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~ 本当の想い ~
しおりを挟む元郎の刀が真堂丸の身体を貫通している光景が見え、僕の頭は一瞬真っ白になる
しんべえは思った。
あいつが女狐に唯一勝てるかもしれない希望だったんじゃねーかよ、これでもう勝機はなくなった。かりにあいつがあれで死なずとて、かなりの致命傷をおったのは間違いない。
もう不可能だ、あの致命傷で女狐に勝つ可能性はぜろに等しい。
しんべえは自分だけは何とか生き延びよう、咄嗟に部屋の扉の入り口に走り出そうとしていた。
その時
ギロリ
真堂丸の鋭い目が元郎を見る。
「クックックッ あっはっはっは、どうじゃ、仲間だと思っていた人間に裏切られる気分は?」女狐は甲高い声をあげ笑っている。
「んっ?」
「ちっ貴様ーっ」女狐がその光景を前に大声で叫び出す。
「えっ?」
なんと真堂丸の身体を貫き通したと思った刀は腕と身体の隙間を貫通していただけで、真堂丸によって見事に躱されていたのだ。
「良かった」
「元郎お前どういうことだ?」大同が叫ぶ。
元郎は真堂丸の視線を目の前に死を覚悟していた。
「どういうことだ?」
「いつから分かってたんです?」
「お前の視線から根底にある恐怖にひれ伏している状態はすぐに分かっていた」
「さすがです、本気ですべてを隠し演じ、ばれないようにしたんですが、あなた程一流の剣客になると、随分と心の奥深く人間を覗き見てるんですね」
「もう一度聞く、どういうことだ?」
真堂丸の鋭い視線が元郎の心を揺さぶる。
元郎の手足は微かに震え始めた。
真堂丸はそれを見逃さなかった。
「あっはっはっは、あっはっはっは 元郎 よいのか?」
「真堂丸を殺さなくて良いのか?」
その時だった。
真堂丸の手が元郎の背中にまわり、身体を押され、強く抱きかかえられた。
すると声が聞こえ始める。
小さく大きな声が心に響いたのだ
もう大丈夫だ、子供を人質にとられているんだろう?
大丈夫、俺に任せろ。
確かにそうしっかりと心に伝わった。
元郎はこの時、すべてこの男に任せたくなった。
もし叶うことなら、助けて欲しかった
この地獄のような場所から、自分の願いが叶えてもらえるのなら。
その時、更に自身の身に、心を震えあがらせる程の大きく力強い声が響く
「元郎、子供を殺すぞ」
この時、既に元郎にとって女狐は絶対的に逆らってはいけない、存在だった。
元郎にとって信仰しなければならない絶対的な神。
女狐は絶対に逆らえるはずのない、逆らってはいけない存在にまで神格化されていた。
元郎のこころから希望という文字は既に消えてしまっていたのだ。
「うおおおおおおおおおおぅー」
元郎は再び刀を強く握り真堂丸に襲いかかる。
大同は涙していた。
おっ、お前 命より大事な子供を人質にとられていたのか。
辛かったなぁ、お前ほど誠実な人間が、友であり一番信頼したかった俺たちを信頼することすら出来ず
うらぎりを選ぶまで、精神的に追い込まれていたんだ。
それ程怖かったんだな。
お前が唯一選べた最後の手段は、俺たちを滝のところに残し真堂丸殿だけを斬ることだったのか。
ぽたっ、ぽたっ。
大同の涙の雫が頬をつたい、地面に滴り落ちた。
悔しかった、友があそこまで追い込まれていたこの間、自分は何も気づくことも出来ず、何もしてやれなかった。
乱も涙していた。
元郎さん・・・・・
先生に勝てないのは百も承知のはずだ、元郎殿、それでも立ち向かうのか?
一体どれほどの恐怖心の中・・・
その時、文太は声の限り叫んでいた。
「元郎さん、真堂丸を信じて、真堂丸を信じるんだ」
「クックックッ、お前達もだ、今真堂丸を殺したのなら、お前達の命は助けてやろう、友の子供の命も救いたくないか?」
大同はその言葉に、自分でも思いもよらぬ選択肢が一瞬頭に浮かび驚いた。
もし、真堂丸殿を殺せば、あいつの子を助けてやれる。
俺は真堂丸殿が本当に女狐に勝てると思っているのか?
疑うな、疑うんでない真堂丸殿なら必ず 必ず…
くっくそう、何故疑う、必ず女狐に勝てるんだ、必ずあいつも息子も救ってくれるはず ・・・・・
大同は自身の武器を強く握りしめ、真堂丸の方に向かった。
「まさか、馬鹿なこと考えてるんじゃないでごんすな? 」
大同は何も言わず、走り出した。
そして武器を振りかざす、目の前にいるのはなんと真堂丸だった。
「まっ、まさか、大同さん?」乱が叫ぶ
「うおおおおおおおっー」
大同は全身全霊を込め武器をそのまま、真横に投げ飛ばした。
「女狐ーーーっ」
ブオオォーン
大同の巨大な鉄のこん棒は女狐めがけて飛んでいった。
ドゴオオオーーーンッ
「ばっ、馬鹿な」
大同の武器は女狐の目の前、指一本で止められていた。
ズシャーン
巨大な武器は地面に落ち、武器の重さにより床にのめり込んでいた。
「それが答えか?」
ギロッ
「大同さん」乱が叫ぶ。
その声にはっと我にかえる元郎
「たっ頼みます、女狐様 その男の命はとらないでくださいっ、おっお願いします」元郎は涙を流し走り出していた。
「大同さんっ、元郎さんっ」二人の危機に文太も叫ぶ。
しんべえは恐ろしさのあまり床に頭を抱えうずくまり震えている。
「ふっ もう、遅い」
その時、乱の全身に悪寒が走った。
あっ、大同さんが殺されちゃう、あっ 死んぢゃう 死んぢゃうよ。
そんな思いが全身を貫いた。
それは自身の身体を刀で貫かれるより、何倍も何倍も痛く苦しく感じた。
だからこそ同じ時、乱と同じ様に感じていた、元郎の足は止まらなかったのだ。
気づいたら刀を捨て友の元へ全速力で走り出していた。
「だいどーーーーーーうっ」
それは凄まじい速度だった。
女狐は刀を抜いた、それは物凄い勢いの抜刀。
抜刀が凄まじい斬撃を生み辺りに広がる様を大同は見た。
しっ、しまった
大同は瞬時に思う。
この斬撃は俺を真っ二つにして後ろにいる人間もすべて切り捨てる
だっ、駄目だ みんな伏せろ
大同は全身に力をいれた。
後ろにいる仲間を死なせない為、自身がすべてを受け止める。
出来るか?やるしかない。
自身から最後に出た言葉は「伏せろー」だった。
大同が死ぬ
元郎には分かっていた。
女狐は相手にしていい存在ではなかったのだ。
強さの次元が違ったのだ。
最初から関わってはいけなかった。
これは自身の失態、頭に大同との数々の思い出がよぎる。
「うっうわあああああああ」
後悔の念と共にすべてに絶望し、あがった叫び声は元郎のものだった。
自分の愛する友の命が終わる
大同………
「うわあああああああああっ」
それはそんな瞬間の刹那
絶望の中
自身の目に映った光景
斬撃は真っ二つに叩き割られ・・・
それを目にしたのだ
元郎ははっきりと目にしたのだった
それは
絶対的な支配者であった存在
無敵だと思っていた存在
自身を支配する悪の神が
頭を柄で打たれ
何度も地面に打ち付けられながら壁の先に吹っ飛んでいく様。
目の前には真堂丸と呼ばれる男の優しい背中が古い権威と代わって力強く立っていた。
その背中はとてつもなく大きく感じた。
自身でも信じられなかった、魂からこみ上げる思い、元郎は気づいたら声をあげ全身で叫んでいた
「うおおおおおおおおおー」
ずっと押し殺していた、ずっと扉の奥底にしまわれ、閉じ込められていたおもい。
希望と信頼がすべてを打ち破り、今自身の目の前に姿を現し立っていたのだった。
元郎は声をあげ心の底より泣いた。
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