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第三幕
【3-B'】村上 忠志(元消防士)編 第三幕
しおりを挟む「……すまん」
村上はかすれ声でそうつぶやき、倒壊しかけた建物から視線をそらした。
胸の奥で火が消えるように力が抜け、足は自然と後ろへ向かう。
あれほど何度も現場で耳にした、『人命尊重』の言葉が今夜はただの重石のようだった。
――現役なら行けた。
――だが、いまはただの退職者だ。
そう自分に言い訳を繰り返しながら。
夜の道を歩くうち、群衆のざわめきは途切れ、やがて静けさに包まれた。
目印になる灯りもなく、頼りのスマホはついに暗転し、手の中で冷たく沈黙する。
行き先を見失った心は、体を重く沈ませるばかりだった。
空を見上げると、街灯の切れた交差点に星が瞬いていた。
その光はどこか遠く、村上の足元を照らしてはくれない。
彼は街の片隅で立ち止まり、壁に背を預ける。
「……俺は、何を守ったんだろうな」
誰に届くでもない独白を、冷たい夜気がさらっていった。
やがてその姿は、誰の記録にも残らない空白となる。
他の人々の物語の中で、ただ『行方不明の元消防士』として――。
[END No.3 The Fading Flame]
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