離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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二章『大都市メディウム編』

第十八話『ボーン.アダラ』後編

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 アダラの体に纏わりついていた光る鉱石が、地面にちりばめられている。
 おかげで、比較的下側の方が明るい。

 アダラの鎧はほぼ取れたが、代わりに氷の鎧が纏わりついている。
 火魔法で溶かし、すかさず攻撃したいが、今の僕には魔法を放てる体力の余裕がない。
 魔法を使えば確実に体力切れで動けなくなる。
 この少ない体力は、大事に丁寧に使わないとならない。

 なので能力を使う。
 能力番号11『影を水に変える能力』で、氷に掛かっている影を水に変え、能力番号4『水を熱くする能力』で熱湯にする。
 溶けた氷の隙を狙い、すかさず短剣で骨を切る。
 つまり、肉を切らせて骨も切る作戦だ。

 痛みはあるが、能力番号7『痛みを一つ消す能力』で傷ついた内臓の痛みを消してある。
 他は痛むし、傷が治ったわけではないが、これで大分動ける。

「このマーちゃんが、お前を始末する」

 羽根を広げ、上空に向かって高く飛び、アダラの背後に回る。
 アダラは、前方や足元をやたらと攻撃している。
 鳴り響く金属音的にも、エリオットと戦っているのだろう。

 時々、アダラが足元をぐらつかせる。
 エリオットの攻撃が効いてる証拠だ。

「ここは暗闇、影は無尽蔵にある……その氷、ひん剥いてやる」

 ――能力番号11『影を水に変える能力』。能力番号4『水を熱くする能力』。

 氷の上を水が垂れ落ち、その水はぐつぐつと沸騰する。
 お湯に入れた氷のように、アダラを守る氷も瞬時に溶けていく。
 アダラは、次々と氷の鎧を作るが、それも無尽蔵の熱湯の前では無意味だった。
 魔法を使い、体力が減っていくだけで、氷の鎧を纏ったり、鎧が溶けたりを繰り返すだけだ。

「ロオロオオオォォ!!!」
「それでいい、その哀れな姿が君の本性だ」

 氷の魔法が無駄だと気付いたアダラは、無暗に回りを攻撃し始めた。
 長い腕と尻尾を鞭のように振り回し、岩や鉱石を頭上から落とす。

 おかげで、アダラの懐に飛び込めない。
 攻撃から逃れる為、岩陰に隠れ、スライムで体を守りながら、アダラを監視する。

「能力番号19『衣類を生物に変える能力』」

 ポーチから取り出したハンカチを『キツツキ』に変える。

「能力番号10、『髪の毛に意志を与える能力』」

 髪の毛を一本抜き、意志を与える。
 意志を与えた髪の毛は、僕の意志で動くことが出来る。
 気持ち悪い能力だし、使い道は無いと思っていたが、今使う。

「能力番号16『涙を垂らした場所に爆弾を仕掛ける能力』」

 僕は先ほどから、瞬きを我慢していた。
 理由は、今この場所でキツツキと髪の毛に涙を垂らす為だ。
 爆弾の威力は涙の量で変わってくる。
 少し少ない気がするが、これ以上は出せない。

「行け」

 キツツキを飛ばし、アダラの骨の場所まで飛ばす。
 キツツキは、アダラの黒い骨を突っつき、骨の中に髪の毛を入れる。

レツ

 キツツキと髪の毛は、アダラの骨の内部で爆破し、体が揺れ、片膝をつく。
 隙が出来た。

 すぐに飛び、アダラの骨の所まで行く。
 アダラも、僕に気付き、腕を振るうが、動きが遅い。
 華麗に避け、短剣で骨を切り裂く。
 しかし、一撃では切り落とせきれない。

「ちっ」
「マレフィクス!もう一撃だ!二人なら切り落とせる!」

 アダラの膝を踏み台にし、エリオットが骨の間合いまで入った。
 一撃与えた所を見ていたようだが、エリオットの力を利用しれば切り落とせるかもしれない。

「分かった!」

 しかし、攻撃しようとした時、同時にアダラが僕ら二人を振り払う腕を伸ばしていた。
 エリオットもそれに気付いているようだ。
 つまり、攻撃が失敗しれば、攻撃を食らうのは僕らになる。

「せーのッ!」

 エリオットが切った方の骨は、深く切れた。
 しかし、僕の方は浅く、あともう少しという切れ具合だ。
 それどころか、短剣が砕けてしまった。

「ちっ!」
「能力でも魔法でもいいから防御しろ!!」

 エリオットは剣で攻撃を防ごうと、剣を構えている。
 だが僕は?どう攻撃に対応する?
 スライムで盾を作ることも可能、羽根で防御することも可能、風の向きを操り攻撃を受けないことも可能。
 しかし、ここで引き、無様で中途半端なのは姿は、僕自身が許せない。

 ――能力番号9『皮膚の一部を硬くする能力』。

 右拳の皮膚を鉄に劣らない硬さに変える。
 そして、アダラに攻撃される前に、今に折れそうな骨に拳を叩き込む。

「まったく君は!骨が折れるなぁ!」
「ロッ、ロオオオオオォォォ!!!」

 拳は砕け、同時にアダラの骨も折れる。
 アダラの上半身は地面に落ちていき、下半身もジェンガのようにあっさり崩れた。

「すごい……倒しちゃった」

 地面に着地したエリオットは、驚いた表情を隠しきれない様子だ。

「能力番号13『周りの死を感じる能力』」

 アダラの死を感じる。
 それに、能力番号19『衣類を生物に変える能力』で、アダラを作れるようになったことが、直感で分かる。
 完全に勝った。

「はぁはぁ……うッ!!」
「マレフィクス!」

 動きすぎたようだ。
 口に血がたまって気持ち悪く、体がジンジンと痛む。
 常に痛みが走り、体を休ますこともできない。
 地面に横たわり、ただただ赤ん坊のように丸々だけで、何も変わらない。
 意識も朦朧とし、頭も体もどうにかなりそうだ。

 * * *

 少しだが、体が心地よい気がする。
 ところどころ痛むが、体に辛さはない。

「どこだ……病床か?」

 どうやら、僕が気絶してる間に、洞窟から救出だれ、病院まで運ばれたらしい。
 僕が居るのは真っ白なベッドの上だ。
 丁寧に点滴までされてある。
 気分が良いのは、栄養を得たかららしい。。

「気分はどう?マレフィクス」

 左隣のベッドには、右足と左手首が包帯で巻かれたエリオットが寝込んでいた。
 ひと眠りした後のような、さっぱりした顔をしている。

「最高、今なら逆立ちしながら眠れそうだよう」
「そう、良かった。そこの机にクエスト報酬のお金を置いといたから」
「どうも」

 机にはしっかり、銅貨15枚、クエスト報酬がある。
 それと、ギルドカードもある。

「ギルドカードのランク見てみな」

 ギルドカードのランクが上がっていた。
 D4だったランクが、一気にC4まで上がっている。

「魔物にもランクがある。ロッツ.オグルはCランクの魔物、そしてボーン.アダラは最高ランク、つまりSランク。Sランクを俺と君、たった二人で倒したんだ……当然の結果だよ。まぁ、皆ほとんど俺が倒したと思っているから、本来だったらもっと上がっていたよ」
「エリオットは?どれくらい上がったの?」
「A2からSに上がった。自慢じゃないけど、このギルドで唯一のSランク冒険者だよ」

 もともとA2だったことも驚きだが、今現時点でSランクなのは本当に驚いた。
 それに正直、エリオットが居なければ僕は負けて死んでいた。

 だが、逆にいうなら、この大都市メディウムに居る冒険者で、エリオットより強い者は居ないということになる。
 これからも、エリオットの近くで戦えるのだから、十分観察できる。

「エリオット、飲み物買ってきたよ」
「ありがとう」

 病床にハンナが入ってきた。
 少し疲れた顔をしているが、表情は優しく、現状に安心しているようだ。

「マレフィクス……起きた……の?」

 僕に気付いたハンナは、手に持っていた缶コーヒーを落とし、表情が固まった。

「起きた――」

 反応する隙も無く、ハンナが僕に飛びついた。
 ぎゅっと強く、そして優しく、我が子を愛する母親のような表情で、僕を抱きしめた。

「ちょっと――」
「生きてて良かった」

 今日、こんな風に抱きしめられるのは二人目だ。
 エリオットもそうだが、今日あったばかりの子供に、よくもまあ人並以上に優しくできるのか、大事にできるのか、僕には理解できない。
 これが嘘ならまだしも、こいつらの瞳や言葉に嘘はない。
 噓つきの僕が言うんだ、確かなことだ。

 それはそうと、エリオットとハンナには父と母の面影がある。
 いかにも善人ですって感じ、そっくりだ。
 この二人とも、たくさん思い出を作り、思い出に浸りながら二人を殺そうとしよう。
 それが一番良い使い道、一番楽しめる使い方だろう。
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