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隠しシナリオ
【2-H】隠しシナリオ:スーツケース編
しおりを挟む「発見おめでとうございマス」「普通はここに来ない方がいいのデスが……まあ、もう遅いデスね。では、ひとつ忠告を。スーツケースには覗いてはいけない記憶が眠っていマス」
ChatGPTによる翻訳
――ガタン。
鉄の骨組みを軋ませながら、私は大きく揺れた。長いあいだ飛行機に乗っていた私にとって、その振動は久しぶりの、旅の予兆のように思えた。だが違った。床が揺れていたのだ。まるで下から突き上げるように。
私の中身も、衣服や小瓶や紙片も、がしゃがしゃと暴れた。「Oh my God!」持ち主の叫び声が響いた。金属のジッパーに汗ばむ手がかかり、がちゃがちゃと急いで閉じられる。私は無理やり立ち上がらされ、床をゴロゴロと転がされた。
大きな揺れ。暗い部屋。彼女の息遣いが荒くなるたび、私は強く引っ張られ、壁にぶつかりながら進んだ。
やがて外。夜気の冷たさはわからない。ただ路面のざらざらとした感触と、車輪に伝わる段差の衝撃で、それが舗道だと理解した。人間のざわめきがザワザワと広がる。泣き声、怒鳴り声、車のクラクション。
「……Shelter?」「……どこ?」断片的に耳に入る。彼女は必死に誰かに尋ねているのだろう。その腕に引かれ、私はカラカラと音を立ててついていく。
途中、私は一度転がり倒れた。舗道の段差に取られ、横倒しになる。「Ouch!」という声。持ち主は慌てて私を起こし、取っ手を強く握り直した。中に詰め込まれた瓶がコツンと当たる。割れはしないが、痛みのような響きが内部に残った。
彼女はたびたび立ち止まり、ジッパーを開ける。がさごそ。衣服がかき回され、紙の袋が引きずられる。「これは…いらない…」英語の小さな呟きが聞こえる。次の瞬間、ひとつの布束が外へ放り出された。冷たい地面に落ちる音。
私の腹の中から、ひとつ、またひとつと物が抜けていく。靴。お土産の小物。パンフレット。代わりに、彼女は財布やパスポート、写真の束を奥へ押し込む。彼女にとって何が残すべきものか、私はそれで知る。
残された私は少し軽くなった。けれどその軽さは、持ち主の不安を写すようで心許ない。
避難所らしき大きな建物に着いたとき、押し合う人波で私は何度もぶつけられた。取っ手がぎしぎしと悲鳴をあげる。「No…… careful!」彼女が誰かに訴える。けれど人々の足音にかき消された。
建物の入口。私は中へ入ろうとしたが、職員のような人の声が遮った。「スーツケースは……」「持ち込みは……スペースがなく」内容までは分からない。ただ彼女の声が震えていた。「No! This is my…… all…… all my things……」
押し問答。やがて妥協があったのか、私は壁際に置かれた。冷たい床の感触。彼女の手が取っ手から離れる。彼女は中へ入っていった。
しばらくして。「ミャァ…」と細い声が耳に届いた。すぐ近くを、小さな影が走り抜けていった。柔らかい足音。生き物の匂い。私はただ静かにその気配を記憶する。持ち主――リサが、その小さな生き物に一瞬だけ目を向けたのを、私は知っていた。
夜が深まる。人々の話し声は途切れず、余震のたびに床がかすかに震えた。私はここで待つしかない。持ち主が再び取っ手を握るときまで。中に残された彼女の本当に大切なものとともに。
――私はただの箱。だが、その箱の中に、彼女の旅と記憶と恐怖と希望が詰まっている。それを守るために、今夜も私は静かに転がらずにいる。
数週間のあと、表面がへこみ汚れたスーツケースが河原に放置されていた。男が錠前を外した瞬間、鼻を突く鉄の匂いが広がった。服のようなものが詰め込まれていたが、布地のあちこちに濃い茶色の染みがこびりついている。乱雑な中身の底には、ちぎれた何かが見えた気がした。男は慌てて蓋を閉める。……今のは、本当に布だったのか? それとも——
[END No.8 Abandoned Case]
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