天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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変化7

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「一方的な物言いになってごめん。ジュストが、俺のために色々先回りして考えてくれているのは分かってる。でも、いつまでもその優しさに甘えている訳にはいかないから」
 
 すっかり押し黙ってしまったジュストに申し訳なく思ったのだろう。
 先程までの意志の強さが滲み出ていた声とは異なり、こちらをじっと見上げるルネの声音は優しい気遣いに満ちていた。
 
 近頃は嫉妬や独占欲に駆られることの方が多いというのに、ルネはまだジュストを「優しい幼馴染」と認識してくれているらしい。

 先程の嫌な予感はやはり杞憂だ。
 それでも胸にこびり付いている小さな不安に気付かない振りをして、ジュストは返す言葉を探すべく思考を再開させた。

 ルネの発言を言葉通りに捉えるなら、ルネは公平さを求めているだけでアダンを選んだ訳ではない。

 約束が破棄されても、ルネが入団した頃の状況に戻るだけだ。
 ジュストがすべきことは何も変わらない。

 できる限り行動を共にし、近付こうとする者は排除する。
 どうしても目が行き届かない範囲については、ルネを信じるしかあるまい。

「お前の考えは分かった。約束って形じゃなくても、他の奴とマッサージしないならそれでいい」
「……ありがとう、ジュスト」

 ようやくジュストの同意を得たルネは、あからさまにほっとした表情を見せた。

 理由を告げず約束だけを押し付けるのは、想像以上にルネの負担になっていたのかもしれない。

 ルネを守るため、あるいは嫉妬心に駆られて、意図せず傷付けてしまうことはこれからも少なからずあるだろう。

 それでも、離れていかないでほしい。
 ルネが一番に頼るのは自分であってほしい。

 出会った時からずっと、ルネだけがジュストの生きがいなのだから。

「……でも、別にいいだろ、頼ったって。幼馴染じゃねえか」

 ぽつりと呟く。

 自身の感情を閉じ込める決意をしたのは、家族とも使用人とも同僚とも異なる、幼馴染というジュストだけが持っている関係性を守るためだ。

 心が固まるまでどれほどの時間と葛藤を要したか、ルネには分かるまい。

 ルネはしばらくの間ジュストの瞳を覗き込むように見つめていたが、おもむろに視線を落とした。

「だって……ずっと一緒にはいられないだろ」
「……そりゃ、そうだけど」

 団長や副団長といった要職に就いている者は、伴侶を得た後も宿舎住まいが課せられている。

 この先ルネがどこぞの女と結婚をしたとしても、団長職を退くまでは共に過ごせるが、残りの長い人生は別の道を歩まなければならない。

 退団後の進路は家門により規模の違いはあるものの、どこも似たり寄ったりだ。

 文官になり王都に残る道もない訳ではないが、空きが少ない狭き門だ。

 それに、恐らくルネはヴィレール公爵家が抱える私兵団を引き継ぐため、領地に戻らなければならないだろう。

 騎士団長の経験を活かし自領の警護の責任者となる傍ら、次期当主であるルノーに万一のことがあった場合に備え、ルネにもある程度の政務が回されるはずだ。

 グラック侯爵家の次男であるジュストも、似たような立場になるだろう。

 家門に守られてきた立場から家門を守る立場になれば、幼い頃のように気軽に会いに行くことはできない。
 年に数回顔を合わせる機会があれば良い方だろう。

 だからこそ、共にいられる時くらいは甘えてほしい。
 ルネへの恋慕を生涯押し殺して生きていくことと比べれば、大それた願いではないはずだ。

 それさえも許されないとしたら、一体何を支えに生きていけばいいのだろう。

「……じゃあ、ずっと一緒にいられたら、一生甘えてくれるのか」
「え?」

 思わずこぼれ出た言葉に、ジュストははっと口元を抑えた。

「ジュスト、今何て――」
「――何でもない、独り言だ。時間も遅いし、そろそろ戻る。お前も早く休めよ」

「え、うん……水を飲んだら寝ようと思ってるけど」
「おう。じゃ、おやすみ」

 ジュストは気まずさを誤魔化すようにルネの髪をぐしゃぐしゃに乱してから、逃げるように部屋を出た。

 ものの数歩で自室に戻ると、その場にしゃがみこんで扉に背を預けた。

 先程の呟きはルネには聞こえていない。
 大丈夫だ、と必死に言い聞かせる。

 仮に聞こえていたとしたら、むやみに聞き返すようなことはするまい。
 むしろ、じっくり言葉の意味を考えてから返答してくるはずだ。

 とはいえ、唐突に話を終わらせた不自然さは確実に感じているだろう。

 ジュストは大きな溜め息とともに前髪を乱暴に掻き上げてから、ルネの帰りを待っている時も全く同じ行動をしていたことに気が付いた。

 今日は余りにも色々なことがありすぎた。

 これから先、どうするべきなのか。
 一体何が最善で、誰の感情を優先すればよいのかを、考えなければならない。

 だが、今は何も考えられそうにない。

 ジュストは重苦しい現実から逃避するべく、そっと目蓋を下ろした。
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