元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん

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第三章

お祝いの場

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 食卓には沢山の料理が並んだ。

 贅沢をしたのは久しぶりで、帝都での皇居の食事を思い出した。あのときは、特別に思わなかったが、今では燭台に照らされるローストビーフや籠に盛られたパンを見ると、心が躍るし幸せを感じる。

「すごい料理の数だなー」

 帰ってきたストーンが驚いた。
 マトビアとアーシャも女性専用エリアから出てきて席につく。

「めちゃくちゃ綺麗になってるじゃない、ここ」
「おー、本当だ。よくみたら掃除されてる」
「あんた鈍すぎでしょ」

 スピカがそのやり取りをみて、笑いながら最後に席についた。

「それでは、どのようなお祝いの場にしましょうか?」
「ストーンのギルド復帰のお祝い……かな」

 そう言うと、ストーンが恥ずかしそうに頭を掻いた。

「んーそんな大袈裟にしなくてもなー」

 一段と背中を丸めたストーンを中心に乾杯する。
 
「とうとう本格的に拠点も開所したことだし、私もストーンと一緒にギルドに行こうかしら」

 アーシャはストーンと違って、たまにギルドの依頼をやっていたようだ。ストーンとパーティーを組むことで、かなり依頼の幅が増えるだろう。

「アーシャさん、ストーンさんのことが気になってるのよ……私といる時に、ストーンさんが誘ってくれないって小言を言っていたの」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべて、マトビアが俺に耳打ちした。

 なるほどね。アーシャは見た目に反して、奥手なんだな……。

「あの、ところで……これってなんだか分かりますか?」

 俺は掃除中に見つけた、やけに長い道具を取り出した。杖にしては長すぎるし、物干し竿にしては重すぎる。

「それは……」
「んーここにあったのか」

 アーシャとストーンは古びた道具を見て驚き、懐かしんだ。

「ミーナの武器よ。『ライフル』って言ってたわ」
「これが……」

 たしかに言われてみると、遠距離武器のクロスボウに似ていなくもない。

 鉄筒は重く錆びついていた。
 クロスボウのような引き金と、それに連動する機構を守るためのカバーがついていた。
 鉄筒の側面に切り込みのような穴があけられ、ストーンが言っていた鉛玉を装填できるようだ。

「もしよければ、預からせてもらえませんか?」
「もちろん。まー、どうやって鉛玉を発射していたか、色々見てみたがさっぱりだったんだよなー」
「あんたが分かるわけないでしょ」

 アーシャが容赦なくツッコミを入れる。

 ストーンが話していた、魔人に致命傷を与えた武器。今まで修繕してきたモノの中で、一番興味を引いた。

「お兄様、マリア様の武器も大切ですが、受信塔の件もお忘れにならないよう」
「あ、そうだった」

 マトビアは伝文のやりとりをしたくて仕方がないといった様子だ。
 そっちを優先するか。

 翌朝、ストーンをギルドに見送ると受信塔の整備に取り掛かる。

「まずは送信器の構造だな」

 対となる壊れていない完成品があれば、どういった仕組みで動くのか見当がつきやすい。

 俺は女性専用エリアの扉をノックした。

「マトビアいるか? 送信器を見せてくれないか?」

 うーん。
 やっぱり朝は弱いか。

「スピカかアーシャさんはいませんか?」

 反応がない。
 もしかすると、もう拠点を出発したのか。まあ、アーシャはストーンと組んで活動するって言ってたしな。

 ドアを開けると、女性特有の甘い香りが漂ってきた。

「うわ、すごい綺麗に飾られてる!」

 色つきガラスのランプに、部屋の仕切りとして美しいシルクのレースが掛かっている。

 その一部屋から寝息が聞こえてきた。

「ここがマトビアの部屋かな」

 物音ぐらいではマトビアは起きないし、送信器だけとって、さっさと出よう。

 部屋の中を遮断しているレースを上げると大きなベッドが置いてある。ふかふかしてそうで羨ましい。
 ところが、そこに寝ていたのはマトビアではなく、アーシャだった。

「え? ええ? なんで??」

 薄絹のローブをまとい、長い足の肌がランプに照らされ、透けて見える。

「んん……ん?」

 驚いた俺の気配に気づいて、アーシャがムクッと上体を起き上がらせた。

 ハラリと大きな胸の何かに薄い布が引っかかった。

「キャアーー!!」

 体の大事な部分を手や腕で覆うと、透明バニッシュで姿を消すアーシャ。

「すす、すみません。マトビアかと!」

 消えたアーシャの悲鳴まで消えて、あとには沈黙の恐怖が襲いかかる。

 ふと思い出したアーシャの言葉。
 ストーンでさえ三日間立てなかった麻痺パラライズの餌食に……。

 すぐに女性専用エリアから逃げて、扉を閉めた。
 こ、怖すぎる……アーシャって敵に回すと、その恐ろしさが分かるな……。

「フェア皇子……」

 耳元で冷徹な女性の声がした。

「ま、待ってくれ! 俺は何もしてない……」
「お覚悟!!」

 ビリビリと痺れが身体中をめぐり、俺はその場に倒れた。

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