天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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いざ、初デート2

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 ルネの前ではいつもこうだ。
 アダンはひっそりとうなだれた。 

 木の幹に頭をぶつけたり、触ってくださいと叫んだりと、醜態を晒し続けている。
 すっかり面白い男として認識されている現状を少しでも挽回したいと思っていたのに、デート開始十分でこのざまだ。

「……ありがとう。けど、職務に支障がない限り、容姿をどう思われようと気にしていないから」

 アダンの言葉を慰めと受け取ったのか、ルネは却ってアダンに気遣いの眼差しを向けてきた。

 世辞ではなく、心から思っているのに。
 そう反論したかったが、アダンはぐっと言葉を呑み込んだ。

 真逆の思い違いとはいえ、問題があると思い込んでいる容姿について触れるのは、ルネにとって心地良い内容ではないからだ。

 アダンは一度咳払いをしてから、意識的に話題を切り替えた。

「そういえば団長、図書館までの道をご存知なんですね」

 城門を出た時から、ルネはアダンが案内するまでもなく図書館への最短ルートを選んで歩いている。

「街の地図は一応全部頭に入れてある」

 団長職は王族と宮廷内の秩序を守るのが最優先であり、有事の際は司令塔の役割を果たすため、通常業務で城下の警邏に当たることはない。

 前任の団長は休日になると城下の酒場を梯子していたものだが、 ルネは恐らく片手で数えられるほどしか外出していないはずだ。

「流石ですね。俺はまだ知らない道も多いですよ」
「地図を見るのが好きなだけ――あ」

 十字路を右に曲がった途端、どれほど衆目を浴びようと無反応だったルネが、光に照らされた宝石箱のように瞳を輝かせた。

 目的地である王立図書館が前方に見えてきたからだ。

 一見すると貴族の屋敷のように大きく立派な建物だが、豪奢というよりは堅牢さを重視した重厚な造りをしているのが遠目からでもよく分かる。

 アダンは資料を探しに何度か訪れたことがあるが、蔵書数が多いゆえに目的の本を探し出すのに苦労したのをよく覚えている。

 圧巻とも言える数の本棚を前に、ルネはいったいどんな表情を見せてくれるのだろう。

「楽しみですね」
「うん」

 そっと隣に視線を送ると、ルネの薄紅色の唇が柔らかな弧を描いていた。

(可愛いな……)

 団長としてではなくルネ自身の感情から出た反応に、アダンの胸が大きく高鳴った。

 勇気を出して誘ってよかったと先週の自分を褒めたたえながら、アダンはルネと共に王立図書館の敷地へと足を踏み入れた。

 

 
 建物に入ると、アダンは利用者登録のため入り口の右手にある受付へとルネを案内した。

 受付カウンター内には複数の職員がいるが、ルネを見るなり全員が色めき立った。

 図書館の利用者も足を止めてルネに見入っているが、ルネは街中を歩いていた時と同様、無関心を貫いている。

 幸運にもルネに声を掛けられた男性職員は、耳まで赤くしながら必要事項を説明し始めた。

 美しい人を前にすると人は舞い上がってしまうものだ。
 その気持ちは痛いほど分かる。

 しどろもどろになっている職員に自分の姿を重ねながら、アダンはルネの背後に立って話が終わるのを待った。

 説明の最後に登録証となる割符を受け取ったルネは、「ありがとう」と言いながら職員に軽く頭を下げた。

 貴族らしからぬ物腰の低さはルネの美徳であるが、相手に気を持たせてしまう一因でもある。
 王城の司書の男も、ルネに報われない思いを寄せていると団員が話していたのを思い出す。 

 そして御多分に漏れず、職員の男もやはり恍惚とした表情でルネを見つめている。
 ルネがまた一人の男を虜にした瞬間を目撃してしまい、何とも言えない感情がアダンの胸に去来した。

 職員の気持ちが分かる一方で、自分の想い人が他の男を魅了している光景は、気持ちが良いものではない。

 恐らく、ジュストは同じ経験を数えきれないほどしてきたのだろう。
 その心情を思うと同情を禁じ得ない。
 だからと言って、ジュストに遠慮しようという気は全く起こらないが。

「貸し出しは最大二週間、一度に五冊までか……」

 背中に送られている熱視線の意味に気付くはずもなく、ルネは手の中にある割符を見つめながらぽつりと呟いた。

 読書家のルネにとって、二週間で五冊では物足りないに違いない。
 アダンは腰に下げている荷物袋から自分の割符を取り出すと、ルネの目の前に差し出してみせた。

「じゃあ俺の分と合わせて十冊借りられますね!」
「え? でも、アダンも探している本があるんだろう」
「俺は今日ここで読んでいっちゃうんで。あ、もちろん返却は俺が行きますから安心してください!」

 借りる際は本の所在を明確にするため、特別な場合を除き本人が赴く必要があるが、返却は代理人でも可能となっている。

 使い走りであろうと何だろうと、接点を持てるだけでもありがたいというものだ。

「それは流石に――」
「団長、その話は後にしましょうか。せっかく図書館に来たんですから」

 アダンは提案を断られないようルネの言葉をやんわりと遮ると、建物の奥へと視線を向けた。
 釣られるようにその視線を辿ったルネは無数の書架を前に、再び瞳を輝かせながら小さく頷いた。






 悩みに悩んで選び抜いた五冊の本を机の上に置いてから、ルネは音を立てないよう椅子を引いた。

 椅子に腰掛け、真剣に表紙を眺めているルネの艶やかな髪を、アダンはじっと見つめていた。

 館内の至るところに読書用の机と椅子が用意されているが、二人がこの四人掛けの席を選んだのは単に一番近い場所にあったからに過ぎない。

 二人掛けであれば悩むことはなかったであろう問題に、アダンは頭を抱えていた。
 そう、席は四人掛けなのである。
 アダンは今、ルネの隣に座るか正面に座るかの決断に迫られていた。

 姿を眺めるなら断然正面だが、距離が近いのは隣の席だ。
 どちらも捨てがたい魅力がある。

 きっと恋人なら迷わず隣を選ぶのだろう。
 だが、友人ですらない今の自分では、図々しいと思われてしまうかもしれない。

 問題はそれだけではない。
 今の時間帯は空席が目立つが、利用者が増えたら相席をせざるを得ない。
 見知らぬ者がルネの隣に座るのも、正面から顔を眺められるのも嫌だ。

「座らないの?」

 いつまでも立ちつくしているアダンを不審に思ったのだろう。
 不可解そうにこちらを見上げるルネに、アダンは我に返って思考を中断した。

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