離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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二章『大都市メディウム編』

第十七話『ボーン.アダラ』前編

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 ここから見える足場は少ない。
 奥には滝があり、崩れた鉱石があちこちで光を放つ。
 天所や壁に埋まっている鉱石もある為、周りは見えない暗さじゃない。
 中央に寝起きのボーン.アダラ――アダラは、まだ僕らに気付いていない。

「どう見てもSランクの魔物だ。Aランク以上の冒険者が数人居て倒せるかどうかの強さだ。奴はまだ気づいていない……転送機でこの場を去ろう」
「ボタンを二回押すのよ」
「うん」

 ――どうしよう。

 今ここに残り、この二人の目を気にせず、能力を使いアダラを倒したい。
 だが、この二人は僕だけを置いてくようなことはしなし、この二人と共に戦うとなれば能力を使わないで戦わないといけない。
 能力を使えば、複数能力が持っていることがバレる。
 一つの能力だけで戦うのは流石に辛いし……困った。

「あれ?ボタンが反応しない」

 ダメもとで、転送機が機能しない演技をする。

「じゃあ俺につかまれ、触れている物は一緒に転送される」

 ――本当にダメだった。しかし妙案を思いついた。

「分かった……あ!」

 短剣を手から離し、谷底に短剣が落ちる。
 それを取るふりをし、バランスを崩し、僕自身も谷底に落ちる。

「マレフィクス!」
「捕まって!」

 二人とも手を伸ばして手を取ろうとするが、落ちる僕は、既に手の届かない場所に居る。
 完璧な作戦。
 後は能力を駆使して、安全に着地するだけ。
 二人からは、暗くて落ちた僕が分からないから問題ない。
 それに、この高さなら死んだと思い諦めるはず。

「え?」

 しかし、エリオットが落ちる僕に飛びつき、僕に抱き着いた。
 小さな僕の体を包み込むように抱きしめ、自分自身の背中を下に向ける。
 これは予想外だ。

「ハンナ!今までありがとう!愛してるぜ!」
「エリオット!」

 叫ぶハンナに笑顔を見せて落下する。
 この男のことを甘く見ていたようだ。
 いらない真似したことは許さんが、エリオットの覚悟と度胸を誉めてやろう。

 ――能力番号12『スライムを作る能力』。

 エリオットの背中が地面に着く前に、クッションとなるスライムを地面に落とす。
 その為、僕もエリオットも無傷だった。

「生きてる……スライム?奇跡だ。たっ、助かった」

 こうやって、誰かに抱き締められるのは父と母と以来だ。
 別に何とも思わないが。

「怪我はないか?」
「何で助けたの?自分が死んでたんだよ?」
「子供見捨ててまで生きたくないだけだよ」

 エリオットは優しく笑い、僕を赤ん坊のように撫でる。

「おい、嘘だろ」

 だが、すぐに笑顔が無くなり、困惑の表情になる。

「転送機が壊れてる。ボタンも反応しない……落下の風圧で壊れたのか?」

 勿論、僕が壊した。
 落下途中に、能力番号1『爪を尖らせる能力』で引っ掻き壊した。
 僕の転送機も既に壊してある。

「この高さ登れない」
「見て、ボーン.アダラがこっちに気付いた」

 更に、アダラが僕ら二人に気付く。
 目は無くとも、明らかにこっちを見ているのが分かる。
 大きな体と、ここからではハッキリ見えない高い位置にある歪な顔、それだけで十分な威圧感だ。

「君を救助する為、警察と冒険者が来るはず。それまでこいつを相手しないとならないようだ」

 エリオットが邪魔だが、戦える状況になった。
 後は目の前のアダラを始末するだけだ。

「ロオオオオオオオォォ!!!」

 アダラが、独特な声を発しながら、僕らに鞭のような長い手を振るう。

「避けろ!」

 僕は右に、エリオットは左に避ける。
 瓦礫が飛び散り、僕らは軽く吹っ飛ぶ。

「無事か!!」
「大丈夫!」

 お互い暗くて見えない場所に居る為、呼びかけで生存を確かめる。
 そしてこのお互いに居場所が分からない状況、僕にとってナイス状況だ。
 エリオットに見えない為、思う存分能力を使える。

「今そっちに行く!だから生きろ!」

 エリオットはそう言うが、アダラはそうさせてくれない。
 僕やエリオットに、容赦なく腕や尻尾を振りかざす。
 避けても風圧と瓦礫がある為、かなり厄介だ。
 少なくとも、エリオットにとって。

「能力番号3『手から釣り糸を出す能力』」

 釣り糸をめいいっぱい伸ばし、アダラの体に引っ掛ける。

「能力番号19『衣類を生物に変える能力』」

 ローブを烏の羽根に変え、宙を舞いながら釣り糸を引っ張り、アダラの体に張り付く。

 体は先程まで僕が地面にしていた物だ。
 恐らくこの地面自身は眠っていた時に同化した物だ。
 アダラの肉体そのものでは無い。
 まずは、この土や鉱石や岩で出来た地面の鎧を剝がさなくては。

「能力番号17『指を銃に変える能力』」

 釣り糸を離し、両手全指を使い、ロケットランチャーを作る。
 拳銃などは一本の指で作れるが、ロッケトランチャー――ロケランとなれば別だ。
 全指が必要となる。

「ぶっ飛びな」

 少し離れ、ロケランを放つ。
 アダラの鎧が少し削れる。

「まだまだ安心なんてさせない」

 すかさず、ロケランを連射する。
 地面の鎧は徐々に剥がれ、アダラもバランスを崩す。

 しかし、アダラも黙ってはいない。
 腕や尻尾を激しく振るう。

「ちっ。能力番号2『風の向きを操る能力』」

 アダラが起こす風圧の向きを変え、僕の体がアダラの方向に行くようにする。
 僕が飛んでいった先は、アダラの体に纏っている地面の鎧だ。
 地面に埋まるくらい、強く吹き飛ばされる。

「能力番号11『影を水に変える能力』。能力番号4『水を熱くする能力」』

 ここは洞窟の地下深く、影だらけだ。
 アダラには影が広く掛かっている。

 アダラに掛かっていた影が全て水になり、その水はぐつぐつと煮えくり返る。
 恐らく80°はあるだろう。
 しかし、効いてるようには見えない。

「フォティア.ラナ」

 熱湯で柔らかくなっていた地面の鎧は、火の玉を放つことにより、豆腐のように吹っ飛んだ。
 少しだが、アダラの体が見え始めた。
 鎧の下は、黒い骨のような見た目をしている。
 骨と言っても見た目だけで、硬さは鉄のようではある。

「能力番号15『岩を降らす能力』」

 大岩を降らし、追い打ちをかけるように、アダラの鎧を剥がす。
 土や鉱石が剥がれ、どんどん黒い骨が見え始める。

「よし!後はあの骨のような物をへし折ってやるぜ!」

 素早く飛行し、アダラの攻撃を空中で避け、黒い骨に近づく。
 ロケランの弾を放ち、弱った所をすかさず短剣を振りかざす。

「なっ!!」

 しかし、骨を守るかのように、骨が氷で覆われる。
 おかげで、短剣が骨に当たらなかった。

「ロオオオォォ!」

 アダラは叫び、尻尾で僕を吹き飛ばす。
 暗闇のせいで、攻撃が見えなかった。

「がはぁ!」

 諸に攻撃を受けた体は、すぐに動かなかった。
 壁に撃墜する前に、スライムをクッションにしたが、それでも意識が吹っ飛ぶようなダメージだ。
 スライムを出さなければ、確実に死んでいた。

「上位の魔物、考えてみれば魔法を使えて当然だった」

 骨が折れ、内臓も傷づいている。
 立ち上がれず、我慢することすらできない痛みだ。

「ロロオオオォォ!」
「何!?」

 追い打ちをかけるように、アダラの腕が僕目掛けて振りかざされる。
 今の僕には避け切れない。
 スライムを腕と僕の間に挟んでも、ダメージになる。
 次受ければ確実に死ぬ。

「鉄魔法、イエロ.フェール」

 しかし、そこに素早く現れたエリオットが、圧倒的パワーのアダラの腕を、剣と魔法を駆使して弾き飛ばす。
 剣には鉄が纏ってあり、ただの剣ではなく大剣と呼ぶべき大きさになっている。
 この剣を余裕で振り、アダラの腕を吹き飛ばすエリオットは、正直化け物だ。
 伊達にAランク冒険者じゃない。

「一旦引くぞ」

 エリオットは僕を抱え、アダラの死角まで逃げる。

「無茶したな?暗くて見えなかったが、あの鎧が剥がれ、骨が出ていた。氷の魔法も使わせるとは、やるねマレフィクス」
「はぁはぁ、助かった」
「後は俺が囮となる。君はこの岩陰で安静にしてろ」

 僕をアダラの死角にある岩陰に置くと、エリオットは勇敢にアダラに立ち向かって行った。

「ちっ、舐めやがって。能力番号7『痛みを一つ消す能力』」

 能力で一番痛む内蔵の痛みを消す。
 これで多少の痛みを気にせず、動ける。

「無様な真似させやがって、ボーン.アダラ、必ず始末してやる。エリオットより先に命を絶つ」

 足を引きずり、羽根を広げ、短剣を構える。
 殺意を持ち、エリオットとは別の方向から、目の前の巨体に立ち向かう。
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