離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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二章『大都市メディウム編』

第九話『専門学校への転入』

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 *(マレフィクス視点)*

 今日から、近くの専門学校に通う。
『エトワール学校』、日本でいうなら大学くらいの大きさだ。
 この街の中で、かなり大きい建物の一つだ。

「今日は転入された子を紹介します」

 先生は若い女の先生で、変な癖などは無い常識人だ。

「入って来なさい」

 教室に入り、馬鹿ヅラした生徒達を観察しつつ足を運ぶ。

「エアスト村出身!マレフィクス.ベゼ.ラズル!辛いことがたくさんあったが今はハッピーに生きてる!僕天才だから、初級クラスに居るのは一年だけだろうけど、よろしく!」

 このクラスは、一番下の『初級クラス』。
 素行の悪い奴やイキった奴らが多い為、馴染めやすそうなキャラで居ようと思う。
 変に真面目だと行動しづらいと考えたのさ。

 教室は大学のような長い机のある教室では無く、中学校や高校のような一人一つの席がある教室だ。
 だが、机は大きめで教室も広々している。

「お前目ん玉真っ赤だけど寝不足かい?それとも悪魔の子とかじゃねぇよな?」

 席に座った途端、見るからにイキった奴が絡んできた。

「生まれつき目がこういう目なんだ。慣れないかもしれないけど、悪魔の子じゃないから安心して」

 ――悪魔に限りなく近い存在ではあるがな。

「お前ニュースで名前上がってた。ベゼってミドルネームだけど、その名前で呼んでいいか?」
「ちょっと止めなよ~、辛いの思い出して泣いちゃうんじゃない?ねっ?ベゼ君!」

 こいつらは、僕がエアスト村を襲撃した『ベゼ』を憎んでいると思い、挑発してるようだが……残念ながら僕がベゼ本人だ。

「好きに呼んでいいよ。ベゼでもマレフィクスでも」
「なんだお前……結構面白い奴だな」
「ベゼってのは流石に冗談!よろしくマレフィクス」

 僕ができる奴だと気付いた途端、態度を変えやがった。
 手のひら返しも、ここまで来ると清々しい。
 取り敢えず、このクラスで一番地位のありそうなグループに気に入られた。
 全く嬉しくは無いが、クラス内では発言しやすくなるはずだ。

 * * *

 放課後になり、だいたいどんな感じのクラスか分かった。
 授業中は常に私語が通っており、発狂したり立ち歩くのは当たり前。
 先生も注意するのを諦めており、授業は真面目な奴だけが聞いている。
 授業をしっかり受けたいと考えていた僕からしたら、最低なクラスだ。

「おい、あいつ絞めねぇ?」
「けど、ついこの前やられたばかりじゃん」
「次はあのクマを人質にするんだよ」
「なるほど!」
「分かったら配置つけ」

 俺が仲良くなり始めてるグループが、何やら小さな声で、悪巧みのようなことをしている。
 目線の先的に『あいつ』ってのは、教室の隅に居る白い髪をした奴のことだろう。

「何すんの?」
「しゃあねぇな!マレフィクスもやるか?」
「あそこに居る奴、絞めるの?」
「話が早い!」

 やはり今から、白い髪した男――いや女?性別不明の奴をどうにかするようだ。

「なんかされたの?」
「気に入らねぇだけだ。ホアイダ.ルト.ユスティシー、性別不明、魔法を無詠唱で使えるが能力は使えない。いつもクマのぬいぐるみを持ち歩くぼっち野郎」
「分かった、取り敢えず邪魔にならないようついて行くよ」
「お前はクマのぬいぐるみを奪って校舎裏に来い。俺ら待ってるから」
「は?僕がやんの!?」

 ――ムカつく野郎共だ……作戦の先陣を僕に任せやがった。今は耐えてやるが、時が来たらぶっ殺してやる。

 男四人、女二人が僕を置いて、校舎裏まで向かってく。
 それを確認し、僕はゆっくりとホアイダに近づいた。

「やぁ!そのぬいぐるみ可愛いね」

 近くで見たらますます変な奴だった。
 この学校は、男女別で制服が統一されているはずだが、ホアイダの制服は少し改造されていた。
 ワイシャツ、ネクタイ、黄緑色のパーカー、ここまでは問題ない……しかし下は、ゴスロリのようなロングスカートで、靴に関しては黒いブーツだった。
 男はネクタイ、女はリボンなのに、ネクタイでスカートを身に付けている。
 はっきり言って、自由過ぎる。

「ありがとうございます。ポム吉って名前なんです」

 声的には女に近いが、まだ12歳ってこともあり、はっきりは分からない。

「ちょっと貸してくれない?」
「良いですよ」

 ――馬鹿め。

 ホアイダが、クマのぬいぐるみ――ポム吉を渡した瞬間、僕は机を飛び越え、教室を出て行った。

「バカアホチビマヌケ!」
「そんなぁ……」

 ホアイダはすぐに僕を追いかける。

 * * *

 校舎裏では、さっきの六人が鉄パイプを持って、僕を待っていた。

「良くやった!早くクマをよこせ!」

 ポム吉をリーダー格の奴に渡す。
 するとそいつは、ポム吉をボロの椅子に縛った。

「来た!」

 どうやら角で待ち伏せ、フルボッコにする作戦らしい。

 ホアイダが僕を見つけると、待ち伏せされていることも知らずに突っ込んで来た。
 男四人は、ホアイダが飛び出した瞬間を狙い、パイプで腹や足を容赦なく叩く。

「がはぁ!?」
「オーケイ!両手両足抑えろ!」

 ホアイダを壁にぶつけ、手足を押さえ付ける。

「ホアイダー、魔法使う素振り見せた瞬間クマを燃やすからな?黙って泣いてろよ?」

 リーダー格の奴がホアイダを一発殴る。

「うっ……」
「スッキリ!じゃあ取り敢えず、こいつが男か女か確かめよう……脱がせろ」
「きゃはは!女だったらどうするのさ?」
「遊ぶに決まってんだろ?」

 女二人は笑い、男四人はカッターを使って、ホアイダの制服を乱暴に切り、脱がせようとする。

「放して!!止めてぇぇー!!」

 ホアイダは、ボコボコのボロボロで、涙目になりながら抵抗していた。

 ――なんだろう。

 こいつらがやってることは、僕と大して変わらないし、僕に比べたら可愛いもんだ。
 それに、僕だって弱い者いじめは嫌いじゃないし、力でねじ伏せるのは大好きだ。

 ――しかしなぜ?

 ほんの少しだけ心が落ち着かなく、苛立ちを覚えている。
 別にホアイダを可哀想とも思わない……しかしなぜ?

「ぐへっ!?」

 僕の体は正直だった。
 気付いた時にはリーダー格の奴を蹴り潰していた。

「何してんの!?」

 ――あぁ、この苛立ちの理由が分かった。

「ハハッ、てめぇらの目ん玉は状況も理解出来ねぇのか?」

 ――自分以外で楽しそうに調子こく奴が……気に食わないんだ。

「ヘラヘラ笑う特技はどうした?しないなら泣き叫ぶ特技を披露してもらおうかな?」

 男の一人からパイプを奪い、頭、目、股間と、次々に一人一発、急所を叩く。

「きゃー!!」
「はやく逃げて!」

 女二人は、慌てて逃げようとする。

「安心しな、僕は男女平等主義者なの。火魔法、フォティア.ラナ」

 容赦なく、女二人の髪に火の玉を放つ。

「ぎぁぁぃ!!」
「水を探せ!水を!」

 だが、壁に寄り添い震えていたホアイダが、女二人に水の魔法を放ったことで、火が消える。
 女二人は、燃えて無くなった髪を抑えて、走り去って行った。

「死んだら困るから……とか考えて火を消したのか?僕が君なら絶対ほくそ笑むけどね。ざま見ろカスのビッチが!ってね」

 僕は男の体を踏み付けながら、ホアイダに近付く。

 ホアイダのワイシャツと、ゴスロリ風のロングスカートは破れ、ネクタイは少し伸びていた。
 髪の毛もくしゃくしゃになり、顔や腕には目立つ傷が出来てる。

「結構どっち?男?女?」
「自分でも……まだ分かりきって、ない」

 ホアイダが、涙目で震えながら言う。
 はっきり分からないってことは、前世でいうXジェンダーのようなものだな。

「あっそう……別にそんな興味無いけどさ、こういうレイプまがいのようなことされたくなかったら、そんな派手なスカート着るなって話よ」

 そう言い、その場を立ち去ろうとした途端、ホアイダが僕の足を掴んだ。

「何?」

 ちょっと不機嫌そうな目線を送る。

「あっ、助けてくれて……ありがとうございます」
「結果的に助けただけだ……勘違いするな」

 ホアイダの頭を抑え、圧と恐怖を与えるように言う。
 さっき以上に、ホアイダはビビっていた。
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