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【邪念と護摩】
これはある知人女性の友人の『念』についての話です。
今から20年くらい前に知人の住む街に社交ダンス教室がオープンしました。
前からちょっと興味のあった知人女性(Aさんとします)はチラシに書かれていた体験教室に友人(Tさんとします)を誘って参加をすることにしたそうです。
当日行ってみると、その教室の代表の講師は40代前半のかなり容姿端麗な男性で、参加者女性たちは少なからず一目惚れに近い感情になっていたのではないか?と思える全体の雰囲気で、Aさんの目にはTさんも同様な様子に映っていたそうです。
そして体験教室を終えパンフレットなどをもらい帰路に着く途中、Tさんが『お茶をしていこう』と言うので二人は喫茶店に入りました。
するとTさんは席に着くなり興奮した様子で 講師の男性のことを褒めちぎり、マシンガントークのお喋りで「あんな素敵な人見たことない」だの「すごいタイプ」だのなんだのと止まらず、早速ダンス教室に入会するということを決めてしまいました。
入会自体はもともと社交ダンスに惹かれるものがあったAさんとしても、あの教室ならちょっと通ってみたいかな・・・・という気持ちにもなったので良しとしました。
が、Tさんにとってはその選択がのちのち大変な事態を招いてしまうことになります。
入会をして分かったことはその男性講師は既婚者で、奥様とともに各コンテストなどの上位にも入賞しているような、息の合った夫婦のダンスパフォーマンスが評判の人物で教室内には トロフィーや奥様とのツーショットのダンス姿などが飾られてあったそうです。
ちなみに奥様は別に教室を開いておりAさんたちのレッスン場には来ていなかったとのこと。
そして正式入会でレッスンを始めてから1ヶ月もたたないうちにTさんの様子が明らかにおかしくなってきたのだそうです。
まず中肉中背だった体つきがどんどん痩せて 骨が目立つようになり、まるで拒食症のような見た目に変貌し、それまでは穏やかな感じの顔つきだったにも関わらず非常に険のある人相になり、特に目つきがギラギラ鋭い感じに変わってきたためAさんは心配以上に不穏さを感じていました。
ある時「体調大丈夫? ちゃんと食べてる?」 と何気ない風を装い尋ねてみたところ「別に全然大丈夫だから」とそっけなく交わされてしまい、その口調にも刺々しさが感じられたためそれ以上は何も言えなかったそうです。
ところがそれからほどなくして今度は講師の男性が体調不良でレッスンを休止する日が出たりダンスのキレも入会当初の姿からすると少し鈍っているように感じられる時もあり、Aさんとしてはその時点ではまだTさんとの関連を疑うことありませんでしたが、後日、唐突に講師の奥様からTさんに対し強制退会と教室への出入り禁止を求められるという事態が起き仰天をしたそうです。
何故そんなことに・・・・と言いますと、実はAさんの知らないところでTさんは講師男性の後をつけ自宅を突き止めたり偶然を装い付きまとったり、と、いわゆるストーカー行為を行っていたのでした。
特に奥様に対して不意に自宅に押し掛け罵声を浴びせたり、出てきた講師男性に抱きついたり、と、制御の利かない異常な言動を行ってたとのことで、それにはAさんもかなり驚いたとのこと。
何故ならAさんがそれまで知っていたTさんの性格や様子とはあまりにも異なる行状であり、どちらかというとふっくら気味だった見た目が異様に痩せこけた変貌と、普段わりと落ち着いた言動だった人が出入り禁止にされるほどの狂気的なストーカーと化した事実がなかなか受け止められなかったのだそうです。
そこでAさんは尋常ではない事態に踏み込みすぎも良くないとは思いつつ、思い切ってTさんに暴走する本音を尋ねてみました。
「何故そこまでのめり込んでしまったの?」と。
するとTさんから返った答えはこうでした。
「運命。絶対にあの人は私を好きになるに決まってる、私を選ぶに決まってる。だって前世の恋人だから」
この妄言を聞きAさんは、これはもう現実的な説得や解決は無理だと感じたそうです。
執着の生き霊──たぶんそこまで行っている、と。
そこでAさんはそもそも自身がダンス教室の体験に誘ったということもあり、そこに少なからず負い目も感じていたため、家系的な御縁で昔から時々お世話になっているとある密教のお寺に出向き、余計なお世話ながらTさんには内密に『邪気を焼き切る』という『お焚き上げ』をしていただくことにしたそうです。
見るに見かねたその時点で出来ることはそれしか思いつかなかった、とのことです。
その『お焚き上げ』というのは月に二回ほど行われており、本人に見立てた『和紙の形代』を書き込んだ名前を読み上げながら1枚ずつ炎にくべる、という修法で、その日は申し込んだ人々が場に参席しておりAさんも同様でした。
勢い良く燃える護摩焚きが始まると控えの僧侶たちの読経が響き、やがて形代がゆっくりとしたペースで住職の手で一枚一枚炎の中に投じられてゆき、そしていよいよTさんの番となりました。
名前が読み上げられ、それまでと同じ動作で形代が炎の中に──のその瞬間、とんでもない事が起きました。
なんと、形代が住職の手を離れた瞬間、まるで炎に弾かれたかのようにパーッと飛んでしまったのだそうです。
軽い和紙ですから炎の風圧でそのような事が起きる可能性はありますが、その弾けるような飛び方はAさんの目には思いを焼かれたくないTさんの抵抗と拒絶のように見えゾッとしたとのこと。
しかも控えの若い僧侶が少し焦った様子でそれを拾い上げると途端にクルクルと丸まり、平らに戻そうとしても巻きが固くきっちりしているらしく苦心しているように見えたとか。
それを見てAさんは(ああ、これは無理なんだ・・・・)と悟ったと言います。
あまりに邪気邪念が強すぎ護摩焚きでも浄化が出来ないのだ、と。
その後、そのTさんの形代はその若い僧侶がどこかに持ち去り、あとの方々のお焚き上げが引き続き行われ終了したそうです。
Aさんは修法を執り行っていた住職に燃せなかった形代はどうなるのかと話を聞こうかといったんは思ったそうですが、何かもうこれ以上は関わらない方が良い気がして結局その日はそのまま帰路につきました。
それからどうなったか──
まずTさん、倒れて入院。
診断は『栄養不良による極度の衰弱と疲労骨折』で肋骨の数ヶ所にひびが入っていたそうです。
加えて視力も低下。
見舞いに行き目の当たりにしたその姿はまるで水分の抜けた老婆のように見えたそうで、Aさんはあの形代が固く丸まった姿を思い浮かべ改めて寒気を覚えたと言っていました。
「講師への執着の邪念が強すぎて自分自身の生命力みたいなものを使い果たしてしまったのかも・・・・」
そうも話していました。
ではTさんの妄念を強烈に受けた男性講師の方はどうなったのか?と言いますと、体調不良を理由にしばらく教室を閉めた時期もありましたが再開をした時には奥様がサポート的に出入りをするようになり、徐々に元の活気を取り戻してきたそうです。
Aさんいわく「奥さんてすっごく明るくてキラキラしたパワーみたいなのを放ってる感じの人だから、もしかするとTさんの念を自然と跳ね返したのかも。旦那さんの盾になる形でいわゆる"念返し"をしたのかもしれない」と。
確かにそういうことはあるかもしれないと私も思います。
護摩の炎からは逃げ出しても、奥様の生命力や愛情のパワーには太刀打ちが出来ずに放ったものがすべてTさん自身に倍になって返ってしまったのかも、と。
何故ならTさんの末路──車椅子の人になってしまったそうですから。
邪な思いが高じ過ぎたことによる悲劇。
人の『念』というものの恐ろしさを再認識させられた話でした。
今から20年くらい前に知人の住む街に社交ダンス教室がオープンしました。
前からちょっと興味のあった知人女性(Aさんとします)はチラシに書かれていた体験教室に友人(Tさんとします)を誘って参加をすることにしたそうです。
当日行ってみると、その教室の代表の講師は40代前半のかなり容姿端麗な男性で、参加者女性たちは少なからず一目惚れに近い感情になっていたのではないか?と思える全体の雰囲気で、Aさんの目にはTさんも同様な様子に映っていたそうです。
そして体験教室を終えパンフレットなどをもらい帰路に着く途中、Tさんが『お茶をしていこう』と言うので二人は喫茶店に入りました。
するとTさんは席に着くなり興奮した様子で 講師の男性のことを褒めちぎり、マシンガントークのお喋りで「あんな素敵な人見たことない」だの「すごいタイプ」だのなんだのと止まらず、早速ダンス教室に入会するということを決めてしまいました。
入会自体はもともと社交ダンスに惹かれるものがあったAさんとしても、あの教室ならちょっと通ってみたいかな・・・・という気持ちにもなったので良しとしました。
が、Tさんにとってはその選択がのちのち大変な事態を招いてしまうことになります。
入会をして分かったことはその男性講師は既婚者で、奥様とともに各コンテストなどの上位にも入賞しているような、息の合った夫婦のダンスパフォーマンスが評判の人物で教室内には トロフィーや奥様とのツーショットのダンス姿などが飾られてあったそうです。
ちなみに奥様は別に教室を開いておりAさんたちのレッスン場には来ていなかったとのこと。
そして正式入会でレッスンを始めてから1ヶ月もたたないうちにTさんの様子が明らかにおかしくなってきたのだそうです。
まず中肉中背だった体つきがどんどん痩せて 骨が目立つようになり、まるで拒食症のような見た目に変貌し、それまでは穏やかな感じの顔つきだったにも関わらず非常に険のある人相になり、特に目つきがギラギラ鋭い感じに変わってきたためAさんは心配以上に不穏さを感じていました。
ある時「体調大丈夫? ちゃんと食べてる?」 と何気ない風を装い尋ねてみたところ「別に全然大丈夫だから」とそっけなく交わされてしまい、その口調にも刺々しさが感じられたためそれ以上は何も言えなかったそうです。
ところがそれからほどなくして今度は講師の男性が体調不良でレッスンを休止する日が出たりダンスのキレも入会当初の姿からすると少し鈍っているように感じられる時もあり、Aさんとしてはその時点ではまだTさんとの関連を疑うことありませんでしたが、後日、唐突に講師の奥様からTさんに対し強制退会と教室への出入り禁止を求められるという事態が起き仰天をしたそうです。
何故そんなことに・・・・と言いますと、実はAさんの知らないところでTさんは講師男性の後をつけ自宅を突き止めたり偶然を装い付きまとったり、と、いわゆるストーカー行為を行っていたのでした。
特に奥様に対して不意に自宅に押し掛け罵声を浴びせたり、出てきた講師男性に抱きついたり、と、制御の利かない異常な言動を行ってたとのことで、それにはAさんもかなり驚いたとのこと。
何故ならAさんがそれまで知っていたTさんの性格や様子とはあまりにも異なる行状であり、どちらかというとふっくら気味だった見た目が異様に痩せこけた変貌と、普段わりと落ち着いた言動だった人が出入り禁止にされるほどの狂気的なストーカーと化した事実がなかなか受け止められなかったのだそうです。
そこでAさんは尋常ではない事態に踏み込みすぎも良くないとは思いつつ、思い切ってTさんに暴走する本音を尋ねてみました。
「何故そこまでのめり込んでしまったの?」と。
するとTさんから返った答えはこうでした。
「運命。絶対にあの人は私を好きになるに決まってる、私を選ぶに決まってる。だって前世の恋人だから」
この妄言を聞きAさんは、これはもう現実的な説得や解決は無理だと感じたそうです。
執着の生き霊──たぶんそこまで行っている、と。
そこでAさんはそもそも自身がダンス教室の体験に誘ったということもあり、そこに少なからず負い目も感じていたため、家系的な御縁で昔から時々お世話になっているとある密教のお寺に出向き、余計なお世話ながらTさんには内密に『邪気を焼き切る』という『お焚き上げ』をしていただくことにしたそうです。
見るに見かねたその時点で出来ることはそれしか思いつかなかった、とのことです。
その『お焚き上げ』というのは月に二回ほど行われており、本人に見立てた『和紙の形代』を書き込んだ名前を読み上げながら1枚ずつ炎にくべる、という修法で、その日は申し込んだ人々が場に参席しておりAさんも同様でした。
勢い良く燃える護摩焚きが始まると控えの僧侶たちの読経が響き、やがて形代がゆっくりとしたペースで住職の手で一枚一枚炎の中に投じられてゆき、そしていよいよTさんの番となりました。
名前が読み上げられ、それまでと同じ動作で形代が炎の中に──のその瞬間、とんでもない事が起きました。
なんと、形代が住職の手を離れた瞬間、まるで炎に弾かれたかのようにパーッと飛んでしまったのだそうです。
軽い和紙ですから炎の風圧でそのような事が起きる可能性はありますが、その弾けるような飛び方はAさんの目には思いを焼かれたくないTさんの抵抗と拒絶のように見えゾッとしたとのこと。
しかも控えの若い僧侶が少し焦った様子でそれを拾い上げると途端にクルクルと丸まり、平らに戻そうとしても巻きが固くきっちりしているらしく苦心しているように見えたとか。
それを見てAさんは(ああ、これは無理なんだ・・・・)と悟ったと言います。
あまりに邪気邪念が強すぎ護摩焚きでも浄化が出来ないのだ、と。
その後、そのTさんの形代はその若い僧侶がどこかに持ち去り、あとの方々のお焚き上げが引き続き行われ終了したそうです。
Aさんは修法を執り行っていた住職に燃せなかった形代はどうなるのかと話を聞こうかといったんは思ったそうですが、何かもうこれ以上は関わらない方が良い気がして結局その日はそのまま帰路につきました。
それからどうなったか──
まずTさん、倒れて入院。
診断は『栄養不良による極度の衰弱と疲労骨折』で肋骨の数ヶ所にひびが入っていたそうです。
加えて視力も低下。
見舞いに行き目の当たりにしたその姿はまるで水分の抜けた老婆のように見えたそうで、Aさんはあの形代が固く丸まった姿を思い浮かべ改めて寒気を覚えたと言っていました。
「講師への執着の邪念が強すぎて自分自身の生命力みたいなものを使い果たしてしまったのかも・・・・」
そうも話していました。
ではTさんの妄念を強烈に受けた男性講師の方はどうなったのか?と言いますと、体調不良を理由にしばらく教室を閉めた時期もありましたが再開をした時には奥様がサポート的に出入りをするようになり、徐々に元の活気を取り戻してきたそうです。
Aさんいわく「奥さんてすっごく明るくてキラキラしたパワーみたいなのを放ってる感じの人だから、もしかするとTさんの念を自然と跳ね返したのかも。旦那さんの盾になる形でいわゆる"念返し"をしたのかもしれない」と。
確かにそういうことはあるかもしれないと私も思います。
護摩の炎からは逃げ出しても、奥様の生命力や愛情のパワーには太刀打ちが出来ずに放ったものがすべてTさん自身に倍になって返ってしまったのかも、と。
何故ならTさんの末路──車椅子の人になってしまったそうですから。
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