フードコートの常連さん

ロカク

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蕎麦二人前

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 今日を含めて店閉店まで残り二日、店を開けておきながら片付けもした。案の定というか時間は押しに押して二十三時前、疲れてはいるけどワクワクしながら一週間ぶりにこのフードコートへやって来た。いつもの席に……あっ、いたいた! でもあれは……

「白河さん?」

「来たかい」

 それは紛れもなく白河さんだった。けどその格好はいつものラフな感じではなく落ち着いた、趣のある着物だった。

「どうしたんですか? 今日お祭りとかありましたっけ?」

「そうじゃない、まぁ聞きな」

 神妙な面もちの白河さんは話し始めた。

「んーっと、あたし今月に入って毎日いつでもここにいたじゃない?」

「そ……うですね」

 嘘だ。一度は一緒に帰ったし、最初に僕の母さんが倒れたときもいなかった。それに二度目に母さんの体調が悪くなったときも……あれ? 僕の動きに合わせてる?

「実際は病院に行ってたこともあっていなかったことも多かった」

「何か病気に!? でなければ怪我ですか!?」

「鈍いねぇ、誰に似たのやら……あたしは健康そのものさ」

 とすればお見舞い? 大事な人なのだろうか? でも何故その話を僕に?

「あたしはあんたが早く病院に行かなきゃならないときに先回りしてたって言ったら?」

「!?」

「やっと気づいたかい、じゃあ元の姿に戻るかね」

 そういうと白河さんは神々しい光に包まれた。強い光に目を逸らし、光が落ち着いてきて目を開けると向かいの席に白河さんの姿はなく、お年寄りが座っていた。

「久しいねぇ」

「おばあちゃん!?」

 現れたのは母さんの母さん、つまり僕にとってのおばあちゃんだった。でも僕が中一の時に亡くなったはずじゃ……

「私はこのデパートに思い入れがあってねぇ、幼少の頃特別な時にこのフードコートに来てはランチを食べたのよねぇ」

「そうなんだ、それでどうして僕の前に?」

「天国ネットワークでこのデパートが閉店するって話を聞いてねぇ。最後に思い出に浸ろうと思って来てみたら敬太がここでアルバイトしていることも知って、ついでに様子を見てたってことさね」

『天国ネットワーク』という単語は気になるけど、それよりそう簡単に現世に来れるんだというところが気になった。

「そうこうしているうちに紗代の体調が悪くなって、今にも人生を終えようとしてたもんだから必死で止めに行ったんだけどねぇ」

 紗代というのは母さんのこと、おばあちゃんは意図的に母さんの枕元に立ってくれていたらしい。それで母さんが危ない時はフードコートここに来ていなかった。途中で帰った時は病院に行って母さんを助けてくれようとしていたってことらしい。

「私では数日寿命を延ばすのがやっとだったの、ごめんねぇ」

「いや……」

 数日母さんの寿命を延ばしてくれたのは十分すごいしありがたかった。その分母さんとの時間も取れたし、この話を聞けば父さんも感謝するだろう。

「紗代を生かして私は明日デパートここが閉店するまで現世こっちにいようと思ったんだけどねぇ」

 そう言うとおばあちゃんの霊体? は再び光始めた。

「力を使いすぎて明日まで持たないらしいのよぉ、天国あっちで紗代に教えてあげないといけないこともたくさんあるでしょ?」

 あるでしょ? と言われてもあの世がどうなっているか知らないけど……

「だから私はここまで、私のことと私がしたことはあまり政國さんに言わないのよぉ? 恩着せがましくなっちゃうからねぇ」

「うん」

 政國さん父さんにおばあちゃんの一連の功績を話そうと思っていたけどやめといたほうがよさそうかな。恩着せがましいとか気にしなくてもいいのにと考えているとおばあちゃんを包む光が強くなってきた。

「ぼちぼちかねぇ。敬太、一月ひとつきと短い間だったけど楽しかったわ。私が器として使ったこの娘、白河雅子には一連の記憶をぼんやり残しておくから今後も普通に仲良くできると思うわ」

「……うん」

 おばあちゃんの姿が霞んでいく。僕の眼は悲しみと、そして何より感謝の洪水に包まれた。

「そして、明日はしっかりこのデパートの最期を見届けなさい。それから明日のことを胸に刻んで私の分、紗代の分も永く生きるのよ!」

「うん! ……うん!」

 さらに光が強くなり、爆発するように閃光が散らばった。目を覆って再び対面の席を見るとそこには突っ伏した白河さんの姿しかなかった。僕らしかいないし、今後誰か来ることもないのでおばちゃんは裏に引っ込んでいた食堂に動きはない。もう今日は帰ろう、最終日を残して食券はあと二枚残ってるけど……

        ◆◆◆

「今日で終わりかぁ」

 感慨に耽りながら最後の出勤でデパートにやって来た。

「金井さん! 早く早く!」

 店先で島原ちゃんが手招いている。その真意は仕事が山積みなんだからさっさと来いということだった。

 片づけをしつつ店を回し、また片づけをしつつ店を回した。そして、ついにその時は来た。

「よし、ちょっと早いが退去確認の関係で今日はもう終わりだ。次の舞台でも……」

 勤務終了、もぬけの殻になった店内で最後のシフトに入っていた俺と島原ちゃんで店長の話を聞いた。解散の後、店先で島原ちゃんと二人になった。

「店長半泣きでしたね」

「いや、あれ泣いてたでしょ」

 店長にとって初めて持った自分の店で、よほど思い入れが強かったのか男泣きしていた。

「それはそうと、次のアルバイト先が決まったんですよ!」

「それはそれは」

何処どこか知りたくないんですか!?」

「冷やかしに行ってもいいなら聞くけど」

「それはダメです!」

 教えたいのか教えたくないのか……

「来てもいいと思ったら連絡しますね!」

「それでいいよ」

「はい! 金井さんが先輩で良かったです! それでは!」

 完全に来るなと言われなかっただけいいのかな? 何にせよ島原ちゃんの未来に幸あれってところかな。
 島原ちゃんも帰って店先で一人になった。となると向かうはいつものところだ。

「敬ちゃん、いらっしゃい! いつものだね!」

「ん~いや、今日は蕎麦で」

「あら」

 いつものと言えばカレーも食べたい。食べたいところだけど今日は口が蕎麦の気分だった。でも食券一枚残すのはもったいない。

「蕎麦二人前お願い」

 ここ一ヶ月白河さんと、お婆ちゃんとお喋りした席に二人前の蕎麦を並べる。目を瞑り、ここ一ヶ月のことを思い返す。信じられないことが起こったけど楽しかったなぁ……
 瞑想を解き、蕎麦をすする。うん、これはこれで美味しい。二口目をつゆにくぐらせようとしたとき……

「あれ? あんたどっかで……」

「初めまして、蕎麦余っちゃったんですけどどうですか?」

 あちらからすれば初めてで、僕からすれば昨日ぶりの再会。突如現れた彼女に僕はもう一度一目惚れした。
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