天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

文字の大きさ
20 / 48

過去編 家庭教師ジスラン1

しおりを挟む
 下腹部に妙な不快感を覚え、ルネは目を覚ました。

 湿った衣服が肌に張り付く、嫌な感触。
 身体を起こし、気のせいであってくれと祈りながら布団をめくり上げた。
 
 感触の通り、寝間着の股間部分に染みが広がっている。

 信じ難い光景にルネは青ざめた。
 この歳になって粗相をしてしまうとは――。

 とにかく着替えなければとベッドの上に膝立ちになりズボンを下ろしたルネは、衣服や下着に付着しているものが尿ではないことに気が付いた。

 白く濁った液体に恐る恐る触れてみると、少し粘ついている。
 それに臭いも尿とは異なる。

 状況からして自分の身体から出たものに間違いないが、これは一体何なのだろう。
 粗相ではないとすると、病気の類だろうか。

 ベッドの上で考え込んでいると、寝室の扉を叩く音が聞こえた。

「ルネ様、おはようございます。入ってもよろしいでしょうか」

 物音が聞こえたのだろう。
 扉の前で主人の起床を待っていた従者のノアが、ドア越しに声を掛けてきた。

 ノアはルネより四歳年上の、専属の従者だ。
 ヴィレール領内の地方領主の家系の者で、ルネが八歳になる頃に屋敷にやってきたため、かれこれ六年の付き合いになる。

 いずれ騎士団の宿舎住まいになることを見据え、ここ最近は着替えや風呂などは自分でするようにしているが、起床の管理や衣服の用意、風呂の準備などは引き続きノアに任せている。

 ルネはノアを家族や友人のように思っているが、ノアが一貫して従属の態度を崩さないため、ジュストとルネのような気安い雰囲気はない。

 とはいえ決して不仲というわけではない。
 むしろ二人の関係は良好だ。
 ノアがルネを大切にしてくれているのは言葉の端々から伝わってくるし、ルネもまたノアを信頼している。
 
 粗相のように見える姿を見られるのは気恥しいが、一人で悩んでいても埒が明かないし、どのみち着替えをするためにはノアが必要だ。

 ルネが入室を許可すると、ノアは律義に「失礼します」と告げてから扉を開けた。

「ルネ様……なぜ下着を」

 寝室に足を踏み入れたノアは、衣服と下着を膝まで下ろしているルネを見て身体をぎくりと強張らせた。

「ノア……」

 ルネは手招きをしながら、入り口に立ち尽くしているノアの名を呼んだ。
 ノアは気まずそうな顔で口を固く結ぶと、ノアらしからぬ遅々とした足取りでベッドに近付いてきた。

「寝ている間にここから白い液体が出たんだけど、何か分かる……?」

 不安げなルネの顔と下腹部を交互に見たノアは、返答に窮したようで押し黙ってしまった。

「ノア……?」

 常に冷静なノアは、感情を顔に出すことは滅多にない。
 そのノアが困ったように口を閉ざしているのは、やはり悪い病の兆候なのだろうか。

「……おめでとうございます、ルネ様」
「え?」

 ようやく口を開いたノアの言葉が理解できず、ルネは思わず首を傾げた。

「ノア……どういう意味?」

 ノアはルネの問いかけに曖昧に頷くだけで、答えてはくれなかった。

「詳しくはルノー様からお聞きになるのがよろしいかと思います」
「兄上に……?」
「はい。報告してまいります」

 ノアは手早くルネの着替えと清拭用の濡れタオルを準備すると、一礼してから部屋を出ていった。

 訳が分からないが、とりあえず悪いものではなさそうだ。

 安堵したルネはベッドから降り、用意してもらった温かいタオルで下腹部を丁寧に拭った。

 下着を取り換え、寝間着から着替えを済ませて一息ついた頃、バタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。

「ルネ! 大人になったんだって!?」

 扉が開くと同時に、ルノーの興奮した声が室内に響き渡った。

「兄上。おはようございます」
「ああ、ルネがついに……」

 ルネの挨拶が聞こえていないのか、ルノーはベッドの前にいるルネのもとへ一直線にやってきた。
 そしてまじまじと上から下まで見つめてから、寂しそうな笑みを浮かべた。

「お前ももうそんな歳か……」
「あの、兄上……大人になったとはどういう意味でしょうか」
「ノアから何も聞いてないのか?」
「はい。おめでとう、としか……」

 ルネの返答を聞いたルノーは、盛大な溜め息を吐き出した。

「あいつめ、だから真っ先に俺を呼びに来たんだな。まあ、純粋な瞳に見上げられたら言いにくいのは分かるが……」
「兄上?」
「あー……、えーとだな」
 
 それからルノーはばつの悪そうな表情で、あの白い液体は病気ではなく、身体が大人になった印だと教えてくれた。

「大人になると、寝ている間に白い液体が出るのですね……知りませんでした。兄上も同じですか? その際に下着が汚れてしまうと思うのですが、兄上は対策などされていますか?」

 病気でないと判明した途端、ルネは好奇心を押さえられず矢継ぎ早に質問した。

 語学や歴史、経営学など学問については一通り教わっているが、身体の仕組みについてきちんと学んだことは一度もなかったからだ。

 ルネの質問責めに苦笑いを浮かべたルノーは、宥めるようにルネの頭をぽんぽんと撫でた。

「ルネ、知的好奇心が旺盛なのは素晴らしいが、こういう話は家族同士だと気恥ずかしいものなんだ。俺も子細は父上ではなく、家庭教師から教わったしね」

 ルノーを困らせてしまったのだと気付き、ルネはしゅんと肩を落とした。 

「……そうなのですね。申し訳ありません、兄上」
「初対面の先生だと緊張するだろうから、今雇っている方の中から選ぶことになると思う。早速父上と相談してくるよ」

 こくんと頷くと、ルノーはルネの前髪を掻き分け、額に触れるだけの口づけをした。

 ルノーが頬や額にキスをするのは、決まってルネが気を落とした時だ。

 ルノーやノアがルネを祝いつつも明言を避けたのは、それだけ繊細な話題ということなのだろう。
 
 扉へ向かう優しい兄の背中を見つめながら、ルネは大人になることへの漠然とした期待と不安に胸をざわつかせていた。





 それからちょうど一週間が経った頃、性教育の担当はジスランになったとルノーから告げられた。

 ジスランにはルネが十歳の頃から歴史と法律を担当してもらっている。

 彼以外にも語学や数学、マナー、ダンス、音楽など複数の教師がいるが、礼儀正しく温和な性格と継続年数からジスランに決めたそうだ。

 ルネには原因を伝えられないまま辞めていってしまう教師も多い中、長く勤めているジスランには家族の皆が信頼を寄せている。

 ルネも知識の豊富なジスランの講義が好きで、週に二度の来訪をいつも楽しみにしている。

「自分の身体の変化が少し心細かったのですが、ジスラン先生なら私も安心です」
「そうだな。今日の午後は歴史じゃなく、そっちの講義をしてもらうよう先生には事前に手紙で連絡してある」
 
 手配をしてくれた礼を告げると、ルノーはルネの髪を撫でてから部屋を出ていった。

 それからルネは少しだけ落ち着かない心地で、いつもの日課をこなしながらジスランがやってくる午後を待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

なんか違う? と思ったら兄弟の中で自分だけ人間だった話

日色
BL
逞しい兄弟たちと仲良く暮らしていたアーシュ。 でもなんか自分だけ、いつまで経っても背は高くならないし、牙が大きくならないし、兄様たちの血も美味しく感じられない。 なんか違うかも、おかしいかも。と思っていたら、実は自分だけ人間だと知り…… 吸血鬼(兄複数)×人間(アーシュ10歳)のお話です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

宮廷乙女ゲームの元恋人、親友、先輩は聖女の兄を逃さない

猫吉大福
BL
病弱な少年は幸せな生涯に幕を下ろした。 貴族として生まれた少年はヒロインで悪役令嬢の兄として生まれた。 悪事を働き、全ての罪を双子兄に着せて失踪した家族。 ヒロインは聖女としての力を覚醒させて宮廷に守られている。 処刑間近の時、助けてくれたのは懐かしい顔のあの人だった。 宮廷乙女ゲームに悪役転生した少年は、龍王子・聖騎士団長・災厄魔導士から求愛を受ける。 救えなかった人生、今度こそ君を守るよ。 王子・騎士団長・魔導士×悪役運命の少年執事 この世界は月読みによって支配されている。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

処理中です...