。

「大人になると、ここから白い液体が出るとしか……」
 
 おずおずと自らの下腹部に手を当てると、ジスランは優しい目元を更に和らげた。
 何も知らないルネが自身を恥じぬよう、気遣ってくれているのだろう。

「なるほど。では、どのようにして女性が妊娠するかは知っていますか?」

 ルネの男女の知識は、幼い頃読んだ童話で止まっている。

 恋に落ちた騎士と姫が幾多の困難を乗り越えて結婚し、子どもが生まれて幸せに暮らしたという定番の物語だ。

 自ら書庫に赴くようになってからは、自然と恋愛主体の物語は選ばなくなった。

 身近な女性は母や使用人といった大人だけで、遊び相手は兄と弟、それに幼馴染のジュストだけだ。

 恋愛感情が生まれる環境になく、ルネにそういった話題を持ち掛けてくる人もいない。

 ルネが性というものに興味を持たなかったのは必然とも言えた。

 今も興味がないのは変わっておらず、知りたいのは自身の身体についてであり、結婚や妊娠といったものは遠い将来の話としか思えなかった。

「いえ……結婚をした男女の間にできるとしか」 

 ルネが首を横に振ると、ジスランは承知しましたと頷いた。

「焦る必要はありません。一つひとつ覚えていきましょう」 
「はい、先生」 

 ジスランは長い指先で、机の上の書物をパラパラとめくった。

 開かれたページには、第二次性徴という文字と人体の絵や図が並んでいる。

 ジスランは書物の図解を指差しながら、男性の成長と先日ルネに起こった現象を丁寧に説明してくれた。

 ジスランの話は初めて聞く言葉で溢れていた。

 説明を聞いても、自分の身体の中で子種が作られているという実感は湧かなかった。

 しかも、性交という行為をすれば、今の自分でも女性を妊娠させることができてしまうという。

 精神的に未熟なまま、身体だけが先に大人になっていくことに、ルネは漠然と落ち着かない心地になった。

「性交の手法については、必要になった時に改めて講義しましょうか」
「はい」

 ルネの不安げな表情を察してくれたのだろう。
 ジスランの提案にルネはほっと胸を撫でおろした。

「ここまでで、何か質問はございますか?」

「あの、先生。精液は寝ている間に排出されるのが普通なのでしょうか」

「いえ、体質にもよりますが、精子を溜めたままにしておくのが主な原因と考えられています。……では、ルネ様。ここからは具体的にお教えしますので、ソファに移りましょう」

 具体的という言葉に、落ち着いたばかりの心臓が小さく跳ねる。

 ジスランに促されるまま、ルネは少しの緊張をもってソファへと移動した。

 ソファに腰を下ろすと、ジスランは隣には座らずルネの真正面に立った。

「睡眠時の射精……夢精を防ぐには、定期的にマッサージをする必要があります」

「マッサージ?」

「はい。ルネ様はご自身でここに触れたことはありますか?」

「……用を足す時と入浴時以外にはありません」

 ルネにとっては今の今まで、陰茎はただの排泄器官でしかなかったのだ。
 それ以外の用途で触れたことなど、あるはずもない。

 実際に下着を汚した経験がなければ、同じ器官から精液が出てくるとはとても信じられなかっただろう。

「承知いたしました。触れ慣れていらっしゃらないなら、初めは私が手本を見せた方が良さそうですね。では、ルネ様。ズボンと下着を膝のあたりまで下ろしていただけますか」

「……え? ここで、ですか?」

「ええ。皆初めは教師の指導のもと、実際にやってみて感覚を掴んでいくのですよ。男性同士ですから恥ずかしがる必要はありません」

 とっさに戸惑いの声を上げしまったものの、ジスランの言うことはもっともだ。
 マッサージの手技を座学で習得するのは難しそうだし、効率も悪い。

 むやみに肌を人に見せてはいけないとルノーから厳しく言い渡されているが、あくまで「不必要に」という意味にすぎない。

 それに、ジュストが数年後に通う予定の士官学校や王城の騎士団宿舎など、寝食を共にする場所では集団で風呂に入ると聞いたことがある。

 ジスランの言う通り、同性同士であれば肌を見せても問題はないのだろう。

「……分かりました」

 応接室という場所で局部を出す気恥しさは消せないが、ここで躊躇っていても仕方がない。
 ルネは覚悟を決めると、ソファから立ち上がって衣服を膝の上まで下ろした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

なんか違う? と思ったら兄弟の中で自分だけ人間だった話

日色
BL
逞しい兄弟たちと仲良く暮らしていたアーシュ。 でもなんか自分だけ、いつまで経っても背は高くならないし、牙が大きくならないし、兄様たちの血も美味しく感じられない。 なんか違うかも、おかしいかも。と思っていたら、実は自分だけ人間だと知り…… 吸血鬼(兄複数)×人間(アーシュ10歳)のお話です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

宮廷乙女ゲームの元恋人、親友、先輩は聖女の兄を逃さない

猫吉大福
BL
病弱な少年は幸せな生涯に幕を下ろした。 貴族として生まれた少年はヒロインで悪役令嬢の兄として生まれた。 悪事を働き、全ての罪を双子兄に着せて失踪した家族。 ヒロインは聖女としての力を覚醒させて宮廷に守られている。 処刑間近の時、助けてくれたのは懐かしい顔のあの人だった。 宮廷乙女ゲームに悪役転生した少年は、龍王子・聖騎士団長・災厄魔導士から求愛を受ける。 救えなかった人生、今度こそ君を守るよ。 王子・騎士団長・魔導士×悪役運命の少年執事 この世界は月読みによって支配されている。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

処理中です...