エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

ミツユビナマケモノ

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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 喉まで出かかっていた声が、不可視の力に締め付けられ、握り潰される。
 大公の指が動く。
 その動きに合わせ、アルファレドはぎくしゃくと椅子に腰を落ちつけた。
 体が動かない。声も出ない。
 見えない糸で雁字搦がんじがらめにされた操り人形のように、指一本、自由にできない。
 何故だ。なにがおこった。王宮には悪意ある魔術、攻撃的な魔法を封じる結界が張り巡らされているのに。
 辛うじて目だけを動かして大公をうかがうと、相手もこちらを横目で睨んでいた。その視線の意味するところは、
――黙ってろ、この馬鹿。
 どうやら冷静そのものの仮面とは裏腹に、大公の機嫌は最悪らしい。王の発表は彼女にとって不意打ちでこそないものの、まったく本意ではないようだ。
 しかし、この威圧感、魔女というより、もはや魔王。凄まじい不機嫌オーラが暗黒の波動のように渦を巻き、めちゃめちゃ怖い。全身から冷や汗が吹き出してくる。すぐにでも逃げ出したいが、椅子の上で金縛っている状態では如何ともしがたい。
 王が輝くような笑顔を息子にむける。
「今日発表する約束ではなかったから、驚かせたな」
 クソタヌキ親父が、腹黒のくせに白々しいぞ。
 王は同じ笑顔を唖然としている会衆にもむけた。
「だが、このように大勢が一堂に会する機会もなかなかない。よき機会ゆえ、皆に知らせた。これはまだ正式の婚約ではないが、ほぼ正式な決定と思ってくれ。以上だ」
 今度こそ、夜会は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
 楽団が健気に演奏を続け、二曲ほど終わったところで大公は立ち上がり、退出した。最後まで自分からは一言もなかった。
 その姿が会場から消えると同時に、アルファレドを縛めていた不可視の糸が消えた。
「あ……」
 思わず、声がもれた。
 術が解けた。傀儡の糸が切れた。
 にこやかな笑顔で貴族たちの矢のような質問を受け流している父王の胸倉をつかみ、腹の中のものを全て吐き出させるまで揺さぶってやりたかったが、そんな余裕はない。肘掛けをつかむ手に力をこめ、腕の力頼みで立ちあがる。いとまを告げると、今度は引き止められなかった。もつれそうになる足を励まし、せめて人の見ている前で無様に転ぶまいと必死に姿勢を保ち、出口に向かう。どうにか無事、会場を出た。
 が、そこで限界だった。膝が崩れ、体が傾き、床が迫ってくる。
 誰か――おそらく侍従だろう――が、自分の名を呼びながら駆け寄ってきたような気がしたが、アルファレドの意識はそこで途切れた。
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