離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

文字の大きさ
20 / 92
二章『大都市メディウム編』

第十九話『新たな目的』

しおりを挟む
 学校を一週間以上休むことになった。
 この世界では、医療技術そのものはあまり発展していないが、医療系の魔法がある。
 そのような魔法を使える者のほとんどが、医療関係で働いている。
 その魔法を使っても、僕の体は一種間以上安静にしないといけないらしい。

「ほんとすげえなお前、記事を見るまでボーン.アダラなんて空想の魔物だと思っていたよ」
「さすがマレフィクスです」

 学校を休んだことで、ヴェンディとホアイダがお見舞いに来た。
 お見舞いに来たことで、ギルドに加入したことがバレた。
 バレて問題は無かったが、できれば内緒にしておきたかった。

「それにしてもギルドに加入したとはな。俺誕生日二月だから待ち遠しいぜ。ホアイダは十二月だっけ?」
「はい。十二月六日です」
「君がギルドに参加した時には、僕はSランクになってるよ」
「ハハッ、さすがに調子乗りすぎな」

 この二人が居る病床は、かなり賑やかだ。
 暇している僕には、正直ありがたい。

「そうそう、お前が学校に来なかったから渡せなかったんだよ。な?ホアイダ」

 ホアイダが、ヴェンディの問いかけに小さく頷く。
 そして二人は、僕に小さい箱を二つ渡した。

「誕生日おめでとうございます。白い箱が私からで、黒い箱はヴェンディからです」

 そう言えば、二人に誕生日を教えていた。
 この二つの箱は誕生日プレゼントということになる。

 まず最初に、横に長く黒い箱から開けよう。
 リボンを解き、少しわくわくしながらゆっくりと箱を開ける。
 中には、端っこに金で描かれたポム吉のようなキャラクターが居る。
 ちょっと高級そうなお財布だ。

「そのキャラ、ポム吉みたいですね」
「僕も思った」

 次に、小さな白い箱を開ける。
 箱の中には、宝石で出来た赤色のヘアピンと、先端にこれまた金のポム吉のようなキャラクターが付いてる赤のイヤーカフ。

「またポム吉……」
「マレフィクスは髪が長いのに切らないので、ヘアピンがあると便利かと……」
「イヤーカフは?」
「単に私が、イヤーカフ仲間が欲しいだけです」

 少し恥ずかしそうに言うホアイダ。
 こいつが右手でポム吉を意味なくいじってる時は、大抵表情に困っている時だ。

「二人ともありがとう」

 今この場で、貰ったばかりのプレゼントを燃やすのも良いが、この品は思い出の品として貰っておこう。

 * * *

 結局、退院したのは二週間後だった。
 月も六月から七月に変わったしまった。
 この地方の季節で言えば、冬から春だ。

 七月五日、土曜日。
 この日、退院して初めてギルドに訪れると、多くの人に褒められた。

「お前さんがエリオットの一番弟子か!若いな!」

 とか。

「凄いな君、エリオットがべた褒めしていたよ」

 とか、

「よお!ボーン.アダラ殺しの少年!」

 とか。

 これは退院中に得た情報だが、ボーン.アダラのことはニュースにもなった。
 ボーン.アダラという幻の魔物が実在したこと、ボーン.アダラが倒されたこと。
 つまり僕は、歴史的な瞬間に直で立ち会えたことになる。
 凄くラッキーだ。

「おめでとうございますマレフィクス、『ボーン.アダラ殺し』の称号をギルド本部から授与されました」

 称号というのは、功績だと捉えていい。
 何か大きなことを成し遂げると貰えるらしいが、僕は初クエストで貰えてしまったようだ。

「どうも」
「ランクも上がっていますからご確認ください」

 受付人も凄く嬉しそうだった。
 称号をギルドカードに記入する時も、気分よさそうにしていた。

「マレフィクス!久しぶりだなぁ」

 元気な声と共に、エリオットが僕の肩を優しく叩いた。

「久しぶり」
「君にプレゼントがある。ちょっと二階まで付いてきな」

 ――プレゼント?誕生日ならとっくにすぎたけど……なんだろう。

 そう思いながらも、黙ってエリオットに付いて行く。
 エリオットが向かった場所は武器屋だった。
 この前武器と防具を買ったお店で、おっちゃんの店主がこれまた嬉しそうに、待っていた。

「坊主すげえな、エリオットと二人でボーン.アダラを倒しちまうなんて」
「まあね。僕天才だから」
「それはともかく、お前さん武器破損したよな?」
「うん」
「新しい武器を用意しといた」

 そういって店主が渡したのは、前のデザインと変わらない双剣だった。
 だが、黒い刃の素材が前と違う。

「気付いたか?その刃の素材は坊主が倒したボーン.アダラの骨だよ。鉄なんかよりずっと硬く丈夫な素材だ」
「値段は?」
「スマイル一つ」

 つまりお金は要らないってことだな。
 お礼に、軽く笑ってやろう。

「フッ、ありがと」
「おうよ」

 エリオットが言っていたプレゼントってのは、この双剣のことだった。
 新し武器を買うのに、お金を気にしていたから、正直嬉しい。

「マレフィクス、今日はクエストに行くのかい?」
「もちろんだよ」
「なら一階に行こう。そろそろハンナも来るはずだ」
「分かった」

 これからも、ギルドでエリオットを利用し、もっと多くの魔物を殺して行く予定だ。
 多くの魔物を殺すことで、能力番号19『衣類を生物に変える能力』でより強く、より多彩な魔物の力を得ることが出来る。
 今回、『ボーン.アダラ』を殺せたことはかなりの収穫だった。
 Sランクの魔物に出会えることは滅多にないからね。

 * * *

 七月七日、月曜日。
 今日から学校へ復帰だ。

「正直お前が居ないと学校はつまらないぜ」

 いつも通りの三人で、昼食を取っているときに、ヴェンディがそう言った。

「ホアイダ、こいつキモイな」
「どこがですか?」
「マレフィクス、やっぱお前最低だな」

 ヴェンディは、言って後悔したような表情を浮かべ、少し拗ねる。

「けど、私もマレフィクスが居る方が楽しいです。クラスにはマレフィクスしか友達居ませんし」
「だろうね」
「それはそうと、もうそろ春休みだぜ?」

 ヴェンディに言われて思い出した。
 この学校の春休みは七月十五日、春休みまであと一週間と一日なのだ。
 この国の学生にも、日本で言う夏休み冬休みがある。
 長期休みの制度は国によって違うだろが、この国では春と秋だ。

「確かさ、春休みにしたこと?思い出的なことを発表する宿題無かったけ?」
「ある。けど俺、発表するほどの予定今のとこ無いんだよな。お前らはある?」
「ん~、そういえば、春休み始まってすぐにお母様の誕生日があるので、お父様とケーキでも作ってお祝いをすると思います」
「ほお~ん、良いじゃん。親孝行してんな……マレフィクスは?」
「世界征服」

 僕の発言以降、一瞬空気が凍った。
 二人とも、どう反応していいか分からないって表情だ。

「世界征服って……具体的にそれは何をするんだ?」
「世界中の観光都市に訪れる」
「お前それ……世界旅行だろ!何が世界征服だ!分かりずらいギャクだったから反応に送れたろッ!このアホォ!」
「イテッ……」

 別にギャクじゃなかったが、当然のように打たれた。
 だが、おかげでヴェンディもホアイダも、表情が戻った。

「世界旅行というのは本気なのですか?」
「本気」
「お前の爺ちゃんと行くのか?」
「いや、僕一人」
「嘘!?お金は?移動手段は?行く場所は?」
「爺さんに出させる。移送手段は馬とか船とか地形による。場所は『ニューデリー』とか大国から小国までいろいろ」
「スゲー行動力。ほんと尊敬するよ」
「君も行くかい?ヴェンディ」
「いや……俺は、やめとく」

 ――ダメ押しで誘ってみたが、やはり来ないか。

 ヴェンディはセイヴァーとしても行動しなくてはならない。
 僕と世界旅行してる時に、セイヴァーとしての活動は出来なくなるから、来ないのは当然。

「あの、私も行くって言ったら、困りますか?」
「え?別に、困りはしないけど……まさか、行きたいの?世界旅行」
「はい」

 まさか、ホアイダが自ら行きたいと申し出ると思わなかった。
 ホアイダを連れてくメリットはなさそうだし、計画の邪魔になるかもしれない。
 しかし、ヴェンディを誘った後に、ホアイダを断るのは不自然だし、旅の話相手が居るのは良いかもしれない。

「良いよ。一緒に行こう」
「ありがとうございます、マレフィクス」

 ホアイダは瞬驚きつつも、嬉しそうに笑った。
 こうやって笑うと、ちょっとボーイッシュな女にしか見えない。

 それはともかくだ。
 なぜ世界旅行をするか、不思議に思ったよね?
 実は、大国に欲しい能力を持つ人間が居ることが分かったんだ。
 つまり、世界旅行を装い、その人間を殺して能力を奪うことが今回の目的。
 その能力、それは『行ったことある場所に転移する能力』。
 世界中で悪さしたい僕には、とても必要な能力。
 春休み、これを取りに行く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...