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~ 女狐城 ~
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僕らの目の前には広大な女狐の城がそびえ立っている。
「では、行きましょう」元郎は歩きだした。
いよいよ、女狐の城に僕達は侵入する、鼓動は高鳴り 死というものがくっきりと形になり、すぐ背後にぴたりとくっつき立っているように感じられた。
真堂丸達は常にこんな状態で存在している、瞬間瞬間こんな感覚になっているのだろうか。
人は死というものを普段から意識はしない、心のどこかで自分が今日死ぬと常に意識して生きている人間は稀だろう、考えたら死はいつ来るか分からないのだが、当たり前に明日も来ると思っている。
こんな時だからだろうか?
日々の日常が、どれ程ありがたいことなのかを身に染みて感じた。
生きたい、死にたくない。
こんな風に自分が感じていたなんて、
普段気づくこともなかった。
自分ですらも知らなかった僕自身の持つ生に対する執着の強さに初めて気づき驚いた。
「こっちです」
森を抜けると、目の前にそびえ立つように建てられた高い塀が見えた。
「こんなの、俺にはのぼれねえよ」しんべえが言う。
「大丈夫です、こっち」元郎は隠し通路の鍵を持っていたのだ。
「特別にゆるされた、信頼された兵に渡される鍵です」
城の城壁を抜け驚くことは、その中に広大な森が拡がっていたこと。
「でかいでごんすね、こりゃ案内なしに侵入は厳しかったでごんす」
一之助は目の前にひろがる森を見て、城の持つ面積の広さに驚き言った。
「ここから、歩いて三十分くらいの所に女狐の住む本殿があります」
「数々の罠がありますので、迂闊に歩かないでください、必ず僕の後ろを」そう言うと、元郎は向かって右の前方に石を投げた。
その瞬間、石の落ちた所に向かって何本もの弓が飛んできた。
ズババババアッ
「ひいいいいっ」しんべえは驚き叫ぶ
「こうなるので、気をつけて」
一同は喋ることなく本殿に向かい歩き続けた、時がとてもゆっくり静かに流れている様に感じた。
ガサッ ガサッ
先頭を歩く、元郎が身をかがめる。
狐の面をした、兵が二人
「女狐様も用意周到な方だよな、あんなにお強いのにこんな城、誰も侵入するような阿呆はいない」
「ああ、誰があの方と闘おうなどと思うものか」
二人の兵は歩いていった。
「行きましょう」
この辺りからしんべえの足はガクガク震えはじめていた。
見つかったら拷問され殺される。
こいつらだって人間、今は仲間だが自分の身が危なかったら俺を見捨てて逃げるだろう。
俺を守る馬鹿がどこにいるんだ。
自分の身は自分で守るしかねえ。
例えこいつらを裏切ったとしても。
しんべえはあまりの緊張感に、自分が今一体何をしてるのかもよく分からなくなってきていた。
とにかく、恐ろしさのあまり心臓は張り裂けそうだった。
「真堂丸殿、私は正直怖ろしい気持ちでいっぱいです、このまま城に進み女狐の場所まで辿り着いたとしても、我々には何ひとつ出来ないだろう」
大同は実際に女狐を自身の目で見てからと言うもの女狐が怖ろしくてたまらなかった。
もし、真堂丸殿に勝てなかったら、我々は何をされるんだ?
死ぬまで何をされるんだ? どんな残虐な目に?
考えたら、大同ですらもゾッとした。
「ひとつ聞きたいことがある」そう言ったのは乱
「何です?」と文太
「どこまで本気なんだ?」
「???」
「本気で大帝国と戦うつもりか?」
「いいえ」
「んっ?」その返事に少々驚く一之助
「別に戦いたいんじゃないですよ、一番良いのは戦わずに解決することですから」
「そんなで、うまくいくはずない、刃向かうって事は、女狐の様な化け物、十の幹部全てを敵に回し、その上、大帝国全ての兵を相手にすることになるんだぞ」
「国を手中におさめようとしてるような奴らだぞ、何故命を捨ててまで こんなことをする?」
「何故でしょうね、ただ黙ってじっとしていられなかっただけかも知れません、かっこつけて言うと自分のこころに嘘をつけなかっただけかも知れません」文太は不安な気持ちを含んだ笑みを浮かべた。
乱は呆れた様な表情を浮かべ文太を見つめ そして、目をつむった。
「正直、僕も無謀だと思いますよ大帝国を敵にまわすのは、だけどね。そんな人間がいることが心底嬉しく思いますよ」
「はははっ、真堂丸殿、文太殿。俺もいまだに信じられないと思いますが、微力ながらこの戦いが終わってもあんた達の側につかせてもらう」
「ちょっ、大同さん」乱が驚く。
しんべえは思っていた。
どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ、俺はあんな街で見たような人間の為に死ぬのはまっぴらごめんだ。
ここで、女狐の宝を奪い 即刻こいつらからは離れる。
こいつらと居たら命がいくつあっても足りない。
「あーっ人間見つけ」
突然の上空からの声に心の臓が飛び出しそうになる
そして、すぐさま木の上から弓矢が飛んできた
それは、しんべえめがけて射られた矢
ビュン
しんべえが気づいた瞬間、矢は顔の真ん前に。
死んだ
「あっ、あっああああああああ」しんべえは地面に倒れ……
しんべえの顔の真ん前、矢は真堂丸の手で掴まれていた。
大同は瞬時に自身の武器を上空に投げ、敵はそれに直撃し気を失い地面に落ちてきた。
「大丈夫か?」と真堂丸
まっ、まじか もしあいつが止められなかったら、あの矢は俺の顔面に・・・しんべえはゾッとし、腰が抜けた。
一同は更に森の奥地に足を踏み入れていく
ゴゴゴゴゴゴオオオーッ
「何だこの音は?」乱が言う
「滝だ」
「滝まであるでごんすか?」
その時だった。
元郎が喋り出す。
「真堂丸さんと僕以外はこれ以上来ちゃいけない」
その言葉に一同が反応する。
ここまで来て、何を言ってるんだ?
「てってめぇどういうことだ」大同が元郎の襟を掴み物凄い剣幕で睨みつけた。
「分かるだろ?」
「わからねぇよ」
「死ぬんだぞ、この先待つのは地獄 こっからは見ちゃいけない」目をそらし元郎はつぶやいた。
「てめぇ」大同は止まらず、すかさず元郎に殴りかかる。
「待て」止めたのは真堂丸
「俺は構わん」
「何ですと」
元郎はつづけて言った。
「お前が待てば乱も行かない、他のみんなも死ぬ必要はないんだ、もし僕らが戻らなかったらにげろ」
「馬鹿を言えっ、そんなの覚悟の上だ、ここに来るまで何度命の覚悟があるか問いあった?今更何も惜しくはない」
「駄目だ、ここから先は誰一人来るな」
「なんだとてめぇ」
手を伸ばし止めたのは真堂丸
「大同悪いな二人で行く事にする」
「なっ、何ですとっ?」
真堂丸は僕の目を見つめる。
何だっ?
その時、僕の脳裏にひとつの言葉が思い浮かんだ。
それは、一山の言葉
真堂丸君きみが勝てる相手であっても敵はどんな手段を使うかわからない。
もし、君の仲間が人質にとられた時、君はそのまま戦いつづけられるか?
それは、確かに最悪の形のひとつでもあった。
もし、誰かが捕まれば真堂丸は刀を置くだろう・・・・
そしたら全ては終わる。
「分かりました」文太は拳を強く握りしめる。
ここまで来て力になれない、歯痒さ悔しさ、真堂丸一人に行かせてしまう、罪悪感。
「文太さん」一之助は思わず叫んでいた。
「行きましょう」元郎が向かったのは滝の方だった。
「?」
「実はあの裏が秘密の通路になっていて女狐の居る場所の一番近くに繋がっています」
「分かった」
二人は歩き出す、女狐の居る場所に向かって。
「本当に良いんですか?」一之助が文太を見ては言った。
僕は下を向く
「ここまできて、何もせず、何もできずだと」と地面を力一杯殴る大同。
ゴオオオオーーッ
滝の水は勢いよく流れ落ちている、二人はすでに水の向こう。
二人の背中が水の奥、揺れて見えていた。
その時…
元郎はチラッとこちらを向き優しく微笑んだ。
もしかしたら、元郎さんも僕と同じ事に気づいていたのかもしれない。
そして、僕らを生かす為に。
真堂丸も僕らを見た。
行って来る、心配するな
滝が落ちる水越しの奥から、その瞳はまるでそう語っているよう
力強い安心感に僕らは一瞬包まれたような気持ちになった。
二人の姿はそのまま闇の中へ消えて行った。
静まり返る僕ら、森の中の鳥の鳴き声がずっしりとこころに響く。
五分くらい過ぎた頃だろうか、沈黙を破ったのは乱だった。
一人刀を握りしめ歩き始めた。
「乱」叫ぶ大同
「おれ、やっぱ無理ですわ、元郎さんも一緒に帰りたい」
「分かっているか?彼らは最悪の想定を考えあっしたちを残した」
一之助もやはりそう考えていた。
「わかっている、俺だって足でまといになるつもりはねぇ」
大同はそんな乱の言葉に笑い出す。
「がははははっ、そうだな やはり友を置いてはいけん、行こう」
「なに、心配は要らない。もし足でまといになるくらいなら自らこの首かっきってしんぜよう」
「文太さん」一之助は文太を見つめた。
「やっぱり・・・」
文太は決断する。
「僕もここで待つだけは嫌だ、僕も行きます」
一之助は小さな溜息ひとつほほ笑んだ
「ふぅーまったく、そうですね」
「よしっ、いくぞ!!」
みんなは叫ぶ
しんべえも、宝を思い浮かべ奮い立つ
ここまで来てやはり、ただでは帰れねぇ。
ここまで来たのは女狐の宝を奪う為、この機を逃せば俺には本当に何も残らない。
ゴゴゴゴゴゴオオー
文太達もすぐさま二人の後を追い始める事に。
滝の裏から続くのは真っ暗闇のまっすぐ長い通路
天井には小さなろうそくが灯されていて暗闇ながらも、中は薄っすらと見渡せる。
「急ぐぞ、どんな罠があるやもしれん」と大同
僕らは全力で二人を追い始める
「なあっ、なあっ、なあっ」それはしんべえの震える声だった。
「何だっ」と乱
乱はしんべえの見上げる先を見つめた
「うっうわあああああっ」
「どうした?」大同も叫ぶ
「何とっ」
次の瞬間、僕は口を手でふさいでいた。
天井からは原型をとどめることのない、人間の死体が無数にぶら下がっているではないか。
「何だよこりゃ」しんべえが嗚咽する。
「女狐の仕業でごんすね」息を呑む一之助
「いかれてやがる」と乱
アアアアアァーーーー
なんとその天井には何十?いや何百という死体が通路のずっと先まで、ぶら下がっているのだ。
「急ぐぞ」と大同
僕らは再び走り始めた。
「なぁ、文太さん」
一之助の声
「先生はどんな気分でここを通ったって言うんでしょうね」
僕は真っ暗な闇に続く道を見つめた。
「これをやった、張本人と戦わなければいけない、先生は怖いんでしょうかね?」
僕は昔をふと思い出した。
それは剛大達の元に向かう時、同じような場面があったことだった。
ひとつだけあの時と違って言える事は女狐は人々に昔から語りつがれる本物の化け物、強さの底が分からないと言うことだった。
「先生、死なないですよね?」
僕は一之助さんを見て力強く言った。
「信じましょう」
どれ程の死体の下を走り続けただろうか。
目の前には大きな大きな赤い鉄の扉が開いていた。
「あそこだ、こころして進め」大同が叫ぶ
ドンッ
僕らは扉の先を進んだ。
「えっ?」
「・・・・・・・・」
「まじか……」
「嘘だ」
「こんなの嘘だよ」
みんなは絶句し言葉を失う
それは言葉を失うのに充分すぎる程絶望的な光景だった。
僕の前方には女狐の姿がはっきり見えた。
しかし、僕らを驚かした光景はそれではない
その少し手前、僕らははっきりと目にしたからだ。
元郎の刀が真堂丸の身体を突き刺し、貫ぬいている光景をはっきりと・・・
「では、行きましょう」元郎は歩きだした。
いよいよ、女狐の城に僕達は侵入する、鼓動は高鳴り 死というものがくっきりと形になり、すぐ背後にぴたりとくっつき立っているように感じられた。
真堂丸達は常にこんな状態で存在している、瞬間瞬間こんな感覚になっているのだろうか。
人は死というものを普段から意識はしない、心のどこかで自分が今日死ぬと常に意識して生きている人間は稀だろう、考えたら死はいつ来るか分からないのだが、当たり前に明日も来ると思っている。
こんな時だからだろうか?
日々の日常が、どれ程ありがたいことなのかを身に染みて感じた。
生きたい、死にたくない。
こんな風に自分が感じていたなんて、
普段気づくこともなかった。
自分ですらも知らなかった僕自身の持つ生に対する執着の強さに初めて気づき驚いた。
「こっちです」
森を抜けると、目の前にそびえ立つように建てられた高い塀が見えた。
「こんなの、俺にはのぼれねえよ」しんべえが言う。
「大丈夫です、こっち」元郎は隠し通路の鍵を持っていたのだ。
「特別にゆるされた、信頼された兵に渡される鍵です」
城の城壁を抜け驚くことは、その中に広大な森が拡がっていたこと。
「でかいでごんすね、こりゃ案内なしに侵入は厳しかったでごんす」
一之助は目の前にひろがる森を見て、城の持つ面積の広さに驚き言った。
「ここから、歩いて三十分くらいの所に女狐の住む本殿があります」
「数々の罠がありますので、迂闊に歩かないでください、必ず僕の後ろを」そう言うと、元郎は向かって右の前方に石を投げた。
その瞬間、石の落ちた所に向かって何本もの弓が飛んできた。
ズババババアッ
「ひいいいいっ」しんべえは驚き叫ぶ
「こうなるので、気をつけて」
一同は喋ることなく本殿に向かい歩き続けた、時がとてもゆっくり静かに流れている様に感じた。
ガサッ ガサッ
先頭を歩く、元郎が身をかがめる。
狐の面をした、兵が二人
「女狐様も用意周到な方だよな、あんなにお強いのにこんな城、誰も侵入するような阿呆はいない」
「ああ、誰があの方と闘おうなどと思うものか」
二人の兵は歩いていった。
「行きましょう」
この辺りからしんべえの足はガクガク震えはじめていた。
見つかったら拷問され殺される。
こいつらだって人間、今は仲間だが自分の身が危なかったら俺を見捨てて逃げるだろう。
俺を守る馬鹿がどこにいるんだ。
自分の身は自分で守るしかねえ。
例えこいつらを裏切ったとしても。
しんべえはあまりの緊張感に、自分が今一体何をしてるのかもよく分からなくなってきていた。
とにかく、恐ろしさのあまり心臓は張り裂けそうだった。
「真堂丸殿、私は正直怖ろしい気持ちでいっぱいです、このまま城に進み女狐の場所まで辿り着いたとしても、我々には何ひとつ出来ないだろう」
大同は実際に女狐を自身の目で見てからと言うもの女狐が怖ろしくてたまらなかった。
もし、真堂丸殿に勝てなかったら、我々は何をされるんだ?
死ぬまで何をされるんだ? どんな残虐な目に?
考えたら、大同ですらもゾッとした。
「ひとつ聞きたいことがある」そう言ったのは乱
「何です?」と文太
「どこまで本気なんだ?」
「???」
「本気で大帝国と戦うつもりか?」
「いいえ」
「んっ?」その返事に少々驚く一之助
「別に戦いたいんじゃないですよ、一番良いのは戦わずに解決することですから」
「そんなで、うまくいくはずない、刃向かうって事は、女狐の様な化け物、十の幹部全てを敵に回し、その上、大帝国全ての兵を相手にすることになるんだぞ」
「国を手中におさめようとしてるような奴らだぞ、何故命を捨ててまで こんなことをする?」
「何故でしょうね、ただ黙ってじっとしていられなかっただけかも知れません、かっこつけて言うと自分のこころに嘘をつけなかっただけかも知れません」文太は不安な気持ちを含んだ笑みを浮かべた。
乱は呆れた様な表情を浮かべ文太を見つめ そして、目をつむった。
「正直、僕も無謀だと思いますよ大帝国を敵にまわすのは、だけどね。そんな人間がいることが心底嬉しく思いますよ」
「はははっ、真堂丸殿、文太殿。俺もいまだに信じられないと思いますが、微力ながらこの戦いが終わってもあんた達の側につかせてもらう」
「ちょっ、大同さん」乱が驚く。
しんべえは思っていた。
どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ、俺はあんな街で見たような人間の為に死ぬのはまっぴらごめんだ。
ここで、女狐の宝を奪い 即刻こいつらからは離れる。
こいつらと居たら命がいくつあっても足りない。
「あーっ人間見つけ」
突然の上空からの声に心の臓が飛び出しそうになる
そして、すぐさま木の上から弓矢が飛んできた
それは、しんべえめがけて射られた矢
ビュン
しんべえが気づいた瞬間、矢は顔の真ん前に。
死んだ
「あっ、あっああああああああ」しんべえは地面に倒れ……
しんべえの顔の真ん前、矢は真堂丸の手で掴まれていた。
大同は瞬時に自身の武器を上空に投げ、敵はそれに直撃し気を失い地面に落ちてきた。
「大丈夫か?」と真堂丸
まっ、まじか もしあいつが止められなかったら、あの矢は俺の顔面に・・・しんべえはゾッとし、腰が抜けた。
一同は更に森の奥地に足を踏み入れていく
ゴゴゴゴゴゴオオオーッ
「何だこの音は?」乱が言う
「滝だ」
「滝まであるでごんすか?」
その時だった。
元郎が喋り出す。
「真堂丸さんと僕以外はこれ以上来ちゃいけない」
その言葉に一同が反応する。
ここまで来て、何を言ってるんだ?
「てってめぇどういうことだ」大同が元郎の襟を掴み物凄い剣幕で睨みつけた。
「分かるだろ?」
「わからねぇよ」
「死ぬんだぞ、この先待つのは地獄 こっからは見ちゃいけない」目をそらし元郎はつぶやいた。
「てめぇ」大同は止まらず、すかさず元郎に殴りかかる。
「待て」止めたのは真堂丸
「俺は構わん」
「何ですと」
元郎はつづけて言った。
「お前が待てば乱も行かない、他のみんなも死ぬ必要はないんだ、もし僕らが戻らなかったらにげろ」
「馬鹿を言えっ、そんなの覚悟の上だ、ここに来るまで何度命の覚悟があるか問いあった?今更何も惜しくはない」
「駄目だ、ここから先は誰一人来るな」
「なんだとてめぇ」
手を伸ばし止めたのは真堂丸
「大同悪いな二人で行く事にする」
「なっ、何ですとっ?」
真堂丸は僕の目を見つめる。
何だっ?
その時、僕の脳裏にひとつの言葉が思い浮かんだ。
それは、一山の言葉
真堂丸君きみが勝てる相手であっても敵はどんな手段を使うかわからない。
もし、君の仲間が人質にとられた時、君はそのまま戦いつづけられるか?
それは、確かに最悪の形のひとつでもあった。
もし、誰かが捕まれば真堂丸は刀を置くだろう・・・・
そしたら全ては終わる。
「分かりました」文太は拳を強く握りしめる。
ここまで来て力になれない、歯痒さ悔しさ、真堂丸一人に行かせてしまう、罪悪感。
「文太さん」一之助は思わず叫んでいた。
「行きましょう」元郎が向かったのは滝の方だった。
「?」
「実はあの裏が秘密の通路になっていて女狐の居る場所の一番近くに繋がっています」
「分かった」
二人は歩き出す、女狐の居る場所に向かって。
「本当に良いんですか?」一之助が文太を見ては言った。
僕は下を向く
「ここまできて、何もせず、何もできずだと」と地面を力一杯殴る大同。
ゴオオオオーーッ
滝の水は勢いよく流れ落ちている、二人はすでに水の向こう。
二人の背中が水の奥、揺れて見えていた。
その時…
元郎はチラッとこちらを向き優しく微笑んだ。
もしかしたら、元郎さんも僕と同じ事に気づいていたのかもしれない。
そして、僕らを生かす為に。
真堂丸も僕らを見た。
行って来る、心配するな
滝が落ちる水越しの奥から、その瞳はまるでそう語っているよう
力強い安心感に僕らは一瞬包まれたような気持ちになった。
二人の姿はそのまま闇の中へ消えて行った。
静まり返る僕ら、森の中の鳥の鳴き声がずっしりとこころに響く。
五分くらい過ぎた頃だろうか、沈黙を破ったのは乱だった。
一人刀を握りしめ歩き始めた。
「乱」叫ぶ大同
「おれ、やっぱ無理ですわ、元郎さんも一緒に帰りたい」
「分かっているか?彼らは最悪の想定を考えあっしたちを残した」
一之助もやはりそう考えていた。
「わかっている、俺だって足でまといになるつもりはねぇ」
大同はそんな乱の言葉に笑い出す。
「がははははっ、そうだな やはり友を置いてはいけん、行こう」
「なに、心配は要らない。もし足でまといになるくらいなら自らこの首かっきってしんぜよう」
「文太さん」一之助は文太を見つめた。
「やっぱり・・・」
文太は決断する。
「僕もここで待つだけは嫌だ、僕も行きます」
一之助は小さな溜息ひとつほほ笑んだ
「ふぅーまったく、そうですね」
「よしっ、いくぞ!!」
みんなは叫ぶ
しんべえも、宝を思い浮かべ奮い立つ
ここまで来てやはり、ただでは帰れねぇ。
ここまで来たのは女狐の宝を奪う為、この機を逃せば俺には本当に何も残らない。
ゴゴゴゴゴゴオオー
文太達もすぐさま二人の後を追い始める事に。
滝の裏から続くのは真っ暗闇のまっすぐ長い通路
天井には小さなろうそくが灯されていて暗闇ながらも、中は薄っすらと見渡せる。
「急ぐぞ、どんな罠があるやもしれん」と大同
僕らは全力で二人を追い始める
「なあっ、なあっ、なあっ」それはしんべえの震える声だった。
「何だっ」と乱
乱はしんべえの見上げる先を見つめた
「うっうわあああああっ」
「どうした?」大同も叫ぶ
「何とっ」
次の瞬間、僕は口を手でふさいでいた。
天井からは原型をとどめることのない、人間の死体が無数にぶら下がっているではないか。
「何だよこりゃ」しんべえが嗚咽する。
「女狐の仕業でごんすね」息を呑む一之助
「いかれてやがる」と乱
アアアアアァーーーー
なんとその天井には何十?いや何百という死体が通路のずっと先まで、ぶら下がっているのだ。
「急ぐぞ」と大同
僕らは再び走り始めた。
「なぁ、文太さん」
一之助の声
「先生はどんな気分でここを通ったって言うんでしょうね」
僕は真っ暗な闇に続く道を見つめた。
「これをやった、張本人と戦わなければいけない、先生は怖いんでしょうかね?」
僕は昔をふと思い出した。
それは剛大達の元に向かう時、同じような場面があったことだった。
ひとつだけあの時と違って言える事は女狐は人々に昔から語りつがれる本物の化け物、強さの底が分からないと言うことだった。
「先生、死なないですよね?」
僕は一之助さんを見て力強く言った。
「信じましょう」
どれ程の死体の下を走り続けただろうか。
目の前には大きな大きな赤い鉄の扉が開いていた。
「あそこだ、こころして進め」大同が叫ぶ
ドンッ
僕らは扉の先を進んだ。
「えっ?」
「・・・・・・・・」
「まじか……」
「嘘だ」
「こんなの嘘だよ」
みんなは絶句し言葉を失う
それは言葉を失うのに充分すぎる程絶望的な光景だった。
僕の前方には女狐の姿がはっきり見えた。
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