良い人アプリ

戒=かい

文字の大きさ
1 / 1

良い人アプリ

しおりを挟む
 
 日曜の昼、何をするでもなく、家でゴロゴロしていた。昼飯を食べて、とてもけだるく昼寝をするにはもってこいだった。
 そんな最中、スマホに着信があった。見ると、友達のtwitterからのメッセージだった。

ーーわざわざLINEじゃなく、twitterから送ってくるなんて珍しいな。
 そう思い開いてみると、アプリの招待メッセージのようだった。

とても楽しいアプリだよ。みんな始めてるよ。

と書かれ矢印がURLを指していた。
 
 すごく胡散臭い……。 

 スパムにでもやられたかなと、スルーする。今の自分にとって、スパムメールより昼寝の方が大事だった。
 スマホを置いた瞬間、もう一度着信音が鳴る。
 見ると同じ友達からで、

このアプリ、すごくリアルで面白い。絶対オススメだし、始めたら月曜日教えてくれ!

と彼らしい文面で書かれていた。
 少し考え、怪しみながらも、彼に前に教えてもらったゲームが面白かったことを思い出す。それを考え、話の種にはなるなと、インストールした。
 アイコンは「 良 」という字が緑色の線で囲まれていた。名前は良い人になれるアプリだった。
 始めると画面には大きく0の数字が表示され、その下に良いことをすると数値が増え、プラスボーナスがあります。悪いことをすると数値が減り、マイナスボーナスがあります。と書かれていた。 

 これは騙された!
 そう思ったが、彼のことだから、きっと何かあるのだろう。
 今は外にモンスターが出てきて、それを画面で捕まえるアプリがあるくらいだ。試してからでも遅くないだろう。
 まず、実験として家の手伝いをしてみることにした。
 自分の部屋からリビングに移ると、母親が掃除機の準備をしていた。
 これは良いタイミングだと思い、

たまには俺にやらせてよ。

と声をかけ、部屋掃除を代わることにした。


 小一時間掃除機をかけ、一通り終わったところ、着信音が鳴った。見るとアプリの数値が10に上がっていた。 
 すると、画面上にメールマークが表示、点滅していて、タップするとプラスボーナス、掃除をした。と表示された。こんなことも検知されるのかと少し驚いた。
 すると、母親が気を良くしたのか、

 手伝ってくれてありがとね。またよろしく!

と3千円を渡してきた。偶然にしては出来すぎている気がした。
 半信半疑のままなのも気持ち悪いので、妹でもう一つ実験してみることにした。
 妹の部屋をノックし、

twitterで芸能人の〇〇が今、近くのショッピングモールにいたって話題になってるよ!

と言ってみた。
 アプリを見ると数値が下がり、マイナスボーナスの通知が表示された。
 その瞬間、妹が勢いよく扉を開け、

え?ホント?

と飛び出してきた。
 あまりの勢いに瞬時の判断が遅れ、俺は尻餅をついた。
 痛ぇと思いながらも、このアプリが本物だと確信することができた。
 その日はこれ以上良いことも思いつかなかった。なので、何をするでもなく、アプリの数値が下がらないように気をつけて過ごすことにした。




 翌日は雨だった。少し憂鬱になりながらも昨日のアプリのことを友達に言わねばと学校へ向かう。
 駅の中は雨の影響か、少し滑りやすかった。変なことでマイナスにならないようにと気をつけて学校へと歩いた。 

 教室に着くと、とてもクラスが騒がしかった。
 一人に話を聞いてみると、昨日の昼に、例の友達が事故に遭い、現在も意識不明になっているのだと知らされた。あまりの出来事に眩暈を覚えつつも、自分の席を目指す。
 席に着き、空席になった友達の席を見て、その状況を噛みしめる。そして昨日を振り返る。

 昨日の昼……。
 その友達から連絡があったのも昼だった。
 なら、一体誰がアプリのメッセージを送ってきたんだ。
 いや。たまたま偶然か。それかスマホを見てて事故に……。 
 まさか、マイナスボーナス……?

 様々な憶測が頭の中を飛び交う。
 するとスマホが震え、何かを伝える。
見ると例のアプリだった。

 本日は良いことをしていません。考えすぎはよくありません。行動しましょう。

と表示された。
 あまりのタイミングに怖くなった。
いっそのことと、アプリを消そうとしたが、このアプリは消すことが出来ませんと表示され、何度消そうとしても上手くいかなかった。


 背筋がゾッとした。
 何かをやらかしたら、次は俺なのか、意識不明になるのは……。

 考えるだけで意識が遠のきそうになったが、とにかく良いことをすれば助かるんだ、良いことをするしかないんだと考えを改めた。
 始業の前に思いついたことからやっていくことにした。




 夕方、学校が終わり、駅に向かう。相変わらず雨は降り続いていた。
 駅のホームでは二人組のこどもが追いかけっこをしている。
 それを遠目に見ながら椅子に座り、俺はため息をついた。
 朝から良いことをと、クラスメイトの手伝いや当番の肩代わりをしようとした。しかし、裏があると皆に言われ、断られ続けたのだった。
 そんなことないと否定したのだが、それが嘘だとアプリが判断して、手伝いも出来ない分、表示も-15となっていた。昨日と違い、マイナスの通知は出たが、マイナスボーナスにはならなかったのが不幸中の幸いだった。
 アプリのマイナスの数字を見て、一日張り詰めていた気を抜いていた。それがすべての引き金になるとはこの時、思いもしなかった。



 急にマイナスボーナスの通知音が響く。
 それに驚き、すぐにスマホを取り出すアプリを見る。その時、無意識に傘を突き出していたことに俺は気づけなかった。
 傘が急に引っ張られた。すぐに視線を向ける。こどもだった。さっきまで遠くを走っていたはずだったのに。俺の傘に引っかかって転んだのだった。
 突然の出来事に頭が追いつかなかったが、こどもの泣き声でハッとした。
 とりあえず、  

 大丈夫か?

とこどもに声をかける。
 しゃがんで手を差し出して、起き上がらせようとした。
 その瞬間、マイナスのボーナスの通知音がまた鳴ったのだ。
 横目でスマホを見ると、マイナスボーナス。こどもを転ばせたと出ていたのだった。
 いつのまにか、反対側のホームに電車が到着していて、そこからドッと乗客が降りてくる。帰宅を急ぐ彼らに、低い姿勢でいた俺たちは見えていなかったのかもしれない。
 人に押され、俺はバランスを崩す。咄嗟に体制を整えようとしたが、手を差し出していたのが仇になり、こどもを押してしまった。押されたこどもは勢いで、ホームから落ち、線路に投げ出されてしまった。俺はどうすることも出来なかった。
 またマイナスボーナスの通知音。

 こどもが落ちた!あいつが子どもをホームから突き落としたぞ!

と男の叫び声が聞こえた。周りが一斉に俺に視線を向ける。


 違う、俺じゃない!


 俺は叫んだ。
 これ以上、ここにいたらまずい。そう感じて、その場からすぐに逃げ出そうと立ち上がり、走り出した。
 マイナスのボーナスの通知音が鳴る。
足を滑らせて、こどもとは反対側のホームに落ちてしまったのだ。
 マイナスボーナスの通知音が聞こえた気がした。
 先程、乗客を降ろして、出たはずの電車が逆走して来たのだった。ホームに落ちた、俺に向かって。



 もう、目を瞑ることしか、俺には出来なかった。



 少し時間が経ち、目を開けると、ぶつかるギリギリのところで電車が止まっていた。え?と声が出る。
 その瞬間、スマホの通知音が鳴る。今まで聞いたことのない音だった。
 アプリを立ち上げると、赤い文字でメッセージが表示されていた。


あなたはあまりにマイナスが多く、悪い人です。あなたはこのままでは死ぬでしょう。
一度だけ、あなたにやり直すチャンスをあげましょう。
一人にだけ、メッセージが送れます。
その人にこのアプリを勧めてください。もし、その人がアプリをインストールしたら、マイナス分を無くして、今の状況を助けてあげましょう。

と。

ーー死にたくない。
 ただただそう思いながらメッセージをスマホに打ち込む。
 頭に思いついたクラスメイトにすぐにメッセージを送る。友達がやったように、俺が勧めてるかのように。
 メッセージは無事送信成功と表示されていた。

 俺は助かったと胸を撫で下ろし、息をついた。
 しかし、その直後、着信音が鳴り、画面にはこう表示されていたのだった。


自分が助かるためだけに嘘をつきました。マイナスボーナスです。


 電車のブレーキ音と悲鳴が雨のホームに響いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...